新技術活用促進のための新しい取り組みについて
~新技術活用システム改正と活用促進型[試行]~
~新技術活用システム改正と活用促進型[試行]~
久保朝雄
栗尾和宏
栗尾和宏
キーワード:技術開発、新技術活用システム、NETIS(新技術情報提供システム)
1.はじめに
新技術の活用システムは、登録・活用・評価の一連の流れにおいて民間の技術のスパイラルアップを図り、良質な社会資本整備、維持管理および防災対策等を技術面からサポートする非常に重要な施策である。
なお、新技術とは、「技術の成立性が技術開発した民間事業者等により実験等の方法で確認されており、実用化している公共工事等に関する技術であって、当該技術の適用範囲において従来技術に比べ活用の効果が同程度以上又は同程度以上と見込まれる技術をいう。」と定められている。国土交通省は、新技術の活用のため、新技術に関わる情報の共有及び提供を目的として、新技術情報提供システム(NewTechnology InformationSystem)(以下「NETIS」という)を整備している。
なお、九州地方整備局管内の平成24 年度の新技術活用率(新技術を活用した工事件数を総工事件数で除したもの)は、40.3%と全国の活用率39.0%を上回る結果となり、新技術が積極的に活用されている状況である。今後とも効果的効率的事業を推進するために、より一層の新技術の活用促進が重要である。
今回、従前の取り組みの効果と課題をふまえて新技術活用システムの一部が改正されたのを受けてその概要と、九州地方整備局が独自で新しく試行している「活用促進型[試行]」の取り組みについて紹介する。
2.新技術活用システム改正の概要
(国土交通省記者発表資料〈平成26 年4 月8 日付〉より抜粋)
公共工事等における新技術活用システムについては、事後評価情報の充実を図るために改正した平成22 年3 月の運用から4 年が経過した。
これまでのシステム運用状況を踏まえ、国土交通省は、「新技術の登録申請時及び活用後の評価における技術特性の明確化」、「現場ニーズに基づく技術公募による活用・評価の促進」、「外部機関の活用による評価の効率化」等を目的に、「公共工事等における新技術活用システム」の実施要領を改正した。主な改正内容は以下の通りとなっている。
改正1.現場ニーズに基づく技術公募による活用・評価の促進
新設する「テーマ設定型(技術公募)」により、現場ニーズに基づき設定した技術テーマに対し、応募のあった技術を現場で活用、評価することで、新技術の現場導入及び評価の加速化に取り組む。
改正2.外部機関の活用による有用な技術の現場導入促進
外部機関で活用された技術の評価結果等を活用することで、有用な技術の現場導入を促進。
改正3.新技術の登録申請時における技術特性の明確化
新技術の「登録申請時」に、適切な従来技術の設定やNETIS 既登録技術との比較等を行うことで、技術特性を明確にすることによって適材適所での活用を促進する。
改正4.新技術活用後の評価における技術特性の明確化
現行の6 つの調査項目(経済性、工程、品質・出来型、安全性、施工性、環境)で定量的に評価する活用効果調査表を改正することで、技術特性や定性的な評価(コメントを重視した評価)を実現する等、新技術の現場導入促進に取り組む。
3.新技術活用システムの概要について
本システムは、民間事業者等(以下「開発者」という。)が新技術をNETISに登録申請することから始まり、活用→事後評価→評価結果を開発者へ情報提供を行い、技術のスパイラルアップを図るものである。
特に活用にあたっては、現場のニーズ等により必要となる新技術を対象に発注者の指定により活用を行う「発注者指定型」、施工者(受注者)からの提案により活用を行う「施工者希望型」、開発者からの申請により試行現場を照会し活用を行う「試行申請型」、発注者が現場のニーズ等により、具体のフィールドを想定して求める技術要件を明確にしたうえで、新技術を募集し、選考した技術の活用を行う「フィールド提供型」、発注者が現場のニーズ等により求める技術募集テーマ等を明確にしたうえで、新技術を募集し、応募された技術の活用を行う「テーマ設定型(技術公募)」(新技術活用システムの改正により追加)の5タイプがある。それに加えて九州地方整備局独自の取り組みとして、九州のフィールドに適応した未評価
の新技術を募集し、選考した技術の活用を行う「活用促進型[試行]」があり、それぞれのタイプで活用促進を図っている。
の新技術を募集し、選考した技術の活用を行う「活用促進型[試行]」があり、それぞれのタイプで活用促進を図っている。
また、事後評価結果を受けて、「新技術活用評価会議」や「新技術活用システム会議」において「有用な新技術」の指定を行い、その活用を促進(有用な技術等を活用する事によって工事成績評定に加点される等)することとしている(図-1参照)。
4.九州地方整備局での活用状況と活用促進型[試行]について
(1)九州地方整備局での活用状況について
ここ数年の九州地方整備局の新技術活用率の推移を見ると、平成20 年度に30%を超え、年々増加傾向で推移しており、前述の通り平成24 年度は40.3%の活用率を達成している(図-2参照)。
なお、新技術の活用タイプ別(発注者指定型、施工者希望型、試行申請型、フィールド提供型等)の活用状況の平成19 年度~平成24 年度までの推移は、発注者指定型に比べ施工者希望型が増加している傾向である(図-3参照)。
