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国道209号 久留米市日吉地区交通安全対策工事における
「技術開発・工事一体型調達方式」と「いきいき現場向上会議」
の取り組みについて
九州地方整備局 柳田誠二
1.はじめに

本稿は、福岡国道事務所管内、国道209号久留米市日吉地区において施工した、交通安全対策工事において、平成21年度公共工事の入札契約における新たな取り組みとして、「技術開発・工事一体型調達方式」を採用しましたので、その概要について紹介します。
また、工事を進めるにあたり、平成21年度の九州地方整備局の『いきいき現場づくり』施策のモデル工事として取り組んだ「いきいき現場向上会議」についても併せて紹介します。

2.工事の概要

当該工事が施工された久留米市は、人口30万人に達する福岡県南部の中核都市であり、九州自動車道と大分・長崎自動車道のクロスポイントにも近く、国道3号ほか5つの国道が通っており、交通の要衝となっています。福岡国道事務所が管理する国道209号は、みやま市から筑後市を経て久留米市に至る延長約27kmの主要幹線道路です。このうち、当該工事の対象区間となった久留米市日吉地区はJR久留米駅と西鉄久留米駅間を繋ぎ久留米都市圏の東西軸を担う重要な区間であり、1日の交通量は約27,000台(うちバス:約1,400台)、大型車混入率11.8%、死傷事故率は283件/億台キロに達しています。
当該工事区間の舗装は舗設後約20年以上経過しており、ほぼ全面にひび割れが生じていました。
また、交差点部等の車輌の停車区間では流動により著しいわだち掘れが発生していました。このため、当該工事は、対象区間の全面を排水性舗装化することにより雨天時等の追突事故の減少を目指し、また、あわせてバス専用レーンとなっている第1車線に表面強化工を実施することにより交通の整流化を図り交通安全の向上を図るものです。

3.「技術開発・工事一体型調達方式」
3.1 概要

公共工事においては、社会的要請に応えるために厳しい制約条件等の下で工事を計画する必要があり、既存技術の工夫だけでは対応出来ない場合や既存技術では不経済になる場合があります。その対応策の一つとして、民間企業等で開発された新技術を用いて工事を計画することも考えられますが、実績が極めて少ない場合や、当該工事への適用性、信頼性等の確認が必要となるなどの課題があります。それら、工事へ確実かつ円滑に技術を導入するために、工事固有の制約条件等を満足出来る技術開発(技術実証・技術改良等を含む。)を行うことにより、技術の高度化を図ることが重要となってきます。
「技術開発・工事一体型調達方式」は、当該工事の実施に必要となる技術開発と工事を一体的に調達する方式であり、開発されたより高度な技術を確実かつ円滑に工事へ採用することにより、技術的な課題により計画できなかった工事やこれまで以上に効果的かつ確実な工事の実施をねらった契約方式です。
「技術開発・工事一体型調達方式」には、技術開発・工事一括型(A型)と技術開発・工事分離型(B型)がありますが、本工事においては、排水性舗装の表面強化工法の技術開発及び施工を一括して発注し、入札前に技術開発に係る技術提案とそれに要する費用の見積もりを提出し、技術開発に係る技術提案を審査することにより、品質と価格に優れた調達を目指すA型の試行工事として実施しました。この入札契約方式は、平成21年度の新たな取り組みであり、契約手続きや技術提案の条件や評価方法などひとつずつ決めなければならないという大変さもありました。

