「中津港における多目的国際ターミナルの整備」
大分県 土木建築部 港湾課長
庄 司 健 作
1 はじめに
中津港は大分県の北部福岡県との県境に位置する地方港湾でありましたが,大分県北部地域の海の玄関口・広域流通拠点として地域の産業振興及び海上交通ネットワークの形成のため重要な役割を果たすことが期待され平成11年6月に重要港湾に昇格しました。
背後では,高速交通体系の整備や自動車関連産業の進出,大分北部中核工業団地の開発など積極的な企業誘致が図られています。このような状況の下,交通体系の結節点に位置する優位性を活かした広域的な流通拠点港として,また,産業を促進させる地域振興港湾として多目的国際ターミナルの整備を推進しています。
本文では平成16年9月に一部の施設を供用開始した中津港の整備計画について報告します。
2 地理条件
中津港は瀬戸内海に面し,内洵であるため風や波浪の影響が少なく,気象条件に恵まれた立地であります。
周辺の沿岸部は,きわめて平坦な遠浅の海底地形を示し,沖合5~6m付近でも水深10m程度で,港の西側は,干潮時に海岸線から1kmにも及ぶ干潟となります。
陸地は一部になだらかな丘陵地がある以外は概ね平坦で,県境沿いを山国川が流れて瀬戸内海に注ぎ,その河口部の東側に沖積低地の市街地が形成されています。
3 港湾整備の背景
近年,九州北部地域には自動車産業の主要工場や自動車関連企業の立地が進み,雇用機会の創出,地域経済の発展に大きく寄与しています。このような中で,中津市にダイハツ工業㈱(子会社のダイハツ車体㈱)が工場の進出を表明,平成8年には中津市とダイハツ工業㈱が立地協定を締結しました。立地場所には完成車を出荷する際の陸上輸送に掛かる費用を軽減するために中津港近隣の干拓地が選定されました。完成車の出荷や材料・部品の調達のため物流拠点として港の施設整備と機能強化が急務の課題となりました。
また,東九州自動車道・九州横断自動車道・地域高規格道路等の広域交通体系の整備が進む中,時間距離が短縮されることにより中津港の背後圏が拡大し,開発中の大分北部中核工業団地や県西部地域等からの利用が見込まれました。
以上の様な社会情勢の変化により地域の産業・都市活動を支える流通拠点港として中津港に対する整備の要請が高まってきました。
4 港湾整備計画
ダイハツ工業㈱が進出を表明した当時の中津港は県北地域の流通拠点というものの,地方港湾で大型の貨物船が係留出来る施設もなく,近い将来確実に増加する貨物に対応できる状態ではありませんでした。平成8年の立地協定以降,国に対して重要港湾への昇格と施設整備の要求を開始,平成10年1月には港湾計画を策定,重要港湾に昇格した後の平成11年11月に改訂を行い,現在の計画に至っています。
総事業費は約470億円で,整備完了は平成20年代の後半を予定しています。主な施設としては原木や工業製品の輸出入を目的とした30,000D/W級の貨物船対応の水深12m岸壁1バース,完成車の輸送を目的とした25,000G/T級の自動車専用船対応の水深11m岸壁1バース,内貿貨物を主に取り扱う水深8m岸壁2バースであります。特徴的なのは遠浅の海底地形であるため航路の浚渫が約5kmにもおよぶ点で,浚渫した土砂は全て港湾の土地造成とダイハツ車体㈱の工場用地造成に有効活用されています。
港の西側では海苔の養殖が盛んで地元の漁業者との取り決めにより海苔の種付け時季にあたる秋には工事を1ヶ月間中止したり,港内に繁殖していたコアマモを漁協と協力して近隣に移植する等地元住民と協議を重ねて環境への影響を配慮しつつ工事は行われました。
平成10年度に現地着手して以来,大きな遅延もなく順調に進捗し,平成16年12月に操業を開始したダイハツ車体㈱にあわせて泊地航路(暫定水深9m)の水城施設と水深11m岸壁・水深8m岸壁1バースならびに背後のふ頭用地や道路等が供用されました。
5 整備の効果
中津港をはじめとする周辺地域のインフラ整備や自動車関連産業の立地により外貿流通港湾としての役割や内貿ユニットロード貨物等の取り扱いが見込まれております。
具体的には,船舶での大量輸送による物流コストの低減及び物流の効率化に資すると共に内貿貨物の増加によりトラックやトレーラーなどから排出される二酸化炭素や窒素酸化物が削減され環境負荷の低減が見込まれます。
さらに周辺地域の物流機能の充実によりダイハツ車体㈱をはじめとする自動車関連企業13社等の民間投資額は約1,000億円にも上るものと思われます。また,企業進出による雇用創出効果は最終的に3,500人程度と想定されます。
このように企業立地と港湾整備の相乗効果により地域産業の競争力が強化され県北地域の経済は大幅に活性化されます。
6 おわりに
民間の企業立地に呼応する形で整備事業が始動し,全国的に公共事業の予算が削減されているという厳しい社会情勢下にありながら予定通り事業が進んだのも,事業の目的が明確で多大な事業効果が見込めた点だと考えております。
今後は,近い将来に予想される工場拡張による増産(操業当初は月産1万台で国内向け)や海外へ向けての輸出計画等に対応するべく航路泊地の増深や岸壁の整備を含めた機能強化を促進していきたいと考えております。
また,自動車関連産業や新規立地企業のみならず,地場企業をはじめとしてより多くの方に使って頂けるように努めてまいります。