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冷水トンネルの非常用施設について

福岡県道路公社建設課長
永 江 治 雄

福岡県北九州土木事務所
維持課第一係長
(前 道路公社技術主査)
宇留島 素 之

福岡県行橋土木事務所
建設課第一係長
(前 道路公社技術主査)
玉 井 義 人

はじめに
今春,一般国道200号の嘉穂郡筑穂町から筑紫野市間に冷水有料道路が完成し,4月18日から供用を開始しているところである。
冷水トンネルは,この道路のうち山間部の郡界(冷水峠)に位置しており,一般道路トンネルとしては九州ーの長さを誇っている。
しかし,一方,現道の交通量は約11,000台/日とそれほど多くはないものの,大型車混入率が63%と非常に高く,トンネル内で事故等が発生した場合,大きな災害になる可能性がある。
このため,トンネル非常用施設の計画にあたっては,特に防災対策等に留意しつつ管理の省力化,自動化を目指し検討を重ねた。
本稿では,施設計画にあたって特に検討課題となった①非常電話の自営設備の紹介と②換気設備の騒音に関する報告を行う。
なお,道路事業の概要を表ー1に,トンネル非常用施設の概要を表ー2に示す。

Ⅰ 非常電話の自営設備について
1 まえがき
非常電話は,道路トンネル非常施設の中でも,押しボタン式通報装置,非常警報装置と共に警察,消防や,道路管理者へ非常事態を通報する重要な設備の一つとされ,施設設置基準においてもトンネル等級C以上のトンネルには設置が義務づけられている。
これまで,一般道路トンネルの非常電話設備は回線契約に基づいてNTTが設置しており,道路管理者側は回線契約料金,回線使用料金及び通話料金を支払うのが通例であった。また,その回線系統は,概ね図ー1のようなものである。

冷水トンネルに於いても,当初はその計画で検討を進めたが,消防・警察との協議の中で,防災対策を強く要請され,監視装置と連動させる必要が生じたこと,また,協議段階で電々公社がNTT会社に替わり非常電話設備に対する対応が変わった事等により,当設備は,一般道路トンネルではあまり例のない自営の方法を採用することとなった。その経緯は以下のとおりである。

2 関係機関との協議
非常電話の運用についての警察・消防側からの要請は次のとおりであった。
(警察側)
a. 通報者からの110番電話はたとえ誤報であっても管理事務所を経由することなく,直接,警察に第一報が届くようにすること。
b. 110番の受信は,県警指令センターで行っており,冷水トンネル用として特別に専用電話を設置し管理することは困難である。
(消防側)
a. 冷水トンネルは郡界に位置し,二つの消防署の管轄に属するので,119番通報は管轄境界をもって各々の署に届くようにすること。
b. 通報者からの119番通報は,誤報の場合もあり,また,事故の場合でも現場到着まで時間がかかるので,装備等の準備の都合上,管理事務所の方で監視装置を使って,事故の位置,内容,程度等を直ちに情報連絡してほしい。
というものであった。
これらの要請をまとめると電話設備の具備条件は次のようになる。
① 電話は,NTTの一般回線と接続され,郡界で区分けされていなければならない。
② 通話先が判別できなければならない。
③ 通報時の電話位置が分からなければならない。
④ 消防署と管理事務所間には,専用電話がなければならない。
(NTT側の対応)
以上の経過をふまえ,これら条件に合う設備の設置についてNTTと数次にわたり交渉を行ったがNTTの回答は次のようなものであった。
① 非常電話は,採算に乗らないので施設設置費用は道路側で負担してもらいたい。回線使用料金は当然いただく。
② 通話先の判別機能については,対応がむずかしい。
③ 通話位置表示機能については,電話器毎に専用回線を往復分契約してもらえば可能である。
④ 消防署と管理事務所間の専用線はいつでも対応できる。
という内容であった。

3 回線契約と自営設備の比較
回線契約とした場合,設備の具備条件のうちの
②は断念せざるを得ず,③については,年間経費が膨大となることが予想される。
このため,条件を満たすためには自営の設備しか考えられず,経済比較等検討を行った。

その結果,表ー3から分かるように,保守管理さえうまくいけば自営設備の費用は約6年で取り戻せること,非常電話以外にも利用が可能であること,また,保守管理についてもトンネル内は常時監視であり,システムは落雷以外問題は少ないことが分かった。

4 自営電話設備の概要
以上の経緯から,冷水トンネルでは自営の非常電話設備を設置することとしたが,これを日常の管理にも利用できるよう,電話器には,携帯電話器用ジャック口を設け,情報ラインを使って構内道路部の管理連絡用にも活用できるようにした。
図ー2に,冷水トンネルに設置した非常電話システム系統図を示した。
また,非常電話を実際に使用した場合の監視システムとの連動は,図ー3のとおりである。

