一般社団法人

九州地方計画協会

  • 文字サイズ
  • 背景色

一般社団法人

九州地方計画協会

  •                                        
針原川土石流災害の復旧について

鹿児島県土木部 砂防課長
古 賀 省 三

鹿児島県土木部砂防課
 砂防係長
田ノ上 逸 郎

1 はじめに
平成9年7月10日に発生した土石流災害からまだ人々の悲しみも癒えぬ内に,早いもので1年近くが過ぎようとしている。その間,地元住民や出水市を初め,関係者の並々ならぬ努力によって地域の復興は着々と進みつつある。
今後とも,関係各機関等と十分調整を行い,土石流災害の未然防止を図りながら,一日でも早い復旧と今後,悲惨な土砂災害が起きないよう努めてまいりたい。
今回,この報告において,砂防等の土石流災害の復旧の概要について紹介する。

2 復旧計画の概要
復旧計画は既設ダムの下流約300mの地点を基準点として,この地点より上流域において砂防事業により土砂処理を行い,不安定な土砂を下流へ流出させないようにするとともに,この地点より下流域については河川事業により,洪水の安全な流下を図ることを基本方針としている。
施設としては,既設ダムの上流に砂防ダム工,右岸の崩壊地の拡大を防止するためや左岸の地すべりの動きを抑止するための山腹工を計画し,また既設ダムの下流においては土石流堆積工や現河川の拡幅を計画するものである。図ー1に針原川砂防等復旧計画の概念図を示す。

3 事業採択について
被災後,直ちに建設省と協議を重ね,既設砂防ダムに堆積した約5万m3の緊急除石は,災害から約2週間後に災害関連緊急砂防事業として採択され,引き続き新設の砂防ダムや山腹工等が8月末に合計約36.1億円が採択された。また既設砂防ダムについては砂防施設災害復旧事業として,約1.3億円が11月に採択された。また河川については,河川等災害関連事業として11月に現地査定を受け,約1.4億円が2月に採択されている。

4 工事の概要
砂防災害復旧工事を工程ごとに概説する。
(1)除石工
崩壊土砂量16万m3のうち,既設砂防ダムが捕捉した約5万m3の土砂の除石を行い,貯砂量を確保し,土砂流出の抑制を図る。
施工にあたっては,崩壊地上部に亀裂等が発達し危険であったため,二次災害防止策として,掘削機械について無人化による施工を行った(写真一1)。

(2)山腹工
右岸崩壊地においては,崩壊の拡大防止など斜面の安定を図るため,崩壊地周辺に残存している緩んだ土砂を切土整形した後,アンカー工,法枠工,横ボーリング工等を実施している。また,左岸地すべり地においては,地すべりの防止を図るため,集水井工,横ボーリング工および鋼管杭工を実施している。

(3)新設砂防ダム工
既設ダムから上流側約250m地点の崩壊地直下に不安定土砂の流出を抑制するため,高さ14m,堤長74m,貯砂量約1万m3の砂防ダムを設置している。なお,砂防ダム袖部は今回の土石流に対し鉄筋補強や緩衝材による保護を行う。

(4)既設砂防ダムの復旧
砂防ダム右岸袖部の一部等が土石流により破損されたため,その復旧を行っている。今回の土石流の荷重は設計荷重の2~3倍が作用したことが,針原川土石流検討委員会の報告書の中で明らかになった。

(5)土石流堆積工
崩壊地直上流の不安定な土砂等の流出を防止するため,長さ約100m,最大幅70m,面積約7,000m2の土石流堆積工を施工している。

5 工事中の警戒避難体制
現在工事を進めるにあたっては,施工中の工事関係者や地域住民の安全を確保するため,災害後速やかに現地に監視カメラ,雨量計,伸縮計,スピーカー等の機器を設置し,出水地区消防本部等で常時監視できる監視システムを整備した。緊急時には有線放送やスピーカー等により住民や工事関係者に対し,異常発生の通報等を行うこととしている。

6 他事業との調整
針原川の復旧計画については,住民代表,学識経験者,行政関係者よりなる針原川砂防等復旧計画検討会を設置し,河川や農地の災害復旧事業等とも十分調整を図りながら計画を策定した。また工事の実施にあたっては,出水市や出水土木事務所,出水耕地事務所,地元代表等関係機関からなる針原川復旧協議会等において地元の意見を取り入れながら,互いの情報交換を行い,工事の進捗を図っている。

7 委員会等の開催について
(1)針原川砂防等復旧計画検討会
土石流対策等ハード対策や警戒避難等ソフト対策よりなる針原川砂防等復旧計画を策定するために設置し,第1回を9月17日,第2回を11月26日に行い,砂防や河川の復旧計画が決定された。

(2)針原川土石流検討委員会
土石流の発生原因の解明,土石流の予知・予測の可能性と今後の警戒避難のあり方等について検討するために設置し,第1回を11月7日に第2回を12月26日に第3回を今年の3月27日に行い,5月11日に委員長から報告書の提出があったところである。報告書を踏まえ,対策を検討し,災害に強い県土づくりを強力に進めてまいりたい。

8 おわりに
今回,主にハード面の対策についての報告を行った。目に見える復旧が着々と進んでいる。約5万m3の除石は完了し,現在,新設砂防ダム,山腹工,土石流堆積工等の工事を鋭意進めているところであり,今後とも関係機関総力をあげて早期復旧に努め,一日でも早く針原地区の復興が図られるよう最大限の努力を行ってまいりたい。

上の記事には似た記事があります

すべて表示

カテゴリ一覧