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衛星リモートセンシングを用いた河口調査の一手法

建設省延岡工事事務所
 調査第一課長
尊 田 継 明

宮崎大学土木環境工学科
 助教授
出 口 近 士

九州建設コンサルタント㈱
 水工部
今 山  清

1 はじめに
河口における砂州は平常時には発達したり,洪水流出時にはフラッシュされるなど,日々その形状が変化している。通常,砂州の形状調査は地上で測量する方法か,気球や航空機からの空中写真による観測により実施されている。これらの調査方法は高い精度が得られているが,過去のデータが少ないために,砂州形状を時系列的に把握することが困難な場合が多い。
これに対して,近年は地表面情報を広域的かつ周期的に把握する目的で地球観測衛星が打ち上げられるようになってきた。当初のリモートセンシング(R/S)データは,技術的な問題から広域性(観測域:180km四方)の特徴を有していたものの,地上分解能は低いものであった(LANDSAT:MSS;約80m四方)が,近年は分解能が向上してきている(SPOT:XSモード;20m四方・Pモード;10m四方)。
このような背景の中で,人工衛星によるR/Sデータから砂州形状の変化抽出が可能であれば,例えば導流堤等の構造物の設置による砂州形状の変化を時系列的に把握できるなど,河口のモニタリングおよび管理の上で有用と考えられる。
本検討は,大瀬川河口周辺における砂州を対象として,人工衛星からのR/Sデータを用い,砂州形状の把握および形状変化の検出技術を開発するとともに,その利用の方法を砂州変化の数値解析を例にして検討し,河口開口に伴う問題把握のための基礎資料とするものである。R/Sデータにより砂州形状を定量的に把握するためには,既存のデータ(測量および写真観測)とR/Sデータから得られる形状の精度と整合性を確認することが必要である。しかしながら,大瀬川の砂州に関しては,現状ではR/Sデータの観測時期に対応する既存データが少ないため,資料の得易い宮崎市大淀川河口周辺の砂州を対象にR/Sによる調査を行い,この手法の妥当性を検討するものである。
数値解析は汀線変化モデル(1-ラインモデル)を採用し,大瀬川河口から五ケ瀬川河口に至る海岸の砂州を対象に汀線の再現性を検討し,R/Sデータがシミュレーションモデルに利用可能かを検討した。

2 R/Sデータ
(1)水陸分離
今回解析に用いたSPOTのXSおよびPモード画像は,表ー1に示す波長帯域(バンド)で太陽光による電磁波の地表反射強度を捕捉したものである。この反射強度は各種の補正が施された後,各バンドおよび地上分解能に対応する画素毎に8ビット(0~255)の数値に変換され(以下,この数値をディジタル値と呼ぶ),CCTと呼ばれる磁気テープに格納されて利用者に提供されている。

一般に,水域の可視域の反射強度は陸域のそれに比較して小さいので,ディジタル値は相対的に低い値となる。したがって,水域と陸域のディジタル値の境界値(いき値と呼ぶ)を設定すれば,未知画素においてそのディジタル値がいき値より大きければ,陸域と判別できる。通常試行錯誤的にいき値を設定し,陸域の形状をディスプレイやプリンターで出力する。ついで,潮の干満による影響を受け難い防波堤などに着目し,この形状と地形図などの形状との整合を判断して最終的にいき値を設定する。
本調査では,この方法によって砂州の形状および汀線の捕捉を試みた。
(2)レベルスライス法
XS画像の波長帯域は可視光から近赤外である。可視光は水をある程度透過するので,水面の反射や水質が均一であると仮定すれば,比較的浅い水域のR/Sデータは水深情報を包含していると考えられる。このように,ディジタル値をある一定のレベル毎に区分して画像の特徴を解析する,あるいは画像から地表物の特徴を把握する方法をレベルスライス法と呼ぶ。本調査ではこの方法を利用して沿岸域の水深を推定した。

