高規格幹線道路の整備について
建設省九州地方建設局
道路計画第一課長
道路計画第一課長
松 嶋 憲 昭
1 はじめに
数年前から,建設省の道路整備の目玉的存在として,高規格幹線道路の整備が掲げられるようになってきた。この高規格幹線道路という命名は,多分に行政マンの発想であるため,実務に携わる私としても,一般の方に対し,どう説明してよいか苦労させられることがある。
本省の担当者が,外国のお客様に対し,“High Graded Trunk Road”と説明したところ,高速道路の中でも特に規格の高い道路と誤解され,説明に窮したという笑えない話もある。
高規格幹線道路の正確な定義とは異なるのであろうが,私は一般の方に尋ねられた場合には,「80km/h以上の速度で走れる,いわゆる高速道路です。」と答えるようにしている。
2 高規格幹線道路の歴史
2-1 7,600km構想
国土開発の基盤となる道路整備については,昭和29年に始まった第1次道路整備五箇年計画から経済計画,全国総合開発計画に対応しつつ,現在の第10次道路整備五箇年計画まで,計画的に行われてきた。
(全国総合開発計画)
昭和30年代における目ざましい高度成長と過密などの地域的課題を背景に,昭和37年に全国総合開発計画(全総)が策定された。全総における基本的目標は,地域間の均衡ある発展を図ることとされ,そのため,大動脈的幹線道路の整備拡充が提唱された。具体的には,次のように記述されている。
「東京,大阪間の整備に引き続いて,大規模地方開発都市と既成大集積地帯の諸都市を結ぶ高速自動車国道の建設を図るとともに,その他の国土開発縦貫自動車道ならびに本州四国連絡ルートについても,その調査を促進し,それぞれの緊急度に応じて着工を図るものとする。」
当時は,東名,名神の供用を目前にした時期であり,これらの道路の整備に続いて,どの地方のどの道路を整備するかが,大きな問題となっていた。このような動きを背景に,昭和41年に国土開発幹線自動車道建設法が成立し,国土開発幹線自動車道等約7,600kmの幹線自動車道網の計画が示された。
九州においては,九州縦貫自動車道と九州横断自動車道長崎大分線が位置づけられた。
(新全国総合開発計画)
全総策定後,昭和40年代になっても計画を上まわる高度経済成長が続き,過密,過疎が更に深刻化していったことから,道路整備による地域間格差の解消が,より強く求められるようになってきた。
昭和44年に策定された新全国総合開発計画(新全総)においては,豊かな環境の創造を基本的目標とし,そのための道路整備として,日本列島の主軸として札幌~東京~福岡を連結する2,000kmの高速交通体系等の総合的,先行的整備,また大規模開発プロジェクト構想の一つとして,国土開発幹線自動車道等約7,600kmの道路網や大都市の都市内高速道路の建設が提唱された。
(第三次全国総合開発計画)
昭和52年に,人間居住の総合的環境の整備を基本的目標とした第三次全国総合開発計画(三全総)が策定された。
この中で,既定の国土開発幹線自動車道等(約7,600km)のほか,日本海沿岸縦貫,東九州縦貫,四国循環その他の幹線および本州・四国連絡ルート,大都市循環等を含め,おおむね1万km余で形成される高規格の幹線道路網の構想が示された。
三全総において高規格幹線道路網の構想が示されたものの,具体化までには相当の時間がかかった。
2-2 14,000km構想
(第四次全国総合開発計画)
三大都市圏への人口集中は一時期沈静化するかにみえたが,昭和50年代後半から東京圏への一極集中傾向が再び進み出すとともに,地方の停滞が深刻化してきた。こうした背景のもとに,昭和62年6月に第四次全国総合開発計画(四全総)が策定された。
四全総では基本的目標を「多極分散型国土の形成」とし,そのための道路整備として,高速交通サービスの全国的な普及,主要拠点間の連絡強化を目標とし,地方中枢,中核都市,地域の発展の核となる地方都市およびその周辺地域等から,おおむね1時間程度で利用可能となるよう,全体延長14,000kmで形成される高規格幹線道路網の構想が提唱された。
同時に,建設省においては高規格幹線道路網の路線要件とそれに基づく構成路線を道路審議会に諮問し,答申を受けて,昭和62年6月30日に従前の国土開発幹線自動車道等7,600kmおよび本州四国連絡道路180km並びに,これらと接続し新たな高規格幹線道路網を構成する路線6,220kmを合わせ14,000kmの高規格幹線道路網が,建設大臣により定められた。
3 高規格幹線道路の評価
高規格幹線道路の整備により,高速サービスの向上が図られる。具体的には,以下のようなことが挙げられる。
① 全国の都市・農村地区からおおむね1時間程度以内で高速ネットワークに到達
② 重要な空港・港湾の大部分とおおむね30分以内で連絡
③ 人口10万人以上のすべての都市とインターチェンジで連絡
また,14,000kmの整備は,現在の欧州4ケ国と同程度の水準に相当する。
4 高規格幹線道路網
建設大臣により決定された高規格幹線道路網は図ー1のとおりである。
高規格幹線道路は,国土開発幹線自動車道(国幹道)と一般国道の自動車専用道路に大別される。道路網が完成すれば,道路利用者がこの差を区別することは難しいと思われるが,整備手法は大きく異なる。それぞれの内訳は次のとおり。
(国土開発幹線自動車道)
国幹道は高規格幹線道路の大半をなすものである。平成元年3月末現在で,全体計画11,520kmの38%にあたる約4,400kmが供用されている。
