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永山地区土石流災害への対応について
藤田孝道
坂本一信

キーワード:土石流、災害対策、砂防事業

1.はじめに

昨年の7月、佐賀県神埼郡吉野ヶ里町で発生した土石流災害とその対応について報告します。
佐賀県の面積は2,439k㎡、その内約70%が脊振山系や多良山系からなる山地に占められており、これらの山地の大部分が崩壊性の高い花崗岩や風化した玄武岩、第三紀層等から成り、土砂災害が非常に発生しやすい地層となっています。
このため、県内には県北部から西部の山地にかけて土砂災害危険箇所が分布しており、土石流危険渓流が3,038渓流、地すべり危険箇所が200箇所、急傾斜地崩壊危険箇所6,266箇所と、合計で9,534箇所の土砂災害危険箇所が存在しています。

今回災害が発生した吉野ヶ里町は、佐賀県の北東部に位置し、北部には鍋島藩家老の成富兵庫茂安公が江戸時代初期に佐賀藩の水不足を解消するため築造した蛤水道を有し、南部には全国有数の穀倉地帯である佐賀平野が広がっています。町の中央部を南北に流れる田手川沿いには、町名の由来となった日本最大の環濠集落跡の吉野ヶ里遺跡(写真-1)があり、緑豊かな自然環境と歴史・文化資源に育まれた自然豊かな町です

2.災害概要

平成22年の梅雨も終わりに近づいた7月14日、活発な梅雨前線豪雨により、吉野ヶ里町の松隈地区において土石流が発生しました。
災害時の降雨状況としては、7月12日午後3時から14日午前12時までの連続雨量475㎜、最大24時間雨量289㎜、7月14日午前7時から午前8時までの最大時間雨量が53㎜と記録的な雨量を観測しており、13日午前5時10分には大雨洪水警報、翌14日の午前1時45分には土砂災害警戒情報が発令されました(図-2)。

2日間降り続いた雨は土砂災害警戒情報の出された7月14日の午前1時45分以降、更に雨足を強め、最大時間雨量53㎜を記録した約1時間後となる午前9時20分に、土石流が発生しました。
民家から約1㎞上流を起点とした土石流は、瞬く間に渓流を駆け下り、人家損壊4戸、非住家全壊7戸、橋梁被災2橋、公園等に被害を与え、県道中原・三瀬線を寸断しました(写真-2,3,4)。

住民の方の話によれば「ゴゴゴゴー」という大きな地響きに気付き1階の窓の外をみたところ、杉や小屋などを巻き込みながら、大量の泥水が家のすぐ傍を駆け下っていったとのことです。

3.避難の状況

住民避難については、午前1時45分の土砂災害警戒情報発表を受けて、吉野ヶ里町の防災担当課により自主避難の受け入れ態勢が整えられました。
その後、土石流発生の恐れを伝える情報発信が継続的にされていましたが、土石流の発生を受け午前9時50分に永山地区の住民26世帯91名に対して吉野ヶ里町より避難勧告が発令されました。
今回、災害発生を受けての避難勧告発令となりましたが、土砂災害警戒情報の発表が深夜であったこともあり、豪雨の夜に住民の方々に避難をさせるのかどうか、避難勧告を判断する上で非常に難しい状況であったと考えられます。
その後、災害発生の当日の午後5時には、雨足が弱まり土砂災害警戒情報が解除されたことから、避難勧告の一部が解除されましたが、11世帯27名が避難所に宿泊することとなりました。

4.現地調査と応急対応

また、災害発生した直後から吉野ヶ里町及び神埼土木事務所により被災状況の確認が実施されました。国土交通省保全課へ災害報告を行うとともに、被害状況の把握をおこない、翌15日早朝からは、吉野ヶ里町及び佐賀県、土石流が国有林内であったことから佐賀森林管理署の三者により被害状況の本格的な調査を開始しました(写真-5,6)。

