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鶴田ダム再開発事業の施工報告
~平成28年の出水期から事業効果が期待される~
加治賢祐

キーワード:ダム再開発、堤体削孔、ダム仮締切

はじめに
鶴田ダムは、川内川の河口から約51㎞に位置(図-1)し、洪水調節と発電を目的とした九州最大規模の多目的ダムである。昭和41年の完成以降、川内川の「治水の要の施設」としての役割を担っている。

川内川流域は、平成18年7月の記録的な豪雨(図-2)により3市2町(薩摩川内市・さつま町・伊佐市・湧水町・えびの市)において、浸水家屋2,347戸に及ぶ甚大な被害が発生した。
このため「河川激甚災害対策特別緊急事業(激特事業)」が採択され、鶴田ダムについても激特事業と相まって、川内川流域の洪水被害を軽減することを目的に、平成19年度より再開発事業に着手している。

1.鶴田ダム再開発事業の概要
鶴田ダム再開発事業は、鶴田ダムの洪水調節機能を現在より向上させる事業である。具体的には、現在の発電容量と死水容量を治水容量に振替えることで、洪水期の洪水調節容量を75,000 千m3から最大98,000 千m3(約1.3倍)に増量するものである。このため現在の放流管より最大で約23m下に新たな放流管を3本設け、梅雨時など大雨が予想される時に、今よりもさらにダム湖の水位を下げることができるようにするものである(図-3)。

また、併せて発電管(2本)についても、その機能を維持するため、低い水位でも発電できるよう付け替える事業である(図-4)。
この新たな放流管3本と取水管2 本は、鶴田ダムの一部をトンネルのように削孔し、その孔に管を設置するもので、この削孔の最大延長60mと削孔本数5本はダム再開発事業としては日本最大規模である(図-5)。
現在、洪水の操作施設を格納する上屋の工事や、ダムの下流では減勢工(放流水の勢いを軽減する水路)の設置作業などを行っており、平成28年度出水期には再開発事業の新たな洪水調節機能が発揮される予定である。 
なお関連工事を含めたすべての完成は平成29年度を予定している。

2.技術的課題
(1)削孔周辺部の安全性確認
①計画段階
堤体削孔は、構造安定性に大きな影響を及ぼすため、既設ダムの設計時に安定計算を実施した断面に欠損が生じることに対する安定性の検証、及び削孔部周辺の応力状態の検証を行う必要があった。
本事業では、冒頭にも述べたように増設放流管(直径4.8m、削孔断面は高6.0m ×幅6.0m)が3本、付替発電管(直径5.2m、削孔断面は高6.4m×幅6.4m)が2本の合計5箇所の削孔を行うが(図-6、7)、設計水深が約65mと既往実績で最大級の規模であるため、工事中並びに工事完成後の発生応力を3次元有限要素法を用いて詳細に検討し、削孔形状については円形に対して最大発生応力の小さい矩形断面とした。

②施工段階
堤体削孔に先立ち、堤体上流・下流面に外周部の先行縁切り(コアボーリングマシン) を実施し、 自由断面掘削機(ロードヘッダー)により削孔を行った(写真-1)。

また、上流側に鋼製の仮締切を設置して削孔工事を行うが、堤体上流部直近80㎝の範囲については、削孔片により仮締切を破損する可能性があるため、安全性に配慮してワイヤーソーにて分割切断し、堤体上流側よりクレーンにて搬出した。
なお削孔時は堤体への影響がないか振動測定を行い、監視しながら慎重に施工を行った。

(2)既存施設や法面への影響も考慮した減勢工設計
増設及び既設改造部の減勢工の配置(図.8)については、左岸側の発電所や右岸側の法面への影響を考慮するとともに、洪水時の流況を確認するために水理模型実験により最適形状を決定した。

①増設減勢工
設計洪水位での放流量を対象とし施設規模を定めるとともに、減勢工設置に伴う右岸法面の掘削を極力低減させるために、現地形標高の高い位置に一次減勢工、下流河道との接続部分に二次減勢工を配置する2段式減勢工(副ダム付き水平水叩き方式)とした。

②既設減勢工改造
堤体の安定及び放流水の減勢効果の増強を図るために、堤体下流に順傾斜式水路工(マット工)を設置するとともに、その下流の既設減勢工を改修し、さらに水平水叩き方式の減勢工を新設・延長することで、既設のクレスト及びコンジットゲートからの放流を減勢させることとした。

