入札時VE(総合評価落札方式)の現状について
国土交通省 九州地方整備局
道路部 道路工事課長
道路部 道路工事課長
宮 本 晴 邦
1 はじめに
我が国の公共工事の入札は,会計法,予算決算及び会計令に基づき予定価格の範囲内で最低の価格をもって申し込みをした者を契約の相手方とすることを基本として実施されてきました。会計法第29条の6,予算決算及び会計令第91条には価格及びその他の条件が国にとって最も有利なものをもって申し込みをした者を契約の相手方とすることができるとされているものの,1件ごとに大蔵大臣(現在の財務大臣)との個別協議が必要とされていたため実施されてきませんでした。
一方,価格以外の工期,安全性などを価格以外の要素と価格とを総合的に評価して落札者を決定する総合評価方式を導入すべきと指摘されていたところ,政府の規制緩和推進3ヶ年計画(平成10年3月31日閣議決定)において,公共工事については平成10年度中に総合評価方式の導入を図るべき旨が決定されました。その後公共工事発注機関と大蔵大臣(現在の財務大臣)との包括協議が整い,「工事に関する入札に係る総合評価落札方式について」(建設省会発第172号,平成12年3月27日:以下「包括協議」と言う。)が通知されました。この協議を受け,本方式によって入札する場合の事務処理の効率化に資するため,各省庁の長の定め及び基本的な事項を手引きとした「工事に関する入札に係る総合評価落札方式の標準ガイドライン(以下,「標準ガイドライン」と言う。)」が公共事業関係省庁間において申し合わせされ,平成12年9月20日付け通達により各地方整備局宛に通知されまた実施に伴う手続きに係る通達も同日付で通知されました。
これらの通達では,包括協議による総合評価落札方式の適用範囲,実施の手続きを示しており,包括協議及び標準ガイドラインにより総合評価落札方式を実施する際には大蔵大臣(現在の財務大臣)との個別協議が不要になっています。
一方,地方公共団体においては、地方自治法施行令の一部改訂に伴い,「価格その他の条件が当該普通地方公共団体にとって最も有利なものをもって申し込みをした者を落札者とすることができる」と総合評価落札方式の適用が認められています。
その後、総合評価落札方式のより一層の適用範囲の拡大を図るとともに,事務の合理化に資するよう,「工事に関する入札に係る総合評価落札方式の性能等の評価方法について(国地契第12号、国官技第58号,国営計第33号,平成14年6月13日付け)」が通知されました。
2 総合評価落札方式の概要
(1)総合評価落札方式の考え方
総合評価落札方式は,価格競争型と対となる落札方式の一種であり,技術提案と価格とを総合的に評価を行い落札者を決定する方式であります。
入札に参加する企業からの積極的な技術提案による技術面での競争を促進するとともに,価格のみならず総合的な価値による競争を促進することは、発注者にとって最良な調達を実現させ,公共工事の品質確保を図る上で有効であると期待されるとともに,ひいては,効率的かつ有効的な社会資本の整備,民間の技術開発の促進に寄与するものと期待されるところであります。
また、本方式は,入札の提示する性能等に基づく工事の実施により,より適切に社会的影響や社会的要請に対応し,国や地方公共団体の責務を果たすことができる価格と提案を行った者を選定できる方式でもあると言えます。
国土交通省においては,平成12年度より一般競争入札及び公募型指名競争入札方式における入札時VE方式の一類型として試行を行っています。
総合評価落札方式の一般的な手続き(入札時VE方式)の流れを以下の図ー1に示す。
(2)総合評価の評価項目
総合評価の評価項目となる価格以外の要素として,包括協議では対象事項を限定列挙しており,標準ガイドラインでは対象事項の内容を例示として示しています。
これらの内容について以下に示す。
(包括協議における限定列挙事項)
・工事に関連して生じた補償費等の支出額及び収入の減額相当額並びに維持更新費を含めたライフサイクルコストを加えた総合的なコスト
・工事目的物の初期性能の維持,強度,安定性などの性能・機能・環境の維持,交通の確保,特別な安全対策、省資源対策又はリサイクル対策
・環境の維持,交通の確保,特別な安全対策、省資源対策又はリサイクル対策
(標準ガイドラインにおける例示)
① 総合的なコストに関する事項
a ライフサイクルコスト
維持管理費・更新費等も含めたライフサイクルコストについて評価する。
b その他
補償費等の支出額等を評価する。
② 工事目的物の性能,機能に関する事項
