「ちゃく2プロジェクト」によるプロジェクト管理
国土交通省 九州地方整備局
道路部 道路計画第1課長
道路部 道路計画第1課長
富 山 英 範
はじめに
行政に対して,非効率,意志決定が不透明,説明責任を果たしていない等の厳しい批判がなされている。このような批判に応えるため,九州地方整備局では,平成15年度から道路事業について「ちゃくちゃくプロジェクト」(以下「ちゃくプロ」と略す)のネーミングのもとでプロジェクト管理の新たな仕組みを導入してきた。今般,この取り組みが1年間を経て,目標設定から事後の達成状況評価までのマネジメント・サイクルを一巡したので,状況を報告する。
1 九州の5年で見える道づくり 「ちゃく2プロジェクト」
図ー1が「ちゃくプロ」によるプロジェクト管理の枠組みである。
厳しい財政制約の下,「選択と集中」を進めてスピーディに道路サービスを提供するため,コス卜縮減等の工夫をしながら早期の事業効果発現を目指して事業を進める。その中で,条件の整った事業については供用時期や効果などの目標を公表し,その実現に向けて関係者が一致して努力する,というのが基本的な考え方である。
■事業の効率化
九州地方整備局では,直轄国道の改築・交通安全事業として200以上の箇所で道路整備事業を行っている。この全ての事業箇所で,事業効果を考えて,コスト縮減やスピードアップの工夫を常に行い,事業を磨くことが第一歩である。
■対象事業の選定
3つの要件~①投資効果が高い,②円滑な事業進捗の環境が整っている,③5年以内に供用可能~を満たす事業区間を「ちゃく2プロジェクト」として選定する。
このプロジェクトの選定に際しては,各事業区間の供用までに必要な資源(予算等)と効果を考慮して今後の事業展開を検討するとともに,地域での支援体制や用地の確保状況等により実施可能性を確認する。
こうして選定した区間・箇所は,地方整備局として,目標達成に向けて集中的に推進すべき事業と位置づけられることになる。
■目標明示と事業進捗管理の徹底
「ちゃくプロ」選定事業については,整備効果の目標と明確な事業目標(供用目標,各年度の進捗目標)を設定し,公表している。
この供用目標と進捗目標は,整備局の道路部,用地部,各事業の担当事務所,地元の県,市町村などの関係者の共有の目標として定めるものである。この点は,「ちゃくプロ」にとって大変重要なポイントである。事業に関わる関係者が一つの明確な目標に向けて努力することが,着実な事業進捗につながると考えているからである。
2 「ちゃくプロ」導入の目的
「ちゃくプロ」導入の目的は「一般への情報提供の充実」と「プロジェクト管理の強化」である。
■一般への情報提供の充実
「ちゃくプロ」は,目標を公表し,それを実現するという「有言実行」の事業推進を目指す取り組みである。「ずっと工事をしているのに,何のためか,何をしているのか,いつになったらできるか分からない」といった一般の不満に対し,「ちゃくプロ」では,整備効果・供用目標・進捗目標を明示することで情報提供を充実し,説明責任を果たそうとしている。
事業に関する情報をより多くの方々に知って頂くために,「ちゃくプロ」選定事業の現地看板には,供用目標や事業の効果を明示している(図ー2)。あわせて,地方整備局のホームページでは,「ちゃくプロ」の内容各事業の概要や進捗状況をいつでもご覧いただけるようにしている。
■プロジェクト管理の徹底
プロジェクト管理とは,予算と時間の管理である。「ちゃくプロ」では,目標とする予算内と期間内に,道路整備の効果を得ることを目的としている。従来の道路事業においては,特定のプロジェクトを除きこの両方が同時に管理されることはなかった。オリンピック等に合わせて供用目標を決め,そのための費用増はやむを得ないとするか,予算に限度があるので何時できるかは分からないとするかが普通であった。
予算と時間の両面のプロジェクト管理の実現のためには,次の3点が必要とされる(図ー3)。
第一に,関係者の意識統一である。目標の検討段階で,効果・コスト・期間内での実現可能性について,担当者・関係者等が十分議論し,認識の共有ができる。目標は,押しつけられるものではなく,担当者等の参画の中で,地域の要請に応え,且つ実現可能な,自らの(チームの)ものとして設定されなければならない。
