舗装分野に求められる新たなニーズ
独立行政法人土木研究所
道路技術研究所グループ
舗装チーム 上席研究員
道路技術研究所グループ
舗装チーム 上席研究員
久 保 和 幸
1 はじめに
従来、舗装に求められる性能は
① 路面にち密な層を設けることにより雨天時の泥濘化や乾燥時の砂塵を防止し、快適性を維持すること
② 路面の平坦性を良くするとともに適度のすべり抵抗性を持たせることによって、車両走行時や歩行時の快適性や安全性を向上させること
③ 周辺の環境に適合した舗装材料を使用することにより、良好な道路景観や沿道環境を送出すること
であった1)。特に① にあるとおり、路面はち密であることが原則とされ、舗装内に水を浸透させることは舗装の耐久性の観点から避けられてきた。
一方、舗装技術の多様化・高度化については、平成3年の日本道路会議においても特定課題として取り上げられ、基本ニーズ、付加的ニーズ、間接的ニーズとして以下のようなニーズが整理されている2)。
基本ニーズ:耐久性、走行安全性、快適性
付加的ニーズ:低コスト化、景観、環境保全など
間接的ニーズ:舗装廃材の再利用、作業環境の改善など
最近では、騒音対策や雨天時の走行安全性の向上などを目的として、高速道路をはじめ、国道や県道にも排水性舗装が施工されてきている。排水性舗装の施工実績は図-1に示すとおりであり、その技術的な特徴は、従来タブーとされてきた、舗装の中に水を浸透させることである。平成17年度に土木研究所で作成された「道路路面雨水処理マニュアル(案)」3)ではある程度の制約条件があるにせよ、車道において透水性舗装の適用を認めており、つい最近まで舗装内に水を浸透させることは舗装技術者としてタブーであったことを考えると隔世の感がある。
こうした背景を受け、平成13年度には舗装技術の性能規定化を謳った「舗装の構造に関する技術基準」が国土交通省道路局長通達として発出され、これを受けて(社)日本道路協会より「舗装の構造に関する技術基準・同解説」(以下、技術基準)が発刊されている。
ここでは、舗装に求められる性能としてどの様なものがあるのかを紹介するとともに、こうしたニーズに対して舗装技術者としてどう対応していくのかについて、技術基準の記述や土木研究所における車道透水性舗装の実用化に向けた調査研究を例に紹介する。
2 舗装に求められる性能
2.1 舗装の構造に関する技術基準
「舗装の構造に関する技術基準」では、これまで曖昧にされてきた舗装に求められる性能(例えば、設計年数10年)を明確にすることを目的としている。本基準の中では舗装の性能指標として
必須の性能指標
・疲労破壊輪数
・塑性変形輪数
・平坦性
必要に応じて求める性能等
・浸透水量
・すべり抵抗
・耐骨材飛散
・耐摩耗
・騒音低減など
が示されている。
(社)日本道路協会においても、本基準をサポートする図書として「舗装の構造に関する技術基準・同解説」が平成13年7月に刊行されるとともに、”仕様規定から性能規定”という流れを受けて、舗装委員会の組織も改編されている。
これまで、舗装の設計と言えば構造設計のことであり、TA法に基づき一日の大型車交通量と路床の支持力(CBR)から必要となる舗装の厚さが定められてきた。
今後は、舗装の設計としては耐久性の観点からの構造設計と、道路ユーザーに対してどの様な路面を提供するかという観点からの性能設計の2本立てが原則となっていくと考えられる。
2.2 舗装に関する性能規定化
舗装の性能が改めてクローズアップされてくる中で、コスト縮減や新技術の活用促進による民間企業の技術力向上などの観点から舗装工事をはじめとする公共工事を性能規定化する動きがここ数年活発である。舗装工事では平成10年に初めで性能規定発注が関東地方整備局で実施4)されて以来、図-2に示すとおり性能規定発注実績が増加してきている。
舗装の性能規定化については、海外においても実施されてきている。PIARCでは世界7カ国における性能規定発注方式のとりまとめを行っている5)。このとりまとめによると、スウェーデンでは供用後の路面性状や物理性状について規定しており、ボーナス&ペナルティの概念も導入されている。一方、イギリスでは配合設計時に把握される供用性に関連する品質管理項目を規定しており、経年後のボーナス&ペナルティの概念は導入されていない。経年後の品質を確実に保証させるという観点では、スウェーデンの方がより進んだ考え方であるが、供用中の舗装の劣化のリスクについて、どの程度まで施工業者に負わせることができるのか、といった観点から、その導入に当たっては発注者側と受注者側の間にかなり精緻な契約が必要になるのではないかと推察される。
