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災害現場におけるマルチコプターの活用について
坂井佑介

キーワード:災害対応、マルチコプター、画像解析

1.はじめに
平成25年伊豆大島土砂災害、平成26年広島土砂災害、平成27年鹿児島県垂水市土砂災害など、大規模な災害が頻発している。このような大規模災害時には、更なる被害の発生・拡大の防止、被災地の早期復旧のために、被災状況の迅速かつ詳細な把握が必要不可欠である。
これまで、被災状況の把握においては、有人の航空機やヘリコプターによる広域的な調査が行われる一方、個々の災害現場における調査は現地踏査により実施されており、災害発生直後は危険が伴うこと、地上からの目視では全体像の把握が困難であることなどの課題がある。
近年は、UAV(Unmanned Aerial Vehicle、無人航空機の略)の技術が進歩し、その中でもマルチコプターと呼ばれる2つを超える数のローターを搭載した回転翼機は、比較的安価かつ高性能なうえ、操作が容易であることから、様々な用途での導入が試みられている。災害現場調査においても、各現場の被災状況の全体像をより詳細かつ安全に把握することを目的として活用されている。
九州地方整備局では、マルチコプターを災害現場で活用するための取り組みを進めており、本稿ではマルチコプターの留意点や法律上の規定を踏まえ、実際の活用事例を交えながら、災害現場におけるマルチコプターの活用について紹介する。

2.マルチコプターの留意点と法律上の規定
近年、マルチコプターの活用が各方面で急速に広まった背景には、各種センサーの発達による高度な自動制御で飛行が一見安定しており従来のラジコンヘリと比べて操縦が容易と捉えられたことや、小型で強力なモーターやバッテリー及び高解像度カメラの出現により手近なコンセントで充電するだけで鮮明な空撮映像を取得できることが挙げられる。操縦について、従来のラジコンヘリでは、ホバリングさせるだけでも上下左右回転方向の機体制御を間断なく操縦者が行う必要があり、非常に長い練習期間を要する一方、マルチコプターの場合、「GNSS及び気圧計による位置制御」と「ジャイロセンサーによる姿勢制御」により複数のローターを自動制御することで安定した飛行が可能となっている。その反面、各種センサーになんらかのトラブルが発生した場合、通常のラジコンヘリと同程度の技術が必要になり、格段に操縦の難易度が高まることから注意が必要である。
また、バッテリーについて、主に使用されているリチウムポリマー電池は、過充電や衝撃により損傷すると激しく発火する恐れがある危険物であるうえ、気温や風により電力消費量が異なるため、取り扱いに十分注意する必要がある。
このような取り扱いに注意が必要なマルチコプターを含む小型無人機について、飛行に関する基本的なルールを定めることを内容とする航空法の一部を改正する法律が平成27年12月10日に施行された。この法律では、飛行禁止区域として空港周辺や上空150m以上、人口密集地、飛行の方法として日中での飛行、目視範囲内、人や物件と一定の距離を保つことなどが規定され、規定外の飛行を行う場合は、国土交通大臣による許可又は承認が必要となった。

3.マルチコプター運用方針(案)の作成
先述したとおり、様々な留意点や法律による規定事項を踏まえて、九州地方整備局ではマルチコプター運用方針(案)を作成している。この運用方針(案)は九州地方整備局職員が自ら操作する際に、安全に飛行することを目的としたものである。

運用方針(案)では、マルチコプターを飛行させる前には、責任者を明確にするための「使用伝票」、事前に飛行計画を関係者で共有し、航空法の規定内での飛行であるかを確認するとともに危険要素を予め把握するための「KY ミーティング記録」を作成することとしている。また、未然の事故防止を目的として、「飛行前チェックリスト(表-1)」により現場の気象条件や周辺環境の把握、必要な携行品の確認、機体の点検を行う。さらには、回転翼機の中で最も注意すべき現象の一つであるVortex Ring State(通称、セットリング)の防止のために「VRS チェックリスト」によるより詳細な気象条件の確認も実施している。
マルチコプターを実際に飛行させる際には、3人体制で実施することを基本としている(写真-1)。3人の役割分担は、マルチコプターの仕様により異なるが、基本的に操縦者、タイムキーパー、飛行監視者で構成する。タイムキーパーは、バッテリー残量を管理することを目的として、ストップウォッチで飛行時間を計測し、着陸までを考慮した飛行時間の管理を行う。気温が低くなるとバッテリーの消耗が激しくなることから、冬季や寒冷地における飛行では特に注意が必要である。飛行監視者は、操縦者の目視で困難となる機体の前後左右及びカメラ方向を視認し、危険回避や確実な撮影を行うため、双眼鏡等などで飛行姿勢を監視する。

