肝属川水系串良川浄化事業について
建設省 大隅工事事務所
河川管理課長
河川管理課長
有 村 巌
1 はじめに
日本本土最南の一級河川である肝属川は,古来より地域の生活・文化・経済に大きな恩恵を与えてきた河川であり,その流域内(A=485Km2)は,鹿児島県大隅地方の2市7町によって構成され,約11万5千人の人々が生活している。また,肝属川流域内における主な産業としては農業(特に畜産業)が全体の約6割と大部分を支えており,その他には林業,木材加工業,澱粉工場などがある。
このような社会状況の下,肝属川本川およびその支川である串良川は,九州地建管内の水質ランキングにおいて例年,上位にランクされており,非常に水質悪化が著しい河川として位置付けられている。更なる水質悪化が懸念されることから水質改善対策が大きな課題となっているところである。
2 肝属川水系の水質汚濁要因
図-2より,肝属川水系内の水質汚濁を助長している主な要因としては以下に示すとおりである。
(1)排水規制の及ばない畜産排水 (47%)
(2)市街地を中心とした生活雑排水(25%)
(3)事務所系の排水 (14%)
(4)水産養殖排水 (12%)
このような地域の産業に関わる排水等が肝属川流域内の各支川に流入することにより, 各支川の水質濁が進み,その影響によって肝属川本川の水質汚濁を促進している傾向が見られる。
3 串良川の浄化事業概要
肝属川流域内の各河川の中で特に支川串良川については,上流部に養豚施設,中流部に家屋や養魚施設,下流部においては澱粉工場など水質汚濁を助長する施設が数多く存在しており,これらの施設からの排水が河川に流入するため,串良川は肝属川流域内における各支川の中で環境基準値(BOD:2mg/ℓ)を超えており,非常に水質汚濁が著しい状況下に置かれている。そこで,平成8年度から調査を行った結果,串良川の下流部に位置する吉元樋管からの排水が最もBOD濃度が高く,水質悪化が著しいことが分かった。
このことから串良川および肝属川下流域の水質改善対策として,吉元樋管前面の高水敷を利用した地下埋設による浄化施設の設置計画を行った。この浄化施設は平成12年度の秋から工事着手し,平成13年度内の完成予定である。
また,去る平成12年10月20日に肝属川流域内の住民の方々をはじめ,各関係機関並びに事業所の関係者約70名を招いて浄化事業着手式を取り行ない,式典の中で鍬入れが行われた。
4 吉元樋管浄化施設の概要
(1)浄化手法の選定
吉元樋管の背面には畜産場,家屋および澱粉工場などが立地しており,特に澱粉工場の操業期にあたる10月~12月にかけては現在,非常にBOD濃度の高い汚濁排水を流出している状況である。従って,平成8年度からの調査・計画検討の結果,本施設は非灌漑期のBODに対し,70%除去を目標に設計計画を進めてきた。
その結果,以下に示す利点から九州管内で初の「曝気付礫間接触酸化法」を採用した浄化施設を設置することに決定した。
① 浄化対象物質は生物分解が可能な有機物であるため,最終的に発生する汚泥量が少なく,汚泥処理の点で経済的である。
② 浄化対象水質(BOD)は42mg/ℓと非常に高く,生物分解を効率的に行う上で,曝気は不可欠である。
③ 浄化施設を高水敷の地下に埋設することが可能であり,用地条件および治水安全上有利である。
なお,接触材の礫については浄化施設の規模および浄化機能を念頭に置き,経済面・耐久面・環境面からの総合判断により決定した。
(2)計画諸元
(3)曝気付礫間浄化施設
図-4に曝気付礫間接触酸化施設の模式図を示す。曝気付礫間接触酸化法とは曝気槽部と非曝気槽部で構成され,各槽内に5~15cmぐらいの礫を充填した状態の下,汚濁水をゆっくり流すことで礫の隙間に住みついた微生物が汚濁水の成分を分解・除去するものである。
① 曝気槽部の働きについて
曝気槽部では,底面に布設した散気管から酸素を送り込むことによって,微生物を多数繁殖させ,汚濁水の成分である溶解性BODやアンモニア態窒素等の分解・除去,浮遊物質への転換を促進させる。
② 非曝気槽部の働きについて
非曝気槽部では,曝気槽内で転換された浮遊物質を接触沈殿により除去する。
(4)吉元樋管浄化施設のイメージ図
図-5に吉元樋管浄化施設のイメージ図を示す。浄化の流れとしては吉元樋管から流出する汚濁排水を取水施設により取水し,管径φ700の管の中を伝わって,浄化第1系列に流入させ,この槽内で曝気をかけながら浄化を行う。そして再度,管径φ700の管の中を伝わって,浄化第2系列に流入させ,再度,曝気をかけ,非曝気部で汚濁物質を接触沈殿させて,下流側より串良川に放流する。以上の流れによって,吉元樋管からの汚濁水を浄化するものである。
5 浄化による効果
図-6に吉元橋および俣瀬橋における浄化施設整備後の水質予測グラフを示す。吉元橋については浄化施設整備による削減(1.8mg/ℓ)や下水道の整備,畜産堆肥化センターの整備など流域による削減(0.8mg/ℓ)により,将来水質は現況水質である4.6mg/ℓに対し 2.0mg/ℓに,また,俣瀬橋についても浄化施設整備による削減(0.6mg/ℓ)や流域による削減(0.8mg/ℓ)により,将来水質は現況水質である3.3mg/ℓに対し1.9mg/ℓにと,共に環境基準値を満たす水質に改善されると予測される。
このことから以下のような効果が期待できる。
① 鮎などが自然繁殖できる河川への改善。
② 水循環による食物への影響が改善されることでの健康的な生活の確保。
③ 遊泳,水遊びおよび釣りなど河川空間を利用する人々の増加。
6 おわりに
今回ご紹介した串良川浄化事業は上記の経緯を経て計画された事業であり,今回施工を行う吉元樋管浄化施設は九州管内初の「曝気付礫間接酸化法」を採用した地下埋設の浄化施設である。今後この浄化施設を足掛りに肝属川水系の水質改善に向け,さらなる対策検討を行っていきたいと考えている。