竜門ダムにおける常用洪水吐き放流試験について
国土交通省 竜門ダム工事事務所
副所長
副所長
田 嶋 良 一
国土交通省 竜門ダム工事事務所
調査設計課長
調査設計課長
藤 本 幸 司
㈱建設技術研究所 九州支社
技術第1部 主任
技術第1部 主任
木 藤 賢 一
1 はじめに
竜門ダムは,RCD工法による本体コンクリートの合理化施工が採用されたため,常用洪水吐き(コンジットゲート)についても施工の合理化が検討された。その結果,面状工法に適した形状として,堤体部は水平全管路式放流管,また,堤体下流部に高圧スライドゲートを設置し,ゲート下流に曲管を設けて放流水脈を堤体面に沿わせる構造となっている。放流管の設計については,土木研究所において水理設計と水理実験が行われ,水理機能の安全性が検証されている。
今回実施した放流試験は,平成9年3月4日より開始された試験湛水を利用して常用洪水吐きの設備としての安全性を確認するとともに,ダム直下流域に対する放流水による騒音および放流水による下流河川の水位上昇等を併せて確認することを目的とする。本報告は,平成10年4・5月に実施した放流試験の結果概要について報告するものである。
2 竜門ダムの概要
竜門ダムは,熊本県菊池市の一級河川菊池川支川迫間川に建設中の多目的ダムである。当ダムの集水面積は26.5㎢と小さく,自流量が少ないため,菊池川本川および筑後川から導水する計画となっている。ダム型式は,重力式コンクリートダム(堤高99.5m,堤頂長380m)とフィルダム(堤高31.4m,堤頂長240m)の複合式ダムである。竜門ダムの標準断面図を,図ー1に示す。
3 コンジットゲートの設計概要
常用洪水吐き(コンジットゲート)放流管の放流能力に関する設計条件は次の通りである。
① 常時満水位EL.274.5mにおいて,コンジット2門により計画最大放流量100㎥/sが放流できること。
② 放流管の呑口中心標高はEL.250.0mとし条数は2条とする。
③ 主ゲート位置を極力下流へ移行すること。このため,この整流管の曲率半径はR=8mとした。
④ 主ゲートの断面は,1.7×1.7mの正方形断面(A=2.89㎡)とする。
⑤ 直管部の管径は,呑口ベルマウス終端で負担が発生しないようD=2.0mとした。
⑥ 直管部からゲート部への漸縮形状は,下面を水平とし,上面の絞り角度を4度以内とした。
⑦ゲート下流は,1.7mの水平部を設置し,角形から円形への漸拡管とした。また,この漸拡管と整流管下面には,給気を行うため0.35mのオフセットを設け,上面にも直径0.8mの給気管を設置する。(実機では前記主給気管に加えて,直径0.55mの副給気管を設けている。)
放流管形状を図ー2に示す。
4 放流試験計画概要
(1)実施日およびゲート操作記録
放流試験は,試験湛水中の竜門ダムにおいてサーチャージ水位(EL281.0m)到達した平成10年4月29日の翌日からゲート1条ずつの計2日間にわたり実施した。また,ゲートの操作は,放流操作パターン(放流の原則に基づく放流)に従った。放流記録は以下の通りである。
●最大放流量:1日目 約67m3/s
2日目 約66m3/s
●総放流量 :1日目 約49万m3
2日目 約38万m3
(2)計測項目および評価方法
常用洪水吐き(コンジットゲート)の安全性およびダム管理に伴う課題を確認するため,①常用洪水吐きの作用水圧・給気量,ゲート等の作用応力・振動加速度・整流管の振動調査,②放流量および流況(放流水脈等)調査,③周辺集落に与える放流水音の調査,④下流河川の水位上昇量調査を行った。
計測方法および結果の評価方法は,表ー1の通りである。また,常用洪水吐き(コンジットゲート)における計測位置を図ー3に示す。
5 試験結果
(1)常用洪水吐き(コンジットゲート)
① 作用圧力
放流試験により得られた整流管部の作用圧力と,水理模型実験により得られた整流管部の作用圧力を比較検討した。比較図を図ー4,5に示すが,これによれば,整流管上部に作用する圧カの分布形は実機と水理模型実験とも概ね近似しており,実機における整流管上部に作用する圧力の最大値は1.3kgf/㎠程度であった。
