住みよい九州の国土づくり
建設省 九州幹線道路調査事務所
所長
(前)建設省 九州地方建設局
企画部事業調整官
所長
(前)建設省 九州地方建設局
企画部事業調整官
藤 本 昭
1 はじめに
日本の経済社会は,近年の少子高齢化およびグローバル化,高度情報化などを背景に21世紀に向け,大きく変わろうとしています。地方分権化の議論もその一つですし,財政財源問題の現実的クローズアップも,そして社会資本整備のあり方について,その根本に立ち返った議論がなされているのもそのためです。
国土づくり地域づくりも例外ではありません。コミュニケーション型行政という考え方さえも導入されるようになりました。九州地方建設局企画部で3年間,地域づくりを担当しましたが,その時気付いたことなどを記してみたいと思います。
2 新しい全国総合開発計画
新しい全総(21世紀の国土のグランドデザイン)は平成10年3月に閣議決定されました。国土総合開発法に基づく国土づくり指針となる計画であり,今回で5回目の策定となります。
過去4回の全総による国土づくりの方法は拠点開発構想や大規模プロジェクト構想,定住構想,交流ネットワーク構想など,開発に視点がおかれたものでした。しかし今回は,新しい理念による国土計画を必要とし,計画手法の転換を迫られたためでしょうか,少し様子が変わってきています。
右上の図にその概要を示します。新しい全総の特徴をいくつか上げれば以下のとおりです。
① 過去と異なり計画投資総額を示していない
② 計画推進方法は地域が主体の参加と連携
③ 開発中心から利用保全を含む内容ヘシフト
④ 行政地域区分を乗り越えようとする考え方
⑤ 国県市町村それぞれの役割や責任の分担
⑥ 多自然居住地域に新しい生活像の創造
⑦ 投資効率向上のための具体策の提示
⑧ 地域社会の意識改革の推進
3 計画体系とその課題
国土総合開発法などの法に基づく計画は全総のほか,九州地方開発促進計画や各県総合計画,地方拠点都市地域基本計画,テクノポリス計画などがあります。閣議決定や通達などの法に基づかない計画も,地方生活圏計画や地域戦略プラン,21世紀活力圏創造事業など,数多くあります。また,事業計画として,治水事業5ケ年計画や道路整備5ケ年計画などもあります。
国土計画である全総を地域レベルに落としていく役割を担ってきた地方生活圏計画の見直しが今年ありました。建設省ではこの時,地域づくりのあり方の問題点を以下のように整理しています。
① 理念・目的が希薄であいまい
② 住民・地域市町村の意向の反映が不十分
③ 計画の実効性が低い
④ 他の計画等との調整が不十分
⑤ 国の支援が不十分
⑥ 計画をたてること自体の目的化 等
これらを改善するため,以下を提案しています。
① ビジョンの共有化と責任の明確化
② 双方向のコミュニケーション型行政の導入
③ フォローアップ等による実効性の確保
④ 地域連携の強化等に資する支援体制の充実
⑤ 地域の意欲増進に繋がる支援体制の充実
⑥ 歴史文化自然的要素等の活用および配慮 等
どの計画の見直しにも適用できる見方です。
4 九州国土構想21
九州地方建設局では,10年前の長期構想を見直し,矢田俊文九州大学副学長を座長とする懇談会の審議を経て,平成11年1月に『九州国土構想21』をとりまとめました。
その特徴は以下の通りです。
① 社会資本整備の大半を担当する九州地方建設局が新しい全総と九州地方開発促進計画の策定に向け,地方の声としてとりまとめた。
② 地域住民のニーズに応えられるよう県・政令市,国の機関,経済団体と意見を交換した。
③ 前長期構想コロナプランの充実を出発点に全総の戦略,地域連携軸の概念を取り入れた。
④ 九州の一体的で均衡ある発展を図るため,5つの広域根幹的な地域連携軸形成を提唱した。
⑤ 社会資本整備の方向を示すとともに実効性を高めるため,構想実現に係わる事業を記載した。
概要を上図に示します。九州の特徴を活かし,将来の国土像を『魅力にあふれる住みよい九州』としています。安全安心や高質な生活,活力,交流連携など4つの基本課題を解決するため,地域連携軸を形成し,これを実現するとしています。
地域連携軸の形成にはまず,生活圏の生活基盤整備を行わなければなりません。しかし,全ての生活圏でのフルセット型整備には限界もあり,都市間や都市と農村間などの地域連携活動の必要性がでてきます。そして,これを支える交流基盤の整備を進めることにより,小さい地域連携軸が形成される。これが繰り返されることから,より広域根幹的な地域連携軸が形成されることになる。これを5つの基幹連携軸として提唱しました。
これらの地域連携軸形成のため,各種の施策,事業を重点的効果的に実施するとしています。
5 九州中央地域連携推進協議会
平成9年8月に九州中央地域連携推進協議会が設克されました。熊本,大分,宮崎3県に跨る77市町村が自発的に,産業経済,教育文化,生活環境等多分野の交流連携を行い,交流人口を増やし地域を活性化し,社会基盤の整備と活用を促進しようとするものです。きっかけは平成7,8年の国土庁調整費調査でした。地域市町村長の意見交換会がもたれ,その結果が協識会の設立となりました。現在5省7局3県が支援体制を組んでいます。
関係市町村があまりにも広域に渡っているため,地域全体では,具体的な共同目標がたてにくい点もありますが,スケールメリットがあります。このためまず,全体では地域の交流連携活動意識を醸成するためにシンポジウムを繰り返し開催しています。同時に,共同観光パンフレットの作成とスタンプラリーの実施,物産展の開催,活性化ビジョンの策定,共同ホームページの開設と内容の充実メンテナンスを行っています。一方,特定の課題をかかえる一部の地域では別に分科会をつくり,個別の活動も行っています。
本協議会活動は,先導的であるため先例もなく,手探りで進められています。進み方も一直線ではありませんが,種々の活動が蓄積されています。九州地方開発促進計画や九州経済白書にその活動内容が記載されたり,地域戦略プランに認定されたのも,活動が広く浸透した結果だと思います。
問題点がないわけではありません。主体が独立した市町村であり,リーダーシップをとることが難しい。県境を跨いでいることもあり,制度と距離的バリアもある。しかし,このためにこそ国・県という制度があるのだと思います。特に九州地方建設局では,関係7事務所が,地域資源の発掘や連携,活用のための地域のコーディネーターとして,当初より協力支援しています。一方,協議会自らも,12の代表幹事市町にテレビ電話を設置して,定例会議開催の試みや事務局業務の協力分担を図るなど,事業活動の改善につとめています。
当面の課題は,地域連携のための共通意識を一層醸成することと既設情報機器を使って,市町村間のみならず国・県間との一層の連携強化,業務の省力化,そしてなによりも民間との協力関係を築くことでないかと思います。
6 おわりに
九州地方建設局は,九州の国土づくりのため,ハード面を中心に貢献して参りました。ここでは変貌する社会のニーズに応えるべく,広く関係者と手を携え,種々の試みに努めている一端を紹介したことになるでしょうか。また,機会があれば,細部,他の事例も紹介してみたいと思います。