そして、操縦者はタイムキーパーや飛行監視者と連携を取りながら、操作を行うこととしている。その他にも飛行中は、マルチコプターによる空撮映像やその飛行自体でプライバシー等に係る問題が発生する可能性がある。このことから、不要な誤解を招かぬよう飛行は最小限の範囲に限るとともに、安全確保の観点からも訓練、実践を問わず、必ず国土交通省のヘルメット、作業服を着用することとしている。
マルチコプターの飛行後は、機体やバッテリーの消耗度合いを飛行回数で管理することを目的として、飛行記録簿に飛行内容を記録することとしている。また、この飛行記録は操作技術の熟練度の参考となる各操縦者の飛行経験時間を把握する目的も兼ねている。また、バッテリーの充電量が時間とともに減少することから、バッテリー切れによる墜落事故の予防措置として、2年毎に交換することとしている。
このように九州地方整備局では安全に飛行を行うため、運用方針(案)において飛行前の準備から飛行後の管理まで様々な規定を設けているが、職員に対して教本を用いた講習会(写真-2)を実施するとともに、実際の運用に係る資格制度を設けることで、運用方針(案)の正確な理解と適切な実行を図っている。

4.マルチコプターの活用事例
運用方針(案)を遵守しつつ、十分な操縦技術を有する者が利用すれば、人の立ち入りが困難な過酷な環境や、有人機が飛行できない低高度から、写真撮影やリアルタイム映像を取得することができるため、九州地方整備局では主に砂防分野での活用を進めている。
平成26 年広島土砂災害においては、TECFORCEとして空撮班を派遣し、マルチコプターを用いた被災状況調査を実施した。この調査では、地上踏査が困難な土石発生直後の渓流の源頭部の崩壊発生状況や土砂流出状況、渓流内の砂防堰堤の堆砂状況を有人ヘリより低高度から把握することができた(写真-3、4)。この結果は土石流危険渓流の緊急点検として危険度評価を実施するうえでの基礎資料として活用したり、発災直後から土砂災害による行方不明者の捜索活動等を実施している自衛隊や警察、消防へ、二次被害防止を目的とした技術支援として情報提供されている(写真-5)。

また、平成27年鹿児島県垂水市土砂災害では、垂水市の要請を受け、TEC-FORCEとして空撮班を派遣し、崩壊地の詳細な映像を様々な角度から取得している(写真-6、7)。この取得した映像を土砂災害の専門家であるTEC-DOCTORに見て頂き、現場の地質状況がより詳細に判明することにより、崩壊の発生メカニズムの解明や対策の実施内容の検討に役立てられている。

5.マルチコプター空撮映像の画像解析
マルチコプターによる空撮映像は、静止画や動画を見るだけで無く、画像解析の技術の進歩とともに、撮影した映像から3次元地形図を作成する取り組みが進められている。近年は、Structurefrom Motion(以下、「SfM」という。)という動画や静止画からカメラ撮影位置を推定し、3 次元形状を復元する技術の開発が進められ、市販のソフトも開発されるなど、注目が高まっている技術である。マルチコプター空撮映像をこの技術で処理することにより、立ち入りが困難な災害現場の3次元地形図を作成し、その地形図から標高等の地形情報を取得することが可能となっている。図-1は先述した平成27 年鹿児島県垂水市土砂災害で九州地方整備局がマルチコプターにより取得した映像を元に、国土技術総合政策研究所が3次元地形図の作成した事例である。この3次元地形図により、詳細な崩壊形状、土砂流出状況の把握が可能となった。また、3次元地形図を作成することを念頭において映像を撮影していなかったため、精度に課題は残ったが、崩壊前の航空レーザ計測データと比較することにより概略的な崩壊土量の算出が可能となっている。今後、より精度を高めるためのポイントを押さえた撮影を行うことにより、より詳細な3次元地形図を作成しより精度の高い地形情報が得られるようになると考えている。

6.小型無人ヘリコプター災害協定
これまでは、九州地方整備局職員がマルチコプターを災害現場で活用する取り組みを中心に紹介したが、地震、火山等の異常な自然現象及び予期できない災害等が発生した場合に、緊急的な災害の状況把握を行うため、九州地方整備局では小型無人ヘリコプターによる災害応急対策活動(撮影・画像解析等)に関する基本協定を平成27年12月15日に締結した。協定では、撮影だけでなく、3次元地形図等の画像解析を作成できることを条件としており、13社と協定を締結している。今後は、職員だけでなく、民間の技術も活用しながら、より迅速かつ効率的な災害対応を進めていきたいと考えている。

7.おわりに
マルチコプターやその周辺を取り巻く技術の進歩は著しく、その利便性は飛躍的に向上している。このことから、これまでは実施が困難であった危険な現場において、より高度な調査を安全かつ迅速に実施することが可能となっている。
一方、近年はゲリラ豪雨等の増加により、大規模な災害が頻発しており、行政単位や地理的な枠を超えた、広域的な防災対応が必要不可欠となっている。九州地方整備局では、マルチコプターを災害現場で活用することにより、大規模災害時における地域の安全・安心の確保に貢献していく所存である。

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