3.2 契約手続きと技術提案の評価
1)入札契約方式
一般的な入札契約方式では、価格以外の要素と価格を総合的に評価して落札者を決定する総合評価方式(標準型)により手続きが進められます。
一般的には、総合評価の評価項目について、「企業の施工実績」と「配置予定技術者の能力」及び「簡易な施工計画」の3項目について提出を求めるのに対し、当該工事では、「技術開発・工事一体型調達方式」A型を採用しているため、「簡易な施工計画」に替わって「技術開発に係る技術提案」の提出を求めています。
2)技術開発に係る技術提案
技術提案としては、先述したとおり、大型車混入率は11.8%となっており、台数にして約3,200台となっています。従来、一般的に使用されてきた排水性舗装の標準的な表面強化工法(排水性トップコート工法)を本工事区間に適用すると1日あたり約6,000台以上の大型車交通量に耐えられると考えられます。本工事区間においては、大型車交通量が一般的に想定されている台数の約半数程度であることに着目し、標準的な表面強化工法(排水性トップコート工法)の工事費に比べコスト縮減が図られることを「技術開発に係る技術提案」の条件の一つとしました。最終的には次に掲げる4項目を技術開発の具体な条件とした技術開発に係る技術提案とそれに要する費用の見積もりの提出を求めることとしました。

[技術提案の条件と配点(40点満点)]
  1. 施工後、本工事区間内で表面強化工法を実施しない箇所の排水性舗装と同程度期間以上、骨材飛散を防止できること。[耐久性:5点]
  2. 標準的な排水性舗装の機能を有していること。舗設直後において透水量1,000ml/15sec以上の機能を有していること。[排水性:5点]
  3. 標準的な低騒音舗装又はそれ以上の機能を有していること。舗設直後において騒音値89db以下であること。[低騒音:5点]
  4. 標準的な表面強化工法(排水性トップコート工法(NETIS 登録番号KT-980202-A))の工事に比べコスト縮減が図られること。[コスト:20点]
  5. その他の施工等の提案[その他:5点]
  6. なお、「排水性舗装の表面強化工法」については、施工完了後2ヶ年以内に骨材の飛散状況にについて発注者が評価を行う事とし、評価基準は、当該工事区間内で表面強化工法を実施しない箇所の排水性舗装と骨材の飛散量について比較を行い評価することとしました。

3)契約手続き及び入札結果

4.今回工事の特徴
1)表面強化工法
表面強化工法の対象箇所は、耐骨材飛散、耐塑性変形のいずれの性能も必要になりますが、今回の工事では、現地の供用の形態の違いにより、主に飛散に留意すべき箇所とわだち掘れに留意すべき箇所と区別し、供用形態に応じて混合物のアスファルトの種類(以下「バインダ」という)を使い分けて施工しました。
主要交差点部では、右左折車が多く、強いネジレ荷重が舗装に作用するため、耐塑性変形を考慮しつつ、耐骨材飛散を大幅に改善する「ネジレ抵抗性改善高耐久型ポリマー改質AsHG型(NETIS:QS-020018)」により施工しました。さらに、舗装直後の骨材飛散防止を目的として「パーミエマルジョン(NETIS:KT-010079)」による表面コーティングを行いました。
その他の交差点部やバスレーンでは、耐骨材飛散を考慮しつつ、主にわだち掘れ対策に主眼をおき「高耐久型ポリマー改質AsHD型」により施工しました。また、バスーレーンでは、カラー化ベンガラを使用し、長期的な発色維持のためカラー骨材(粗骨材中の混入率30%)を使用しました。
2)コスト縮減工法
本工事の技術提案として大きなウェイトが置かれていたコスト縮減については、大きく2つの特徴があります。
ひとつは、トップコート工法に変わる高品位なバインダを用いた事で、一般的にトップコート工法では、舗設後、油分がある程度抜けた状態で、改めて工事規制を行って施工する必要がありますが、本工事では、一般的な通常舗設工事で舗装本体工事を行えるため、工事工程、交通規制など、コスト縮減が図られます。

また、ふたつめに、バスレーンのカラー舗装では、2種類の混合物を1層で敷き均す工法(MAP工法:2㎝+3㎝)を採用しており、材料単価の高い混合物の使用量を減らすことでコスト縮減が可能となります。