(2)事後評価未実施技術と九州のフィールドに適応すると考えられる技術の活用状況等
NETIS登録技術約4,500 件の内、評価済技術は2割程度となっている。平成24 年度の九州地方整備局での活用状況は、事後評価されていない技術は3割しか活用されていない状況である(図-4参照)。
また、九州のフィールドに適応すると考えられる技術(軟弱地盤、シラス、火山対策等)約580 件の内、事後評価済の技術は2割、1件以上活用された技術は3割程度となっており、登録されている技術件数に対して活用及び評価が進んでいないのが現状である(図-5参照)。
以上の状況をふまえ「事後評価未実施技術」、「九州のフィールドに適応した技術」「発注者指定型」の新技術の活用促進が必要と考えている。
(3)活用方式の工夫について
このような状況から、速やかに事後評価できるように、従来の活用方式に加え新たな方式として、平成25 年3月より活用促進型[試行]の試行的な運用を開始した。
(4)活用促進型[試行]の目的
活用促進型[試行]は、九州のフィールド(軟弱地盤、シラス、火山災害対策等)に適応した新技術を積極的に活用するために、事後評価未実施技術を優先的に活用し、すみやかに事後評価を行うものであり、これにより、九州のフィールドに適応した新技術の技術革新(より品質の良い、より安価な技術等の開発)を促進させる。
(5)対象新技術
NETIS登録の中で事後評価未実施技術を対象とする。
(6)対象工種
対象工種は、当面、軟弱地盤処理工、深層混合処理工を対象としているが、今後は、九州のフィールドに適応した新技術を対象として予定している。主な工種は以下のとおりとする。
・地盤処理関連工種(軟弱地盤処理工、深層混合処理工)、シラス関連工種、火山対策関連工種
(7)活用促進型[試行]の進め方の概要
活用促進型[試行]の進め方は、以下の1)から5)により行う(図-6参照)。
1)開発者へ技術の募集を行う。
2)応募された技術は、専門委員から構成された「新技術活用評価部会」にて技術的確認を行い、行政委員で構成された「九州地方整備局技術活用推進調整会議」によって技術審査を行い、技術を選定する。
3)選定技術を発注事務所が「発注者指定型」で発注する。
4)活用中は、活用効果調査に加え詳細調査を実施する。
5)活用効果調査表・詳細調査表の結果を受けて「新技術活用評価部会」が技術的アドバイスを提言し、開発者へ伝える。
5.有明海沿岸道路での活用促進型[試行]の事例
(1)有明海沿岸道路の概要
有明海沿岸道路は、三池港、佐賀空港などの広域交通拠点及び大牟田市、みやま市、柳川市、大川市、佐賀市、鹿島市など有明海沿岸の都市群を連携することにより、地域間の連携、交流促進を図るとともに、国道208 号等、周辺道路の混雑緩和と交通安全の確保を目的として計画された延長約55㎞の地域高規格道路である。
また当該道路の地盤は、表層付近に有明粘土を主体とする軟弱層が10m 程度(一部区間では30m)堆積している。軟弱層は中間砂層の有無等、地区によっては、地層構成に若干相違が認められる。
(2)工事概要
本工事は、有明海沿岸道路の柳川西IC部において、現在、本線部分にて供用しているONランプを将来の完成形を見越して、移行するために必要となる腹付け盛土の工事を行なったものである。
この時、盛土の安定確保と既設道路の変形抑制を目的に腹付け盛土の下面に地盤改良工事(深層混合処理工)を行なった(図-7参照)。なお、今回は活用促進型[試行]で技術選定されたDコラム工法で施工した。
Dコラム工法は、小型バックホウ並みのコンパクトなベースマシーンのため、小規模なスペースでの施工が可能である。また、混合攪拌装置に設けた特殊な共回り防止翼により、土の共回り現象を大幅に抑制でき、均質でバラツキの少ない鉛直性に優れた改良体を築造することができる(NETIS情報アブストラクトより抜粋)(写真-1参照)。
1)工 事 名: 福岡208 号 柳川西I C 改良工事
2)工事場所:福岡県柳川市西蒲池地内
3)工 期:平成25 年6月22 日から平成26 年1月31 日まで
4)工事内容:固結工 531 本(スラリー攪拌 杭径 1,200㎜ 打設長10.5m~ 13.5m) 浅層改良2,860m3 (改良深さ=1.0m)
5)使用する主要な資機材:高炉セメントB種 1,527t
(3)活用促進型[試行]における活用後の技術的アドバイスについて
現場にて新技術の活用が終了後、活用効果調査と詳細調査等により、「新技術活用評価部会」において技術的アドバイスを提言し、「新技術活用評価会議」へ活用促進型[試行]の実施結果を報告し、開発会社へ技術的アドバイスを通知し、本活用方式の試行を無事完了した(図-8参照)。
具体的な技術的アドバイスとしては、今後Dコラム工法を施工する上での参考情報として、今回の現場で従来工法と比較して優れた点や留意すべき事項等について提言を頂いたものである。
6.おわりに
今後も、公共工事等において、新技術が活用されることにより、よりよい新たな技術が生まれ、社会基盤の形成に寄与できるように、九州技術事務所としてもさらに推進していく所存である。
なお、「公共工事等における新技術活用システム」の改正については、国土交通省記者発表資料(平成26 年4 月8 日付)を参考にされたい。
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