国幹道は,国土開発幹線自動車道法に整備予定路線が定められ,具体的な整備区間については,内閣総理大臣を会長とする国土開発幹線自動車道建設審議会(国幹審)の場で審議され,その熟度に応じ,基本計画,整備計画と2段階の計画が決定される。なお,整備主体は日本道路公団と定められている。
(一般国道の自動車専用道路)
一般国道の自動車専用道路として整備する路線は,本州四国連絡道路を除くと,25路線2,300kmである。平成元年度現在630kmが事業中であり,このうち,昭和63年度までに35kmが供用されている。
一般国道の自動車専用道路については,これまで手続きの規定がなかった。そのため,国幹道に準じ,以下のような手続きが定められている。
5 高規格幹線道路の整備方針
高規格幹線道路網(14,000km)については21世紀初頭に全線の完成を図ることとされている。このため,西暦2000年までに,おおむね9,000kmを供用することを目途に整備を進め,第10次道路整備五箇年計画最終年度である平成4年度末の供用延長を約6,000kmとすることを目標としている(表ー1)。
6 高規格幹線道路網整備の課題
(国土開発幹線自動車道)
国幹道の整備を担当する日本道路公団の資金のかなりの部分は,利子のつく資金から成っている。ちなみに,平成元年度について調べてみると,3兆6,628億円の資金のうち,約52%の1兆9,160億円が財政投融資資金,約2%の685億円が政府出資金および補助金,約46%の1兆6,784億円が業務収入等である。
ここで,財政投融資資金とは,郵便貯金など政府が管理する資金運用部資金,簡保資金によって引き受けられる政府保証債と,普通銀行,信託銀行,証券会社等の引受シンジケート団によって引き受けられる政府保証債の発行による資金で,利子がついた資金である。
借入金を返済し,償還するために,利用者から通行料を徴収する必要がある。通常,償還年数は30年を目標としている。初期に供用された東名,名神などは単一路線としてみた場合,既に償還に必要な通行料を徴収したものの,一方,最近整備供用しつつある路線においては,人口が疎な地域を通っていることもあり,その路線単独での償還が難しい状況にある。そのため,国幹道全体を一つの路線と考えて償還する,プール制が導入されている。プール制を導入した場合,既供用路線の利用者は長期にわたり通行料を払わされるのみならず,延伸に伴ない料金が値上げされるため不満が強くなっている。
追加された国幹道の予定路線は,地域開発と地域間交流にも配慮した路線が多いため,従来にもましてプール全体の採算を厳しくするおそれがある。
平成元年1月31日に第28回国幹審が開催され,新たな基本計画,整備計画が決定された。この国幹審は,高規格幹線道路の今後の整備方針とプール制の取扱いを示すものとして,内外から注目されていたものである。
審議の結果,1,364kmの基本計画が追加されたが,区間の選定要件として,採算性の観点からプール全体の採算性が確保される見通しがあること,プール編入される区間の内部補助の額が料金収入と国費等とを合せた額を越えないことが示された。
現在,基本計画がでていない区間については,将来ともこの要件を満たすことは相当難しいと考えられるため,国の出資金,補助金の増大といった既存制度の拡充や,また,資金の一部を地方自治体が負担するといった抜本的見直しが必要となってくると考えられる。
(一般国道の自動車専用道路)
昭和63年10月7日の道路審議会答申では,国道の自動車専用道路について,
・高速自動車国道と同じ機能を持ち,利用者に同様の高速交通サービスを提供する。
・早急な整備が要請されることから原則として有料制を活用して整備を行う。
・構造,サービス,料金の水準等についても自動車国道と整合性を持たせる。
と述べられている。整備主体と整備手法が国幹道(高速自動車国道)と異なるものの,機能は同一のものを求めている。
一般国道の自動車専用道路は,有料の国道BP整備の手法で整備される。有料主体は日本道路公団または県道路公社であるが,その路線全体を有料対象とし償還するのが難しいため,公共(一般道路事業で事業主体は建設省または県)との合併施工により実施される。合併施工の方式は種々あるが,九州で現在検討中の路線においては,縦割横割合併方式を考えている(図ー2)。
この整備手法が国幹道の整備手法と大きく異なる点は,
・区間毎に償還をする。そのため,採算限度を越える分については,公共事業対象となり,国および地方自治体が負担することとなる。
・有料主体が県道路公社の場合,出資金として地方自治体の資金がはいる。
の2点である。
合併施工は,有料道路事業の手法としては有効な手法である。すなわち,①有料資金の活用により供用時期を大幅に早めることができる。②全体を有料対象とすることが難しい場合に,一部公共負担することにより,有料道路としての事業を可能にするという優れた面がある。しかしながら,採算性の劣る路線にあっては,①のメリットがほとんど表われず,数年間供用を早めるために長期にわたり通行料を徴収するという悪い面が出てしまう。高規格幹線道路の場合,地域開発と地域間交流の配慮から,利用交通量が比較的少ない路線も取り込まれており,有料化そのものが問題となっている。
私個人としては,無料を原則にするか,もし有料にするにしても,有料対象を建設費のみにする方法が望ましいと考える。