a 性能、機能
初期性能の持続性,強度,耐久性,安定性,美観,供用性等の性能,機能を評価する。
③ 社会的要請に関する事項
a 環境の維持
騒音,振動,粉塵,悪臭,水質汚濁,地盤沈下,土壌汚染,景観を国の利害の観点から評価する。
b 交通の確保
交通への影響(規制車線数、規制時間、交通ネットワークの確保、災害復旧等)を国の利害の観点から評価する。
c 特別な安全対策
特別な安全対策を必要とする工事について安全対策の良否を評価する。
d 省資源対策又はリサイクル対策
省資源対策リサイクルの良否などへの対応を国の利害の観点から評価する。
(3)総合評価の評価方法
価格及び価格以外の要素に係る総合評価は,入札者の申し込みに係る価格以外の各評価項目の得点の合計を,当該入札者の入札価格で除した数値(以下「評価値」と言う。)をもって行うものです。評価方法は,評価項目によって多少異なりますが,現在実施している総合評価落札方式における基本的な評価値の算出式は以下のとおりです。
*評価値の算出式
評価値=〔100(標準点)十加算点*〕+入札価格
*加算点:入札者の申し込みに係る価格以外の各評価項目の得点の合計
① 標準点
標準点とは発注者が定める技術的要件のうち「入札説明書等に記載されている要求要件」を満足した評価がされた場合に,当該提案者に与えられる点数であり,具体的には発注者が示す標準案の状態を満たす場合に100点を付与するものです。この標準点が与えられた者のみ応札参加資格が認められます。
② 加算点
加算点とは,発注者が必要に応じて定める「必須以外の評価項目」について,評価に応じて提案者に与えられるもので,その点数は0から10点の範囲内で与えられます。
(4)予定価格の算出
総合評価落札方式における予定価格は,発注者が定める「最低の要求要件」を満たすのに必要なコストに相当する価格(100点の状態)をいいます。
(5)落札方式
入札参加者に価格及び価格以外の要素をもって申し込みをさせ,以下の評価要件に該当する者のうち,上記(3)の総合評価の評価方法によって得られた評価値の最も高い者を落札者とします。
なお,総合評価落札方式の概念図は図ー2のとおりです。
① 入札価格が予定価格の制限の範囲内であること。
② 価格以外の要素に係る提案が「最低の要求要件」または,「入札説明書等に示された要求要件」を全て満たしていること。つまり標準点が付与されること。
③ 評価値が基準評価値*を下回らないこと。
*基準評価値:100点を予定価格で除した値
3 総合評価落札方式の施行状況と代表的な事例
(1)施行状況
全国では平成11年度から試行が実施されましたが,九州地方整備局では平成12年度より土木及び営繕工事において総合評価落札方式の試行を実施してきました。その実施状況は,平成12年度及び平成13年度は各1件ずつ実施し,平成14年度は約60件の工事において試行を実施しました。引き続き平成15年度においても約60件の工事で総合評価落札方式の試行を実施する予定になっています。
試行工事において総合評価の評価項目は,標準ガイドライン等でさまざまな評価項目が列挙されていますが,主に「社会的要請に関する事項」に関する試行が多くなっており,全体の70%以上がこの評価項目で実施しています。
(2)代表的な試行事例
① 交通渋滞緩和を図るための施工日数低減の事例
:熊本3号近見高架橋上部工工事
当該工事箇所は,熊本市内の南西部に位置し,国道3号と57号が交差する箇所である。また,当該工事箇所は郊外部の住居地域と熊本中心市街地を繋ぐ箇所に位置することから,朝夕の交通渋滞が日常的に発生している状況であり,今回この慢性的な交通渋滞解消を目的として立体交差工事を行うものです。
・工期 H14.8.6~H15.7.31
・鋼3径間連続鋼床版箱桁橋(鋼重約1,400t)
a 適用の背景
本工事は,鋼3径問連続鋼床版箱桁橋の立体交差工事で側径間部はベント併用トラッククレーン架設交差点部の中央径間は大型キャリアによる引き出し架設工法により最小限の通行止めに対応した工法を採用しています。
現在の平面交差では,慢性的な交通渋滞だけでなく,交差点付近は交通事故多発地点にもなっていることから,地元住民はもとより道路利用者からも早期の抜本的対策が求められているため,価格以外に早期供用を目的とした工期短縮に努める必要がありました。そのため,総合評価落札方式を適用することにより,早期完成に係る全体工期の短縮日数に係る技術提案を広く求めるものです。
b 総合評価の方法
