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長崎自動車道うれしの・俵坂トンネル変状対策工事について

日本道路公団九州支社
 建設部建設第一課課長
河 野 正 博

日本道路公団九州支社
 建設部建設第一課技師
高 卯 和 博

1 はじめに
長崎自動車道東そのぎ~嬉野間は,旧長崎街道に沿って佐賀県嬉野町から長崎県東彼杵町に至る区間であり,全延長9.8㎞のうち,俵坂トンネル(2,610m),不動山トンネル(2,006m),うれしのトンネル(683m)が約6割を占めている。本路線は,従来の国道34号線に替わって長崎県と九州他県を結ぶ重要路線となっており,日交通量は現在約14,000台である(図ー1.1)。

同区間のⅠ期線は平成2年1月に暫定2車線供用したが,うれしの・俵坂両トンネルについては供用当初から路盤隆起・覆工クラック・円形水路の破損等のトンネル変状が見られたため,応急対策工として隆起した路盤へのロックボルトの打設や路面の切削オーバーレイを実施してきた。また,これと並行して専門家からなる変状対策検討委員会を平成3年度から組織し,その後の変状の進行と地山特性等の詳細な調査・検討を行った。その結果トンネル変状の原因を明らかにするとともに恒久対策工としてインバートの追加設置を行うことを決定した。
一方,当該区間は交通量が順調に増加したため平成5年度からⅡ期線のトンネル工事に着手し,平成8年度末には舗装工事を完了した。JHでは,変状対策委員会の提言に基づき,平成9年度から一時Ⅱ期線に交通を切り替えてⅠ期線側のトンネル変状区間にインバートの追加設置を行い,去る平成9年12月に4車線開放することができた。
本稿では,NATMにより施工されたものとしては前例の少ない変状トンネルの大規模改良工事の施工事例として,その変状原因・対策工の設計・施工概要とトンネル変状解析について報告するものである。

2 地形・地質概要
2.1 地形概要
うれしの・俵坂トンネルの山体は,長崎県と佐賀県の県境に位置する虚空蔵山山系の南東部に位置し県境の標高472mを最高点とする中起状の山地である。山地の中腹以上は主に安山岩が分布するため比較的急峻な地形を呈するが,山麓部では侵食されやすい凝灰角礫岩や古第三紀層などのやや軟質な砂岩・頁岩からなるため緩傾斜面や平坦面を形成する。
トンネル土かぶりは,坑口部を除きうれしのトンネルでは70m~100m程度であるが,俵坂トンネルについては,200m~300mの区間が大部分を占めている。

2.2 地質概要
うれしのトンネルの地質は,中央部付近150m区間の断層に挟まれた自破砕状の安山岩と,風化が進んだ凝灰角礫岩を主体として構成されている(図ー2.1)。また,最大約150㎜の路盤隆起が計測されたSTA214付近の約20m区間については,一部頁岩が存在している。俵坂トンネルについては,大半が古第三紀の頁岩と凝灰角礫岩から成るが,トンネル中央部と東坑口部に比較的硬い玄武岩が見られる(図ー2.2)。
トンネル変状区間は,両トンネルとも頁岩および凝灰角礫岩の区間と一致しており,これらの地質構成が変状の素因になったことがうかがえる。

3 トンネル変状状況
トンネル変状は,平成2年1月の供用前から路盤隆起が観測され,その後覆工クラック,漏水,監査廊・円形水路および縁石・ハンドホールの破損などが発生していた(写真ー3.1,3.2)。これら変状は,うれしの・俵坂トンネルの中央部付近を中心に広範囲に見られるが,頁岩・凝灰角礫岩区間で掘削当初の地山状況からインバートを設置しなかった箇所において顕著であった。

路盤隆起・内空変位については,通行車両への影響が懸念されたため,供用後定期的に変位量の測定を行った。変位の進行状況を図ー3.1,3.2に示す。特に路盤隆起は供用の後,恒常的に進行し最大(累積)で約175㎜を記録した。これら変位は平成7年度以降に沈静化の傾向が見られるものの依然として収束していない。また,これらの区間で調査ボーリングを実施した結果,路盤下部-5m付近まで劣化が進行していた(図ー3.3)。

覆工クラック展開図を図ー3.4に示す。側壁部の水平方向の亀裂が多く,一部では5㎜以上の食違いが見られている。また,壁面の押出しによる断面縮小も生じている。

4 地山の力学的特性と変状原因の推定
4.1 地山の力学的特性
トンネル変状の著しい区間については.Ⅰ期線供用後の平成3年度以降,地山の力学的特性の把握のために調査ボーリング・地中変位計の設置・計測等を行っている。
路盤隆起の著しい頁岩区間の代表的な地山試料試験結果(Ⅰ期線施工時)によると,一軸圧縮強度は100~130㎏/cm2,超音波速度(Vp)は3.1~3.3㎞/s程度であり,施工時に採取された新鮮な状態では比較的健全な軟岩であったことが分かる。一方,変状を起こした路盤下部の地山を調査した結果,一軸圧縮強度は約20㎏/cm2,超音波速度(Vp)は2.0㎞/sであった。これらは,施工当初の数値と比較して著しく低い値を示しておりコア観察状況からも路盤下部の地山が劣化していることが分かった。また,変状後の地山についてスレーキング・膨脹率・X線分析により長期安定性を調査した結果,うれしのトンネルでは膨脹性粘土鉱物を含んでいること,俵坂トンネルではスレーキング率が高いことなどから時間依存性の劣化を起こし易い地山であることが分かった。

