編集こぼれ話
(前)㈳九州地方計画協会 情報部長
㈳九州建設弘済会 業務部長
㈳九州建設弘済会 業務部長
前 野 弘 之
1 はじめに
当初執筆依頼を予定していた方が都合で執筆できなくなったため,編集事務局の一員としてその責任を果たすべく急遽執筆の矛先が向けられ,筆をとることになりました。せっかく頂いた機会ですから,九州技報の編集にあたっての失敗談等を紹介することで,当誌をより身近なものに感じていただければと思います。
もともと事務屋である私が技術情報誌である「九州技報」を初めて手にしたのは,一昨年当誌の編集発行元が,㈶建設工法研究所から㈳九州地方計画協会に引き継がれ,その編集事務局を担当することになってからであります。土木技術のプロ集団の中で右往左往しながら,この2年間で読者の方々へのアンケート調査,広告料の改定,カラー印刷など当誌を取り巻く環境が変わろうとする節目節目に携わることが出来ましたが,国土交通省在職期間中でも「編集」なるものに関わった経験のないずぶの素人は,以下に記すように失敗の連続でした。
2 名前は念入りに
まずは,最もやってはならない執筆者名の字句間違いでした。校正の段階でも,固有名詞には特に念を入れてチェックしているつもりですが,一旦見過ごしたら2回,3回校正してもチェック機能が働かないのか,誤ったデータがインプットされたら,それが正当なものとして脳裏に刻まれてしまうようです。印刷が出来上がり真新しい本の出来具合を楽しみにページをめくって,間違いに気がついた時のショックはお分かりいただけると思います。校正の時には網にかからなかった字句が,不思議と時間を置いて見ると,大きく目に飛び込んでくるものです。しかし,活字になってしまえば後の祭り,当誌が執筆者本人の手元に届く前に電話口で平謝り,執筆者のやさしいお言葉にホッとするとともに,次号に向けての反省点がメモ帳に付け加わるのであります。
3 執筆者への根回し
編集会議において,掲載する課題・執筆者とも決定されたら,事務局から各執筆予定者に対し原稿の執筆依頼文を送付することになるのですが,その前に電話で「九州技報」なるものを説明し,「編集会議で編集委員から推薦され,執筆をお願いすることになりましたのでよろしくお願いします。」と事前の挨拶をしたところ,本人が聞いていない場合があります。推薦者らかの説明がなされる前だったり,執筆者名と実際の執筆者が異なる時によくある事例です。本人の了解がないうちに事務局から結論が先に行けば,気分が良いはずがありません。感情を害されて執筆拒否にならないように,即出発点に戻って,推薦者から順を追って丁寧に根回しをお願いすることになります。
4 執筆者の変更
原稿執筆を誰に依頼するかは,基本的には課題とともに編集会議で議論していただき決定されるものですが,たまには方向性だけ了解いただき,執筆者についてはその後に個別具体に推薦していただくという場合があります。そのとき,推薦者の話を十分確認しないまま,早合点をして別な人に原稿依頼をしてしまいました。まだ時効には至らないため詳細には書けませんが,その別な人からやっと執筆していただけそうな感触を得た後に間違いに気がついても手遅れです。当初からその人に焦点を絞って依頼したことにしてお願いするばかりです。推薦者から予定されていた人にまだ具体的な話が持ち込まれていないのが救いでした。
5 やり過ぎ
原稿の執筆依頼をするときには,「原稿の書き方」を見本,割り振り用紙とともに同封して依頼するわけですが,原稿を受け取った後校正の段階で,文章の合間に写真・図表を出来るだけ読みやすいように割り振り,挿入する作業があります。当然執筆者に任せる場合がほとんどですが,挿入する写真・図表が多くなると,全体のバランスや文章の流れがギクシャクして読み辛くなる箇所があり,執筆者と図表等の配置や大きさについて話し合いを行い,意見が食い違う場合があります。原稿締め切り日が逼迫して余裕がなかったこともあって,つい議論が白熱して執筆者の意見に従わず,感情を損ねてしまったシーンが今でも後悔の念とともに思い出されます。執筆者の意図するところと編集者というより読者寄りの立場の相違でしょうが,依頼した立場を忘れて自分の主張から降りることを知らなかったのです。執筆を依頼した以上は,全体構成も含めて執筆者本人のセンスに任せるべきで,アドバイスのやり過ぎだったと反省しています。
6 カラー印刷
九州技報第34号からカラー刷りになり,特に写真・図表等が見やすく明るくなりましたが,初めてのカラー化のため多くの反省点が加わりました。
読者諸氏もお気づきと思いますが,原稿によってカラーの濃淡に差がありすぎることと,初めての経験で力が入りすぎたためか,目次がカラフルになって隣接するグラビアが目立たくなったこと,執筆者に対する説明が足らなかったため,カラー印刷用の写真(デジカメの場合JPEG方式等)でないことから不鮮明だったり,まったくカラ一部分がない図表を使用された執筆者もおられたことです。
各執筆者の方々に対して,このカラー刷りのメリットを効果的に活かされるように,事務局として十分説明するなどの気配りが必要なことを改めて思い知りました。
7 技報賞
去る2月24日第35回編集会議で,九州管内の大学,工業高等専門学校の学生を対象に,「我が国の土木の進むべき方向性について」というテーマで,第1回「技報賞」の懸賞論文を募集することが決まりました。
土木というか,公共事業に対する風当たりが強い昨今,土木に対する大いなる夢を語ってもらい,土木のすばらしさを改めてPRしていただければと思います。第1回「技報賞」を目指して多くの優れた論文が競って投稿されることを期待しますし,土木を志す若人の志気が高揚し,現在の芳しくない土木に対するイメージを払拭する様な,若々しい息吹を発揮してもらいたいと思います。
技報賞の受賞論文が掲載される第36号の発行を楽しみにしています。
8 おわりに
当九州技報発行に要する経費の一部に充当するため,広告料をいただいていますが,広告掲載もしていない企業に広告料の請求書を発行したり,土木技術専門用語の解説文を付記するのを忘れたり,その他小さなミスを記せばキリがないくらいで,私がこの編集担当から離れるのは,当「九州技報」にとっては幸運だとしか言えません。
最後に,私の失敗談により編集がいい加減だと思われては困りますので,お断りしておきますが,この様な初歩的なミスを犯すのは,私が最初で最後であるということは申し上げるまでもありません。約2年間九州技報の編集に携わることができて,社会資本整備の中枢を担う土木の重要性,奥深さ,裾野の広大さの一端を窺い知ることが出来ましたし,「九州技報」を守り育てようとする多くの人の熱意“土木技術”に対するプライド,そしてほとんどの人が無報酬で本来業務の合間を縫って真剣に編集発行に携わっていただいていることが,貴重な技術情報誌であり続けることが出来ていることを知りました。
土木の専門用語で私のような事務屋には難解なものや,聞いたこともない単語(横文字)が時々見受けられ,出来るだけ解説を付記するように心がけていましたが,同じ編集事務局仲間からその用語は常識の範囲だとたしなめられ,自分の浅薄な知識を恥じたりしたものです。しかし,“技術情報誌”と言っても,社会資本の及ぼす経済的効果とか,環境との整合,公物管理,入札契約制度の問題などなど.今後は事務部門としても入り込める余地が膨らんでくることも考えられるのではないでしょうか。出来れば,当九州技報にも事務屋の投稿する機会が増えて,読者の裾野が拡大するとともに,ますます最先端技術情報誌として発展されることを願って止みません。