第二に,責任の自覚である。目標の公表は,情報提供の充実とともに,地域に対する責任として関係者間の自覚を高め,事業に携わる各人が目標達成のためにどうすべきかを考える環境を作っている。
第三に,コスト縮減に対する積極的な取り組みである。
目標とする供用年度までに投資可能な予算は限られている。一方で,道路事業は,進捗に伴い予期せぬ要因で当初見積りよりも費用が増加する傾向が強い。こうした状況下で公表された目標の達成のためには,絶えずコスト縮減の工夫をして,コスト増を抑えていくことが必要になる。
3 「ちゃくプロ2003」とその達成状況
「ちゃく2プロジェクト2003」は平成15年8月4日に公表した。対象となった事業は改築事業で78区間184km,交通安全事業43箇所,道の駅5箇所の計126区間・箇所である。供用時に期待される効果と平成19年度末までの供用目標及び平成15年度の進捗目標を表ー1に示す例のように,個別の箇所毎の情報を示したものである。この例の黒崎バイパスでは,全体延長5.8kmのうち,主要渋滞ポイントの解消のために,平成19年度に2.9km区間の供用を目標とし,15年度には高架橋工事着手及び用地取得96%を目指している。
平成16年7月16日には,平成15年度の事業執行を経て,昨年定めた目標がどの程度に達成されたかを検証し,その結果を公表した。
このうち15年度中の供用を目標としていた区間・箇所について見れば,表ー2に示すとおり,平成16年3月末で89%,発表直前の6月末で96%を実現した。
供用した箇所の事業効果については,当初設定した目標が定性的で,厳密な評価を行うには不十分なものもあるが,個別に効果の発現状況を確認した。渋滞緩和を主な目的として供用した17区間・箇所で,期待した効果が確認された箇所は16区間・箇所(94%)であった。今回,期待された効果が確認できていない1箇所を含め,部分供用の14箇所については,残り区間の事業実施等により,一層の効果の発揮を図ることとしている。
渋滞解消や時間短縮の効果が見込まれたものについては,図ー4に例示するように,個別に具体的な数字で効果を示した。例示の流交差点立体化事業では,交差点の渋滞が解消し,通過時間の最大20分程度の短縮が見られ,事業の投資回収期間は約1年と試算された。
供用した箇所を含め,表ー1にある「〇〇工事着手」や「区間の供用」,「用地取得率〇%」といった目標の実現状況をひとつづつ確認した結果,15年度末までに目標を達成した事業の区間・箇所は全体の75%という結果であった(図ー5)。残り25%のうち,5%は16年6月末までには目標に到達しており,13%は,15年度の目標は未達成であるが,全体工期としては回復可能である。5%が,目標未達成により供用目標を変更せざるを得なかった。こうした達成状況や未達成箇所における理由なども,表ー3に例示するように,個別事業毎に検証し公表している。例示の黒崎バイパスでは,目標通り高架橋に着手し,用地取得は目標以上の98%まで進んだ。
(詳細は,HP http://www.qsr.mlit.go.jp/n-michi)
4 「ちゃくプロ2004」の概要
平成16年7月16日,「ちゃく2プロジェクト2003」の達成状況と同時に,新たなプロジェクトの追加と目標の更新を経た「ちゃく2プロジェクト2004」を発表した。(表ー4)。
「2003」での経験を踏まえ,「ちゃくプロ」の効果を一層高めるため,以下の点を拡充している。
・改築・交通安全に加え,対象事業を共同溝・電線共同溝事業にも拡大
・進捗目標は,1年後の達成度評価がより客観的に明確になるよう留意して設定
・各事業の効果は,具体的な地名等を用いて表現し,地域住民や利用者にとってイメージしやすい表現とした
・事業全体の効果については,九州全体の現状をアウトカム指標で説明しながら,今後の「ちゃくプロ」の進展によって期待される効果を説明
5 「ちゃくプロ」導入後の状況
各年の目標達成を目指す仕事は,予算と時間の制約の下で必要な仕事を進める「プロジェクト」への挑戦である。前例踏襲で大過なく任期をつとめるという「お役所仕事」とは違った姿勢が求められる。地整全体として,また国道事務所として,さらには個別事業単位で,いかに時間(工程)を管理し,費用を管理していくかが問われることになる。
一年間の実施を経て,「ちゃくプロ」導入により,当初想定した以上の効果が現れている。
