大淀川水系激甚災害対策特別緊急事業について
~瓜田川・麓川の取り組み~
~瓜田川・麓川の取り組み~
相牟田浩明
キーワード:激甚災害対策特別緊急事業、内水浸水対策、災害危険区域
1. はじめに
平成17年の台風14号(9/4~9/6)では、総雨量が年間降水量の1/3に相当する1,000㎜を超える記録的な降雨のところもあり、県内各地で水害や土砂災害など甚大な被害をもたらしました。
大淀川水系は柏田水位観測所で既往最高水位となり、流域で約3,800戸が床上浸水となる甚大な被害を受けたため、国土交通省と宮崎県で「大淀川水系激甚災害対策特別緊急事業」(H17~H21)を実施しました。
大淀川の支川となる瓜田川・麓川(図-1)においても322戸に及ぶ床上浸水が発生したため(写真-1)、国土交通省の「瓜田排水機場」整備と併せて、県では輪中堤や河道拡幅等を実施しました。
当事業で定められた5箇年という限られた期間(繰越で6箇年)で、県は、国土交通省の計画と調整を図りながら、輪中堤や河道拡幅等を実施するハード対策や、輪中堤外に新たな浸水家屋を出さないよう「災害危険区域」を設け、建築規制を行うソフト対策に一体的に取り組みました。
また、輪中堤の整備では、土地利用の制約のなか、道路等を活用する等の工夫を行いました。
こうした県の取り組みが評価され、平成22年度の「全建賞」を頂くこととなりましたので、事業の一端について紹介します。
2. 浸水被害の概要
大淀川の右岸に位置する瓜田川(流域面積11.8k㎡)とその支川・麓川の沿川は、最低家屋敷髙がT.P.+10.01mのところもあり、大淀川計画高水位T.P.+13.92mに対し約4mも低い状況にあります。
大淀川からの逆流防止のため水門を閉めた後、瓜田川から排水できないことによる内水氾濫(図-2)は過去にもありましたが、台風14号では、大淀川の水位が既往最高水位を記録する大洪水であったこと、さらに最低地盤高まで水位が低下するのに37時間にも及んだ(図-3)ことで、過去に類のない322戸もの家屋が長時間にわたり床上浸水する事態となりました。
3.事業概要
(1) ハード対策
はじめに、内水対策の計画規模は、大淀川流域内のバランスや費用便益等から、当流域の既計画と同程度の1/10確率(314㎜/24h)となりました。
つぎに、整備方法は、国の排水機場整備と県の管理する河川の改修等を併せて、効率的かつ経済的な対策を図ることになりました(図-4)。
計画の要となるポンプ稼働時の湛水位を、①床上浸水家屋が急増する境界の水位②災害時要援護者施設の保育園の床高等からT.P.+11.40mと設定し、ポンプ規模を20m3/sに決定しました。
この湛水位より低い4地区において、浸水の解消を図るために、県で輪中堤(写真-2)を整備することになり、その高さは、内水発生時における台風の強風による波浪高を考慮した余裕高を0.30mとり、T.P.+11.70mに設定しました。
築堤や特殊堤を主に配置しましたが、道路横断部は道路を嵩上げするとともに、制約のある場合は擁壁構造とするなど、土地利用に支障が生じないよう様々な工夫(写真-3)を試みました。
また、計画した輪中堤の外にある家屋については、敷高T.P.11.34m以下を対象に2戸の宅地嵩上げで対応しました(許容湛水位-5㎝のT.P.11.35m以上の敷高家屋は嵩上げの対象外)。
また、瓜田川の支川となる麓川においては、河道断面不足(1/3確率-11m3/s)や湾曲を是正し、大淀川のピーク水位到達前に流域の洪水を流下させるよう改修(内水対策計画規模同等1/10確率-23m3/s 図-5、写真-4)を行うとともに、合流点処理は瓜田川の計画高水位に対するバック堤としました。
県の工事概要(図-6)は、①総事業費26億円、②麓川河道改修900m、③輪中堤延長2,280m(輪中堤に伴う道路嵩上げ13箇所)、④宅地嵩上2戸、⑤橋梁架替4橋、⑥樋門15門となります。
これにより、国土交通省のポンプ整備と併せ、平成17年台風14号の洪水規模に対し、床上浸水が322戸から145戸へと177戸の浸水家屋が減少する事業効果となります。
(2) ソフト対策
ハード対策に併せてソフト対策として、宮崎市の条例「災害危険区域」の指定を行い(図-7)、新たな浸水家屋を出さないために、寝室や居間などの居室の床面をT.P.11.70m(輪中堤高と同じ)以上の高さにする規制を設けました(図-8)。
4.多自然川づくりアドバイザー制度
大淀川水系の全ての激特事業を対象とした標記アドバイザー制度(H17,21,22)を活用し、委員からの助言を参考に、県では河川内の工事を行った麓川で2回の工法等の見直しを行いました。
第1段階(当初)の工事に対し、①根入を確保するため底張を含め既存施設(積ブロック)を残すことでコスト縮減を図りましたが、残した底張りが川の流れを拘束している(写真-5)、②護岸は通常の環境型ブロックよりも空隙のある製品の方が生物の生息場所に適しているとの意見をいただきました。
第2段階は、前述の意見を参考に、空隙のある製品(ラップストーン工法)を採用しました(写真-6)。購入石材1個毎に鋼材アンカーを取付け背面盛土材との摩擦で構造的に安定させ、胴込コンなしの空積ができます。なお、コスト縮減のために底張を含め既存施設を残したため、河床は前述と同じとなりました。
第3段階は、両岸ともラップストーン工法とし、河床が単一とならないよう護岸前面は河床より高く埋め戻して水際の形成に努めました。また、粘性土主体の地質であったため、河床部に砂利や玉石を補足し変化のある河床形成に努め、前段階の施工を教訓に、より自然に配慮した整備となりました(写真-7)。
5.終わりに
当地区における内水対策は1/10確率規模での整備となり、平成17年台風14号と同規模の洪水では家屋浸水は免れませんが、ややもすると、ポンプや輪中堤の整備で水害が解消されたものと住民が安心しきってしまい、避難の遅れにより重大な被害となる危険性が危惧されます。
今後とも、官民一体となって、危機意識を共有し、自助や共助、公助を組み合わせて、避難等の防災体制づくりに取り組んでいく必要があります。
最後に、関係機関や住民の皆様の御指導や御協力により整備が終了しましたことに、衷心より感謝を申し上げます。