鹿児島県 大口市
勢いよく流れ落ちる水の音が、鳥のさえずりや木々のざわめきを呑みこんだ。 岩のところどころで飛び散る水のシャワーは、太陽の光を集めて輝きながら、透明な空気の中に溶けていく。
「東洋のナイアガラ」と称されるほどの雄々しい風景を見せる曽木の滝は、 市内でもっとも大きな観光スポットのひとつである。
春は桜やツツジに、夏は涼しげな水と緑に、秋になれば紅葉に。
四季折々の滝の表情が、豊かな自然を生み、育て、人びとに静かな休息を与えた。
そんな美しい曽木の滝には、語り継がれているひとつの秘話がある。
江戸末期、冷害と島津藩への上納米の負担に苦しむ周囲の農民の窮状を知った 町田孫太夫という奉行が、米の運搬をスムーズに行えるようにと、川内川を利用した船路を開発。激しい水流と苦闘しながら巨岩を砕き、 2年5カ月という長い歳月を経て船路を完成させたのだ。
想像を絶する農民たちの労と奉行の限りない夢が、大きな流れとなって 付近の村に平和をもたらした。歌人の柳原白蓮はこの滝を訪れ、「もののふの 昔がたりを曽木の滝 水のしぶきにぬれつつぞ聞く」という名句を残している。
さまざまな歴史が川底の奥深くにねむる曽木の滝周辺は現在、 自然公園として整備が進み、訪れる観光客を魅了してやまない。