3 衛星リモートセンシングによる地形調査
(1)砂州形状の変化抽出
R/Sデータに対して前述のいき値法を適用して水陸分離を行い,砂州形状を把握した。ついで,その境界線(汀線)と航空写真からの砂州形状の判読結果とを比較検討した。写真ー1にPモードによる対象域の出力結果を示す。図ー2,3にPモードとXSモードの画像から,いき値法で抽出した砂州の汀線と,航空写真から判読した結果の比較を示す。Pモードでは分解能が10mということもあり,高い整合性が得られている。XSモードについても,Pモードと比較すると精度は落ちるが,ズレが生じている所でも1画素(20m)であり,概ね整合していることが確認できる。

大瀬川河口域については,センサーがPモードであるため,Pモード(93.10.19)と航空写真(93.11.16)を比較すると,高い精度で整合していることが認められる(写真ー2)。

(2)水深の推定
今回の解析では,水深とR/Sデータのディジタル値との関連を解析するために,等深線図が整備されている大淀川河口域と宮崎港沿岸域を対象として解析した。利用したデータを表ー3に示す。

大淀川河口部については,等深線図の水深を3段階(0m以上1m未満,1m以上2m未満,2m以上3m未満)に分けた。宮崎港沿岸域は日向灘に面して外洋性波浪の影響を直接受ける海岸であると同時に,大淀川の流出,あるいは宮崎港の整備に伴う防波堤の建設や宮崎空港の滑走路の沖合い延伸工事が行われたことにより,複雑な海浜変形をしている。このことから,解析場所は防波堤などに囲まれた地形変化の穏やかな宮崎港沿岸域の一部分に限って行った。この地域については,水深を5段階(0m以上1m未満,1m以上2m未満,2m以上3m未満,3m以上4m未満,4m以上5m未満)に分けた。
これらの各段階毎に,すなわち等深線に挟まれた範囲に位置する画素を抽出し,これらの画素のディジタル値の出現頻度を調べた。図ー4は,1988年12月20日のバンド2の結果である。水際などの浅い水域(0~1m,1~2m)においては,ディジタル値が分散して出現している。これは,水際などの特に浅い水域において入射した太陽光が浮遊している土砂や波などにより複雑に散乱・反射し,このため画素のディジタル値(反射強度)が高くなっているためと考えられる。一方,水深(2~3m,3~4m)ではバラツキは小さくなり,ディジタル値の出現にまとまりが出てくる。

図ー5はこれらをまとめて表示したものであり,円の大きさは画素数の多寡を意味している。図から,最頻値(その段階における最も大きい円)は,水深が深くなるにつれて小さいディジタル値へと移行しており,誤差を含むものの,概ねディジタル値から水深が推定できるものと判断できる。

次に,シミュレーション解析地域である大瀬川河口の沿岸の水深を推測した。本解析では,R/Sデータを用いて本地域の水深の推測は4m程度が限界と判断される。用いた延岡地域のSPOT-XSデータの観測日は1993年1月22日である。同一パスである宮崎地域の同日のXSデータが存在すれば,宮崎地域では等深線図などのデータが豊富にあるため,CCTのディジタル値と水深との関係を求め,この結果を延岡地域に転用することができる。しかし,雲の影響により宮崎地域の有用なデータが得られなかった。そこで,データの制約から時間的かい離があるという問題はあるが,1979年3月の等深線図と比較することによって水深を推定した。
図ー6はバンド1について,水陸分離のいき値を50に設定し,これ以上のディジタル値の画素を”&”記号で表示し,水域についてディジタル値51,50,49のようにレベルスライスを1に設定して,それぞれ“A,B,C……”のアルファベット記号で出力したものである。
図より,“A”から“G”までの記号はその位置がかなり混交し,記号(画素)は浅海域の中でも水際や,浅い部分に分布している。この理由としては,前述のように水際などの特に浅い水域においては,入射した太陽光が波などにより複雑に散乱・反射して,そのため水深にそれほど差異がないにも関わらず,画素のディジタル値(反射輝度)にバラツキが生じるためと考えられる。
地上データの制約から検証はできないものの,宮崎港沿岸での解析結果と,図を視覚的に判断すれば,すなわち記号の混交状態から判断すれば,記号“S”(33)と“T”(32)の境界線が水深推定の限界と判断される。そこで,この境界線と等深線の水深4mの沖方向の位置を比較した結果,それらの沖方向位置の平均値が概ね整合した。したがって,水深4mの画素“S”のディジタル値33と(水深0m)に該当する画素“H”のディジタル値(44)をレベルスライス法によって中間の水深を推定すればよいことになる。