4.2 変状原因の推定
これらの調査・試験結果から,変状原因として以下のように考えた。
うれしのトンネルについては,周辺地山(頁岩,凝灰角礫岩)に膨脹性粘土鉱物(モンモリロナイト)が含まれ,トンネル掘削による応力開放に伴い,低い拘束圧下におかれた粘土鉱物の吸水膨脹により劣化が進行し,塑性域拡大を起こして土圧が増加したものと考えられる。また俵坂トンネルについては,周辺地山(特に頁岩)の地山強度が低いうえ,スレーキングを起こし易いために,掘削による応力開放および吸水により劣化が進行し,塑性域拡大を起こして土圧が増加したものと考えられる。

5 変状対策工の概要
5.1 設 計
恒久的な変状対策工の設計については,今後長期の規制を伴う大規模改良は困難であることから抜本的な対策とし,地山の土圧に対する覆工の抵抗力の回復を図ることを目的としてインバートの設置を行うことにした。
対策範囲については,これまでの詳細な地山試料試験結果と変状の進行状況を考慮し,将来にわたって変状の可能性のある区間全域を対象とした。この結果,20㎜以上の路盤隆起が観測された頁岩区間と凝灰角礫岩およびうれしのトンネルで熱変質を受けている安山岩区間の合計1,885mとした(図ー2.1,2.2)。これにより,既設インバート分も併せてうれしのトンネルについては全区間,俵坂トンネルについては玄武岩を除くすべての区間でインバートによる覆工の閉合を行うことになった。
インバートの標準形状・寸法を図ー5.1に示す。既存覆工のアーチ部支保構造との整合を考慮し,インバート閉合効果を高める目的で標準厚さを45㎝,半径については通常よりも小さい10.2mを採用した。また,既設覆工とインバートの接合部は逆巻きとなるため応力伝達が円滑となるように覆工端部を斜めにカットすることにした。なお,変状発生による特殊性やⅡ期線部の覆工・インバート応力計測結果から,路盤変状や覆工クラックの著しい区間については安全率の向上を目的として内側(引張側)にトンネル坑口部の一般的な補強鉄筋と同程度の鉄筋を配置した。

5.2 施 工
対策工事は下記に示す手順で,既設舗装版の取壊しからインバート打設・埋戻しまでを一日のサイクル作業として実施した(図ー5.2)。
 ① 監視員通路取壊し
 ② 舗装版カッター工
   (以上先行施工)
 ③ 舗装版・円形水路等取壊し
 ④ インバート掘削
 ⑤ 覆工足元部取壊しおよびチッピング工
 ⑥ インバートコンクリート打設
 ⑦ インバート埋戻し(③~⑦は日施工サイクル)
  ただし,既設の舗装版撤去およびインバートの施工にあたっては,次に示す条件で施工を行った。
(1) 覆工コンクリート側壁の変状や亀裂の拡大など施工時の変状を防ぐ目的で3.5mごとの抜き掘り掘削を行う。
(2) 掘削に伴うゆるみ領域の拡大を防ぐとともに,覆工と合わせた早期の閉合効果を期待してインバートには早強コンクリートを採用する。
(3) 変状の顕著な区間では,施工中の覆工側壁部の押し出しを制限し覆工と地山が一体となるように,補助工法として側壁ロックボルトを打設する。
実施工は,短スパンでの抜掘り施工のため舗装取壊し・掘削・土運搬等の重機が輻輳して困難を極めた。このような条件の中で,一日も早く工事を完了して4車線化を実現するために現地の苦労は大変なものであった(写真ー5.1~5.3)。

6 施工時の計測管理
対策工事の施工においては,施工中の安全の確認および地山と覆工の挙動を明らかにすることにより今後の同種の工事の設計・施工に役立てる目的で計測工を実施している。計測内容については,天端沈下・内空変位・覆工・インバート応力・ロックボルト軸力・地中変位・クラック測定の各項目について実施した。
計測結果は,掘削完了時に天端沈下が最大2㎜,内空変位(縮小)が最大5㎜であった。これらの変位はインバートの施工が完了した時点で安定化する傾向が見られた。
二次覆工表面の応力・インバート応力とも,良好な地山では施工完了とともに全周圧縮側へ変換する傾向が見られた。しかし低強度の地山では部分的に引張力が観測されている。今後とも,定期的な計測を続けていく予定である。
覆工表面のクラックについては,ほとんどの区間で施工完了とともに閉じる傾向が観測されている。

