高規格道路のルート選定における
リモートセンシングの利用について
リモートセンシングの利用について
建設省八代工事事務所
所 長
所 長
森 喜 男
建設省八代工事事務所
調査第二課長
調査第二課長
内 田 導 博
建設省八代工事事務所
調査第二係長
調査第二係長
徳 重 栄 紀
建設省八代工事事務所
工務第二課
工務第二課
田 浦 峰 星
1 まえがき
本業務は,南九州西回り自動車道「日奈久一北道路」のルート選定のための基礎資料を得るため,リモートセンシング(遠隔探査技術)手法による地質概査を行ったもので,図ー1に示すように八代市日奈久町~熊本・鹿児島県境にかけての区間周辺地域について写真判読を行うとともに,日奈久ー芦北間については,ヘリコプターから環境ガンマ線を測定し,想定計画ルート沿いの断層等地質状況を解析評価したものである。
2 調査地域概要
調査対象地域は,熊本県南西部の八代以南に位置し,中部九州を斜めに北東ー南西方向に横切る2つの大規模な地質上の構造線である臼杵一八代構造線と仏像構造線に挟まれた「秩父帯」中に位置し(図ー2),古生代と中生代の堆積岩類から主に構成され,石灰岩・蛇紋岩・花崗岩類・片麻岩類等の地質を伴う。本地域には上記の構造線以外にも多数の断層が分布し,地質構造線の方向と同様のものをはじめ,その他の各種方向のものがある。
また,調査対象地域に隣接して西部には,八代~日奈久を結ぶ北東ー南西方向に新しい地質時代(2百万年前以降)に活動したとされる第四紀断層(一般には活断層と称される)の日奈久断層が分布している。本地域内にも同断層にほぼ平行して赤松付近を通る第四紀断層の瀬高ー内野断層が知られている(図ー3)。
3 調査手順
本調査は,次の図ー4に示すフローのように実施した。
4 調査結果
4.1 航空写真判読
判読は,縮尺1/40,000で地質の大構造を把握し,縮尺1/12,500で計画ルートを含む周辺の荒廃状況等の土地条件を把握するようにした。
4.1.1 地質の大構造判読
国土地理院撮影(1964~1965年)モノクロ航空写真(1/40,000)によりリニアメント(線状模様)や断層について判読を行い,結果を「地質構造図」として示した。判読結果によれば,図ー5に示すように調査地域北東部を占める古生代・中生代の古い地層からなる地域にリニアメントが多数分布し,断層や破砕帯が多い事が予想される。
4.1.2 計画ルートの土地条件判読
計画ルート線沿いについては,八代工事事務所撮影(1989年)カラー航空写真(1/12,500)により崩壊地や地すべり等の災害地を判読し,「土地条件図」を作成した。災害地形は端的に岩盤の脆弱性を反映しているので,本図はその分布の状況を見るのが目的である。判読結果によれば,崩壊跡地は調査地域全般にわたって存在し,地すべり地形は下記の地質条件の所で発生していることがわかった。図ー6はこれらの中の赤松付近の土地条件図の例である。
・赤松太郎峠前後の蛇紋岩分布地帯
・佐敷太郎峠の山陵北斜面の古生層分布地帯
・湯浦から豊岡付近の古生層分布地帯
なお,これらのリニアメントや地すべり地形の中には後述の空中ガンマ線探査の結果とも一致しており,破砕が進んでいてトンネル掘削あるいはのり面切土等の施工上要注意と評価されるものがある。
4.2 空中ガンマ線探査
ガンマ線(γ線)とは岩石中に含まれている放射性元素が崩壊して安定した元素に変化する過程において発生するもので,図ー7に示すように波長の極めて短い電磁波(10-8~10-11cm)であり,透過力が強いという特性がある。例えば放射性元素の代表であるウランの場合には次のようにガンマ線を出しながらラドン,ビスマスを経て最終的には鉛になって安定する。
このガンマ線のエネルギーは元素ごとに異なるので,エネルギーを測定することにより地上に放射されてくる元素を確認することができる。
4.2.1 探査方法
本手法は空中システムと地上システムからなり前者では専用ヘリコプターに搭載したセンサーにより,対象とする箇所の平均的なガンマ線の強度を0.5秒ごとに空中において測定するものである。測定は,対地高度100m前後,飛行速度50~100km/時という条件で実施し,同時に高度や速度等の飛行情報とともに垂直カラービデオ映像を撮影し,解析のための補足資料とする。さらに,地上システムでは,パソコンを利用した測定値の打ち出し演算,グラフ表示等処理を行い,解析の基礎的データを作成する(図ー8,9)。