4 汀線変化モデルによる数値計算
(1)再現計算
汀線変化モデル(1-ラインモデル)は,波浪条件と海岸線形状のデータにより,沿岸方向の各点において沿岸漂砂量を算定し,汀線変化を求めるもので海浜変形を一本の線の変化(前進,後進)で把え,長期的な海浜変形を予測する手法として現地への適用性の高いモデルである。

モデルは,①波の変形計算,②沿岸漂砂量の計算,③汀線変化量の計算の3つの部分よりなり,②,③の基礎式は下記のとおりである。

解析対象領域は,図ー7に示すように汀線方向1,800m,岸沖方向2,000mとして波浪場を与え,初期汀線は1978年2月の実測値とした。計算期間は,海底地形コンタの存在する1978年2月から1979年3月の約1ケ年とし,沖波は有義波(波高1.35m,周期6.6秒)を与え,漂砂の移動水深D=8m,漂砂Qは南から北へ汀線方向に移動するものとし,南側境界は実測値をもとにQa=0.002m3/s,北側境界は五ケ瀬川の導流堤設置のためQb=0m3/sとした。大瀬川からの供給土砂量は,大瀬川河口の漂砂移動量Qの1割を見込んだ。再現結果は,図ー9に示したとおり,1979年3月汀線を概ね再現している。

(2)数値解析におけるR/Sデータの有用性
汀線変化量は,砕波点における波高Hb,入射角αbをもとに決定される。砕波条件をMunkの式,すなわちH/h=0.83(H:波高,h:水深)として与え,砕波点の位置をプロットすると,図ー10のようになる。この図にR/Sデータより推定可能な水深0~4mの領域を重ねると,砕波点はこの領域にほとんど入ってしまうことが分かる。漂砂移動の限界水深は太平洋に面した海岸で10~12m程度とも言われ,R/Sデータの水深情報のみでは浅海域を全域カバーすることはできず十分とは言えないが,砕波点の決定に寄与する点において有用であり,また砂州地形の検討結果で明らかなように初期汀線を入力値として与えることができる点において有用であると言える。

5 おわりに
砂州の平面形状はSPOT画像からほぼ捕捉でき,地上データの不足を補完するだけでなく,砂州の発達,消長を時系列に把握できる点で今後の活用が望まれる。なお,R/Sデータを地上位置に対応づけて,位置評定する場合には幾何学的な誤差(地上分解能)を考慮して,砂州や汀線の変化量との整合性を十分に検討する必要がある。水深情報に関しては,今回は限られたデータでもあり,推定される水深の精度の評価は今後の検討にまちたい。
汀線変化の数値解析は,1-ラインモデルを採用したが,実測データの制約から計算期間が1年間と短く,初期入力値等に試算値が含まれているため,モデルの精度についてはさらに吟味が必要である。このモデルでは,導流堤等の構造物の表現も可能であり,構造物周辺の砂州の変化予測シミュレーションとR/Sデータによる砂州地形との比較によってパラメータの精度の向上が図れ,河口管理のうえで貴重な資料となり得ることが期待される。

謝辞
本検討をまとめるにあたり,宮崎県土木部都市計画課野田和彦係長には,地形コンタ図等の資料閲覧でお手を煩わせた。九州共立大学小島治幸教授には,汀線変化モデルについてプログラムの提供とご教示を賜った。両氏に厚くお礼を申し上げます。

参考文献
宇多高明著:現場のための海岸Q&A選集

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