技術の改革を進めるための課題
一般社団法人日本建設機械施工協会理事
九州支部長(九州大学名誉教授)
江 﨑 哲 郎
九州支部長(九州大学名誉教授)
江 﨑 哲 郎
戦後の経済高度成長によってわが国は経済大国、技術立国として世界に認められるようになった。しかしバブル経済が崩壊した以降は停滞が続き政治の混乱もあって、経済以外でも国内では高齢化、福祉、教育などの深刻な問題が顕在化し、国際的には経済に関連する為替、市場開放、技術的な競争での敗北また隣国との領土問題など困難な課題が目白押しである。建設分野でも事業の縮減、維持管理、災害・環境、それにかかわる安全安心など厳しい課題に直面して閉塞感すら漂っている。さらに東日本大震災、原子力事故も重なって、まさに終戦直後以来の未曾有の危機の様相である。もちろんこれらに対処するために、国はもとより民間では懸命の努力が続けられているが、どの問題も解決への道は険しいようである。
このような時期に技術に関しても考え直してみる、根本に立ち返って思考してみる改革が重要と考える。技術に関して考える、思考するには3 つの柱がある。第一は長い目で考えることである。近年ほど目の前しか考えない傾向が強いようである。中期目標・計画が立てられるようになったが、長期計画や基本となる国家目標はどうもぼんやりしている。日本人は深刻な問題であっても、その関心が長期的に続かずに忘れていく傾向が強いといわれているが、技術者は問題の技術的中身や実像を継続的に市民に説明し理解を深める役割もあるのではないだろうか。第二は広い視野で考えることである。我々は身近な市民や社会から、大きくは地球環境に至るまで守備範囲は広いとしているが、市民等の支持はいまひとつである。また既存の建設技術の枠の中や更に細分化された分野内での技術しか考えない内向き志向も否定できない。第三は技術の根本に立ち返ることである。建設技術は1~2 世紀前の力学理論を基に発展してきた。科学はその頃と比べて格段に進歩しているが、古典力学依存の強靭な構造で自然に対峙するという拘泥があるようにさえ思われる。技術的取組みの中で何処を改めるべきか何が足りないのかを今一度根本に立ち返って考えるべきである。最近は技術評価の機会が多くなっているが、このような視点からの評価も重視して真に市民に信頼される技術への誘勧をお願いしたい。
さてこのような改革の方針は以前から何度も議論されてきたようだが実行にはなかなか至っていない。翻ってこの原因は我々の根本的なものの考え方、行動にあるのではと考えてみた。そこで半世紀前に当時国内で賛否両論大いに話題になった河崎一郎著「素顔の日本」(二見書房刊)にある世界の眼からみた日本人の特性、行動についての指摘をいくつか列挙してみる。「改革改善に処する精神的勇気に欠ける」「精神構造として現実を直視せず、困難な問題が起きても事の重大さを認めようとせず、むしろ過小評価する・・・」「論理と科学性に欠けた、不快な現実を避けたあいまいな普遍化やさらに希望的観測をする」等々、手厳しいが半世紀たった今も思い当たるふしもある。我々はその時から進歩していないのかもしれない。グローバル社会に求められるコスモポリタンとしての考え方、行動への変革が改革を実現する鍵のように思われる。