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砂防調査,研究の動向

建設省 土木研究所 砂防部
砂防研究室長
水 山 高 久

1 はじめに
砂防事業は土砂の生産,流出に伴う災害を防ぐことを主目的とする公共事業であり,崩壊,地すべり,土石流,土砂流,掃流,浮流(遊)といった土砂の移動現象と崩壊,地すべり,土石流,表面侵食,渓岸侵食,河床の侵食などの侵食現象を対象としているので,砂防調査,研究の内容はそんなに急激に変化するものではないが,社会の変化とともに重点のおき方,アプローチの方法が微妙に変化してきている。ここでは,土木研究所砂防部砂防研究室の昭和62年度の研究成果の一部を紹介することで,砂防調査,研究の動向を示してみたい。砂防研究室の研究課題は砂防事業の新規施策や最近の災害において顕在化した問題の影響を強く受けている。ここでは,浮遊砂に関する研究,土石流氾濫予想区域および土石流危険区域に関する研究,流木およびその対策に関する研究,立木の土石流衝撃力吸収能に関する研究,スリッ卜砂防ダムに関する研究をとりあげる。

2 山地河川の浮遊砂に関する研究
これまで,砂防では浮遊砂を無視し,掃流砂のみを対象としてきた。これは,規模の小さな砂防ダムでは浮遊砂を制御することができないことによるものと考えられる。しかし,崩壊等によって生産される土砂の内,0.1mm以下の粒径は地質にもよるが10~30%あり,これが河道に入るとウォッシュロードとして河床にとどまらずに洪水とともに下流に流出する。また,残りの半分程度も浮遊砂として輸送される。大出水時に生ずる貯水池の急激な堆砂,下流河道の河床上昇,氾濫堆積する土砂のかなりの部分をこの浮遊砂が占めている。ウォッシュロードについては,この約10年間にわたって各地で観測を続けており,流量とともに図ー1のような成果が蓄積されている1)。一般に増水期よりも減水期の方が流量に対して浮遊砂土砂濃度が高くなり,流量と浮遊砂土砂濃度の関係はループを示す。浮遊砂土砂濃度は流域の荒廃状況を反映しているが,崩壊面積率はせいぜい5%程度であるのでその関係は明瞭でない。

現地観測と平行して山地河川の浮遊砂量式の検討が実験水路を用いて行われている。河床勾配が急で,水深が浅く,河床に巨礫が散在するような山地河川に平野の緩勾配の河川を対象に開発されてきた従来の浮遊砂量式が適用できるかどうかがまず調べられる。河床勾配がさらに急になれば流砂形態が浮遊から土砂流,土石流に変化することを考えれば新しい浮遊砂量式の開発が必要になると予想される。

3 土石流氾濫予想区域および流危険区域に関する研究
土石流災害を防止,軽減するためには土石流危険渓流においてダム等の土石流対策施設を建設するとともに,土石流氾濫区域を設定してその危険度を評価し住民にそれらを公表して,豪雨等により土石流の発生が予想される場合は警戒,避難を実行する必要がある。また,この土石流氾濫区域の設定は土石流扇状地上の適正な土地利用のあり方を指導するためにも必要である。土石流氾濫区域の設定手法について現在急いで研究を進めているところである。それらの具体的な方針は,総合土砂災害対策基本問題検討会において検討されているが,土石流対策施設の無い状態において土石流が氾濫する可能性のある範囲(土石流氾濫予想区域)と,現在の状態または計画中の土石流対策施設が完成した状態において計画規模の土石流に対して被害を受ける区域(土石流危険区域)の2種類を設定する方向で準備中である。土石流氾濫予想区域は,地形調査や堆積物の調査などによってもある程度推定が可能であるが,後者の土石流危険区域は,水理学的なシミュレーション計算によらざるをえないと考えられる。
昭和57年7月の長崎豪雨災害で土石流の発生した渓流を例にとり,土石流の波形,土砂量を与えて上流渓谷部の流下区域は一次元の,また下流扇状地部の堆積区域は二次元の土石流氾濫シミュレーション計算を行った。図ー2および3にその結果を実際の氾濫区域および技術者が災害前に地形等に基づいて推定した氾濫区域と比較して示す。図ー3の2例では計算結果は実際の氾濫区域と比較的よく一致しているが,図ー2ではかなり相違している。その原因としては,地盤高データの精度が悪い,建物の影響が評価されていない,元の地盤は洗掘されないモデルとなっている等が考えられ,現在研究を続けているところである。

4 流木およびその対策に関する研究
流木が河川水の氾濫,土砂の氾濫をひき起こし災害を激化させることはこれまでもしばしば指摘されてきた。しかし,流木発生の実態や災害発生の機構,その対策についての研究はこれまで十分でなかった。土木研究所では,土石流発生時に流木が災害を激化させることを長崎豪雨災害調査時に再認識し2),その後の土石流災害調査で調査の重点項目にとりあげてきた3),4)。災害前後の航空写真の比較と現地調査により,従来の土砂の収支と共に流木の発生,堆積を調べるようにしている。
図ー4は,昭和62年8月の山形県温海町の土石流発生渓流で調査した土砂と流木の収支である。崩壊発生とともに立木も土石流中にとり込まれ,土砂の推積とともに流木も堆積し,一部はさらに下流に流出する様子がよくわかる。

