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21世紀に向けたみちづくり
―最近の道路整備の動向と施策の展開―

建設省 九州地方建設局
 道路部道路計画第二課 課長補佐
的 場 眞 二

1 はじめに
「日本の道路は信じがたいほど悪い。工業国にして,これほど完全に道路網を無視した国は日本の他にない。」昭和31年来日したワトキンス高速道路調査団報告から約半世紀,自動車の飛躍的な普及と着実な道路整備により,私たちは今日,自由な移動と豊かな暮らしを享受できるまでになってきました。
モータリゼーションの進展は,私たちのライフスタイルや産業活動のシステムを大きく変化させ,日本経済の高度成長を支えてきました。
しかし,一方では,交通事故や都市部での渋滞,環境負荷の増大等の問題も生じています。
さらに,インターネット等の情報通信技術や国際化の更なる進展,少子・高齢化と生産年齢人口の減少,環境・エネルギー問題の深刻化など,社会・経済状況は加速度的に変化しています。
これからの道づくりは,国土の基盤を形成する高規格幹線道路などの幹線道路網整備の必要性とともに,社会・経済状況の変化や多様化する国民のニーズに応える施策の展開が望まれます。
本稿では,最近の道路整備の動向や施策展開などから21世紀に向けたみちづくりの取り組みを紹介するものです。

2 最近の道路整備の動向と施策の展開
(1)地域連携と物流効率化の支援
地域ブロックの自立的な発展や交流を促進するための循環型ネットワーク,都市圏の再構築を支援する環状道路,また物流の効率化を支援する空港・港湾へのアクセス道路など,重点的に高規格幹線道路などの整備を進めています。
九州の高規格幹線道路は,九州縦貫自動車道・九州横断自動車道がほぼ全線供用され,クロス型のネットワークは形成されたものの,全体計画延長1,513kmに対し平成12年4月現在,約54%にあたる814kmが供用されているに過ぎません。

(2)高度情報通信社会推進に向けた道路の情報化
① 道路交通システム高度情報化(ITS)
「高度道路交通システム(ITS)推進に関する全体構想」(平成8年7月警察庁,通商産業省,運輸省,郵政省,建設省の5省庁が策定)に甚づき,ITSを進めています。
a ノンストップ自動料金収受システム(ETC)
料金所のゲートに設置したアンテナと車に搭載した端末機との無線通信により有料道路への出入りを自動的にICカードに記録し,料金支払いのため停止することなく通行できるシステムで,料金所渋滞の緩和やキャシュレス化による利用者の利便性の向上等を図るものです。平成14年度までに全国の高速道路や都市高速道路などの料金所約900箇所で運用開始を目標としています。九州では,九州縦貫自動車道の門司港~八代,長崎自動車道の鳥栖~武雄南と大村~長崎多良見間などで計画されています。

b 道路交通情報通信システム(VICS)
道路の渋滞情報や規制情報等をリアルタイムでカーナビなどに提供するシステムで,既に高速道路などでサービス提供が行われています。
また,直轄国道の通行規制区間などを対象として,宮崎県内の220号および10号でも提供開始が予定されています。
c スマートウエイの展開
ITSの多様なサービスの提供を支える通信システム,センサー,光ファイバーなどを総合的に備えたスマートウエイを本格的に展開します。ドライバーヘの危険警告や運転補助を行う走行支援システムの実用化に向けた実証実験(スマートクルーズ21)が国内外の参加により実施されます。

② 情報ハイウェイの構築
電線共同溝や情報BOXなどを整備し,道路管理用の光ファイバーネットワークを構築します。また,国内情報通信量の急増を背景として,空き空間を通信事業者に開放し,通信コストの低廉化を支援します。
平成14年度までに,直轄国道を中心に情報BOX等の整備を先行的に実施し,全国市町村の約5割をカバーします。九州の直轄国道では,平成12年度末までに,情報BOX計画延長の約90%が整備されます。

(3)地球環境の保全と沿道環境の改善
二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガス排出増加により,地球温暖化が世界的な問題となっています。1997年地球温暖化防止国際会議で「京都議定書」が締結され,わが国は2010年には1990年比6%のCO2排出量削減を国際的に約束しました。
運輸部門の地球温暖化対策は,自動車単体対策を基本としつつ,2010年目標で,現在(1997年)に対し,CO2排出量を約3%削減し,6,800万t-cに抑制すべく,諸対策が進められています。
道路では,CO2排出抑制など地球環境への負荷の軽減を図るため,環状道路やバイパス等の道路ネットワークの整備,交通需要マネジメント(TDM)施策,ITSの推進などにより渋滞緩和策を進めます。
交通渋滞によるCO2排出量増大の問題が深刻化するなかで,道路整備はその削減に大きく寄与しています。

平成11年3月,太宰府ICと直結した福岡都市高速2号線ならびに4号線の延伸供用により,交通渋滞の緩和が図られ,平行する関連道路の走行速度が向上したことにより,関連道路を含めたCO2削減量は,約7~12%と試算されています。