このように性能規定にもいくつかのレベルがあり、前述の技術基準においても図-3に示すような整理を行っている。すなわち、従来の仕様規定に対して、性能規定(1)は見なし規定、性能規定(2)は表-1で言うところのイギリス風、性能規定(3) はスウェーデン風といったところである。(1)から(3)に行くにしたがい、材料や施工、でき型の自由度が高まっていくが、その分、国民の代わりに舗装を調達する立場にある発注者に対しては、提案された舗装構造や材料などが正しいものかを評価する高い技術力が要求されることとなる。
3 舗装分野に求められる新たなニーズ
3.1 舗装の耐久性向上に資する技術
舗装に求められるもっとも基本的な性能の一つに耐久性がある。具体的には基準でいうところの「疲労破壊輪数」がこれに当たるが、要するに破壊せずに長持ちすることが求められるということである。
耐久性の議論はすなわち、舗装の破壊とは何かという議論であり、これまで当たり前のようにTA法でアスファルト舗装の構造設計を行ってきた多くの舗装技術者にとって、実は議論したことがないテーマである。基準においては舗装の破壊を繰り返し曲げ荷重による疲労破壊とすることにより、これまで別々の設計法で構造設計が行われてきたアスファルト舗装とセメントコンクリート舗装、橋面上の舗装など様々な舗装構造の構造設計を統一的に整理しようとしている。
耐久性を向上させる技術としては、
① 耐久性の高い材料を使用する
② 舗装の厚さを厚くする
③ コンポジット舗装(セメントコンクリート舗装の上にアスファルト混合物層を設け、セメントコンクリート舗装の耐久性とアスファルト舗装の走行快適性を両立させた舗装)のような長寿命化舗装
がある。これらの舗装技術はことさら特殊なものではないが、その耐久性を如何に評価するかにこれまで多くの舗装技術者が腐心してきている。この耐久性の評価には2つのポイントがあり、1つは”設計された舗装構造の耐久性を如何に評価するのか”であり、もう1つは”舗装に求められる耐久性はどの程度が妥当なのか”である。
基準において「疲労破壊輪数」が舗装の必須の性能として取り上げられたことを受け、その評価手法として舗装のたわみ特性に着目した多層弾性理論に基づく評価手法が提案されている。多層弾性理論は、舗装構造を複数の弾性体の集合体とみなし、それぞれの層の弾性係数やポアソン比、舗装に掛かる荷重を元に、各層のたわみ量を求めるものである、得られたたわみ量から、舗装各層の疲労破壊試験結果を元に、個々の層がどの程度の繰り返し載荷に耐え得るかを評価することができる。図-4に、舗装のたわみ量を現地で測定することができるFWD(Falling Weight Deflect-meter)とたわみ量から当該舗装材料の疲労破壊輪数を求めるための疲労曲線の概念図を示す。
従来、アスファルト舗装は10年、セメントコンクリート舗装は20年を標準的な設計期間としてきたが、基準ではこの設計期間も原則として任意に設定できることとしている。これにより、舗装の設計者は初期コストを抑えて維持修繕で対応するか、初期コストを掛けて将来の維持修繕の負担を軽くするかを選択することができるようになったが、その判断基準が示されてこなかった。厳密にはライフサイクルコスト(以下、LCC)の概念はかなり以前から存在し,土木研究所をはじめ大学やコンサルタントなど様々な研究機関で検討されてきているが、全国統一基準のようなものは存在しない。ライフサイクルコストの概念は図-5のとおりであるが、特に問題となるのは時間損失費用や環境改善便益、車両走行費用といったいわゆる外部コスト(道路利用者の費用)を如何に算出するかである。
特に最近は車両走行騒音の低減効果のある排水性舗装や環境改善を目的とした保水性舗装などが普及してきており、こうした効果をどの様にして定量化するのかが大きな課題として残されている。
また、余談となるが、舗装の管理目標を如何に設定するかもライフサイクルコストと関係があり、より経済的な道路管理を行うためには管理目標はどの程度が妥当であるのかといったこともまた課題として積み残されている。
舗装の耐久性向上に資する技術としては高耐久性材料の開発の他、舗装厚を厚くすることも含まれるが、その普及のためには、その耐久性を評価するソフト技術の開発が不可欠である。
3.2 環境の改善に資する技術
環境の改善に資する技術としては、これまで雨天時の車両走行安全性の向上や車両の走行騒音の低減効果を有する排水性舗装が広く普及してきているが、最新の舗装技術としては太陽光を反射することにより路面温度の上昇を抑制する遮熱性舗装や、雨水を舗装体内に保水し、水分の気化熱を利用して路面温度の上昇を抑制する保水性舗装がヒートアイランド現象を緩和する技術として注目されてきている。図-6に遮熱性舗装ならびに保水性舗装の概念図を示す。
