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都城北郷線「新矢立トンネル(L=1,021m)」の施工について
―国内初めてデジタルステレオ画像での
地質情報伝送解析システムを本格的に採用―

宮崎県都城土木事務所
 道路課道路建設係長
大 谷 睦 彦

宮崎県土木部河川課
 (前 担当主任技師)
金 丸 尚 敏

1 はじめに
本路線は,都城市および三股町と北郷町を結ぶ主要地方道であり,広域的には主要地方道日南高岡線と連結して,重要港湾である油津港を有する日南市とを連結する重要な路線である。
本路線の存する三股町と北郷町の境に急峻な鰐塚山系があり,幅員が狭くつづら折れの連続で両町の交流を深める上で大きなネックになっていた。
新矢立トンネは,都城・日南両土木事務所管内の道路改築事業矢立工区のメイン工事であり,「交流ふれあいトンネル・橋梁整備事業」に県内で唯一認定されたものである。このトンネルの完成によって,標高で約75m,延長で約2,000mのカットが可能となり交通の安全向上はもとより,人・物の移動が短縮され,都城北諸県地域と日南北郷地域の相互交流が密接になり,両地域の発展に大きく寄与するものと期待されている(図ー1参照)。

ところで,山岳トンネルの施工に際しては,掘削中の地山の地質構造を的確に把握し,その岩盤の性状に応じた最善の施工方法を選択することが施工の合理化に不可欠となっている。しかしながら,現場での土木技術者としての業務は「品質・工程・安全・管理」と多岐にわたり,また最近では環境対策・近隣対策と非常に忙しい業務をこなさなければならない。このため,地質観察に十分な時間を割くのが難しい現状である。
以上のような観点から,新矢立トンネル施工に際し,トンネル切羽で撮影したステレオ画像を電話回線を利用して地質の専門家が常駐するセンターへ伝送し,地質状態を解析し切羽前方の地質状況を予測するシステムを導入した。このシステム導入の結果,岩盤状況の画像をリアルタイムに遠隔地で地質の専門家が観察し分析することが可能となり,その地質解析情報結果を工事現場にフィードバックすることにより,施工の技術管理の合理化を図ることができた。さらに収集した地質情報をデータベース化して解析を行い,三次元的な地質モデルでの可視画像化を実施して,地質構造の把握を行い,システムの有効性を実証したのでここに報告する。

2 地形・地質概要
(1)地形概要
本工事区間は,都城と北郷のほぼ中間の鰐塚山地にあって,都城北郷線の現道の矢立トンネル(矢立峠)北郷町側坑口の北方約500mに位置する。
施工箇所付近の山地は,標高700~900mの山々からなり,三股町と北郷町との町境をなす稜線がほぼ南南西から北北東に延び,北方にある標高1,119mの鰐塚山へと連続する。現場付近の山地は急峻な地形をなし,壮年期の地形を呈する。町境をなす稜線の東側は,特に急峻な地形をなしている(図一2参照)。

(2)地形概要
トンネルの掘削対象岩盤は,日本列島の太平洋側を帯状に分布する四万十累層群からなる。本地域に分布する四万十累層群上部層は日南層群とも呼ばれ,古第三系~新第三系中新統の硬質な細粒砂岩を主体とする砂岩の優勢な地層である。所々に中硬質な頁岩および砂岩と頁岩の互層部を挟在している。設計時の地質縦断図(図ー3参照)に見られるように,地質構造的には擾乱を受け複雑であるが,大局的に地層はトンネルの両坑口部でトンネル中央に向かって傾斜した向斜構造を呈している。
砂岩は一般に細粒で硬質であり,変質を受けていないものは青灰色を呈している。割れ目の分布はまばらであるが,切羽においては層理面およびこれと直行する方向に節理面が発達することが多く,ブロック状に割れている様子が観察される。頁岩は一般に黒色~暗灰色を呈し層理面の発達が顕著である。変質を受けていないものは比較的硬質で黒色を呈し,厚さ5cm程度の単層が層理面に沿って割れやすい。
切羽では断層・摺曲運動の影響により層理面と同じ走向・傾斜の節理面が発達していることが多く,層理面との区別が困難である。節理面に沿って粘土化することがあり切羽の自立に影響を与えている。なお,変質を受けたものは黄褐色~茶褐色を呈している。
また,尾根部や山腹の緩斜面には新期火山噴出物である降下火山灰や降下軽石が基盤岩を覆って分布しているが,トンネル切羽には出現しなかった。

3 地質情報伝送解析システム
(1)システムの目的
地質情報伝送解析システムとは,図ー4に示したようにトンネル,切取岩盤斜面やダムなど土木の現場を対象として,施工中の地山の露頭(トンネルでは切羽)で撮影したステレオ画像を電話回線により地質技術者の常駐するセンターに伝送し,露頭状況を解析し,評価結果を現楊に返送するものである。すなわち,本システムの内容は,大きく分けて情報の収集,伝送,解析,データベース化,可視画像化そして本来の目的の地質予測からなる。これによれば両像を伝送した後,約1時間以内で施工に必要な地質情報の受け取りが可能である。その結果,現場サイドでは岩盤判定や断層破砕帯の出現予想位置など,施工に影響を与えるような地質情報をリアルタイムに入手でき,合理的で安全性の高い施工が可能となる。

(2)システムの構成
地質情報伝送解析システムは,以下の4つの作業に分けられる。
 ① 切羽画像撮影(ステレオ的に撮影するのが特徴)
 ② 画像送信
 ③ 画像受信および画像保存
 ④ 画像出力および解析

