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荒津大橋の振動特性とケーブルダンパーの制振効果

九州大学工学部土木工学科
助教授
烏 野  清 

九州大学工学部土木工学科
教 授
堤    一

九州大学大学院工学研究科
博士課程
麻 生 稔 彦

九州産業大学工学部土木工学科
助教授
吉 村  健

福岡北九州高速道路公社
技術管理課長
井 上 朝 登

福岡北九州高速道路公社
工事課
田 中 千 秋

三菱重工(株)技術本部広島研究所
鉄構・土木研究室主査
佐々木 伸 幸

三菱重工(株)広島製作所
鉄構部橋梁設計課
中 谷 真 二

1 まえがき
荒津大橋は福岡市北部を博多湾沿いに延びる福岡都市高速道路1号線の那の津と荒津を結ぶ橋長345m,幅員21m(有効幅員16.6m)の3径間連続鋼斜張橋である。本橋は大型台風に遭遇する可能性の高い北部九州に建設されると共に,冬季に10m/s程度の強い季節風が吹くことから,風の影響による動特性を考えての安全性,安定性の検討が重要な問題となる。以上の理由により,本橋完成後に起振機による振動試験を実施し,主桁,主塔およびケーブルの振動特性(固有振動数,変位モード,対数減衰率)を求めた。
また本橋の施工中において,小雨を伴った風速10~18m/sの強風時に,風下側のケーブルに最大振幅60cmに達する振動が生じた。この振動はレインバイブレーションと呼ばれるもので,雨による水滴がケーブル表面上を流れる時,ケーブル断面の形状が変化するため渦励振が発生するものと考えられているが,詳しい発生機構に関しては,まだ不明な点も多い。レインバイブレーションは走行中の人に不安感を与えるだけでなく,ケーブル定着部分の疲労が重要な問題となる。本橋における防振対策としては,種々検討の上,美観,取付等の容易さから,我国で始めてのオイルダンパーを用いることとなった。しかしながら,ケーブルのオイルダンパーに関する資料が現在のところ全くないことから,初めに試作ダンパーをケーブルにセットし,振動試験を実施した。この結果を用いて正規のオイルダンパーを設計し,再び振動試験により最終的な制振効果を確認した。
本文は上記の試験結果を同種の橋梁の耐震・耐風設計の基礎資料として報告したものである。

2 橋梁試験
図ー1に荒津大橋の概略を示す。本橋の主桁は曲線部分に対する捩り剛性の確保と耐風安定性を考慮して,幅21m,桁高2.5mの偏平な逆台形鋼床版箱桁となっている。主塔は2×3mの矩形断面で空域制限により路面上60mの高さとなっている。また航路に近接する橋脚をコンパクトにすることと,美観上の理由より主塔は1本柱形式とし,主桁とは剛結構造となっている。上下方向に13段配置されたケーブルはマルチファン方式の1面吊りである。主塔下部は矩形断面のケーソンを基礎とするRC中空橋脚,その他は場所打ち杭を基礎とした鋼製ラーメン橋脚となっている。(九州技報,創刊号,1987.6を参照)

