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辺田堰におけるコスト縮減対策

建設省 菊池川工事事務所
 工務課長
若 田 利 光

㈱協和コンサルタンツ 福岡支社
 統括部長
宮 本  修

1 はじめに
迫間川は,熊本県菊池市に在る三国山より発し,南流して八方ヶ岳東側を流れ,中山,下半沢を南流して支流を集め,菊池平野に入り,菊池市街北部で流路を南西に転じ七城町に入り,平野部を南西に貫流し,西端で菊池川に合流する,流域面積95.9㎢,流路長約24kmの一級河川である。
迫間川上流にも竜門ダムが完成し,供用開始されている。
迫間川は,河川改修計画に基づき,河道整備既設堰の統廃合が進められ,下流から新田堰,ニュー荒野堰の整備が完了している。
辺田堰は迫間川4/730地点の固定堰を撤去し,4/870地点に新たに設置するゴム引布製起伏堰である。迫間川は水量,水質においても良好で,アユの産卵育成の場となっており,内水面漁業においても,生態環境,農業利水においても貴重な河川である。
辺田堰は幅52.5m,堰高2.25mのゴム引布製起伏堰であるが,基礎形式,護床工長に対するコス卜縮減対策を試案的に実施した。
現在辺田堰は建設中であるが,辺田堰の結果を踏まえ今後の転倒堰計画に参考となれば幸いである。

2 旧辺田堰の概要
辺田堰は,明治以前(年代不詳)より取水を開始しており,昭和42年3月慣行水利に関する届出を行い,届出当時のかんがい面積は71haとなっているが,昭和55年に圃場整備事業が完了し,登録台帳も整理され平成8年10月時点のかんがい面積は右岸67.1ha,左岸3.3haとなっている。
かんがい地区における栽培作物は水稲,メロン等を中心に麦作も行われている。
辺田堰の水利使用は,一級河川菊池川水系迫間川,右岸4/730付近熊本県菊池郡七城町大字砂田宇野中地先に,コンクリート固定堰で堰上げした表流水を自然流下で代かき期最大1.00m3/s(慣行),普通かんがい期最大0.65m3/s,非かんがい期最大0.2mm3/s の防火用水を取水している。

3 新辺田堰の計画
3-1 堰位置
旧辺田堰は屈曲部にあたり,河床の洗掘,堆積がみられ,取水および魚の遡上に問題があるため,上流約140m地点の低水路法線の直線区間に新設堰を設置する計画とした。

3-2 堰諸元
堰位置が上流約140mに移動することにより,取水施設,取水路の新設が必要となり,取水路の水路損失等を考慮して,現況堰高より5cm高いTP39.85mとした。従って,計画河床高(TP37.60m)を考慮すると堰高は2.25mとなる。また、堰上げ後の高水敷高との差を50cmとすると,計画高水敷高を55cm上げる必要がある。そこで,高水敷を高くしたことによる河積疎外分を低水路幅を7.8m広げることにより河積を同等とした。

3-3経済性への配慮
(1)護床工長
従来,転倒堰の水叩きおよび設床工の長さは,床固工に準じて倒伏しなかった場合に計画高水流量が流下するものとして決定されていた。
近年,倒伏装置の技術開発,ゴム堰の性格から判断して倒伏せずに計画高水流量が流下することは考えられなく,計画高水流量を対象に諸元を決定したのでは不経済となると判断されるため,倒伏時に最も危険となる水位条件で,護床工長を決定した。

① 単位幅流量の算出
水叩きの長さ+下流側護床工の長さを求める場合,単位幅流量が必要になる。単位幅流量を求めるに当たっては,ゴム堰の倒伏動作過程によって生じるVノッチ現象を考慮したものとする。
下流側の護床工の長さを求めるには,Vノッチが発生する直前までゴム堰の高さが急降下した場合での,単位幅流量を算出する必要がある。

Vノッチ発生直前まで堰が倒伏(縮む)したと仮定して越流量を求める。

単位幅流量qを河床幅(41.1-3.7(中央堰柱幅)=37.4)で算出する。

なお,計画流量流下時の単位幅流量は,HWLまでの通水断面積を考慮すると最大6.88m3/sとなる。

② 水叩き長さ+護床工の長さ
q=3.17m3/s/mとして,水叩き+下流護床工の長さLを算出する。
※Hb=1.7(Vノッチ発生直前の水位差)+0.10
(切欠き)

