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道路計画の見直しによる松浦川大橋のコスト縮減策について

国土交通省 佐賀国道工事事務所
 所長
森  弘 光

(前)国土交通省 佐賀国道工事事務所
 副所長
国 武 正 光

(前)国土交通省 佐賀国道工事事務所
 工務課長
乾  晃 義

㈱千代田コンサルタント
 鹿児島支店長
村 上  健

㈱千代田コンサルタント
 九州支店 技術部長
森 尾  有

㈱千代田コンサルタント
 九州支店 技術部構造第三課長
堤  重 之

1 はじめに
一般国道497号唐津伊万里道路は,西九州自動車道(福岡市から佐世保市を経て武雄市に至る自動車専用道路)の一環として,唐津市と伊万里市を結ぶ延長18.1kmの高規格幹線道路で,九州北西部~福岡都市圏における相互交通の利便性の向上,高速定時性の確保に伴う輸送時間の短縮など,地域経済の活性化の核として大きく寄与する事業である。

一方,先般公表された「国土交通省における公共事業改革への取り組み」においては,公共事業について徹底的な見直しを行い,改革への取り組みを一層促進・展開していくことが示されたところである。
このような状況のもと,事業が展開中である松浦川大橋の設計では,道路計画の見直しや新工法の活用により徹底したコスト縮減策として,以下の取り組みに努めた。

2 コスト縮減策の課題
(1)コスト縮減策の基本
道路事業におけるコスト縮減に向けた取り組み施策の展開における3つのポイントは,以下のとおりである。
無駄なくスピーディに,また,コスト縮減に努める
・地域のニーズに応じ,地方の自主性と創造工夫を尊重する
・透明性の一層の向上を図ることにより国民の信頼を得る
コスト縮減を図るためには,事業中ならびに計画箇所の全てを総点検し,道路計画の見直し(道路規格,線形,幅員構成,道路構造)や新技術・新工法を活用し,「表ー1 道路計画見直し検討の対象範囲」を目安に,徹底したコスト縮減に向けた取り組みを行う必要がある。特に,地元設計協議済み,或いは用地買収中であっても,コスト縮減を図るべき箇所については見直しの対象とし,計画と事業進捗状況を見極めつつ,縦断線形や横断構成等の見直しが可能なコスト縮減策を検討する必要がある。

(2)松浦川大橋における現状の問題点
当該路線の事業の進捗状況は,道路予備設計(B)および橋梁予備設計が完了し,地元設計協議,用地幅杭打設が済み,一部用地買収が進行中の状況である。
また,唐津伊万里道路(唐津IC~養母田やぶたトンネル間)の縦断線形の設定は,一級河川松浦川の堤防管理用道路(市道兼用)の建築限界を確保することをコントロールポイントとしており,当該松浦川大橋の予備設計においては,橋梁単体の経済性等より最も低価格となる橋梁形式を選定し,スパン割り,桁高等を勘案し,計画されているが,以下の問題点がある。
・当初計画の縦断線形では,松浦川大橋がコブとなり,表ー2に示すとおり,前後区間の橋梁の建築限界に大きな余裕が発生する。
・軟弱地盤を有する当該地域の盛土では,盛土の安定を確保するために必要な地盤処理等の対策費用が大きくなる。
・盛土高が14mを超える橋台の形式は,箱式橋台等(橋台高が17m)の採用に限られるため,下部工および基礎工に要する費用が大きくなる。
・松浦川大橋は,橋長328mでかつ斜角がきつく,橋脚の設置位置および基数に対する河川条件の制約を受ける。このため,100mを超える長大スパンの当該橋梁の形式では,橋梁単体でのコスト縮減に限りがある。
・現計画の縦断を変更する場合においては,買収用地に残地が発生する。