3 試験概要
(1)起振機試験
本橋完成時(主塔の制振装置は作動,ケーブルのオイルダンパーは無)に対して起振機試験を実施した。図ー1に測定番号および起振機の加振位置を示す。ピックアップとしては主桁,主塔にサーボ加速計(明石制作所製,V401B,V401A),ケーブルにひずみ式加速度計(共和電業製,AS-2C)を用いた。起振機の位置としては捩れ振動を生じ易くするため,橋面の海側上に寄せて設置し,各次数の振動が得られるように3カ所(Ⅰ:185m支間の中央,Ⅱ:115m支間の中央,Ⅲ:115m支間の1/4点)で加振した。加振方向は上下および橋軸直角水平方向である。試験に用いた起振機は油圧サーボ式大型起振機(三菱重工㈱名古屋航空機製作所製,最大ウェイト重量(3tonf),最大ストローク±20mm)である。本橋のようにスパン長の大きい柔構造物では,低周波領域に数多くの固有振動数が現れることから,起振機試験では2.2Hz以下の次数を対象とした。
試験方法としては,各次の固有振動数に対する共振曲線より固有振動数と変位モードを求めた。ケーブルと主桁の固有振動数の関係を知るために,主桁加振時におけるケーブルの共振曲線も併せて測定した。次に,共振曲線より得られた各次の固有振動数において,定常共振状態に加振し,その後起振機を急停止させて得られる自由減衰振動より対数減衰率を求めた。対数減衰率は振動振幅によって異なることから,出来るだけ大振幅で振動させることが望ましい。しかしながら,低周波領域では起振機の起振力が小さいことから,起振機による加振中に人力加振をも加え,自由減衰振動を測定した。本試験における起振力は上下方向で200~800kgf,水平方向で400~1,300kgfの範囲であった。
測定としては起振機による加振時の桁,主塔およびケーブルの応答加速度を直ちにAD変換し,パソコンで処理する方法を用いた。
(2)常時微動試験
本橋の未舗装時において常時微動試験を実施し,スペクトル解析により振動特性を求め,今回の試験における起振機の位置,測点数の参考とした。
完成時においては,起振機試験の補助として2Hz以上の振動特性を求めることとした。また,ケーブルの振動特性は本数が多く,しかも低周波領域に数多くの固有振動数が存在することから,常時微動試験により求めることにした。
本橋は海面から40mの高さに位置するため,未舗装時の常時微動測定中においてもかなりの季節風(10m/s程度)が吹き,最大で主桁が3gal,主塔頂上部が4gal,ケーブルが30gal(下端より2mの位置)程度振動していた。したがって,通常の橋梁に比べ増幅器の増幅度が小さくてすみ,常時微動の測定としては容易であった。データ処理としてはサンプリング間隔(⊿t)を0.01秒,データ個数N=4090個で1個のフーリエスペクトルを求め,これを10個平均して,振動の非定常性による誤差を小さくすることにした。
(3)主塔およびケーブルの制振効果確認試験
本橋の主塔は1本柱であり耐風時の安定性確保のためにダイナミックダンパーが設置されている。主塔頂上に起振機を置くことができないため,人力加振による方法で,ダンパーの作動時とロックの状態時の自由減衰振動を求め,両者の対数減衰率の比較より制振効果を確認した。
レインバイブレーションの防振対策として,オイルダンパーを用いることに決定したが,その効果の確認とダンパー設計の基礎資料を得るための試験を実施した。まず1個の試作品としてオイルダンパーを制作し,西側ケーブルの1,4,7,13番と東側6番のケーブルにセットし,小型加振機によって共振させた後の自由減衰振動より得られる対数減衰率をダンパーの有無で比較検討した。最終的に設計され本橋に設置されたダンパーの制動効果についても同様の確認試験を実施した。

4 試験結果
(1)荒津大橋の振動特性
図ー2に測点6の面内振動の共振曲線を例として示す。共振曲線の求め方としては初め比較的荒い周波数で加振しながら,およその固有振動数の目安をつけた後,起振機の性能上可能な最大起振力および最小周波数刻みで加振していく方法をとった。図ー2は2Hzまでの共振曲線をまとめて示したもので,起振力は統一されていない。本橋の対数減衰率は小さく,共振時の応答倍率が大きくなっている。また実験日の天候により固有振動数が3~4%変化する頼向が見られた。

図ー3はダンパー作動時に主塔を人力加振した場合の自由減衰振動(面外1次)を示す。ダンパーをロックした状態では人力加振が比較的容易であり,主塔頂上で約40gal程度の加速度が得られたが,作動時の加振では10gal程度であった。

