この沖縄の海岸は，亜熱帯海洋性気候の鮮やかなエメラルドグリーンの海とサンゴ礁に囲まれた豊富な自然を有しているが，一方で，台風の常襲地域として高潮等にさらされている厳しい環境でもある。そのため従来から海岸背後地域を守るために，各種の護岸等が建設されてきた。しかしながらそのことは，人々と海岸を遠ざけることにもなっている。近年， ウォターフロントに対する人々の関心と要望が高まり，海辺と親しむことのできる海岸整備が求められている。

金武町の伊芸海岸においては，このような状況をふまえ，防護に加えて環境，利便性にも配慮した高潮対策事業のふるさと海岸整備事業を行うものである。

当海岸は，沖縄本島東側の金武湾港のうち金武町伊芸地先にあり，隣接する国道329号にほぼ平行に位置する約930mの海岸である。国道329号の沿道には伊芸集落があり，また，沖縄自動車道屋嘉ICから3.5km，金武ICから3.2kmと近隣や遠方からのアクセスが容易な位置にある。

現在の護岸は，昭和51年～昭和57年にかけて築造され，護岸前面に1：0.3の勾配で被覆された直立消波ブロックタイプの護岸が整備されている。

護岸天端（DL+5.5m）と前面地盤との高低差は5.0～5.5mと高く，背後地から海浜へのアクセスは，護岸に沿って約100m間隔に設けられたコンート製の階段が用いられている。

景観としては，コンクリート直立護岸が無機質な壁になって海と背後地とを遮断している。急勾配の階段には手摺りがなく，安全性及び親水性は確保されていない。

海浜は干潮時に砂浜が護岸沿いに幅５m程度出現するが，満潮時には護岸まで海水が浸り砂浜は無くなってしまう。また，汀線付近に岩礁が露出している部分もあり，全体的に遊泳には向いていない状況にある。

現状の護岸が整備された昭和51年～昭和57年に比べ現在では，護岸背後に民家等が増え，地域住民が独自で護岸背後に防風を目的とした高木や中木等の樹木を植えているが，台風や荒天時の高波による越波や飛沫の被害は国道まで及んでいる。

当海岸におけるこのような被害に対して，地元住民より対策を講じる要望が寄せられている。

当海岸は，沖縄県の「ふるさと海岸整備事業」と金武町の「緑の拠点・ネットワークの形成」計画をもとに，護岸を沖に出し背後地を公圏として整備することとした。海側の護岸整備及び飛沫防止帯とそれらに伴う埋立は沖縄県事業，その背後の緑地，駐車場及び便益施設等とそれに伴う埋立は金武町が行うものである。

ふるさと海岸整備事業は，潤いのあるまちづくりの核として良好な海岸空間の創出を目指している地域の海岸において，老朽化等により安全度の低下した既存施設の改良にあたって，海岸背後地域の特性や海岸性状等に十分配慮し，海岸背後のまちづくりと一体となった良質で多面的な機能をもった海岸保全施設へ整備を行うことにより，地域住民に親しまれ，海辺とふれあえる美しい景観をもった安全で潤いのある海岸空間の創出を図ることを目的とする事業である。

①　防災機能：従来の線的防護方式から，養浜や植栽を組み合わせた面的防護方式による海岸保全施設を整備する

②　親水機能：地域の人々や訪問者が，海水浴などを楽しめる海洋レクレーションの場を創出する。

③　環境との調和：地域の景観との一体性を出すために，建設資材は極力周辺素材を利用する。

④　アクセス機能：護岸背後に遊歩道を配置し，海岸の利用促進を図る。また，国道329号からのアクセス道路を確保し，駐車場を設置する。

①　高潮や飛沫に対して防護効果を発揮する断面配置

②　養浜の汀線が安定する平面配置

③　海レク機能等の海浜利用に最適な平面配置

④　景観性を向上させる平面配置

⑤　河川や船揚場等の周辺既存施設の機能を確保した平面配置

以上の検討事項を総合的に評価して，当海岸の平面配置計画を決定した。

当海岸では，沖縄の海岸の持つ特性を踏まえ，面的防護方式により地域住民に親しまれ，海辺とふれあえる美しい景観を持った安全で潤いのある海岸の創出を図る。また，金武町が行う背後地整備との一体的な景観検討を行った。

まずはじめに，関連計画として当海岸を，「金武町総合緑化計画（平成６年１月金武町）」にて提唱されている「緑の拠点・ネットワークの形成」の一拠点と位置づけ，新設護岸の飛沫防止帯を金武町内に点在する他の緑の拠点との連続性をもたせることを考えた。

次に，周辺条件として，自然条件（地形・地質，植生，陸上動物，海生生物），社会条件（周辺の歴史，金武町伊芸地区にある史跡名所，周辺の土地利用，港湾計画，道路状況，行事，産業，）等を調査し，設計に反映させている。

現況調査として，海側への眺望は良好で，全線において金武湾港を見渡す事のできる直線的な海岸である。さらに，現況の植生としては，東側の河口付近にモクマオウがあるが，倒木したり，背後の雑草等で景観を損なわれている。西側の船上げ場付近の水叩き沿いには海浜性植物が植栽され，景観的には良好である。中間部分は道路，住宅があり十分な植栽も無く，緑陰も確保されていない状況である

【ゾーニング】

〇　伊芸ビーチゾーン

海浜レクレーションを主とするこのゾーンにはバリアフリースロープや階段護岸を設け，背後地から海浜へのアクセスを重視した整備とする。また，ゾーンの中心にサークルテラスを設置しシンボル性も付加し，各種イベントに対応できる計画とする。