3 松浦川大橋におけるコスト縮減策
(1)コスト縮減の方針
軟弱地盤を有する当該地域では,縦断線形が低くなると,基礎を含めた構造物の規模が小さくなり,また,盛土安定に要する地盤処理等の費用も小さくなるなど,コスト縮減策に対しては極めて有効となる。
ここで,松浦川大橋は斜角がきつく,河川の制約条件からも100mを超える長大スパンに限られ,経済性からみてもかなり割高な橋梁形式となる。このため,本橋の橋梁形式を選定するにあたっては,当該橋梁単体の経済性だけでなく,前後区間の橋梁工事や土工工事にかかる費用を含めた道路全体のコスト縮減として,適切な縦断線形の見直しが重要となる。
また,軟弱地盤における橋台背面の裏込め材料や盛土材料は.「ガラスリサイクル軽量地盤材」を新材料とした計画によって,コスト縮減に努める。

(2)縦断線形の変更
当初計画の縦断線形が,松浦川の堤防管理用道路の建築限界で設定されているため,図ー3に示すとおり,管理用道路を堤内地に切り回すことによって全体の縦断を下げる。ただし,管理用道路の舗装が河川のHWLより下回らないよう1.0m下げを目安とする。
道路全体の縦断を見直すにあたっては,隣接橋梁である中原橋・沖鶴橋,松浦川大橋および鬼塚橋を交差する県道,市道,JRの桁下余裕高として,それぞれ50cm程度の余裕を目安とする。
これにより,上部工の桁高差を考慮しないならば,松浦川大橋付近で1.7m程度の縦断を下げることが可能となる。(表ー3参照)
また,縦断を下げることによって発生する残地の問題点は,軟弱地盤盛土の押え盛土として盛土の安定計算等に考慮し,有効に活用する。

(3)松浦川大橋の橋梁形式の選定
松浦川大橋の橋梁形式は,松浦川を交差する斜角や橋脚位置およびその基数の制約条件より,橋長328mで3径間となり,かなり規模の大きい橋梁形式となる。このため,当該橋梁単体のコスト最小となる橋梁形式を選定するだけでは,道路全体のコスト縮減は達成できず,コスト縮減の観点からは前後区間を含めたトータルコストの概念が重要である。
よって,橋梁形式の選定にあたっては,当該橋梁規模に適用できる以下の橋梁形式を立案するが,特に上部工の桁高差に着目することによって,前後の道路構造も踏まえた縦断線形を,最もコストが安価となるように設定ができる,道路全体で大きなコスト縮減となる橋梁形式を選定する。

上部工比較形式案
 A案 PC3径間連続エクストラドーズド橋
 B案 PC3径間連続箱桁橋
 C案 鋼3径間連続鋼床版箱桁橋
結果,A案により当該区間の縦断を約3m下げることが可能となる。これによるコスト縮減の主な効果は,以下のとおり。
・橋台高が17mから14mと低くなるため,箱式から逆T式橋台となり,基礎を含めて大幅な縮減が望める。
・盛土高の低減によって,軟弱地盤の安定に要する地盤改良等の費用が大幅に縮減される。
・橋梁全体の高さが低くなることにより,下部工,基礎工の費用が縮減される。
よって,松浦川大橋の橋梁形式は,表ー4に示すとおり,PC3径間連続エクストラドーズド橋を採用することとした。
松浦川大橋の単体(約25億)では,B案に比べ割高(約2.7億)となるが,上部工の桁高が最も小さく,道路縦断を当初計画から全体で約3m下げることで,影響区間約1.7kmの土工・橋梁費を減ずる(約9.5億)ことが可能となり,初期投資は当初計画に比べ大幅な割安(約6.8億)となった。

(4)新材料によるコスト縮減
軟弱地盤上における構造物の裏込め材や盛土材は,その自重の軽量化を図ることによって,構造物や基礎を小さく,または地盤処理等に要するコストを軽減することができる。
このため,「軽量混合土」を新材料として,構造物の裏込め工および一般盛土工への活用について検討する。