流木は扇状地に林があると立木にひっかかって土砂の堆積を促進させる。緑の砂防ゾーンの効果評価とも関係ある項目で,この点についても土石流災害調査時に詳しく調べるようにしている。
図ー5は山形県温海町の調査例である。土石流の流速が立木を破壊しない程度まで小さくなって,しかも堆積区間であれば立木による土石流の堆積促進効果が期待できる。そうでなければ,立木は破壊されて流木となり土石流にとり込まれるので注意しなければならない。

流木対策は,生産源でその発生を抑えるものと,下流部で捕捉する,安全に流下させるなどが考えられる。流下途中で,砂防ダムの本堤または副堤にスクリーンを設置して流木を捕捉する方法を研究している5)。実験結果について種々の整理を試みた結果,図ー6に示すようにFrθをパラメーターとして流木の捕捉率(T)が整理できることがわかった。ここで,Frはフルード数,θはhw2/dℓ2,(h:水深,w:スクリーンの横方向純間隔,d:流木の直径,ℓ:流木の長さ)である。

5 立木の土石流衝撃力吸収能に関する研究
前節で少し述べた立木の土石流による破壊については,現地で実際の樹木を用いて実験的に研究を進めている6)。図ー7のように3台のクレーン車を用いて500kgの鉄球を衝突させる。まず,ブルドーザを用いて水平方向に引張った。結果は,図一8のようになった。これに対して,上述の衝撃試験を行ったところ図ー9のような結果を得た。
衝撃試験時の最大荷重または最大モーメントは,静的引き倒し時の数倍大きくなっている。荷重と変位の曲線を破壊まで積分する,すなわちエネルギーを求めると静的引き倒し試験と衝撃試験は統一して整理することができる。この実験はスギについて実施され,ほとんどの場合根から転倒した。昭和63年度コナラを対象として同様の実験を行ったところ,昨年以上の変位を得たがほとんど折れることもなく載荷が終了すると元に戻ってしまった。樹種による違いについてはさらに研究が必要と考えられる。

6 スリット砂防ダムに関する研究
従来,砂防ダムは複数の小さな水抜き暗渠をもつ壁面タイプのものが一般的であるが,砂防ダムに大きな暗渠やスリットを設けて,小出水による無害な流出土砂による堆砂を防ぎ,土石流のような大出水時にできるだけ空容量があるようにする。または,スリットによって土砂流出を平滑化することが期待されている。どのような形状のスリットが適当か,どの程度の効果が期待できるかなどを実験と河床変動計算によって研究した7)
図ー10が検討したスリット形状で,タイプ4が通常のダムである。実験結果は,河床変動計算結果と比較された(図ー11)。図ー12に流砂量の時間的変化,図ー13に累加流出土砂量を比較して示す。スリットが狭いほどピーク流出土砂量が平滑化され,また,出水終了時点で多くの土砂をダム上流部に貯砂することがわかる。通常の砂防ダムもピーク流出土砂量を70%程度にまで抑制している。ただし,これらの効果は,流入する流量と流砂量の組合せによって大きく変化する。これが,水理模型実験と平行して河床変動計算を行い,その妥当性を確認して,他の種々の条件に対して計算で推定できるよう準備する理由である。結論としては,大きな調節効果を得ようとすれば,せき上げ水位が大きくなるようスリットは狭いほどよい。ただし,スリットがあまり狭いと礫や流木によって閉塞する可能性が高くなる。したがって,閉塞しない範囲内で最小スリット幅が最適ということになる。

7 あとがき
以上紹介した研究の他,図ー14,15に示すように,火山の土砂災害についても重点的に研究を進めている。これまでの土石流に加えて,泥流,溶岩流,火砕流,大規模崩壊についても運動機構と対策を研究してゆく予定である(図ー14,15)。
その他の研究課題について既に紹介したことがあるので参考にしていただきたい8)

参考文献
1)水山高久:荒廃山地流域における浮遊砂観測資料の解析,土木研究所資料No.2628,昭和63年4月
2)水山高久,大場章,万膳英彦:土石流発生に伴う流木の生産,流出事例と対策,新砂防38-1,昭和60年5月
3)水山高久,福本晃久,原義文:昭和61年7月,京都府南部土石流災害調査報告,土木研究所資料No.2543,昭和63年1月
4)水山高久,石川芳治,鈴木浩之:昭和62年8月,山形県温海町土石流,流木災害調査報告書,土木研究所資料No.2608,昭和63年3月
5)Ishikawa,Y. and T.Mizuyama:An Experimental Study on Permeable Sediment Control Dams as a Countermeasure against Floating Logs,6th APRD,IAHR,July 1988,pp.723~730
6)水山高久,石川芳治,鈴木浩之:樹木の土石流緩衝効果,土木技術資料30-7,88年7月
7)Mizuyama,T.,S.Abe and K.Ido:Sediment Control by Sabo Dams with Slits and/or Larage Drainage Conduits,6th APRD,IAHR,July 1988,pp.245~252
8)水山高久:砂防における研究課題,河川No.502,昭和63年5月,pp.17~19

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