排水性舗装の耐久性と機能の検証
国土交通省 九州地方整備局
九州技術事務所 調査試験課
材料試験係
九州技術事務所 調査試験課
材料試験係
国土交通省 九州地方整備局
九州技術事務所 技術課長
九州技術事務所 技術課長
国土交通省 九州地方整備局
九州技術事務所 調査試験課
調査係長
九州技術事務所 調査試験課
調査係長
恵 藤 英 昭
1 はじめに
今日の道路環境の問題点として,交通事故の多発や道路沿道住民への騒音問題などがあげられる。これらを緩和する舗装として排水性舗装がある。排水性舗装は,1987年に東京都の環状7号線に初めて施工されて以来,全国各地において施工実績を伸ばしている。
しかしながら,供用後にごみ・土砂等による空隙づまりや交通荷重による空隙つぶれを起こし,排水機能および低騒音機能が低下する傾向である。そのため,機能の回復・維持が現状での課題となっている。また,排水性舗装は,一般的な密粒舗装とは異なり,その維持管理手法は確立されていない。
本報告は,排水性舗装の耐久性や機能の向上を目指して,H7~H8年度に九州地方整備局管内で,骨材の粒径,空隙率およびバインダなどを変化させた各試験舗装箇所において,H15年度に7~8年経過後の供用性に関する一連の追跡調査(路面性状調査,排水機能)について報告するものである。
2 排水性舗装の構造
排水性舗装と従来の舗装構造の比較を図ー1に示す。排水性舗装の構造は,多孔質な排水性アスファルト混合物を表層に用い,不透水層となるようなアスファルト混合物を基層に設ける構造である。表層に浸透した水が基層の上を流れて側溝などの排水処理施設に速やかに排水される構造により,表ー1のような機能と効果があり,近年は,特に低騒音機能が注目されている。
3 調査箇所
調査箇所および排水性舗装の施工概要は,図ー2,表ー2のとおりである。主な違いは,バインダ種,空隙率,最大粒径,施工厚である。(以下,『高粘度改質』は高粘度改質アスファルト,『エポアス』はエポキシアスファルト,『高粘度脱色』は高粘度脱色アスファルトの略。)
4 調査項目と内容
調査内容として,構造的耐久性と排水機能を評価するために以下の項目の調査を行った。
4.1 構造的耐久性調査
(1)路面性状調査
舗装の構造的耐久性を調査するためにわだち掘れ・平坦性・ひび割れ率の路面性状調査を行った。
4.2 排水機能調査
(1)排水機能持続状況
排水機能の持続状況を調べるために現場透水量試験(舗装試験法便覧別冊1項の1-1-3T)を行った。
現場透水量試験は,図ー3の現場透水量試験器を用い,水400㎖流下する時間を求め,現場透水量は15秒当たりの流下量に換算した値を現場透水量(㎖/15s)としている。
(2)機能回復調査
機能回復作業は,図ー4の機構をもつ機能回復車を使用した。これは,路面にジェット水を吹きかけ吸引を行うことにより,空隙に詰まっている塵芥を回収する方式である。
なお,機能回復を確認する方法として,機能回復作業前後の現場透水量試験結果の差を機能回復量とした。
5 調査結果と考察
5.1 構造的耐久性結果
H15の調査時の路面性状結果を表ー3に示す。路面性状の評価は,表ー4のMCIの評価式と評価区分により,舗装の維持管理指数であるMCIにて評価を行った。
MCIは,表ー3より最低5.1,最高8.8であり,全地区の各工区において評価区分はランクBおよびCに区分される良好な路面性状であった。このことから,排水性舗装の構造的耐久性は,施工から84ヶ月~90ヶ月経過しても良好であることがわかる。
5.2 排水機能の持続状況
排水機能の持続状況一覧表を表ー5に示す。
5.2.1 排水機能持続の要因
排水機能が持続している良好な箇所は,エポアスを使用した鹿児島市・伊敷地区と熊本市・帯山地区,高粘度改質を使用した宮崎市・花ヶ島地区である。
機能低下が認められる地区に共通しているのは,片側一車線道路である。排水機能の低下の地区と要因を表ー6に示す。
久留米市・諏訪野地区の機能低下の原因は,下記により空隙つぶれが生じたと考えられる。
① 大型車交通量が他の地区に比べて多い。
② 片側一車線道路ということから交通が集中しやすい。
5.2.2 排水機能の持続性
排水性舗装の機能の持続性を検証するために,図ー5に現場透水量と経過月数,図ー6に現場透水量と大型車交通量の相関関係を示す。両グラフから,相関係数が0.75026,0.77427と比較的高いことから,ここでは機能の持続を判断しやすい経過月数で評価する。
経過月数との相関を示した図ー5から現場透水量が400㎖/15s以上持続している経過月数は72ヶ月であることがわかる。
5.2.3 バインダの違いによる比較
図ー7は久留米市・諏訪野地区におけるバインダが異る1工区と5工区の現場透水量の経時変化を比較したものである。
図ー7から,1工区高粘度改質に比べて,5工区エポアスの現場透水量の低下勾配が緩やかであることがわかる。
これは,5工区エポアスは空隙つぶれを起こしていないものの,1工区高粘度改質は大型車交通量による空隙つぶれを起こしていることが考えられる。このことは,残留空隙の多少が現場透水量の低下に影響するものと思われる。
5.2.4 空隙率と車線数から見た現場透水量の持続性の比較
表ー7は,空隙率20%(主に高粘度改質を使用),25%(主にエポアスを使用)と片側一車線,多車線道路との比較を行ったものである。