■関係者間の連携強化
各国道事務所では,目標達成に向けて,事務所長等をリーダーとする事業毎のプロジェクトチームを組織したり,短・中期的なわかりやすい工程表を作るなどして詳細・具体的な工程計画を立案し,事業の進捗や課題に関する情報が関係者間で共有できるような工夫を行っている。これにより.事務所での設計,用地取得,工事発注に携わる各課間(用地課,調査課,工務課)の協調が強まっている。
工事や用地担当者が,個別に,年度ごとの予算を執行することを目的と考えていれば,工事のしやすいところ,取得が容易な土地から取り組むのが得策ということになる。一方,「ちゃくプロ」の供用目標と行程を関係者が共有している場合では,クリテイカルパスになる用地や工事を最優先に作業を進めるとか,最悪の場合,収用手続きによっても供用目標を確保できるように,迷わず収用手続きのスケジュールを立案するという行動にもつながっている。
また,一部の用地交渉や工事が遅れた場合に,調査課と工務課が知恵を出しあって,工事が可能な範囲で暫定的な構造での供用を計画し,何とか目標を達成しようというような努力も見られる。
■目標公表による地域の協力
供用目標の公表に対して,地域の新聞からは大変好意的な評価を頂いているところである。各地域のバイパス等がどのような効果があり,いつを供用目標としているかについては,大きく取り上げられている。
また,地方議会でも直轄国道の供用時期に関する質問は多く,「ちゃくプロ」は自治体関係者の答弁根拠として活用されている。自治体からの国土交通省に対する要望についても,単なる早期整備ではなく,自治体として応援・協力する姿勢を示していただいている。
さらに用地買収に際して,地権者の方から,「協力はするが,何時できるのか」と聞かれることも多い。このような場合,従来では「ふつうは10年ぐらい」とか「まだ見通しが立ちません」といった返答しかできなかった。「ちゃくプロ」の事業区間であれば,明確な目標を示すことができるの,で地権者の協力も得られやすくなったという効果もある。
■コスト節減
コスト管理についても,「ちゃくプロ」が職員のエ夫を引き出す効果を発揮している。
政府の「コスト構造改革」の枠組みもあって,平成15年度に地整の設計ストックの全てをコストの観点から見直す「設計総点検」を実施したところ,全体の62%にあたる事業で何らかのコスト縮減策が適用されている。
すでに地元に計画を説明し用地買収に着手している箇所であっても,環境やコスト縮減の観点から,計画を変更し,再度地元に説明して了解を得るという努力も行われている。
6 「ちゃくプロ」の課題と今後
「ちゃくプロ」の一巡で,目標の設定をカギにプロジェクト管理を強化するという考えを具体化することができた。事業の実施について具体的・詳細な効果と目標を公表し,その達成状況を評価できたことは重要な成果と考えている。今後とも,この成果をステップに,実務で生じる問題に対処しながら改善を進めていきたい。
特に,コスト管理は重要な課題である。不確定要素が多数あるなかで所要の事業費を見積り,その後のエ夫で増加要因を押さえ込む努力とノウハウの蓄積が重要になっている。
目標設定の方法も重要な課題である。既述のように,目標は,地域の早期整備に対する要請に応えると同時に実現可能なものでなければならない。予算・人員上の制約の中で,いかに適切な目標を立てるかのノウハウも蓄積する必要がある。
また,「ちゃくプロ」の仕組みが定着し成果を上げていくためには,九州地方整備局で道路事業に携わる全員に「ちゃくプロ」の意義についての共通認識が形成されることが重要である。適切な目標を関係者が共有することがこのプロジェクト管理のキーポイントだからである。
おわりに
九州地方の各県において,「ちゃくプロ」と同様な取り組みを行おうという動きがあることは心強い限りである。今後ともに考えながら「ちゃくプロ」の改善に取り組んでいきたい。
各県・地域によって事情が異なり,各地にあった取り組みが求められている現在,地域の期待に応られる社会資本整備の進め方について「ちゃくプロ」が参考となれば幸いである。
最後に,ここに記した成果が,前例のない取り組みに戸惑いながらも,自らの目標を立てて全力投球した職員各位と,ご協力頂いた関係各位のご努力の賜物であることを銘記し,敬意を表する次第である。