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九州地方建設局のパイロット事業について

九州地方建設局 
企画部技術管理課

1 まえがき
近年のエレクトロニクス,バイオテクノロジー,新素材などの先端技術等における技術革新は目覚ましいものがあり,その進展の度合は日々のものといっても過言ではない。
これは建設事業の分野においても例外ではなく,特に民間においては,新しい工法,材料,建設機械等が次々に関発されている。
しかしながら,従来建設事業の分野においては,新技術の導入が慎重となっていた。これは,
① 新技術は,経済効果の算定が困難であり,このため特に公共事業においては,その財源が公共費であるため,経済性を強く求められ,その導入が困難であった。
② 工事目的物が公共物であるため新技術導入による失敗が許されない。
③ 新技術は現場での施工実績がなければ,一般に認知された技術と見なされない。
④ ある程度確立された技術基準,施工歩掛,管理基準がなければ現場では採用しづらい。
主に以上の理由により,新技術の採用が手控えられ,多少の不合理があっても,在来の工法,材料,建設機械等により,施工してしまうのが実情と思われる。
しかし,このまま推移することは土木技術力の向上は望めないばかりか,関連業界の技術開発意欲そのものの低下を招く恐れもある。
参考までに建設業の研究開発費を建設省・建設経済局・監修の「21世紀への建設産業ビジョン」より,みてみると,昭和58年度の研究開発費は売上高の比率で0.54%であるが,これに対し全産業の研究開発費は,同じ売上高比で,2.03%となっている。
つまり建設業は,他の産業に比較して,現状でも研究開発が,あまり活発に行なわれていないことを示している。
そこで九州地方建設局においては,開発された新技術を積極的に建設事業に導入するため,試験的に新技術を建設工事に取り込み,新技術の現場適応性等を確認する「パイロット事業制度」を制定したものである。

2 九州地方建設局パイロット事業の内容
(1)適用工種
九州地方建設局及び他の地方建設局においても,未活用・・・の新しい材料・・機械・・工法・・などを新技術として対象とする。
この反証として,適用除外となるものを次に示す。
① 緊急災害復旧事業等,急を要する工事において採用される新技術。
② 汎用性のないもの,特殊な工事で採用される新技術で他の工事での使用が考えられないもの。
③ 新技術ではあるが既存の技術の一部改良に類するもの。(消波ブロック等)
④ 既存の歩掛,損料等を使用して積算が出来るもの。(グラウト剤等)
⑤ 高度の技術的判断を要しないもの,つまり新技術であっても,特に高度な判断を必要とせず導入出来るもの,また従来の工法と特に費用が変らないもの。(植裁等の方法等)
以上の説明で本パイロット事業制度でいう,新技術とは,何かを少しは御理解いただけたかと思われる。
つまり,全ての新技術が本制度の対象となるものではない。本制度が発足した時(昭和62年1月)に,一部の地建内の事務所より,今から全ての新技術がこの制度にのって行なわなければならない,事務手続きが大変になる。
などの声があったが,必ずしもそうではないことを,ここで付け加えておきたい。
本制度のフローは図一1の通りであり,以下はこの流れに沿って進めていくこととする。

(2)第1段階 提案(要望)
事業化を行うにあたって,これを提案するものとして,大きくは民(メーカー)と官(地建内事務所=ユーザー)の2者を設定している。
本制度の主旨からすればメーカーのみを対象とすることも考えられるが,ユーザー側からも個々の工事実施に際し新技術採用の必要性も当然ある。従って出発点では2者を想定した。
メーカーサイドにすれば,直接事業化を要望する場合と,地建内の工事々務所を経由して事業化を提案する場合の2つの方法が考えられる。
提案もしくは要望する者は,次の事項をとりまとめのうえ事務局へ提出するものとする。
① 申請者名,住所,氏名,電話番号など。
② 新技術の名称。
③ 現場適応性(官・提案の場合は対象工事個所を示す位置図等も添付する。)
④ 経済性  (a) 在来工法との対比
       (b) 歩掛も含んだ単価
⑤ 安全性
⑥ 施工実績
以上と考えている。考えていると表現したのは書式などを検討中との意味ではなく,許可や認可等の申請とは違い本制度の基本はあくまでも提案制度であり,提出物の書式とか様式に拘ることなく,出来るだけ自由に進めて行きたいと思っているからである。
(3)第2段階 審査及び決定
提案されたものは事務局(技術管理課及び九州技術事務所)の内,窓口となる九州技術事務所へ提出する。
官提案のものは事務局としては単に事務処理を行うのみで,次の段階へと進むが,民間から要望されるものについては,その新技術の内容に応じ事務局段階で提案者へさらに改善を求めるものと,次の段階へ進むものとに区分けするものとする。事務局により次の段階へ進むものとされた民間要望の新技術と官提案の新技術は,新技術開発委員会(以下,委員会とする)の下部機関である幹事会へ図る。
幹事会は当該新技術の採否をさらに検討する。また,必要に応じ,その新技術の詳細な検討を新技術開発検討委員会(以下・検討委員会)に要請する。検討委員会によって審議された施工性,安全性,機能性,経済性,汎用性,などは幹事会の意見と合わせて委員会へ報告する。
つまり,新技術に係る詳細な検討は主に検討委員会において行うものである。
各委員会の構成メンバーは表ー1のとおりである。