表ー7から,現場透水量が最も持続する組合せは,109ヶ月持続している空隙率25%・多車線道路であり,最も短い組合せが51ヶ月の空隙率20%・片側一車線道路である。
片側一車線道路の場合は,エポアスを使用して空隙率25%で施工した舗装と,高粘度改質を使用して空隙率20%で施工した舗装とでは14ヶ月(=65ヶ月ー51ヶ月)しか変わらないものの,多車線道路に使用した箇所では2倍近くの月数が持続していることがわかる。
5.3 機能回復効果について
5.3.1 現場透水量範囲別の機能回復効果
図ー8は機能回復作業前の現場透水量を0~400㎖/15s未満,400~1000㎖/15s未満,1000㎖/15s以上の3つの範囲に分けて機能回復量をグラフ化したものである。
H8~H12までのグラフから,機能回復前後の現場透水量を比較した結果,0~400㎖/15s未満では機能回復量が77㎖/15sと少ないものの,400~1000㎖/15s未満の範囲では,機能回復量が364㎖/15sと大きいことがわかる。このことから,機能回復効果があるのは,現場透水量が400㎖/15sまでであるといえる。また,供用から7~8年経過したH15の機能回復量が少ない。その原因としては,舗装体内の堆積物の圧密作用が考えられる。
5.3.2 機能回復後の排水機能
図ー9に鹿児島市・伊敷地区と図ー10に宮崎市・花ヶ島地区の現場透水量と機能回復の経時変化を示す。
図ー9では,41ヶ月後の機能回復作業によって1工区(OWP)では1,347㎖/15sまで排水機能が回復したものの,9ヶ月後の50ヶ月目現場透水量は295㎖/15sにまで低下している。図ー10でも同様に29ヶ月後の機能回復作業で150~300㎖/15s程度回復しているが,37ヶ月後に極端な低下している。
機能回復後の現場透水量の低下が,図の太い点線のような低下傾向であれば,機能回復効果があると言えるものの,数ヶ月後に急激に低下する状況では機能回復の効果があるとは言い難い。
この原因としては,機能回復作業は空隙内の表面から1~2cm深さの堆積物を回収のため,一時的に現場透水量は回復するものの,放置すれば表面の空隙には数ヶ月間で新たにゴミや士砂などが流入し低下することが考えられる。
5.3.3 機能回復と機能維持
以上から,排水機能の効果を持続するには機能同復作業に加えて機能維持作業を行うことが望ましいと考える。(図ー11はイメージ図)
① 供用後,機能維持作業を行う
② 機能が低下したら機能回復作業を行う。
③ 引き続き,機能維持作業を行うことで機能低下を極力抑制する。
④ さらに,機能低下したら機能回復作業を行う。
⑤ ①~④を繰り返す
なお,機能回復と機能維持の違いは,表ー8に示す。
6 まとめ
以上の追跡調査から,以下のことがわかった。
(1)排水性舗装は,構造的耐久性は良好であることと,排水機能の持続性には検討の余地がある。
(2)機能回復については,機能回復作業を行うことによって排水機能は一時的に回復するものの排水機能は短時間で低下しやすい。
(3)排水機能の持続性は,供用後,約6年間持続するものの,早いところでは約2年で排水機能が失われる。排水性舗装の機能は,以下の道路交通や周辺環境によって左右されやすい。
①大型車交通量が大きい地区で,交通荷重によって空隙つぶれが懸念される箇所
②片側一車線道路で,交通が集中する箇所
③沿道環境で,土砂などの空隙づまり物質が車道に流入しやすい箇所
7 今後の課題
排水性舗装は,施工延長を急激に伸ばしているものの,開発後.間もないこともあり,機能の維持及び回復面で今後改良の余地があることがわかった。今回の調査から改良の課題として考えられるものを下記に列挙した。
〇排水性舗装の維持管理
排水性舗装には排水機能の持続性が求められていることから,空隙つぶれを起こさせず,空隙づまりを遅らせることが必要である。空隙つぶれ対策は,耐久性のあるバインダの開発が求められる。空隙づまりを遅らせるには,機能維持車による定期的な作業と機能回復作業の併用が望ましい。上砂などによる一部一時的な機能悪化の場合は,機能回復車での作業により機能を回復することが望ましい。
また,排水性舗装にポットホールや骨材飛散などの路面破損が生じた場合,路面補修が困難なことから補修方法を含めた維持管理手法の確立も求められている。
〇排水性舗装の費用対効果
排水機能を維持するには,機能回復および維持作業を行うことになるが,作業を行う費用が高い。また,機能や耐久性を長期間維持させることを目的としてエポキシアスファルトなどの高性能型バインダの使用は効果があるものの費用が高く,機能回復および機能維持作業や使用バインダとコストの費用対効果の検討が必要である。
同時に,機能回復および機能維持作業なども含めた排水性舗装のライフサイクルコストの検討も必要である。
〇排水性舗装の機能回復維持などに関する開発
高耐久型のバインダは費用が高いことから,低コスト型の高耐久バインダの開発が必要である。また,低騒音機能の維持を含めたよりよい機能同復維持手法の開発が求められている。
〇排水性舗装のリサイクル技術の確立
排水性舗装の施工が全国的に伸びている。舗装のライフサイクルの面から,施工から一定年数経過した排水性舗装は打ち換えや切削オーバーレイの時期にきている。排水性舗装のリサイクル技術は現時点では確立されていないことから緊急な課題となっている。