(4)少子・高齢化社会に対応した生活空間の形成
国立社会保障・人口問題研究所の将来人口推計によると,わが国の人口は2007年の約1億2,800万人をピークに減少傾向に転じ,2050年には現在の約8割の約1億人まで減少するとされています。また,急速に高齢化が進展し,平成27年には4人に1人が65オ以上の高齢者と予測されています。特に,九州は高齢化率が高く,全国の14.6%に対し,17.1%となっています。(H7国勢調査)
人口減少や高齢化の進展は,経済活力や地域社会への影響が懸念されているところですが,今後ますます高齢者の社会参加が増大するものと思われます。
これからは,高齢者を含めたすべての人が安心して生活し,積極的な社会参加を支援するまちづくり,道づくりが必要といえます。
① 安全で快適な歩行空間の整備
市街地の住居・商業地区(概ね1㎢)を対象として,商店街,病院,福祉施設を連絡するルートなどを,広幅員と適切な段差・傾斜を確保するバリアフリー化により,誰もが,安全・快適に通行できる歩道空間をネットワークとして整備し,人中心の道づくりを推進します。
平成14年度末までに全国3,200地区,九州では約300地区の整備を予定。整備にあたっては,「バリアフリー推進会議」(福祉,交通,商工,学識者等の代表で構成,各県毎に設置済み)を活用します。

(5)都市圏の交通円滑化
交通渋滞による時間損失は年間で国民一人あたり約42時間,金額に換算すると全体で約12兆円におよぶとも言われ,経済,生活等への大きな足かせとなっています。
今後ますます増大する自動車需要に対しては,交通施設整備に併せ,環境への影響,限られた財源施設整備に要する時間などの面から,交通施設の有効活用,ならびに交通需要マネジメント(TDM)を組み合わせた都市交通施策の展開が有効です。
① 都市圏交通円滑化総合対策
渋滞の著しい都市圏を対象とし,バイパス,環状道路などの交通容量拡大策に加え,パーク&ライド・時差出勤などのTDM施策,ならびにバス利用の促進や交通結接点を整備するマルチモーダル施策を組み合わせた「都市圏交通円滑化総合計画」を策定し,重点的かつ総合的に事業を実施するものです。
関係行政機関や団体で構成する「渋滞対策協議会」等で計画を策定し,警察庁・建設省の地域指定を受け実施するもので,これまでに全国で7つの都市圏,うち九州では熊本および福岡の2都市圏が実施地域に指定されています。
② バスフレシュアップ事業
「バスフレシュアップ計画」は,公共交通機関としてバスが中心となっている都市内において,バス運行の定時制の確保および利便性の向上を図るため,特定のバス路線に関する計画として道路管理者が策定し,交差点改良,バスレーンのカラー舗装化,バス停車帯・上屋の設置,歩道段差解消等を短期集中的に整備するものです。
これまでに,全国で7都市,九州では鹿児島市で計画が策定され,整備を行っています。

③ 交通結接点改善事業
駅周辺の乗り継ぎ改善や歩行空間の移動の円滑化のため,アクセス道路や駅前広場,歩道,パーク&ライド駐車場などを整備するものです。

(6)安全性・信頼性の高い道路空間の確保
わが国は,最近の有珠山噴火にみられるように自然災害が多発する脆弱な国土構造です。特に九州は,集中豪雨による土砂災害や火山災害が頻発し,土砂災害の発生件数は全国の約8割を占めています。
また,昨年,山陽新幹線トンネル内のコールドジョイント剥離事故に端を発し,管理にかかる事故等が大きく取りあげられ,土木建造物の日常的な維持·管理の重要性が大きく認識されたところです。老朽化する道路ストックの急増に対処するために,計画的な維持管理の重要性が高まっています。

① 災害に強い道路の整備
災害時の代替路,避難路の整備,地震災害時のライフラインの安全確保のための共同溝の整備など,安全で安心して通行できる災害に強い道づくりを推進します。
② 維持管理の充実・強化
住民・道路利用者からの情報収集,インターネット等を活用した情報提供等道路管理の情報化を図り,地域と連携した防災管理休制を構築します。

3 道路政策の進め方の改革
道路を始めとした社会資本整備は,本来,国民と行政の協働,共創作業です。国民と行政の信頼関係のもと,行政の透明性の向上と国民との対話を重視した「コミュニケーション型国土行政」の一層の推進が求められています。
また,近年,公共事業に対して,事業の効率性・効果に対する国民の厳しい批判があることも真摯に受けとめねばなりません。
(1)コミュニケーション型道づくり
事業の情報と説明をより明確に国民に公開し,国民の意見を反映するコミュニケーション型道づくりを推進しています。九州地建では,熊本3号植木バイパスの計画過程において,関係する住民などに情報を公開し,広く意見を聴取し計画に反映する,PI(パブリック・インボルブメント)方式による住民参加の道づくりを実践しました。この他にも,歩道整備などにおいて,住民参加の道づくりが進められています。
また,本年3月には,福岡市域を対象に,道路に関する意見や相談の窓口「道の相談室」を開設しました。今後,九州全域への展開を予定しており,寄せられた意見等は道路政策に反映していきます。

(2)事業の効率性・効果の向上
限られた財源を有効に活用し,道路事業を効果的・効率的に進めていくため,コスト縮減の推進や事業評価システムの導入などにより,「アカンタビリティ(説明責任)」の向上に努めています。
(3)社会実験の実施
新しい施策を試行・評価し,本格実施への移行などを判断する社会実験を,地域の協力を得ながら,積極的に実施しています。
平成11年度からは,道路に関する施策について,建設省と一緒に社会実験を行っていただく地域・団体を公募する制度も導入しました。

4 おわりに
これまでは,先進諸外国と比較して立ち遅れている道路整備の「量」が重視され,整備すれば効果があった時代でした。行財政改革の進行等社会資本を取り巻く環境が変化しており,これからは,目的と効果を確認して投資を判断する時代へ移っています。
また,地域の自立と個性が重視される地方分権社会実現のためにも,地域の多様なニーズに応える道づくりが求められています。

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