5 あとがき
一般道路トンネルに対する防災面からの要請は,今後ますます強くなるものと思われる。中長大トンネル等で非常電話器の設置数が多く,また,その区域が2つ以上の電話局にまたがる場合の設備は,委託方式とするよりも自営方式とした方がはるかに経済的になるものと考えられる。
さらには,若干の手を加えることによって,管理連絡等の面にも利用が可能となるなどの利点もある。
今回の冷水トンネルにおける非常電話設備の自営方式の採用が,これからの設備計画において,少しでも参考になれば幸いである。

Ⅱ トンネル換気設備の騒音予測と結果
1 まえがき
近年,環境問題に関する地域住民の意識が高まっているが,当トンネルにおいても,換気設備の騒音対策を検討する段階で,設計時における騒音予測値と設備運転時の実騒音値とが合値するかどうかは問題点の一つであった。
以下,当トンネル換気設備の騒音に関する設計から完成までの検討経過の概要を報告する。

2 換気設備の概要
当トンネルでは,中央部の排気用立坑を通して地上に集中排気をする縦流式換気の方法を採用している。
地上の立坑換気所に排風機2台を設置し(将来計画3台),交通量に応じて換気量を調節することとしている。
換気設備の概要を図ー1に示す。
最大換気量
 350m3/s(暫定306m3/s)
換気機仕様
横軸軸流1段ファン260kw
161m3/s×110mmAq×3,350φ×3台(暫定2台)

3 騒音にかかる規制
当換気設備は,県環境整備局との協議において騒音規制法に定める特定工場に該当することとなり,また,設置位置が市条例により第2種区域に指定されているため,その規制基準は,表ー1のとおりとなっている。

4 換気塔の騒音対策
最大換気時の騒音値は,換気塔から約40mの敷地境界点で81ホンと予測されることから,消音器を設置して規制値の50ホン以下とする必要があった。
なお,換気機は交通量の伸びに合わせて暫定2台,将来3台の設置計画としているため,騒音対策についても,表ー2のとおり段階的に行うこととし,今回は第1段階の対策を行った。

5 消音対策の設計
騒音を予測する場合の設計条件のポイントは,当換気設備の場合,次の5項目が考えられた。
 ① 換気機のパワーレベル
 ② 換気機のパワースペクトル
 ③ 消音器の消音効果
 ④ 排気ダクトの消音効果
 ⑤ 敷地境界までの距離減衰効果
これらの条件のうち,①②③は換気機及び消音器の性能と密接にかかわる要素であるが,設計時においてはメーカーも決定していないため,類似施設の過去の実績を参考にして,それぞれ表ー3,表ー4,表ー5のとおり推定した。
なお,④⑤については紙面の都合上省略する。

以上の各条件で設計した消音設備の段階的施工計画と,その騒音予測値は表ー6のとおりである。

6 換気機及び消音器の工場試験結果
機器の性能は,発注時の仕様書により定められているが,完成した機器の性能は実験によって確かめられる。
今回製作した機器の騒音に関するデーターについても工場試験によって確認されたが,その結果は表ー7,表ー8のとおりであり,設計時の予測と差異が生じたため騒音予測値を表ー9のとおり修正した。
なお,騒音予測値の修正にあたり消音器の性能は,安全側とするためメーカーの目標値を採用した。
また,表ー9の修正値は対策第1段階の目標値として現地試運転の参考資料に使用された。

7 換気設備の現地試験
換気設備の現地試運転において,図ー2の各地点の騒音を測定した。その結果と予測値の比較は表ー10のとおりである。
この測定結果から,本設備が十分な消音効果を発揮していることが確認された。
特に消音器の効果は良好であり,この実測値は今回の第1段階の消音設備によって第2段階(高速2台)の換気運転も可能であることを示している。

8 まとめ
今回の調査結果から,次のようなことが言えよう。
① ダクトの滅音効果は,ほゞ期待した効果が得られているがパワーレベルと音圧レベルの関係については期待した値が得られなかった。(A地点)これは,排風機吸込側ダクトの形状の影響及びコーナーベーンの風切り音が複雑に関係しているものと思われる。
② 消音器の効果予測については,工場試験のデーターにより修正してもよいと思われる。
③ 距離減衰効果は,予測値よりも大きい結果が得られたが,これは測定点Dの高さが排気口よりかなり低いためと考えられる。従って,排気口と同一高さ地点で実測する必要があった。
④ 現地試運転結果から,将来,換気機を3台に増設した場合の消音器増設計画は見直す必要があろう。すなわち,今回の消音設備はユニットサイレンサー2段を設置したものであるが,3台目の換気機も同規模のものとすれば,境界地点Dの騒音予測値は2ホン増の51ホン程度と考えられ,当初計画の消音器4段は3段に縮少,または壁面吸収型サイレンサーで対応できると考えられる。

9 あとがき
紙面の都合上,騒音予測の計算手法や工場試験の方法等の紹介を省略し,また,これらの問題点等について触れられなかったことを御容赦いただきたい。

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