国土交通省 水管理・国土保全局長
(前九州地方整備局長)
金尾健司
(前九州地方整備局長)
金尾健司
約15年ぶりの九州勤務でずいぶん変わったなと思うことがある。前回勤務の時と比べ、インフラの整備が目に見えて進んだことである。今年の3月には、東九州道が北九州市から宮崎市まで一部区間を除いてほぼ繋がり、九州に高速道路の循環型ネットワークが誕生した。26年度は九州内の高速道路の新規供用が約90キロとなり、幸運な時期に居合わせることになった。これも諸先輩の尽力のおかげであると感謝している。
整備の進んだインフラによって、九州各地で好循環が生まれている。東九州道が順次供用区間を伸ばすに従い、沿線の道の駅や観光施設は集客を伸ばしているし、佐伯市ではここ5年に19件、延岡市でも31件といった企業立地も進んでいる。日向市の細島港では、港の整備と東九州道の供用が相俟って、有力な製材会社が進出し、地元に対する雇用と投資を生み出している。今年のゴールデンウィークには、大分・宮崎の観光地においてこれまでにない現象が見られた。例えば、高千穂峡では昨年に比べ九州外からの観光客が8%から22%に増加し、愛媛-大分間のフェリーの乗用車利用台数は約2割増加した。このように、道路ネットワークが整備されたことにより、地域間の交流が活発になっていることが具体的に現れている。
東九州道以外でも、西九州道の進捗により松浦市の旬さばの東京での市場価値が上がったとか、南九州西回り道の進捗により熊本名産のデコポンの東京への出荷が増加したとか、枚挙に暇がない。
治水事業がストック効果を発揮した例としては、熊本県嘉島町の緑川支川加勢川の堤防整備がある。加藤清正の時代から熊本城下を守るため、加勢川の右岸には堤防が築かれたが、左岸には堤防がなく、この地域は最近まで水害常襲地であった。熊本市に隣接する他の地域では人口増加など発展が見られる中、嘉島町は人口が減少していたが、本格的な築堤工事が始まった平成7年頃から徐々に安全が確保されたことで、人口は増加に転じ、商業施設や工場の立地が進んだ。
九州は、成長著しいアジアに向けてのゲートウェイ機能を持ち、産業面では、半導体、自動車、ロボットをはじめ水素エネルギーなどの成長分野を抱えるとともに、国内農業生産の2割を担うなど1次産業が盛んで、農林水産物の輸出も増えている。さらに、外航クルーズ船の寄港が急増するなど外国人観光客の増加が著しい。このように元気な九州を盛り上げ、ひいては日本の成長に繋げることが、現在見直し中の九州圏広域地方計画の基本的な考え方である。そして、これを支えるインフラ整備にしっかりと取り組んでいきたい。