現地調査にあたっては、地上からでは困難であった土石流の全容把握を行うため、国土交通省九州地方整備局の協力を受け、防災ヘリ「はるかぜ号」により上空からの調査がおこなわれました。防災ヘリによる調査にあたっては、吉野ヶ里町長、佐賀県県土づくり本部長、九州地方整備局との間で電話会議をおこないながら、リアルタイムに上空からの映像を共有しつつ調査がおこなわれ、民家から上流へ約1㎞に渡る土石流渓流の全体像が、初めて確認されることとなりました。
それと並行し、土砂により寸断された県道部の復旧作業が開始され、県道の通行止めについては被災から2日後の7月16日午後1時に解除することができました。

その他の応急対応の内容としては、土石流の起点部に当たる林道被災法面の増破を防止するための法面保護、その下流700m地点にある治山堰堤(既存)の堆積土砂の除去によるポケットの確保、雨量を感知し黄色回転灯が作動しサイレンを吹鳴する雨量監視装置、土石流センサーの切断により土石流を感知すると赤色回転灯が作動しサイレンを吹鳴する土石流監視装置を設置するとともに、民家近くの渓流沿いには大型土のうと仮設流路工を配置して人家の安全を確保しました。

5.「永山地区土石流災害対策連絡協議会」の設置と対策工法の検討

今回の土石流については、国有林(森林管理署)、民有保安林(佐賀県森林部局)、林道(吉野ヶ里町農林課管理)、町道(吉野ヶ里町建設課)、県道(佐賀県土木部局)があり関係機関が多岐に渡ります。
このため、災害復旧にあたっては関係機関の連携と協力が必要不可欠であることから、森林管理署、佐賀県(河川砂防課・森林整備課、土木事務所、農林事務所)、吉野ヶ里町により「永山地区土石流災害対策連絡協議会」を設置、復旧工法の検討と役割分担について協議されました。
その結果、対策として、国有林内について直轄治山災害関連緊急事業による谷止工2基、民有林内には災害関連緊急治山事業による谷止工1基、最下流部には砂防事業として災害関連緊急砂防事業による砂防えん堤を設置し、特定緊急砂防事業により渓流保全工を平成24年度末の完成を目指して実施することとなりました(写真-8)。

平成23年11月現在、直轄治山関連緊急砂防事業、災害関連緊急治山事業、林道災害復旧事業については完了に近づいており、災害関連緊急砂防事業についても住民の協力を得ながら工事が進んでいます。また、工事を進めていく上で、避難を余儀なくされている住民の方々の不安を少しでも軽減するため、工事を受注している業者からも、工事の進捗状況や内容を記載した「永山砂防新聞」を配布するなど、工事への理解と協力を得ながら施工を進めているところです。

6.おわりに

今回、永山地区で発生した土石流災害では、幸いにして人命を失われることはありませんでしたが、人家等の財産や県道などの公共施設に大きな被害が発生しました。
民家をかすめるようにして通過した土石流の状況を実際に目の当たりにし、一歩間違えば多数の死者が生じる災害であったことに、改めて土砂災害の恐ろしさ、災害に対する事前の備えの重要性を再認識したところです。
永山地区については、現在も県による砂防工事を実施しており、砂防えん堤の完成により安全が確保されるまでは避難勧告の解除ができず、災害発生から1年4カ月余りが経過した今でも4世帯12名の方々が、町営住宅等へ避難をされている状況です。避難を余儀なくされている方々が一刻も早く落ち着いた生活を取り戻せるよう、着実に対策工事を進めていく必要があると考えます。
今回の土石流被害を受け、住民の方々の土砂災害に対する認識は非常に高まっており、今年の梅雨前となる5月には県の総合防災訓練の一環として永山地区の方々や地元消防団等約160名による避難訓練が実施されました。こういった住民を主体とした避難訓練や情報伝達体制の整備に関する取り組みは、より一層重要になると考えられます。
今後、ますます公共事業の予算が厳しくなり施設整備による対応が難しくなる中で、住民の方々の安全をどうやって守っていくのか。施設の整備とソフト対策を総合的におこないながら、佐賀県の土砂災害による犠牲者ゼロを目指して、土砂災害対策を進めていきたいと考えています。

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