7.19豪雨のその後について(浸水対策事業について)
福岡県 建築都市部
下水道課 課長技術補佐
(前所属:福岡県 飯塚土木事務所
都市施設整備課長)
下水道課 課長技術補佐
(前所属:福岡県 飯塚土木事務所
都市施設整備課長)
義 経 俊 二
1 はじめに
平成15年7月19日未明の集中豪雨により、遠賀川・穂波川では観測史上最大の出水となった。飯塚測候所では、最大時間雨量80mmまた当測候所観測史上最大となる、6時間雨量264mを記録した。
この豪雨により、穂波川では堤防の決壊は無かったものの、飯塚市及び穂波町における明星寺川及び片島地区全体で、家屋等の浸水被害が約1,800戸、内床上浸水被害は1,500戸を超える被害が発生した。本格的歌舞伎様式を今に残す「嘉穂劇場」付近で約1.8mの浸水となった。
我が国全体の状況を見ても、集中豪雨の回数は年々増加しており、1時間雨量が50mmを超える回数は、平成16年度は470回とそれ以前の8年間の平均271回を大きく上回ってきている。
このような状況の中、「県民の安全・安心」の確保が大きな課題となっている。「7.19」降雨による浸水被害に対し、国、県、飯塚市では、実効性ある対策を緊急に実施しているところであるが、飯塚土木事務所都市施設整備課では、このうち①飯塚橋架替事業②明星寺川流域下水道事業に取り組んでいる。
第一線の現場において、課員共々、知恵を絞り、汗をかきながら事業を進めているが、その進捗状況について報告いたしたい。
2 飯塚橋架替事業
(1) 事業の必要性
国土交通省遠賀川河川事務所が行う河川改修事業は、遠賀川・穂波川の大雨時の河川水位の低減を目的に、鯰田堰上流から穂波川直轄上流端までの約10km区間において、河積拡大のため河道を掘削する計画である。
芳雄橋・飯塚橋の2橋については、「河積阻害」や「河道掘削に伴う橋脚の根入れ不足」(芳雄橋のみ)といった支障が生じており、再度の災害防止の目的から、当該2橋を緊急に架け替えることとなった。芳雄橋については遠賀川河川事務所、飯塚橋について福岡県が事業主体となり、適切な財政負担により、各々架け替え事業を進めて行くこととなった。
(2) 飯塚橋の進捗状況と今後の工事工程
福岡県が事業主体となる飯塚橋(橋長140.9m有効幅員17m)の、これまでの進捗状況と今後の概ねの工事工程は以下のとおりである。
平成16年度 橋梁詳細設計・測量・建物調査
平成17年度 8月31日 県都市計画審議会付議
10月5日 都市計画県告示
11月下旬 都市計画法事業認可告示国土交通省(河川事務所)との協定締結
12月 仮橋設置工事着手
平成18年度
●平成18年8月~10月 旧橋撤去工着手・下部工(橋台工及び橋脚工 のベ5工区)着手
●平成18年10月16日 仮橋への交通切り替え
平成19年度 下部工完成・上部工着手
平成20年度 上部工完成
取付道路工、仮橋撤去工~事業完了
(3) 飯塚橋下部工施工管理検討部会について
本稿では、①経済性管理(品質管理)及び②人的資源管理の具体策のひとつとなる「飯塚橋下部工施工管理検討部会」について詳述する。なお、本検討部会は、遠賀川河川事務所が先行する「芳雄橋下部工施工管理検討委員会」を参考に立ち上げたものである。
1) 部会長、部会員及び技術顧問
当事務所、技術副所長を部会長とし、発注者、施工業者、設計コンサルタントを部会員とした。また、(財)建設技術情報センター試験研究課及び境橋架け替え工事において先行する直方土木事務所建設課のスタッフにも部会員として参加いただくとともに、技術顧問として九州共立大学の牧角龍憲教授をお迎えし、技術上の指導・助言をお願いした。
2) 目的
① 下部工コンクリートの品質確保・向上
飯塚橋の下部工(橋台・橋脚)は、橋台断面形状1.8×29.0m橋脚断面形状2.1×20.0mと比較的大規模なコンクリート構造であり、コンクリートの配合設計、施工方法、養生方法によっては、施工後にひび割れが発生し品質の低下が懸念される。
このため、事前にひび割れ発生リスクを検証し、有害なひび割れが想定される場合には、施工方法やコンクリート配合等の実効性のある対策を講ずることにより、品質確保・向上を図る。
② 技術力の向上
コンクリートの品質確保・向上に関する工学的な検討を通じ、施工業者、設計コンサルタント、発注者の3者がそれぞれの技術理論を理解し、技術力の向上を図る。
3) 対策の基本方針
これまで、平成18年12月及び19年1月に部会を開催し、技術的検討を行ってきた。正直なところ、もう少し早めに実施しておけば、取るべき対策についてももっと幅広く検討できたが、現段階では、工程管理を優先せざるを得ないため、「現時点で、できうることをできるだけ」実施することとした。与えられた条件の中で最適解を探すということである。
発注者、施工業者、設計コンサルタント各々の立場の違いから調整すべき事項は多いものの、当然ながら「良い物を作ろう」という意識は一致している。牧角先生からの適切なご指導・助言を踏まえ、対策の基本方針を以下のとおり定めた。
基本方針