3)その他の工事の特徴
今回の工事は、1月~2月の寒冷期での夜間施工となったため、いくつかの対策を行っています。近隣プラントを利用する事で、運搬時間の短縮を図った事はもとより、混合物の運搬時には2重シート(麻袋+保温シート)により温度低下を図り、中温化材も用いています。
また、品質向上対策として、タックコートに「タックファインE(NETIS:KT-030043-A)」を用い、乳剤の剥がれや現場周辺の汚れ対策も行っています。その他、品質向上を図る目的で、転圧機械や施工上の配慮を行っています。

5.「いきいき現場向上会議」の試行
1)いきいき現場向上会議の概要
九州地方整備局では、工事監理連絡会やワンデーレスポンス、設計変更審査会など、公共工事をスムーズに進めることを目的とした「いきいき現場づくり」の取り組みを進めていますが、その取り組みを拡充するひとつのモデルとして、工事工程の調整や現場施工に関する課題の解決に向けた協議調整の場「いきいき現場向上会議」を本工事に設置して工事を進めました。

2)「いきいき現場向上会議」の目的等
下記の項目・内容をパッケージにして定例に開催することとしています。

3)本工事での開催状況
主なメンバー構成としては、発注者側の参加者は技術副所長、工事品質管理官、久留米維持出張所長(主任監督員)、品質確保課長、交通対策課長他。受注者側の参加者は、現場代理人、監理技術者、主任技術者、技術部長他です。
今回の工事では、4回の会議を開催し、主に工事工程の調整や設計変更の協議を行いました。主な、会議内容は以下の通りです。

4)「いきいき現場向上会議」の効果等
発注者・受注者とも概ね良かったと意見が多く、発注者側からは、事務所と現場監督、受注業者が一同に介し現場での様々な懸案事項や設計の見直しなどの調整がスムーズに進み、特に工程管理の点で円滑な工事進捗が図られたという意見でした。また、受注者側からは、懸案事項の処理が現場と事務所が一体となって短時間で解決・結論が出せる体制が取られた事で、厳しい工程の中で円滑な工事進捗が図られ目標の工期内に完成させる事が出来たという意見でした。また、受注者側の現場責任者の方からは、今回はとてもうまくいったが、「結果を出さないといけない」というプレッシャーはかなりあったとのことです。
今後のこの仕組みの導入については、全ての工事でこの体制により行うことは現実的に難しいので、外的要因が多い工事や細かな工程管理が必要な工事、工程管理に社をあげて意欲的に取り組んでいる企業が受注した工事などを対象に導入を図る必要があります。

6.おわりに

今回の工事では、前述しましたように、「技術開発・工事一体型調達方式」と「いきいき現場向上会議」というあらたな取り組みにより工事を進めましたが、とまどいながらもその目的・主旨を深く理解し、関係者が一体となって工事の目的が達成できた事に感謝しております。特に、東亜道路工業(株)におかれましては、現場のスタッフはもとより、支社の技術部隊も積極的に参加し、冬場の全工事夜間作業という過酷な現場で、当初提案された技術提案の目標をクリアし、工事全体の目的も達成していただいたことに深く感謝しております。
「技術開発・工事一体型調達方式」の本格導入については、整理すべき課題はまだまだ多いですが、新しい技術の導入促進とコスト縮減を一体的に取り入れることの出来る制度として期待しています。また、技術提案の評価にあたり、提案されてくる各業者の説明を理解し、適正な評価が出来るよう、我々行政サイドの技術力の向上も今後更に努力する必要があります。今回の評価に際しては、独立法人土木研究所道路技術グループ(舗装チーム)への事前相談や渡邊主任研究員には、当事務所まで出向いて頂き適切なアドバイスを下さり心から感謝しております。
最後に、公共事業を取り巻く環境は、色々な視点から厳しい情勢がまだまだ続きますが、道路を利用する全ての皆様が安全で安心して使って頂ける道づくりの取り組み、仕組みの一つとして、今回の取り組みを活かしていきたいと思います。

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