〇　伊芸ぬ浜ゾーン

このゾーンでは海浜植生が砂浜まで迫り出した伊芸海岸の原風景や，浜下りができる，古き良き伊芸海岸を再現するため，散策道や溜り空間の海浜植栽に重点を置く計画とする。同時に，テラスやバルコニー等を設け，来訪者に休息と安らぎを提供する。

【修景配置計画】

基本配置計画を踏まえ，マクロなスケールでの護岸，突堤，離岸堤の配置検討の微調整を行った。

主要軸線①：伊芸ビーチゾーンサークルテラスを中心に真南に向けた軸線

主要軸線②：汀線シミュレーションを基に伊芸ビーチゾーンサークルテラス，A離岸堤，B離岸堤，突堤西堤頭部のサークル広場を延長線上とし海への眺望の障害物を最小となるようにした。

【整備イメージ】

整備基本方針，基本配置計画，修景景観形成テーマ等を踏まえ，各施設の修景イメージを下記に示す。

標準部は１：３の緩傾斜護岸とし，琉球石灰岩石積みとする。アクセントとして所々１：0.5の直立護岸を配置する。緩傾斜護岸の天端や後浜部に地被植物を配する事で飛砂防止効果の向上と護岸構造物の柔らかい景観作りを図る。直立護岸は，後浜に植栽を施すポイントや，バリアフリースロープ等を配置する区間とする。また，琉球石灰岩等でボーダーを配し，水叩きの単調な連続に変化を与える。

突堤東は長大であるため，見通しの景観性を考慮し極力天端高を抑えた計画とする。自然環境や周辺景観と調和を図るため，琉球石灰岩の自然石等を使用する。天端幅は管理車輛の乗り入れが可能となるよう３m程度とし，法勾配は親水性を重視して緩傾斜の１：３とする。また，堤頭部のサークル広場は琉球石灰岩張りとし，管理用車輛が回転できる半径を確保する。突堤西も突堤東と同等の構造とするが，良好な藻場を極力保全し砂止めの役割を維持する最小限の構造とする。

A離岸堤及びB離岸堤も極力天端高を抑え，護岸から海への眺望を確保する。天端幅は突堤と同じく３m程度とし，法勾配も１：３とする。また，自然石積み等を用い，より自然に近い柔らかい感じの修景とする。

多数の来訪者が予想されるこのポイントでは，海浜緑地前面は階段護岸とし，海浜緑地とビーチのアクセスを容易にする。また，来訪者が腰掛け，海を眺めることが出来る溜り空間とする。

サークルテラスは法勾配が１：0.5の直立護岸とする。天端は琉球石灰岩張りとし，その中央には，デザインサークルなどを貼り付けシンボル性を付加する。

先に述べたように，当海岸は台風時の高波による越波や飛沫による被害が生じており，当海岸整備後は飛砂の被害が想定されることから，集落の防護として飛沫防止林の設置・育成が重要となる。

また，地元住民との意見交換会の場でも，飛砂の対策を徹底するよう要求されている。

【充実した飛沫防止林による郷土の海岸林の創出を目指す】

越波や飛沫・飛砂を抑制し，公園利用者や地域住民の快適性を確保すると共に，生物の生息の場となり得る多様性を併せ持った飛沫防止林を創出する。

【飛沫防止林の構造】

飛沫防止林の幅については，表ー１に示すとおり飛沫防止の面からは100m以上，緩衝緑地機能としては数十～数百m等とされている。これらを参考に当海岸においては，補助対象の最大である幅10mの植林を水叩き直後に配置する。

飛沫防止の効果を高めるため，１m程度のマウンドを造成する。

【健全に生育する樹種選定と植栽手法】

塩分を含んだ強風は植物の生育にとっても厳しい条件であり，導入する植栽材料は計画地周辺の自然植生と同じ樹種及び配植とする。

海岸沿い側のエッジ部分は，マント・ソデ群落として周辺自然植生の海岸低木林のアダン群落を参考に耐潮風性の強い地被類や中低木を植栽し，林中央部分や住宅地側部分は，常緑広葉樹林を参考に高木と耐陰性のある中低木を組み合わせた配植とする。

具体的な樹種の選定は，はじめに計画地周辺で確認された樹種を中心に耐潮性，耐風性のある樹種を選定する。次に植栽に求められる飛沫防止，緑陰，景観などの樹木の持つ機能性により絞り込み，最後に大量に使用できることや沖縄で生産され，かつ地域環境に適した材料を確保するために市場性のある樹種とする。

導入する植栽材料は，防風林としての機能を満足するまでには4～５年を要するが，環境になじみ風土に根ざした活着率の高いポットで生産された１m程度の幼木（苗木）を主とする。

また，植栽樹が十分に根を下ろし環境になじむまでは，高さ２～３m程度の防風ネットを設置し養生する。

【その他の植栽】

養浜部には，テリハクサトベラやグンバイヒルガオ等の植栽を行い，飛砂の抑制やオカヤドカリ等の海浜小動物の生息場所となる緑を確保する。

また，琉球石灰岩の突堤や離岸提にも，イソマツや，ミズガンピなどの塩水を浴びても生育する樹種を植栽して自然の回復と修景の向上を図る。

当海岸の設計において，防護機能はもちろんのことであるが，昔あった憩いの場としての海岸を取り戻すために，修景や景観に配慮した。

また，完成後の施設管理及び飛沫防止林の生育には地元の金武町及び近隣自治会のご協力をお願いしているところである。

今後の課題としては，養浜の安定性及び植栽の生育状況，飛沫防止林としての効果の確認等について定期的に観察し，今後の事業の参考にしたい。