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鹿児島県垂水市二川地区深港川における土石流災害の
概要と対応について<仮橋完成までの74日間>
上原良文
綾織孝文

キーワード:国道220号、土石流、仮橋

1.はじめに
今年、九州南部では6月から8月にかけて、平年のおよそ2倍の降水量を記録した。
鹿児島県垂水市二川地区(図-1)に位置する準用河川深港川においては、平成27年6月24日に、国道220号から約1㎞上流の山体斜面が崩落し、大規模な土石流が発生した(写真-1)。

土石流により流れ下った巨石や大量の土砂が深港川の河道を埋め尽くしたため、垂水市は地区住民に避難勧告を発令した。また、国道220号においては、深港川を跨ぐ深港橋が被災したことから全面通行止めを行うこととなった。
その後も大規模な土石流は2度(7月5日)、3度(7月28日)と繰り返し発生し、その度に国道220号は通行止めを強いられたため、住民生活・経済・産業・観光といった各分野に多大な影響が及んだ。
これらの土石流に対して、大隅河川国道事務所、鹿児島県及び垂水市は、早急な復旧に向けて連携して取り組んだ。大隅河川国道事務所は国道220号の既設の深港橋下流に仮橋を架橋し、迂回路を完成させた。一方で鹿児島県及び垂水市においては、河川内の土砂撤去や導流堤、床固工を設置するなどして地域や国道を守るための応急復旧対策を完了させた。ここでは、それまでの経緯と、今後の本復旧に向けた取り組みについて紹介する。

2.土石流の発生とその影響
今回の災害の特徴は、深港川の河道を埋め尽くす程の大規模な土石流が1ヶ月のうちに三度も発生したことである(写真-2~4)。土石流の発生とその影響について以下に示す。

〈1〉土石流発生と被害の状況
土石流は、1度目が6月24日、2度目が7月5日、3度目が7月28日と、3度にわたって発生し、その都度、深港川を巨石と大量の土砂が埋め尽くした(写真-5,6)。

人的被害はなかったものの、床下浸水や農地への土砂流出といった被害が発生した。国道220号は、河道が埋塞する度に交通の安全が確保できなくなり通行止めを行った。また、土石流による巨石等の衝突で、深港橋の桁の一部が損傷を受けた(写真-7)。

〈2〉国道220号の通行止めによる影響
深港橋の通行止めにより、通行車両は迂回を強いられ、通勤や物流に多大な影響が及んだ。
福祉サービスにおいては、デイサービスや訪問給食が中止となった。また、通学においてはスクールバスが運休となったため、小・中学生が自宅待機や漁船での通学を強いられた(写真-8)。

さらに、規制箇所に近い場所に位置する「道の駅 たるみず」では、通行規制期間中の客数及び売上げがともに前年比で約40%減少した(図-2)。
なお、土石流によって河道に溜まった土砂の撤去後も、仮橋による迂回路が完成するまで片側交互通行となり、日常生活に大きな影響を与えた。

3.繰り返された土石流発生のメカニズム
崩壊した山体斜面は、亀裂の多い帯状の溶結凝灰岩の上に火砕流堆積物が厚く堆積した地層となっている。今年の6、7月はいずれも平年の2倍を超える程の降水量を記録したことから、地下水位が上昇し、溶結凝灰岩の下部が崩落したため、上部斜面が不安定となり、大規模な土石流の発生に繋がったと考えられる(写真-9,図-3)。

4.二次被災を防いだ応急復旧対策について
〈1〉河川管理者(垂水市)の対応
土石流が河道を埋め尽くす度、垂水市は河道を確保するために昼夜を問わず土砂撤去を行った(写真-10)。

〈2〉土石流の監視体制の確立
大隅河川国道事務所は、垂水市による土砂撤去によって河道が確保され、片側交互通行となった後でも、安全な通行が確保できない場合は通行止めの措置をとる必要があったことから、常時監視が必要と判断したため、現地に監視員を配置し、夜間も監視できるよう、投光機と監視カメラを設置して24時間監視体制をとった。併せて深港川河道内に土石流を検知するワイヤーセンサーを設置し、監視体制の強化を図った(写真-11,12)。
なお、これらの監視カメラやワイヤーセンサーの情報は、鹿児島県や垂水市にもリアルタイムで提供し、土石流発生時には各々が直ちに対応できる体制を確立した。

〈3〉砂防事業者(鹿児島県)の対応
鹿児島県は今回の土石流を受け、今後、住宅地域が被災するおそれがあるとして、緊急的に砂防事業に着手した。土石流による人家や国道への被災を防ぐため、応急的対策として上流部の除石及び土砂撤去を行い、導流堤及び床固工の設置を行った(写真-13)。

〈4〉土石流が発生しても安全な通行を確保するための取り組み
今回の土石流は降雨により浸透した地下水が原因である。地下水位が高いうちは雨が降っていなくても何時発生するか分からない状況にあり、土石流が繰り返し発生した場合は、その度に通行止めを強いられるおそれがあった。
これらのことを踏まえ、大隅河川国道事務所では、今後土石流が発生した場合でも出来るだけ安全に通行できるよう対策を検討し、急遽、応急組立橋を用いた迂回路を設置することとなった。
迂回路計画については8月6日に地元説明会を開催し、地域住民の方からの承諾を頂いた後、調査設計、用地調査・協議と仮橋工事を同時進行することで早期供用を目指した(写真-14,15)。
その結果、1ヶ月以内で全ての作業を終え、9月5日に供用を行うことができた。仮橋の供用により交通の安全が確保できたことから、現地での24時間監視体制を解除した。

5.今後の本復旧対策工について
鹿児島県は、斜面崩壊の要因となった地下水位を低下させるため、斜面上部に集水井の施工を予定している。また、深港川上流部に砂防堰堤を設置し、堆積した土砂が住宅地域や国道まで流下しないよう対策を講じる予定である。
国道220号の本復旧については、今後の鹿児島県の砂防事業の進捗やその効果を見据えながら対応内容を検討していく考えである。

6.おわりに
3度目の土石流以降、地下水量も減少しており、土石流発生のおそれは低くなっていると考えられるが、斜面は未だ不安定な状態であり、今後も雨が続けば再び土石流が発生するおそれがある。
深港川で発生した土石流は、人的被害こそ無かったものの、避難された地域住民の方に加え、国道220号の利用者や、地域の暮らしに多大な影響を与えた。このような影響を抜本的に回避するため、関係機関が一体となり取り組んでいかなければならない。
最後に、6月24日の災害発生から、土石流対策や橋梁補修等の対応についてご指導いただきました学識経験者の皆様や、一刻も早い地域の安全と交通の確保に向けて、昼夜を問わない懸命な復旧活動にご尽力頂きました企業の関係各位に、深く感謝申し上げます。

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