①「軽量混合土」の特徴
軽量混合土は,既に開発されている,ガラスびんから製造された軽量地盤材料「ガラスリサイクル軽量地盤材」を現地で発生する粘性土,砂質土等と現地で攪拌・混合し,軟弱地盤上での盛土施工時の沈下抑制および擁壁や地下構造物等の土圧軽減を目的として用いる軽量な盛土材で,以下の特徴がある。
・現地の発生土を有効活用できる。
・混合土の配合比率により地盤定数(単位重量,強度,透水性等)を調整できる。
・従来の土工手順および施工機械で出来るので施工が容易である。(特殊機械不用)
・のり面緑化,植栽が可能で,環境にやさしい。

②橋台裏込め材への適用
裏込め材としては,普通土(砂質土)および軽量土(軽量混合土,FCB,EPS等)がある。

③軟弱地盤盛土への適用
軟弱地盤における盛土の安定対策としては,軟弱地盤を改良する方法(深層混合処理),盛土を軽くする方法(軽量混合土),盛土を補強する方法(ジオテキスタイル敷設工)等がある。

④「軽量混合土」の活用
軽量混合土は,表ー5および表ー6の比較表に示すとおり,構造物の裏込め材で約4%,軟弱地盤の盛土材で約4%(深層混合処理に比べると約26%)と,いずれの場合でもコスト縮減となることがわかった。
しかし,混合する発生土の土性および混合比率の変化による単位重量などの地盤定数の把握が必要となる。軟弱地盤の特性を踏まえ,押さえ盛土の反力作用の最大化等有効な施工方法の検討,また,合理的かつ経済的な施工を行うための十分な調査及び混合比率試験等の検討を行うことが重要となる。
さらに,環境およびリサイクル促進の観点からも「ガラスリサイクル軽量地盤材」の活用は,強く望まれるものである。

4 PCエクストラドーズド橋
本橋梁形式に採用したPCエクストラドーズド橋は,以下の特徴と利点を有する。
(1)エクストラドーズド橋の特徴
エクストラドーズド橋は,主桁,塔,斜材から構成される。従来の桁橋において桁の中に配置されていたPC鋼材をより有効に活用するために桁外に突出させて,大きい偏心量でプレストレス力を主桁に作用させた構造形式で,以下の特徴がある。
・外観的には斜張橋に類似しているが,構造的には桁橋に近い特性を持つ。
・主塔の高さを斜張橋の1/3程度とすることが可能であり,施工性が向上する。
・中間支点および支間中央の桁高は,表ー7に示すとおり,桁橋および斜張橋の中間の高さとなる。
・斜張橋のように斜材ケーブル(桁外突出分のPC鋼材)の張力調整が不要で,桁橋の延長として施工が可能である。
・斜材ケーブルは,活荷重による応力変動が斜張橋に比べ小さく,通常の外ケーブルと同様のシステムが可能である。
・上部工の施工はPC箱桁と同様,片持ち張出し架設となる。

(2)採用の利点
松浦川大橋にエクストラドーズド橋を採用出来た最大の利点は,中間支点および中央径間の桁高を小さくすることで,道路全体の縦断を下げることが可能となったことである。このため,道路全体に大幅なコスト縮減を図ることが出来た。
また,PCエクストラドーズド橋は,地域のシンボルやランドマークとしての景観を有するもので,土木構造物のデザイン性の向上及び観光など当該地域の活性化にもつながる。

5 おわりに
コスト縮減を図っていく上で,本橋に採用したPCエクストラドーズド橋は,他橋種に比べ割高となるが,特徴であるPC鋼材のアウトケーブル化によるメンテナンスの容易化および景観的な要素の他に,桁高を低く押えることが出来る橋梁形式として,評価活用の道を開くことができた。
本設計では,さらに軟弱地盤盛土に要する費用や橋梁下部工に要する費用の縮減および松浦川の管理用道路を堤内地に切り回し,更に縦断を下げ,松浦川大橋の橋梁選定と相まって,当該橋梁に要する費用だけでなく,前後の影響区間に要する土工費用を含めた道路全体のコスト縮減策が達成できたと考える。

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