上尾トンネル(上り線)の施工について
一般国道10号戸次犬飼拡幅事業
一般国道10号戸次犬飼拡幅事業
建設省 大分工事事務所
所長
所長
中 村 稔
建設省 九州地方建設局
企画部主任工事検査官
(前)建設省 大分工事事務所
技術副所長
企画部主任工事検査官
(前)建設省 大分工事事務所
技術副所長
桃 坂 繁
建設省 大分工事事務所
建設監督官
建設監督官
楠 本 敦
フジタ・佐藤組特定建設工事共同企業体
所長
所長
曽我部 松 男
1 はじめに
一般国道10号は,北九州市を起点に大分市,宮崎市などを経由して鹿児島市に至る東九州地域を南北に縦貫する延長約450kmの重要な幹線道路である。
上尾トンネルは,国道10号のうち大分市の南端に位置し,戸次犬飼拡幅の上尾地区において旧国道の代替トンネルとして施工された上下それぞれ2車線の双設トンネルである。この双設トンネルのうち下り線トンネルは,既に,平成8年6月より供用が開始され,それを待って,下り線の斜面側に位置する上り線トンネルの掘削を開始した。
今回,上り線トンネルの施工が終了したことから,施工に伴い発生した変状およびそれに対する対策工について報告するものである。
2 工事概要
工事名:大分10号上尾トンネル上り線新設工事
工期:平成8年2月15日~平成11年1月31日
施工内容:NATM(ショートベンチカット)
機械掘削工法
施工延長 661.3m
仕上り断面 86. 4m2
3 地形・地質の概要
3-1 地形
当該地は,大分市の中心部から南方に約15km,犬飼町の北東約2kmのところにあり,阿蘇山麓に源を発し,別府湾に注ぐー級河川大野川の右岸側に位置する。
当該地付近は,標高100~400mの山地で基盤の堆積岩の上位を阿蘇熔結凝灰岩が被覆したところがあり,尾根部は比較的なだらかな地形を成している。一方,谷部は,大野川を中心とした大小河川による浸食が進んでおり,河川沿いには急斜面や絶壁がいたるところに認められる。
斜面は,当該地が位置する大野川右岸側は急傾斜地であり,対岸の左岸側は比較的傾斜が緩い台地状地形を呈している。
上尾トンネルの犬飼側坑口付近は,西方~北西方向に突出した尾根先端部の大野川の攻撃斜面にあたる位置にあり,急傾斜を成し植生は雑木林で占められる。また,近傍には砕石場跡地が存在し,硬質な砂岩が露頭している。なお,昭和61年7月に当該急斜面で大規模な斜面崩壊が発生し,旧国道部に上尾洞門が構築された経緯がある。
3-2 地質
大分市南部における地質は,中・古生代の地層を基盤岩とし,新生代第三紀以降の火山活動による火山岩および火山砕屑岩類が基盤岩を被覆し分布している。構造は,御荷鉾構造線の延長の臼杵一八代構造線等の北東一南西方向の断層が走り,基盤岩は断層により複雑に分断されている。
当該地周辺の地質は,中生代上部の白亜紀の大野川層群犬飼層に属する堆積岩を基盤とし,局部的に新生代第四紀更新世の阿蘇熔結凝灰岩が分布する。これらを覆って,山腹や沢沿いには未固結土砂から成る崖錘堆物が,河川沿いには砂礫を主体とした段丘堆積物や現河床堆積物が分布している。
4 施工条件および問頴点
本工事には,下記の施工上での制約条件があり,それが施工法決定の主な要因となっている。
① 地滑り崩壊・落石等の危険性を潜在的要因とする急斜面に近接する。
② 供用中の国道トンネル(下り線)と並行に施工し,その離隔距離は14~30mである。
③ 老朽化した灌漑用水路トンネル(断面7m2程度)の下部12mを掘削施工し,2箇所で交差する。
④ 住宅区域での施工であり,民家との最小離隔距離は240mである。
これらの問題点を考慮し,周辺環境への影響を調査する目的から,掘削に先立ち,下記の計測を実施した。
地山の挙動に関しては,施工区間のうち危険個所の4測線に,地盤伸縮計を計27測点,地中傾斜計を計15箇所設置し,自動計測により24時間体制で監視した。また,管理基準値を越える変位が発生した場合を想定し,自動警報システムを設置した。
既設構造物および民家については,振動・騒音測定を頻繁に実施し,施工に伴う影響を解析した。特に,灌漑用の水路トンネルには,振動計,覆工コンクリートひずみ計および流量計を上下流に設置し,その変状・漏水の有無等の異常について自動計測により監視を行った。
5 地山の挙動について
5-1 坑外動態観測による地山挙動観測結果
