青葉大橋の設計と施工について
合成アーチ併用工法による鉄筋コンクリート固定アーチ橋
合成アーチ併用工法による鉄筋コンクリート固定アーチ橋
宮崎県土木部
道路建設課長
道路建設課長
日 高 孝
1 はじめに
宮崎県が「神々の里」として有名な観光地,高千穂町の高千穂渓谷内に建設した青葉大橋はアーチ支間が180mと国内最大クラスの大規模鉄筋コンクリートアーチ橋である。
また,青葉大橋とともに街路事業も進めておりこれの完成により高千穂峡周辺の交通渋滞解消と生活道路としての機能が確保され,さらにアーチ橋特有の構造美が周囲の景観と調和し地域のシンボルとなり,地域発展に大きく貢献するものと期待され平成8年12月に無事開通式を迎えることができた。
本橋は,国内ではじめて合成アーチを併用工法に用いたもので,施工には細心の注意を払い各種の計測により安全性をチェックしながら進めた。
今回,青葉大橋の設計,施工についての概要を報告する。
2 設計概要
(1)地形・地質,橋梁形式
架橋地点には,五ケ瀬川沿いの急崖部を形成する阿蘇火砕流堆積物が分布しており,支持地盤としては,ASO3,ASO4で境界部に非溶結の低強度部分があるが,他は比較的安定したCM~CH級岩盤となっている。
橋梁形式については,下記4案について比較検討を行ったが,橋面高が河床より100mの位置になり河床付近への工事用道路建設が不可能なこと,また架橋地点が祖母・傾国定公園内になり景観に配慮したこと等により,単径間で谷をまたぐ④案のRCアーチ橋とした。
① PCラーメン橋
② PC斜張橋
③ 吊床版橋
④ RCアーチ橋
(2)下部工
A1,A2橋台は,架設時にアンカ一体とするため背面にグランドアンカーを設置した。なおアンカ一体の安定は,躯体自重とグランドアンカーの共同耐力により成り立っている。
P3,P4躯体については,地盤反力に着目し,2次元FEM解析により検討を行い,躯体前面の直立岩盤の風化に伴う柱状節理に沿った滑落の影響については,平面弾塑性解析により検討を行い安全性を確認した。
(3)上部工
本工事における,上部工の架設工法上の特徴は下記の3点であるが,設計計算は図ー4に示す施工要領に従って,構造系の変化を追いながら,施工中のクリープ・乾燥収縮の影響を考慮して,平面骨組構造解析等にて進めた。
① 架設工法はトラス・メラン(合成アーチ)併用工法である。
② アーチリングの施工が大ブロック工法である。
③ アーチリング・鉛直材・補剛桁はすべて完成系構造として架設する。
斜材の設計は,従荷重の影響,施工誤差等を考慮し目標応力度を次のとおり設定した。
斜材張力は,アーチリング・鉛直材・補剛桁の応力を許容値内に収めるように設定し,特に応力変動幅の大きい鉛直材に着目,調整した。
合成アーチの配置は,経済性・施工性により中央部57mの区間に決め,トラス部との結合については,温度応力の緩和および施工性を考慮しピン結合とした(図ー5,写真ー1)。材料はSM490を主材として使用,許容応力度の割増しは1.25とした。
耐震性の検討は,道路橋示方書・同解説Ⅴ耐震設計編(平成2年2月)に準拠,応答スペクトル法により地震応答を求め,震度法で設計された橋梁断面に対して動的安全性を照査することにより実施した。震度法と動的解析による応答値の比較結果は表ー2に示すようになり,震度法による計算値が動的解析値を上回り安全性が確認された。
3 施工概要
(1)下部工
基礎掘削については,架橋地点が国定公園内にあること,直下には自然遊歩道があることから,渓谷内に掘削岩塊を落とせないため,岩盤の掘削は発破併用機械掘削とした。またグランドアンカーはPC鋼より線SEEEF230TBをA1側18本,A2側22本配置し,アーチアバットの施工についてはフーチングがマッシブなため,コンクリート打設後の温度上昇に注意しながら行い,打設高を1mとして10ロットに分割した。
(2)上部工