図ー4は測点3Mにおける常時微動の上下方向スペクトルである。本橋の常時微動は他の橋梁に比べてかなり大きいことから,各次数とも明瞭にピークが現われている。

図ー2から図ー4に示すような各測点の共振曲線,自由減衰振動,フーリエスペクトルより求めた本橋の固有振動数および対数減衰率を表ー1に示す。表中の理論値は本橋を多質点系に置換し,有限要素法を用いて立体解析した結果である。本橋のように複雑な構造を有する斜張橋では,基礎を含めた全体系で解析する場合,多くの質点を必要とすることから,群杭基礎に比べ比較的剛性の小さいと考えられる鋼製ラーメン橋脚の下端を固定,地盤の影響の大きいと思われる主塔基礎のケーソン部分については地盤バネを考慮して解析した。モデル化に先立って,ラーメン橋脚部分に対して下端部を固定とした場合と,群杭基礎に地盤バネを考慮して解析した結果,両者にはほとんど差異が見られなかったことから,本橋のモデル化は妥当と思われる。ケーブルについては曲げ剛性を持たないはり要素とし,ケーブルの張力を考慮して解析した。
表ー1の固有振動数の結果を見ると,面外の1次および6次以外は実験値と理論値は比較的良い一致を見た。主塔の振動である面外1次において,実験値が理論値より1割強小さくなっているが,この原因として,主塔と橋脚上端部の結合部分に多少のガタがあることなど考えられるが,はっきりした理由は判らない。捩れ振動において,1次は面外4次と2次は面外5次と多少連成しているがその成分は非常に小さいものであった。
表中に共振曲線を用いて1/√2法により得られた対数減衰率と,自由減衰振動から得られた値を比較して示す。両者の値は面外4次を除いて,ほぼ同じ程度の値となっている。一般に高次振動において自由減衰振動を求めると,その次数以下の振動が混在し,動特性を求めることが難しいとされるが,本実験では面内2次振動を除いてかなり高次まで綺麗な波形が得られた。

主塔の振動である面外1次において,ダンパーの作動によって対数減衰率は0.009から0.121まで大きくなっており,ダンパーによる制振効果の大きいことが確認された。一般に対数減衰率は振動振幅に依存することが知られているが,本実験では低次において起振力が不足していたため振動振幅が小さく,当然地震時および強風時の大振幅においては,ここに示す値より大きくなることが予想される。
図ー5,図ー6,図ー7に面内振動,面外振動および捩れ振動の変位モードを理論値と比較して示す。面内振動の実験より得られた変位モードは理論値とよく一致しており,特徴としては低次振動において主塔および橋脚の変形は小さく,主として主桁の上下振動となっている。面外振動の4次および5次の変位モードを比較してみると長いスパン側および短いスパン側がそれぞれ共振している。常時微動および理論値では,短いスパンのみが振動する4次のモードのみが現われていることや,一般に起振機を設置したスパンが他のスパンより大きく振動する現象があることなどから,基本的に同一の固有振動数と見なすことができるであろう。面外振動の変位モードの特徴は橋脚の変形が大きく,面内振動に比べて主塔の振動が大きい。このことは高橋脚を有する橋梁の理論解析において,面外振動では基礎を含めた橋脚剛性を正確に見積る必要があることを示している。
未舗装時と完成時の固有振動数を比較してみたところ,舗装重量により完成時では約8~10%程度小さくなっている。また,舗装により剛性および対数減衰率が大きくなったためか,完成時の車両走行による振動は非常に小さくなっていた。常時微動試験より求めた変位モードは起振機試験結果と良く一致していた。

(2)ケーブルの振動
図ー8は図ー2に示す桁の共振曲線と同時に測定したケーブル(W-1)の共振曲線である。ケーブルと桁の固有振動数が近接している場合,桁の振動はケーブルに比べて減衰が大きいため,振動の生じる周波数領域が広くなり,このためケーブルと桁の共振現象が現れている。しかし,ここに示す結果はケーブルにダンパーを設置する前の試験であり,現実にはかなりの制振効果があり,振動は小さいものと思われる。