(3)ダムの現有機能を維持しながらの施工
再開発事業の特色として、ダムを運用しながら改造工事を行う必要があることが挙げられる。貯水池内の設計・施工計画を検討するにあたり、本来、貯水位を可能な限り低下させて実施することが望ましいが、発電事業者との協議を重ねた結果、発電への影響が最小限となるような水位設定条件を基本とし、水位制約期間中においても発電が継続できること、及び水位低下期間は短期間とすることとなった。
上記の内容を踏まえ、原則として貯水池内の工事は、非洪水期(10 月16 日~ 6 月10 日)のうち10 月16 日~ 5 月31 日に通常よりも貯水位を下げて行うこととした。
上流仮締切設置等は、発電のために最低限必要な水位である標高133m の貯水位にて施工し、上流仮締切内での制水ゲート設置等は、工事の安全を最大限確保するために、既設コンジットゲートを全開にして貯水位を最大限低下させた状態(標高概ね120 m)の貯水位にて施工した(図.9)。

(4) 大水深下での作業
ダム堤体を削孔して放流設備を増設するにあたり、貯水位を下げずに堤体を貫通させるため、堤体上流側に仮締切を設置する必要がある。
大水深下での主な作業内容は、水中作業としては、浚渫や岩盤掘削、フーチング撤去、水中型枠設置、台座コンクリート打設、また仮締切内作業としては、貫通削孔、ベルマウス、制水ゲート等の据付等の作業が必要となる(図. 10)。

①飽和潜水方式による水中作業
本現場の潜水方式については、最大施工水深65m での水中作業が必要となるため、作業の効率化と作業員の安全確保を考慮し、「飽和潜水」方式を選定した(図. 11)。

飽和潜水とは、深度が深くなると潜水時間の制限、減圧時間の増大、呼吸ガスの管理などの制約条件が厳しくなるため、作業期間を通じて、ダイバーに作業水深と同じ気圧の居住空間内で約1ヶ月間生活しながら作業をしてもらうことでダイバーにとって潜水病の危険が低くなることや、毎回の減圧時間が無くなることで作業時間が拡大できる潜水方式である。
飽和潜水を行う際には、水上(船上)で高圧環境を実現するための再圧タンク、及び高圧環境を維持したままで再圧タンクから湖底までを往復するためのベル(水中減圧室)を使用する(図.12)。この技術は、これまで主に海洋土木で取り入れている技術である。

②浮体式仮締切<新工法>の開発
水中作業による台座コンクリート施工は、不確定要素が多く、当初予定していた施工能力が著しく低下し、工程の遅延、コストの増加が懸念された。
そこで、施工業者(土木・機械)、一般財団法人ダム技術センター、発注者において検討を重ね、新たな方法として台座コンクリートを必要としない「浮体式仮締切」を開発し、3 号増設放流管施工時の仮締切に採用することで、問題解決を図った。浮体式仮締切の主な特徴は、扉体各ブロックに気密室を設け、扉体に浮力を持たせる構造である点である(図. 13)

空気を入れると浮く状態にして、陸上部ではなく貯水池内で組立を行い(図. 14、15)、一体化した状態で運び、順次沈降させることで、ダム本体に設置(図. 16)することが出来るため、水中作業を大幅に軽減することが出来た。
なお本工法は、第16回(平成26年度)の国土技術開発賞において最優秀賞を受賞した他、第6回(平成27年度)ものづくり日本大賞において内閣総理大臣賞を受賞し、今後も広く技術活用が期待されている。

おわりに
既設ダムの再開発事業は、ダムを新設する場合に比べて短期間で効果が発現できること、我が国の厳しい財政状況や社会環境に及ぼす影響を最小限に抑えることが出来る等のメリットがあるため、その必要性は今後ますます高まることが予想される。
鶴田ダム再開発事業は,地域住民の方々の強い要望と期待を受けており、洪水調整機能の強化による治水効果が一刻も早く発現できるよう
に、また鶴田ダム・再開発事業が新たな観光資源として地域の発展に寄与するとともに、今後のダム再開発における先進的な事例としての役割を果たすことを願い、安全管理等に充分考慮し、平成29 年度の事業完了に向け、鋭意工事を進めていく。

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