当該工事では必須以外評価項目による総合評価であり,入札説明書等に記載された要求要件を満たした設計に基づく予定価格の範囲内で提案された施工方法等の技術評価を行うものです。
→標準案で示している標準工期内に完成すれば目的は達成されるが,標準案以上に工期短縮が図られれば交通渋滞の緩和等により良い条件なることから加算点評価とします。
評価値=(標準点+加算点)/入札価格
=(100点+短縮日数*0.2)/予定価格
=(100点+短縮日数*0.2)/予定価格
標準点:標準案による評価項目の仕様(入札説明書等に記載されている要求要件=標準工期が320日以内)を満たしていれば100点を与える。
加算点:入札説明書等に記載されている要求要件の標準工期320日を短縮すれば加算点を与える。また,1日短縮当たりの便益(渋滞損失)から,1日短縮当たりの換算係数0.2を乗じて加算点を算出する。
c 予定価格の考え方
予定価格の考え方は,必須以外評価項目を評価する場合に該当するため,
予定価格=100点の状態(標準案)
つまり,標準工期320日での工事価格として予定価格を設定します。
d 落札者の決定
以下の要件を満たす入札者のうち,評価値の最も高い者を落札者とします。
① 入札価格が予定価格の制限範囲内であること。
② 提案値が入札説明書等に記載された要求要件(標準工期320日)を満たしていること。
③ 評価値が、標準点(100点)を予定価格で除した数値(基準評価値)に対して下回らないこと。
e ペナルティーの考え方
受注者の責により提案された短縮日数が履行でなかった場合は,遅延日数に1日の損失額(270万円*)を乗じたものを契約金額から減額することとしています。
*270万円は現状での1日当たり渋滞損失額
f 入札結果
工事価格と工種から鋼橋上部工工事に係る一般競争入札にて行い,10社(内、9社がVE提案,1社が標準案)が応募しました。7社が予定価格をオーバーしたため,残る3社により評価値が最も高く入札価格は最低金額で入札した者が落札しました。
② 環境の維持を図るための排出ガス対策型建設機械の導入率の事例
:鹿児島3号金山地区改良(第1工区)工事
当該工事箇所は,鹿児島県川内市内の南部に位置し,国道3号と平行する箇所で,周辺には民家が点在する箇所であります。今回,南九州西回り自動車道(川内道路)の整備の一環として,金山地区の改良工事を行うものです。
・工期 H14.9.19~H15.11.14
・掘削工 113,000m3
a 適用の背景
本工事は,掘削(113,000㎥)を主工種とする工事であり,建設機械(バックホウ,リッパー装搬付ブルドーザ,ダンプトラック等)による掘削積み込み運撤の一連作業を実施するものです。
地球温暖化の主たる要因である「温室効果ガス」の濃度上昇に着目し,建設機械の動力源であるディーゼルエンジンの排出ガス対策を対象に総合評価落札方式を行うものです。なお,直轄工事では,「建設機械に関する技術指針」において第1次基準排出ガス対策型以上の使用を原則としており,今回はより厳しい第2次基準排出ガス対策型(対象機種はバックホウとする)の導入率に係る技術提案を広く求めるものです。
b 総合評価の方法
当該工事では必須以外評価項目による総合評価であり,入札説明書等に記載された要求要件を満たした設計に基づく予定価格の範囲内で提案された施工方法(導入率)の技術評価を行うものです。
→標準案で示している対象建設機械(BH)がすべて第1次基準排出ガス対策型であれば目的は達成されるが,標準案以上に第2次基準排出ガス対策型を導入すれば排出ガスの低減が図られることから加算点評価とします。
評価値=(標準点+加算点)/入札価格
=(100点+導入率に応じた加算点)/予定価格
=(100点+導入率に応じた加算点)/予定価格
標準点:標準案による評価項目の仕様(入札説明書等に記載されている要求要件=すべて第1次基準排出ガス対策型を導入)を満たしていれば100点を与える。
加算点:入札説明書等に記載されている要求要件のすべて第1次基準排出ガス対策型を導入に対しさらに第2次基準排出ガス対策型を導入すれば加算点を与える。また,加算点は,最大の導入率を提案した者に10点を与え,他の者は最大の提案者に対する比率により加算点を算出する。
c 予定価格の考え方
予定価格は,標準案(100点)の状態ですべて第1次基準排出ガス対策型を導入するものを工事価格として予定価格を設定します。
d 落札者の決定
事例①と同様。
e ペナルティーの考え方
受注者の責により提案された導入率が履行でなかった場合は、その提案に対する不履行率によって工事成績評定から減点することとしています。