①と②は現場側の作業であり,③と④は地質技術者の居るセンター側の作業である。
表ー1に伝送システムのハード面での構成を示す。表ー1の中で切羽の撮影にデジタルスチルカメラを用いた場合,従来のカメラと大きく異なる点は a.画像がデジタルデータである。 b.使用する媒体がフラッシュメモリーであり繰り返し使用可能。の2点が挙げられる。また,コンパクトであり,かつ普通のカメラ並の簡単な操作であるため,迅速さを必要とする坑内の撮影に適している。また,デジタルスチルカメラの記録媒体は,フラッシュメモリー(データの記録・消去・再記録が可能)を採用しており,繰り返し使用可能なことから,ランニングコストがかからないという従来のフィルムにはないメリットがある。ただ,トンネル内ではデジタルスチルカメラに付属するフラッシュだけでは,光量が不足することが多く,カメラと同調して光量を増強するために,別にストロボを配置した方が,より鮮明な画像が得られる。
画像送信については,画像伝送専用モデムを用いれば簡単であり,一般公衆回線を使用して送信することが可能である。
画像受信および画像保存にはパソコン,カードプロセッサ,MOドライブ,モデムなどを使用し光磁気ディスクに切羽画像データを保存する。
画像出力については,写真と同程度の画質を持ったプリントを得るために超高画質のカラープリンターを用いる。なお,これらの機器の性能は,日々向上しており,現在ではさらに優れた装置が安価で得られるようになっている。

(3)地質情報の解析
伝送システムで得られた切羽の画像を,ステレオ画像として立体視することにより,岩盤の地質状況を把握する。単一の画像では立体視できないが,ステレオ画像であるため立体的な切羽情報が得られる。すなわち,工事記録としての切羽写真に比べて,割れ目など不連続面の方向性の抽出や陰影の判定が容易になるだけでなく,現楊での切羽観察に比べて,施工サイクルに関係なく詳細な解析が行える。従って,岩盤の詳細な地質状況を把握する上で,ステレオ画像は有効な手段である。
図ー5は,トンネル切羽で撮影している画像を,プリントアウトしたものである。切羽中心の全体像と,視点を約1mずつ左右にずらしたものの計3枚撮影した画像で解析を行う。

表ー2にステレオ画像からの地質情報解析(観察・判定)項目を示す。ステレオ画像から観察項目を基本として地質情報を抽出し,これにしたがって,地質・岩相判定,岩級区分判定など,施工に要求される地質情報を解析する。
以上の検討結果を,リアルタイムに現場に送信し,施工に反映することで情報化施工が実現する。

(4)システムの特徴
本システムの特徴を列記すると次のような項目が挙げられる。
① 画像を立体視することにより,遠隔地で露頭観察することができる。
② 地質情報をリアルタイムに共有し,施工状況を集中管理することができる。
③ 画像データは,光磁気ディスクに保存・蓄積され,従来のネガ写真管理から解放される。
④ 超高画質デジタルカラープリントのため,詳細な情報が得られる。

4 地質情報に基づく地質構造の把握
本システムにより,ある区間の切羽画像のスケッチによる地質状況を図ー6に示す。この区間では,設計時では地山分類BからC1とされていた。しかし,実際掘削してみると,砂岩層に挟まれた泥岩層は,黒色でかつ鏡肌を呈し,付加作用時の構造運動によると考えられる,せん断による泥質部の層内すべり面が存在していた。この面に湧水がつけば,特に切羽に対して流れ盤を呈する区間では,大きなブロックとして滑落する可能性が高く危険であった。
さらに,掘削が完了して設計時の地質縦断図と比較してみると,砂岩層とされていた区間の一部が,薄い泥岩層を挟む大きな砂岩層のブロックの集まりであり,泥岩を介在するレンズ状の砂岩のめまぐるしい出現の繰り返しであった。設計時の地質は,弾性波探査の結果を基に描かれており,硬質な細粒砂岩層が上位に位置していたために,トンネル位置では実際の地質状態よりも,良好な岩盤状態として想定されたものである。
したがって,設計段階やさらに個々の切羽記録からでは把握できないが,データベースによる切羽画像の蓄積により,一連のものとして見直せば複雑な地質構造が明らかとなる。

5 地質情報の可視画像化
新矢立トンネル掘削中に,北海道のトンネル岩盤崩落事故が発生し,この事故を契機に本トンネルでの危険個所の有無が再調査された。本トンネルの坑口上にも一枚岩が分布しており,同様の岩盤崩落事故の発生が懸念された。図ー7に坑口部の状況写真とモデル図を示す。
本トンネルの地山は,前述したように複雑な地質構成になっており,現地調査だけでは把握できない部分があったが,本システムによるリアルタイムな切羽の地質解析と地質データベースを用いることにより,正確な地質構造把握が可能となった。地質平面図(図ー8)および地質縦断図(図ー9)を作成した結果,問題となった一枚岩は,断層と層理面および節理面で形成されるブロックであるが,北海道の事故と異なり,岩質は風化しにくい砂岩であり,かつ流れ盤ではなく,さし目状になっているため施工上安全であると,現地調査をしなくて判断することが可能であった。図ー10に立体視した地質解析結果を示す。

6 あとがき
今回の施工に際して,地質情報伝送解析システムを採用したことにより,施工に有用な地質情報を得ることによって,施工の合理化を図ることができた。今後,山岳トンネルの各現場において,同様なシステムが導入され,合理的な施工に寄与してゆけばと願っている。
最後に,新矢立トンネルの設計から施工に携わってこられた関係者の方々に,深く感謝の意を表します。

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