これまでの流れと,その構成員から,一部,官サイドより採否の決定までの,時間的なものを心配するむきもあるが,緊急を要するものなど情勢に応じ処理の方法も柔軟に行いたいと考えている。また構成員についても,貴重な公共費を使用し,経済性や安全性等が不確定な新技術の採否を決定し,採用後仮に問題が生じた場合の責任の大きさを勘案すると妥当なものではないだろうか。
次に委員会において採用が決定された新技術を,どこの現場で実施するかの実施事務所選定となるが,官(各工事々務所)から提案の場合には,当然のことだが,この作業は省略となる。従って民間からの要望の場合のみこの選定作業が伴う。
しかしながら,実施事務所を委員会において選定することは,非常に困難ではないかと考えられる。なぜなら,委員会が各事務所の工事予定個所と現地の状況を個々に把握しておかなければならないためである。これは現実には困難なことであろう。但し汎用性の高い材料などについては,実施事務所の選定は行うことが出来ると考えられる。従って,新しい工法など,その選定が困難と思われるものについては,事業化の要望は出来れば実施事務所(ユーザー)の協力を得て要望することが理想的といえよう。
それでは従来の方法とあまり変らないと指摘されるかも知れないが,これは困難性を述べたものであって実施事務所選定そのものを否定するものではない。
なお,民間要望の新技術で委員会に図り,その結果良好な評価を受けたが実施まで至らなかったものについては,別途,委員長名での公表(地建内)もしくは実施事務所の公募等その努力になんらかの形で報いたいと考えている。
(4)第3段階 試験施工
工事施工に際しては実施事務所は施工法,歩掛,施工管理,経済性,技術的特性などの調査を行い,その結果を委員会へ報告する。
(5)第4段階 公表
実施結果を受けた委員会は評価を行い,改善の余地があれば技術開発者へ提言を行う。
また,活用し,普及することが適当と判断されたものについては,その結果を公表する。
公表されたものについては,九州地建・技術管理協議会において歩掛,仕様書,管理基準等の九州地建版を作成し,その後の一般事業への取り込みを容易にするものとする。

3 あとがき
従来,民間において開発された新技術は,その開発者自身が各事務所の担当者へPR活動を行ってきたと思われる。これは今後も続けられるだろうしそれなりに十分意味はあるが,今回,九州地建の制度として窓口を定め,委員会が公式に評価,実施し公表する制度も出来たと考えていただきたい。
本制度は,まだ緒についたばかりで解決すべき点はあろうが,この点のみをとらえても一つの前進ではないだろうか。また,工事発注者においては今まで担当者の判断で採否を決定し,その結果に対しても責任を負うものであったが,今後は地建全体として対応することにより,新技術導入の促進が図られるものと期待している。
しかし官の一部において,新技術の取り込みが従来より繁雑になるとの声がある。確かに今まで新技術を行ったものと,本制度によって行うのでは提出書類や施工時の調査等,業務量の増を否定するものではない。ただこれが本事業の取り組みに対し,慎重となる要因となることなく,技術力の向上という大所高所からの判断をもって本制度の活用を期待するものである。

本制度は現在,建設省内において,全国統一版を検討中であり,将来において一部改訂の可能性もあることを付記しておくものである。
                        昭和62年4月

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