坑外の動態観測を図ー2に示す各測点にて計測した結果,第I測線にトンネル掘削の影響と思われる地山の挙動が認められた。図ー3に第I測線における地盤伸縮計の経時変化を示す。
観測結果から,上り線掘削の影響が下り線山側斜面から旧国道10号に至る広い範囲に及んでおり,その計測値も比較的大きな変位量を示している。
掘削施工時の切羽観察の結果から,犬飼側の第I測線付近は,風化がすすみ亀裂性に富んだ岩盤が多くを占め,斜面方向にクリープし易い状況にあったことが判明した。
図ー4に示した地中傾斜計の計測結果によると深度8m,12mの地中部に変化点が認められる。この位置は地山の層理部(風化の進行,破砕帯の発達による地山劣化などの弱面層)にあたり,地山がその層理を境に挙動を示した可能性がある。
5-2 坑内天端沈下・内空変位計測結果
図ー5(坑内天端沈下・内空変位結果)より,坑口からP23測点までの区間に,天端沈下・内空変位ともに挙動が見られ,特にP14測点からP22測点にかけては,各補助工法を施工したにもかかわらず天端沈下(A-1)と上半水平測線(K-3)の収縮が卓越した値を示した。
図ー6に示す変形断面の形状は,P17測点(終点側坑口より170m)における収束後の変形概念図である。支保工脚部の支持力不足,および山側からの側圧によって支保工脚部の沈下が生じ,山側肩部から川側脚部に向けて著しく変位したことを示している。変位が安定した後も微少ながら変位が続き,完全収束を確認するまでに数ヶ月を要した。
6 補助工法の施工と効果
内空変位を三次元座標で観測し,断面変形状態を検討した結果,支保工脚部沈下の補助工法として,下記4項目の補助工法を施工した。
補助工法(1):増ロックボルト(4m)を打設し(0.5本/m2),地山の吊下げ効果の増加を行った。
効果:図ー7に示すように,増ロックボルト打設により変位速度の減少が認められ,さらに以下のような変化が読み取れた。
① 山側あるいは川側での部分的な施工のみでは減速効果が低く,両側に打設することで初めて効果が現れる傾向がみられ,特に上半水平方向の内空変位が急速に減速した。
② 一旦,収束傾向を示したかにみられたが,上半切羽の離隔距離が3Dを過ぎた時点で再挙動を示し,天端沈下が認められた。
補助工法(2):地山自体の強度を増加させる目的から,注入式フットパイル(ウレタン)にて支保工脚部の破砕帯を直接的に改良し,地盤支持力の増加を行った。
効果:部分的には効果があったものの,収束傾向が認められるような安定した状況には至らなかった。(図ー7参照)
補助工法(3):早期に下半掘削を施工し鋼製支保工で足付けを行った。
効果:変位速度の減速傾向はあるものの,安定する状況には至っていない。(図ー7参照)
補助工法(4):(1)~(3)の効果により吊下げ効果,限定的な地山の改良,下半の足付けでは地山変状に対する顕著な収束が認められないため,全周増ロックボルト(4m)を打設し(1.0本/m2),地山のアーチ効果を高め,地山の引締め効果の増加を行った。
効果:急速に収束傾向を示し,安定化が顕著に認められた。
上述(1)~(4)の補助工法により,結果的に「全周における増ロックボルトの打設」が各種の補助工法の効果を総合的に結集し,亀裂性硬質地山に対応することで急速に収束傾向を示し,地山の安定化が顕著に認められたことになる。
事実,掘削施工が終了し,変状の収束が確認された区間では,それ以降の変状は認められていない。
7 おわりに
2,000kg/cm2を越える硬岩で形成された地山であっても,亀裂が多くトンネル掘削に伴う応力解放が起因して著しい変状が発生した場合,地山保持(地山アーチの形成)の機能が急速に失われるため,できるだけ早期にバランスの取れた根本的な補助工法を施工する必要がある。
特に,上尾トンネルのような過去に断層活動や褶曲活動などに伴い大きな変圧を受けた地山で,地滑りの経緯のある山体,また,斜面方向に流れるような“クリープ性”を有する硬質地山では,潜在的な応力を溜め込む条件をもっていると思われる。
上り線トンネルの施工については,周辺環境への影響に対して細心の注意を行いながら,様々な補助工法を施工することで,地山の挙動に対応できたというのが現状であった。
上尾トンネルの実績が,トンネル施工において参考となり,今後の難工事に対して迅速に対応できる資料となれば幸いである。
最後に,本工事の施工に対して,多大なご指導,協力を頂いた関係諸氏に深く感謝の意を表します。