(計画高水流量の場合)

③ 堰より下流水叩き端までの長さ

④ 下流設床工長(L)

(計画高水流量の場合)
  L=35.4-14.0=21.4m

となり,下流護床工長が11.4m短くて済むことになる。

(2)基礎工型式
辺田堰本体の基礎地盤はN値20前後の砂~砂礫地盤である。砂地盤における良好な支持層の判断は,N値30以上とされている。しかしながら,地盤反力は施工時5t/m2,完成後3 t/m2程度と小さく,支持力公式(テルツァギ)による許容支持力は11 t/m2で十分支持力に対して安全であることより,直接基礎として計画するものとする。

① 本体の安定計算

・計算結果
  基礎幅     B=10.400m
  基礎の奥行き  L-21.750m
  底面の摩擦係数 f=0.60

【常時】

【地震時】

安定計算結果,地震時の滑動安全率を満足できない結果となり何らかの対策が必要となった。

② 堰本体安定対策工法検討
堰本体の安定計算において,地震時の滑動に対する安全率が満足できない。滑動安全率を増加させるため,抑止杭等による対策も考えられるが不経済となるためここでは,滑動の安全率に起因する揚圧力の低減,これに伴う浸透路長の確保,地盤改良を含めた摩擦係数の見直し等を含めた基礎工の安定対策工法を検討し,経済比較を行い,適切な工法を決定する。検討ケースとしては,以下の4工法が挙げられる。
ケース①:本体床版を厚くすることで,躯体自重を増加させ,滑動に対する安全率を満足させる。
ケース②:上流部の遮水矢板長を長くし,浸透路長を長くすることで揚圧力を低減させる。
ケース③:本体底版下面の地盤を改良することで,地盤の摩擦係数を増加させる。かつ,遮水矢板を長くすることで,揚圧力を低減させる。
ケース④:堰床版下流部にウィープホールを設置し,揚圧力を低減させることで,滑動に対する安全率を満足させる。
以上の工法の比較検討の結果より,滑動安全率を満足させるには,堰本体下流端にウィープホールを設け揚圧力を低減させる力法が最も経済的となるため対策工法はケース④とした。

③ ウィープホールの設置
ウィープホールの設置により,設置位置で基礎を沿う浸透水が全てウィープホールより抜けるものとし,揚圧力を算出する。すなわち,浸透路長はウィープホール設置位置での本体上面までの距離とし,ウィープホール設置位置での揚圧力は静水圧のみとして,堰本体に作用する揚圧力を算定し,滑動安全率が満足するようなウィープホール位置を決定する。
ウィープホールの配置(設置間隔)は,地下水位の追従を考慮し,ウェルポイントの機能効果を図る最大間隔である2m以下とし,ウィープホールの径は,基礎を沿う浸透路長を全量排出するものとした。
なお,ウィープホール底面は,吸出し防止材で保護した粒調砕石を連続して設置し,目詰まり防止,円滑な浸透水排出を行えるようにした。

④ 必要浸透路長の確保
堰本体下流端にウィープホールを設置した場合,浸透路長が短くなるため,上流側遮水矢板の長さを5mにして,必要浸透路長を確保するものとする。なお,下流側遮水矢板は,浸透路長とは関係ないが下流河床の洗掘防止目的で設置するものとする。

4 あとがき
ゴム引布製起伏堰の護床工長決定の力法は今まで,床固め工の設計基準に準じて実施されているようであるが,倒伏装置の技術開発,ゴム堰の性格から判断して,倒伏せずに計画洪水流量が流下することは考えられないため,考え得る最大流量により護床工長を決定し,試案的に辺田堰に採用することにした。今後の経過を見て設計基準等への反映を検討されることを期待する。なお,床止工の水叩き長,護床工の決定方法は,平成9年の河川砂防技術基準(案)の改訂により修正が加えられた。これも合わせて,今後の経過を見る必要がある。また,ウィープホールにより揚圧力低減の力法は,ウィープホールの性能,耐久性,基礎底面を沿う浸透水による土砂流出等の課題を残すが,試案的に辺田堰に採用した。
揚圧力の低減により,堰本体の安定には有効に働き,コスト縮減対策となり得るため,今後の経過を見て採用を検討することが望まれる。

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