7 解析的検討
今回の変状対策工事では,工事中の変状増長を防ぐことを期待して3.5mの短スパンにて舗装版撤去,インバート施工を行った。その結果は,計測結果等から確認され,対策工事中に発生した変位は収束傾向を示していることから本対策工事の妥当性はほぼ確認できたと思われる。しかし,このような短スパンによる対策工事は施工手順が煩雑になり,また比較的変状の軽微な部分でも短スパンの施工を行っているために施工性・経済性の面で改善の余地がある。こうした問題に対しては,実施工での評価が難しいため有限要素法による数値解析にてそれらの問題点の検討を試みることにした。
解析モデルはうれしのトンネルDパターン(凝灰角礫岩)区間を想定し,地山を粘弾性体と仮定した図ー7.1に示す2次元平面モデルとした。また解析的検討の順序は以下のとおりとした。
① Ⅰ期線施工時の挙動再現
→計測工A測定結果を再現する地山定数の評価
② Ⅰ期線変状の再現
→舗装盤隆起および内空変位の再現
③ Ⅰ期線対策工事の挙動再現
→3次元FEM解析により舗装盤撤去スパンの相違によるトンネル挙動の差異を把握
→2次元FEM解析に舗装盤撤去時の3次元効果を反映させ,内空変位および二次覆工応力を再現
④ Ⅰ期線対策工事後の変状予測
→インバートの長期変状抑制効果を把握
Ⅰ期線施工時の逆解析では,計測工A(天端沈下・内空変位)を再現し,その地山物性値は表ー7.1のとおりとなった。表中の変形係数は一軸圧縮強度150kgf/cm2前後に相当し,Ⅰ期線施工時の地山試料試験結果とほぼ合致する。

また,Ⅰ期線変状の再現では調査ボーリング結果から推定したゆるみ範囲とその地山物性値を考慮した解析により図ー7.2,7.3のように舗装盤隆起最と内空変位をほぼ再現できた。
このように,Ⅰ期線施工時から変状までの挙動を再現できる解析モデルを構築することができたことから,今後は上記検討順序③④について検討を進め,各岩種におけるインバートの変状抑制効果を把握するとともに舗装盤撤去時の3次元挙動を3次元FEM解析による試行解析から確認し,その効果を解析モデルに反映させて本改良工事における舗装盤撤去スパンの妥当性や変状規模に応じた撤去スパンの採用案を検討する予定である。

8 おわりに
うれしの・俵坂トンネルにおける変状の原因は,主として膨脹性粘土鉱物を含む地山の吸水膨脹と地山劣化(応力開放等による塑性域の拡大)による土圧の増大であると判断された。このため,変状対策としてトンネル自体の構造強化を目的としてインバートの追加設置を行った。改良後の覆工応力などの計測結果によれば,概ね今回施工したインバート・覆工とも地山の土圧に抵抗して軸圧縮応力を伝えており覆工クラックも閉じる傾向にあることから,現段階ではインバートの施工が恒久的変状対策工として効果的であったと判断される。
トンネル変状の予防の観点から考えると,今回の変状は当初からインバートを設置していればある程度防げたものである。しかし,掘削当時の従来のインバート設置基準ではその条件にあたらなかったことを考慮すると,今後の支保・覆工パターンの選定においては,地山掘削時とともに長期的な周辺地山の劣化を考慮したパターン選定の指標が必要と思われる。また,これらを判断するための簡易で有効な原位置調査・計測方法の開発も望まれる。
現在,改良工事施工以後の変状状況の観測と並行して,これまでに蓄積してきた膨大な計測データの整理を行い,解析的検討も踏まえて今後の変状地山へのトンネル施工の参考となる成果の取りまとめを行っているところである。
今後,既設トンネルの老朽化とともに同様の変状対策の必要性が高まるものと考えられる。本トンネルの実績が,時間依存性の地山の劣化や長期にわたる塑性域の拡大が予想されるトンネル工事および変状トンネルの補修対策の設計・施工・計測管理に際して,有用な資料となることを期待している。

参考文献
1)日本道路公団福岡管理局,長崎自動車道うれしのトンネル他変状対策検討報告書,平成4年3月
2)日本道路公団福岡建設局,長崎自動車道東そのぎ~嬉野間トンネル施工法に関する報告書,平成6年3月
3)日本道路公団福岡建設局,長崎自動車道東そのぎ~嬉野間トンネル施工法に関する報告書(その2),平成7年3月
4)鈴木哲也他,変質した地山中のトンネルにおける変状調査と対策,開発土木研究所月報,1990年10月
5)平井公康他,供用中のNATMトンネルの盤ぶくれ,トンネルと地下,平成7年12月
6)野澤伸一郎他,既設トンネルの膨圧を克服(只見線六十里越田子倉トンネル),トンネルと地下,平成4年10月
7)片寄紀雄他,緩やかな変状と付き合って30年(JR信越本線塚山トンネル),トンネルと地下,平成9年3月

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