① 壁の「ひびわれ指数算定」はFEM解析手法によることとし、ひび割れ指数>1.0を確保することとする。このため、必要に応じ、高性能減水剤の使用、ひび割れ誘発目地設置を行う。打設高さは、工期制約を考慮し、当初計画どおりとし、見直しは行わない。(ここにひび割れ指数=コンクリートの引っ張り強度/コンクリート水和熱に起因する温度応力の最大値)
② P3のフーチングは、ひび割れ指数<1.0となるため、取り得る対策としてひび割れ抑制ファイバーの混入を行う。
③ 型枠脱型時に観測された有害なひび割れについては補修を行う。
④ 解析と実挙動の関係を把握するため、P3で温度と鉄筋歪の計測を行う。
4) 部会の成果と情報の周知
本部会の検討結果に基づき、平成19年2月中旬のP3橋脚フーチングのコンクリート打設を皮切りに、順次作業を進めている。
本部会を進めるにあたり、設計・材料・施工の各々が品質に影響することを関係者が再認識し、各自の意識や主体性の高まりが認められた。「下部工コンクリートの品質確保・向上」という直接的効果のみならず、当事務所若手職員をはじめとした関係者の「技術力の向上」にも寄与していると考えている。
3 明星寺川流域下水道について
(1) 事業着手の経緯と課題
平成15年7月の集中豪雨により甚大な被害が発生した旧飯塚市及び旧穂波町に跨る明星寺川流域のさらなる浸水対策として、福岡県では、国における法制度の改正(平成17年11月1日施行)を受け、全国初となる専ら雨水を対象とした「明星寺川流域下水道事業」に平成17年度から着手した。
全体計画上の根幹施設は、旧飯塚市及び旧穂波町が平成13年度から実施していた「潤野枝国都市下水路事業」を継承した潤野枝国雨水幹線と流出抑制施設からなる。
近年、集中豪雨の発生頻度が確実に大きくなっている状況のなか、下水道事業として守るべき対象を明確にしたうえで、適正な整備水準の設定が必要と考えている。放流先河川水位の影響を受ける既存幹線管渠については、浸水シミュレーションを活用し、流量のみならず管内水位を求め、適切な能力評価を行うことにした。
また、流出抑制施設については、明星寺川上流域に調整池を設置する計画を固め、平成19年3月~4月に関係者説明会を開催し、詳細位置決定のための現地調査の実施について了解を得たところである。調整池に関しての都市計画決定等の法手続を平成19年度中に行い、事業進捗を図っていくこととしている。
(2) 潤野枝国雨水幹線国道200号横断水路工事の整備状況
本工事は、潤野枝国雨水幹線の流末となる水路築造工事であり、交通量が非常に多い国道200号バイパス直下に、延長38m、内幅4m高さ2mの水路構造物を築造するものである。
日交通量約3万台という交通量の多さに加え、交差点部での工事、NTT等の支障埋設物、構造物から道路舗装面までの被りが最小部で1.5mしかないこと、立坑等の施工ヤードの状況等を踏まえた工法選定の結果、鉄道軌道下での立体交差工事に実績のあるHEP& JES工法(High Speed Element PULL & JOINT ELEMENT STRUCTURE~ヘップ・アンド・ジェス工法)を採用することにした。
HEP&JES工法とは、まず道路上に発進及び到達という二つの立坑(今回の深さ約7m)を作り、この立坑を利用して、鉄製の箱形の筒であるエレメント(1.0×0.8m)を道路直角方向に順次挿入していく。次に、この地盤中に挿入したエレメントにコンクリートの充填を行い、このエレメントを本体として利用し、横断水路(道路下延長38m、水路の内寸法4mX2m)を築造するものである。大きな断面の構造物をいきなり道路下に押し込んで行くのでは無く、分割した(今回は16分割)小さい断面(1mX0.9m)のエレメントを順次設置して行くやり方が、この工法の特徴である。
平成17年6月の本工事着手後、交通量の多い国道の交差点部であること、NTTの光ケーブル等の重要埋設物があることなどから、安全確実を第一に工事を進めてきた。国道下に存置されている過去の擁壁水路等のコンクリート構造物やH鋼等の鋼材が支障となるなど、不測の日数を要したが、平成18年12月上旬に無事に200号下を貫通させることができた。(写真-2)
本年(平成19年度)の梅雨期前には、本箇所を含め、約1.8kmの潤野枝国雨水幹線を供用させるため、現在鋭意工事進捗を図っている。供用後は明星寺川河川改修事業など他事業と併せ相当な効果が期待されている。
4 むすび
仕事をきちんと行うには、Passion、Energy、Skill、Willが必要だ。
特に、「WILL」とは、自分の行動を何に照らして考えるかという倫理感、相手の立場や考えを尊重し理解することができる想像力又は共感力、仕事をやり抜く根気、状況により軌道修正する柔軟性と勇気、つまずいても再び立ち上がるへこたれなさ、必要に応じいつでも戦う用意があるという心構え、未来世代の権利を守る意識、意見の違いや孤独を恐れない心意気、組織の中では機嫌良くすること又は良いふりをすること、失敗を活かす向上心、工学的良心と実際的な親切、書生的問題意識と商人的現実感覚などからなる総合力と思う。
いざ自分を振り返ると全く自信がないが、少なくともそんな「WILL」を持ち続けることができる人間になりたいと思っている。
困難多であるが、市民・県民の目線からの社会資本整備に向け、課員と共に引き続き汗を流してまいりたい。