4.2.2 地質条件とガンマ線
開口的である断裂は地中ガスを良く通し,放射性ガス元素としてのラドン(Rn)やトロン(Th)の移動も容易となる。とくに,トロンはガスとしての生存期間が短い(半減期はラドンが約4日,トロンが約1分)ことからトロン強度が高い場所では開口性亀裂が多く発生していることが予想される。事実,図ー10に示すように各地の地質の脆弱部におけるTh/Rn比は0.6~0.7(鹿児島県下のシラスの数値に近い)で比較的大きい。
また,参考のために一般的な状態の岩盤の弾性波速度との関係を比較すると図ー11のようであり例外(1)を除いては両者は反比例の関係にある(この点に関しては,今後の調査の中で本地域における両者の具体的な数値の関係を検証したい)。すなわちトロン/ラドン比は岩盤の破砕度が高いほど大きくなり,岩盤破砕を区分する上での指標となる。
4.3 計画ルートの地質評価
各計画ルートのトンネルと切土区間ならびに蛇紋岩地帯について,また断層やリニアメントの中で計画ルートに関係するものについて,空中ガンマ線探査の結果からトロン/ラドン比により評価を試み「地質条件評価図」としてまとめた。結果として,本地域は全体的にみて岩盤が圧砕され細片化した状況を呈している。
とくに,北部地区は蛇紋岩地帯が分布し,また断層及びリニアメントが多いなど地質上問題となる要素が多い。
断層地点では,Th/Rn比が全体の平均よりも高くなる箇所も多く,5箇所ではとくに大きく,0.60以上となっている。これらの断層の一部には,第四紀断層が含まれ,日奈久一田浦間に分布し赤松太郎峠付近を通り,北東一南西方向に延びるものでは4箇所で強いTh/Rn比が観測され,同断層の存在の可能性を裏づける結果となっている。
リニアメントについても,Th/Rn比が平均値以上の高い値を示す場合が多い。断層と同様,とくに北東一南西系の方向のものに強い反応が認められた。なお,図ー12に示すように航空写真判読解析からの断層等が分布する要注意箇所と空中ガンマ線探査結果は一致している。
なお,図ー13は調査対象地域に分布する代表的岩種ごとの空中ガンマ線のカリウム(K)成分の強度を示したものである。ただし,図に示した値は,各岩種の平均値であって岩種ごとにみるとそれぞれ変動があり,互いに強度が重複する関係にある。
同図による岩種区分はそうした変動に起因する誤差を含むことに留意する必要があるが,本地域の岩種はカリウム成分上はカウント数(5秒間)が大きい(600~800)グループと小さい(200~400)グループに二分できる。前のグループには中生層・古生層・花崗岩が,後のグループには蛇紋岩・片麻岩・緑色片岩が含まれる。なお石灰岩は,両グループの間に位置し,平均値で580カウント(5秒間)程度であるという特徴を呈する。
5 まとめ
計画段階でルートは山側・中央・海側の3ルートが設定されたが,各ルートの地質条件を把握して最適ルートを選定するために,航空写真解析と空中ガンマ線探査による地質概査を実施した。
これらのリモートセンシング手法による調査対象地域の定性的(航空写真)と定量的(ガンマ線値)な地形情報を総合的に比較検討することにより,合理的にルートを選定するに至っている。最適ルート選定にあたっては,図ー14に示すような地質条件の箇所を可能な限り避けるようにした。
① 岩盤が圧砕をうけ,粘土化が進んでいる(蛇紋岩地帯)。
② 断層破砕帯あるいは岩盤破砕部が発達する。
③ 鍾乳洞が存在する(石灰岩地帯)。
結果として,ルートは北部では蛇紋地帯を避け中央部では比較的破砕の少ない地域を選び,そして南部では石灰岩地帯が比較的短くなるような区間に社会的条件(IC等)を考慮した中央ルートを設定した。
従来から,ルートの調査は全線において地表踏査と弾性波探査およびボーリング調査が実施されることが一般的であるが,概略調査の段階における本リモートセンシングの活用により,ルート上の問題点を明確にすることができる利点がある。また,本手法は今後の具体的な調査のための必要箇所および作業量の把握に役立てることができ,ルート選択における期間の短縮および経費の節約の面で有効である。