f 入札結果
工事価格とエ種から一般土木工事に係る公募型指名競争入札にて行い,15社が応募し,その内10社(内,8社がVE提案,2社が標準案)を指名しました。入札の結果,5社が予定価格をオーバーし1社が無効であったため,残る4社により評価値が最も高く入札価格は最低金額で入札した者が落札しました。
③ 社会的要請に関する事項(環境の維持,交通の確保,特別な安全対策,省資源対策又はリサイクル対策)に係わる施工計画の事例
:熊本3号大平橋上部工工事
当該工事箇所は,熊本県八代市内の南部に位置し,国道3号と平行する箇所で,周辺には民家が点在する箇所であります。今回,南九州西回り自動車道(日奈久芦北道路)の整備一の環として,大平橋の上部工工事を行うものです。
・工期 H15.8.25~H16.7.22
・鋼橋上部工 鋼7径間連続非合成飯桁(約449t)
a 適用の背景
本工事は,鋼橋上部工の製作・架設(約440t)の工事であり,工場で製作した桁等の部材を大型トレーラーで現場まで輸送することから,幹線道路である国道3号に対する渋滞対策や安全対策を十分検討する必要があります。また,現場周辺は丘陵部で民家等は少ないが現場へのアクセスが悪く,特に工事用道路は周辺住民も利用している林道であるため十分な安全対策等が必要になります。
本工事の地域状況を考慮し今回は社会的要請に関する事項(環境の維持,交通の確保,特別な安全対策,省資源対策又はリサイクル対策)に係る技術提案を広く求めるものです。
併せて,総合評価落札方式の価格に当たる部分の提案を求めています。これは,コスト縮減に関し,橋梁上部工の架設方法で標準案に対しコスト縮減が図られる架設方法について技術提案を広く求めるものです。
b 総合評価の方法
当該工事では必須以外評価項目による総合評価であり,入札説明書等に記載された要求要件を満たした設計に基づく予定価格の範囲内で提案された施工方法(社会的要請に関する事項)の技術評価を行うものです。
併せて,コスト縮減に関する橋梁上部工の架設方法についても,標準案に対してコスト縮減が図られる提案を求め,施工方法の技術評価を行うものです。
→標準案で示している施工計画であれば目的は達成されるが、標準案以上に社会的要請に関する事項に係わる施工計画等の提案があれば加算点評価とします。
橋梁上部工の架設方法の提案については加算点がなく、採用されればコスト縮減額を入札金額に反映して入札を行います。
評価値=(標準点+加算点/)入札価格
=(100点+評価項目に応じた加算点)/予定価格
=(100点+評価項目に応じた加算点)/予定価格
標準点:標準案による評価項目の仕様(入札説明書等に記載されている要求要件=標準案に示した施工計画等)を満たしていれば100点を与える。
加算点:入札説明書等に記載されている要求要件の標準案に示した施工計画等に対しさらに社会的要請に関する事項に係わる施工計画等の提案があれば加算点を与える。
なお,加算点は,環境の維持,交通の確保,特別な安全対策,省資源対策又はリサイクル対策の各項目に重み(全体を1とする)をつけ,各項目を3段階(10点,5点0点)で評価し,その評価点に各重みを乗じた合計点を加算点として算出する。
c 予定価格の考え方
予定価格は,標準案(100点)の状態を満たす施工計画に基づくものを工事価格として予定価格を設定します。
d 落札者の決定
事例①と同様。
e ペナルティーの考え方
受注者の責により提案された技術提案が履行でなかった場合は,その提案に対する不履行率によって工事成績評定から減点することとしています。
f 入札結果
工事価格と工種から鋼橋上部工工事に係る公募型指名競争入札にて行い,15社が応募し,その内11社(内,7社がVE提案,4社が標準案)を指名しました。入札の結果,11社の中で評価値が最も高く入札価格は最低金額で入札した者が落札しました。
なお,コスト縮減として求めた橋梁上部工の架設方法は,15社の内8社から提案があり,6社が採用で2社が不採用でした。
4 まとめ
九州地方整備局における総合評価落札方式は,今年度末までに約120件にも及ぶ試行を行う予定であります。現在までの技術提案内容を見ると技術提案で優秀な企業,つまり加算点の高い企業が入札金額も低い傾向にあります。
総合評価落札方式の目的は,価格以外の要素と価格を総合的に判断して総合的に評価して落札者を決定することです。価格以外の要素をいかにエ事毎に選定し技術提案を提案させるか,また,提案する企業自らが技術力を発揮させ,価格以外の社会ニーズにいかに応えていくかが重要になってきます。