また,整流管下部に作用する圧力分布形も概ね近似しているが,整流管中間部でゲート全間放流の際,水理実験では正圧0.2kgf/㎠が発生しているが,今回の計測では負圧になっている。ゲート直下流の負圧は実機では1.0kgf/㎠程度であった。
② 応力
ゲート戸溝部の応力は,コンクリートによる拘束を受けているためか,極めて小さな値(応力の変化量の最大値はおおむね35kgf/㎠程度)となっていた。
③ 振動
整流管の巻き立てコンクリートの振動レベルは極めて小さく,ランダムノイズ状の周波数分布を示している。このため,放流中は整流管の巻き立てコンクリートは振動していないものと判断できた。
④ 給気量
放流量と主給気管および副給気管の給気量の関係図を図ー6に示す。これより以下のことが言える。
・合計給気量は開度1.31m(放流量41.8m3/s)にて,最大27.62m3/sと水理模型実験にて計測された給気量と同程度であった。なお,模型実験では開度40%(0.68m,放流量21m3/s)にて最大28.3m3/sである。
・主給気管の給気量はゲート開度0.84m(放流量26.5m3/s )で最大となりそれ以降は開度の増大に伴い空気量は減少した。
・開度0.16m(放流量5.1mm3/s )で主・副給気管とも給気量の減少が計測されている。
(2)放流量
① 試験項目
水理模型実験では模型縮尺の関係上,小開度時の放流量に誤差が生じる恐れがあるため,実機による放流において,減勢工内を計量ますとして2開度(放流量2m3/s ,6m3/s )で放流量検定を実施した。また,副ダムの越流水深を用いたゲート開度別放流量検定(4開度(全開放流含む))を実施した。
② 検定結果
ゲート開度と放流量の関係式は水理模型実験により,次のように算出されている。
また,流量係数Cは次式の通りとなる。
C=aHb
a=-0.006+0.970G-0.870G2+0.578G3
b=-0.063+0.427G-0.685G2+0.414G3
ここに,G:ゲート開度(率)(=ゲート開きGa(m)/全開時のゲート開き1.7m)
この推定式と放流試験により得られた放流量との誤差を算出した結果を,表ー2,3に示す。
この結果によれば,2m3/s 放流時には誤差が10%程度生じているが,6m3/s 放流時には誤差は3%であった。また,副ダムの越流水深を用いた大きなゲート開度別の放流量検定でも推定式との誤差は3%以内であることを確認した。
以上より,水理模型実験で推定されたゲート開度―放流量関係式は,充分信頼できることを確認した。
(3)流況
放流水脈の流況はゲート開度と放流量の変化により,表ー4のような違いが見られた。この変化は,副給気管の給気量の傾向と相関があるものと考えられる。
(4)放流水音
図ー7には4地点で測定したA特性騒音レベルとゲート開度,放流量の関係を示した。なお,A特性は人間の感じるうるささを表現するために周波数補正をした騒音レベルである。
これより,以下のことが判明した。
・ダム直下における騒音レベルは最大80dB,市野々(ダム下流400m)で最大65dB程度となり,ダム直下に比べて15dB程度減衰していることが確認できた。
・神社(上長野)および橋(虎口)付近では,ゲート開度1.58mでも50dB程度で,放流による影響はほとんどないことがわかった。また,神社,橋いずれも2車線道路を有する住居専用地域の環境基準(昼間55dB以下)を満足していた。
(5)下流河川の水位上昇量
計測地点のうち,放流の原則の検討断面である西迫間地点(ダム下流6.8㎞)における河川水位時系列および30分後の水位上昇量の計測結果を,図ー8に示す。
この図より,水位上昇量は基準値である30cm/30分を下回るため,放流の原則について,実際の放流においてもその妥当性を確認した。
6 おわりに
今回の報告は,試験湛水を利用したサーチャージ水位での放流試験結果をとりまとめたものであり,結果を総括すると,
・コンジットゲートの設備の安全性は確認することができた。
・水理模型実験により設定したゲート開度―放流量曲線の妥当性を確認することができた。
よって,常用洪水吐きとしての整流管付き水平放流管の機能を実機により確認することができた。
竜門ダムでは,今年度で建設事業が終了し,本格的な運用に移行する予定である。このため,今回の放流試験により得られた知見を生かし,的確な洪水調節を実施していきたいと考える。