図ー9はケーブルの常時微動から求めたフーリエスペクトルである。ケーブルは風によって振動し易いことから,明瞭に固有振動数を判断できる。表ー2は曲げ剛性を無視し弦として解析した理論値と実験値を比較したものである。両者は非常によく一致しており,本橋のようにサグ比の小さい斜張橋では,サグおよび曲げ剛性を無視した弦の解析で十分固有振動が求めることができる。

図ー10はケーブルの固有振動数と桁の固有振動数の関係を示したもので,両者が共振する周波数を知ることが出来る。図よりレインバイブレーションだけでなく,強風時や車両走行時においてもケーブルが桁の振動と共振する可能性があり,ケーブルに制振装置を設置することの必要性を示している。

(3)ケーブルダンパーの制振効果
図ー11は試作ダンパーを制作するために,ダンパーの減衰係数Cとケーブルの対数減衰率δの関係を理論的に求めたものである。この図はケーブル振動の対数減衰率を最大にする最適減衰係数が振動モードで異なることを示している。そこで,ケーブルの1次から5次までの振動に対して,δが0.1以上になるように試作ダンパーのCの値を65kg/cmとした。この試作ダンパーをケーブルに設置した場合と無い場合の両者に対して,小型加振機による振動試験を実施した。この試験より得られたケーブル(W-13)の自由減衰振動波形を例として図ー12に示す。ダンパーにより対数減衰率が大きくなっており,振動が急に減衰していることが判る。これらの結果をまとめたものが表ー3の予備試験である。ダンパー無しの結果と比較した時,ダンパーの設置により対数減衰率が非常に大きくなっているが,設計時の目標であるδ=0.1に比べ多少小さな値となっている。これらの原因としては,ダンパーを取付金具を介して高欄に固定したためにガタが生じたことや,ケーブルの振動がダンパーの最大ストロークの1/10以下の微少振幅では減衰力が速度に比例していないこと等が考えられる。

以上の結果をふまえ,正規のダンパーでは取付台を床版上にしっかりと固定し,ダンパーの最大ストロークを試作品より小さくすると共に,本四架橋の設計目標であるδ=0.05以上になるように設計した。オイルダンパーを用いてケーブルの振動を防振する場合,なるべく振幅の大きい位置にオイルダンパーを設置することが望ましいが,美観上高欄の上に出ないように配慮した(写真ー1,2)。
各ケーブルに正規に制作したダンパーを設置した後に,試作ダンパーの時と同様の試験を実施した。この結果が表ー3の対策後の値であり,各ケーブルともδ=0.05以上となっており,対数減衰率はダンパー無しに比べて5~20倍以上となっている。オイルダンパーはケーブルの対数減衰率を大きくし,ケーブル振動の防振対策として十分利用出来るものと思われる。

5 まとめ
振動試験より得られた本橋の固有振動数および変位モードは理論解析結果と良く一致しており,本橋は所定通りの剛性を有していることが確認された。また,常時微動試験と起振機試験において,両者の結果は良く一致していたことから,試験日数が短く,測定も簡単な常時微動試験によって固有振動数および変位モードを求める方法が便利であろう。一方,対数減衰率に関しては振動振幅が大きく影響することから,常時微動試験より得られた固有振動数において,起振機による自由減衰振動を求めれば,大幅に振動試験に要する日数を短縮できるものと思われる。
架設時にしばしば発生したレインバイブレーションの防振装置として,本橋ではオイルダンパーを用いたが,ケーブルの対数減衰率をほぼ設計通り大幅に増大させ得ることを定量的に確認できた。ダンパー設置後今日まで,レインバイブレーションが発生していないことから,オイルダンパーによるケーブルの制振効果が極めて高いことが実証された。
最後に,今回の振動試験に御協力を頂いた,九州共立大学助教授成富勝氏,九州大学工学部技官城戸繁幸氏,大学院生高橋幸久,前田秀喜,三谷英弥,稲田雅裕の各君に深く感謝致します。

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