バックステーは総支保工にて施工し,斜め部材であるため全面型枠となり,コンクリートを確実に充坦する必要があり,そのため流動化コンクリートとした。またアーチ部の片持ち張出し架設に先立ちバックステーにプレストレスの導入を行い,この導入は最大荷重時となる最大片持ち張出し状態までに3段階に分けて行った。
補剛桁の施工は1径間ごとの施工であり,高所,傾斜面となり,設置式支保工の設置が困難なため,梁式支保工により行った。
スプリンギング部は,設置式支保工で施工したが,長さ8.28mの内2m部分が充実断面となっており,他は箱桁形状の構造である。斜め部材のため全面型枠となり,そのため流動化コンクリートを使用し,押さえ型枠は繊維型枠とした。コンクリート打設については,施工性を考慮して2ロットに分けて行った。
アーチ部の片持ち張出し架設は,特殊大型移動架設車を用いたトラス工法としており,この架設車により鉛直材間L=16mが2サイクルで施工可能となった。トラス部の施工は,アーチリング・鉛直材・補剛桁の施工を順次繰り返すもので,各部材の施工工程の短縮が全体工程に及ほす影響は大きく,本架設車の使用により大幅に工程の短縮を行うことができた。また,9mの最大施工長を可能にするため,本体先端部をPC鋼より線にて先吊りする構造とした。
斜材のプレストレス量は,アーチリング・鉛直材・補剛桁の各部材を目標応力度内に収めるように設定し,材料としては,異形PC鋼棒を使用した。また,導入誤差を最小限に抑えるため,ジャッキ背面にロードセルを設置し,振動測定と併用することにより作業の効率化をはかった。
斜材プレストレス量の設定は主荷重以外に下記の3種類を考慮し,導入プレストレスは,次の条件を満たすようにした。
① 風荷重(30m/sec)
② 温度変化(±30℃)
③ 施工誤差(5%)
合成アーチの鋼管は工場製作であり,架設については,ケーブルエレクション斜吊り工法にて下記の施工方法により行った。
① 架設機材の配置(ケーブルクレーン設備)
② 鋼管ブロックの搬入
③ 鋼管ブロック架設及び斜吊り
④ 鋼管閉合
⑤ コンクリート充填
⑥ 合成アーチ部巻立て
⑦ アーチリング閉合
鋼管を閉合したのち,コンクリート巻立時の鋼管応力改善を目的として,斜吊りケーブルの張力調整を実施した。その後,充填コンクリートを打設し,コンクリート硬化後に斜吊り材を撤去した。
合成アーチ内に設置した計測器の計測値と,計算値はよく一致しており,安全にアーチリングの閉合を行うことができた。
4 デザイン
青葉大橋は,前述のとおり県内でも有数の観光地で年間100万人の観光客が訪れる祖母・傾国定公園の高千穂峡近くに位置しているため,景観に配慮した橋梁形式にすると同時に,橋面工についても,建設本省と工法協議を行い,下記のようなグレードアップを行った。
① 親柱
神々の里高千穂をイメージし,高欄・照明灯との色彩バランスおよび,重量感,自然な雰囲気を重視,黒御影石を使用し,その中に神楽面をほりこみ,橋梁中央部歩道高欄部にもモニュメントとして設置した。
② 高欄
周辺環境との調和を考慮して,茶系統の特殊粉体塗装,縦格子ひねり加工のものを使用し,①同様,神楽をイメージしたデザインパネルを歩道側に20枚配置した。
③ 照明灯
工場塗装による茶系統とした。
④ 歩道舗装
①と同様,自然な雰囲気に配慮し,白,黒,桜の御影石を配置した。
5 あとがき
以上,青葉大橋の設計と施工について概要を述べた。振り返ってみれば,本橋は平成2年に下部工に着手,平成4年12月上部工を発注し,九州地方を襲った平成5年の災害により,半年の工期延伸が生じたが,7年の歳月を費し,このたびようやく完成した。今後,周囲の景観と調和した地域のモニュメントとして,末永く愛されることを願う次第であります。
最後に,青葉大橋の計画・設計・施工にあたり多大な御指導と御助言を賜った「青葉大橋技術検討委員会(委員長中沢隆雄宮崎大学教授)」の委員の方々に,また,本橋梁工事に携われた方々の労苦に対して,この場を借りて深く感謝の意を表し厚くお礼を申し上げます。