こうした温度低減舗装の効果はシミュレーション等の結果によると歩道上の温度が路面から50cmの高さでは2℃以上低下するなど、全体的に路面付近の温度が低下すると言われている。現在、こうした明確な温度低減効果により東京都内を中心に施工実績が増えつつあるが、こうした技術が一般化し普及させていくためには、その舗装としての長期耐久性や長期間での温度低減効果の持続性確認のほか、その温度低減効果を如何に評価し、要求基準を作成していくかが重要である。
技術が一般化するということは、任意の施工予定個所において他の舗装技術と比較してどちらがより当該個所におけるニーズに合致しているかを評価した上で選択できるということであり、温度低減効果と雨天時の車両の走行安全性のどちらがより必要とされているのかを発注者が判断しなければならない。その意味では、特にこうした環境改善に資する技術については、先に述べたLCCの概念にもあったように、これらの性能を道路利用者や国民の便益に換算して如何に定量化できるかが今後の課題であると言える。
3.3 新たな性能を評価する技術
温度低減効果については、まだ検討の緒についたばかりであり、その効果の評価方法は確立されていない。ここでは、すでに試験法として普及している「浸透水量」ならびに「騒音低減」に対する評価方法を紹介する。
舗装体内には原則として水を入れない構造としてきたことは前述のとおりであるが、排水性舗装の普及により、舗装内に如何に水を浸透させるか、といった性能が求められるようになった。その指標として考えられたのが浸透水量であり、現在一般に広く普及している評価方法は写真-1に示すとおりである。これは、400mlの水が何秒で浸透するかを測定するものであり、路面の評価としてはその測定された値から15秒間で何mlの水が浸透するかを指標としている。本試験法の課題としては、
① 排水性舗装の浸透水量が本試験法の上限ぎりぎり程度まで向上していることにより、これ以上排水性舗装の浸透性能を向上させた場合、評価しきれないこと
② 排水性舗装の浸透性能を想定して開発された試験法であり、排水性舗装以外の考え方、例えばグルービング工法などには適用が困難であること
などが挙げられる。今後、性能規定の考え方が普及し、様々なアイデアに基づく浸透性能を有する舗装技術が開発されるためには、舗装の浸透性能とは何か、といった根本的な概念に基づく新しい評価方法が必要である。
騒音低減もまた、排水性舗装が低騒音機能を有することから舗装に求められるようになった、比較的新しい性能である。その評価方法は写真-2に示すとおりであり、走行する車両の後輪から発生するタイヤ騒音を直接測定するものである。従来、排水性舗装の騒音低減効果の測定には、東京都の助成に基づき開発されたRAC(Road Acoustic Checker)6)をベースに開発された数台の路面騒音測定車が用いられてきたが、前述の関東地方整備局の例のように国土交通省等において騒音低減効果に着目した性能規定発注の実績が伸びてきたことから、開発費用が高価となる既存の路面騒音測定車をベースにより簡易な測定方法が必要となった。そこで、土木研究所では、民間企業との共同研究により写真-2に示すような簡易型の路面騒音測定車を開発するとともに、その測定精度を確保するために、土木研究所構内に図-7に示す路面騒音測定車の性能比較用の基準路面を設けている。
本施設では、基準路面において各路面騒音測定車により測定される騒音を比較・検証することにより、どの測定車でも同様の測定ができるように各測定車のキャリブレーションを行うことができる7)。本試験法の課題としては、
① 浸透水量の測定法と同様、排水性舗装を前提に開発された技術であり、弾性材料を用いて騒音低減を図った舗装技術などの評価は困難であること
② 官民境界の騒音の低減効果との関連が不明であり、環境基準や要請限度に基づく舗装路面の管理目標の設定根拠に乏しい
などが挙げられる。今後、騒音低減効果を有する舗装技術の開発・普及を促進するためには、官民境界での騒音を直接もしくは間接的に評価できるような、より汎用性のある評価法の確立が必要である。
4 おわりに
舗装の性能規定化の流れは今後ますます加速していくと考えられ、舗装に対するニーズもますます多様化していくことが予想される。こうした舗装に対する要求に対してより迅速に対応していく必要があるが、例えば車道透水性舗装に関する試験にしても、通常の降雨だけでは不十分であることから散水装置を別途製作するなど、個々の技術に対して評価の手間がかなり掛かってしまうというのが現状である。
新技術の迅速な実用化のためには、今回土木研究所において実施した舗装走行実験場のシステム更新のように評価プロセス自体に掛かる時間を短縮する取り組みと同時に、個別の技術に対してではなく、普遍的に舗装に対する要求性能を評価できる試験方法を確立する必要がある。このほかにも例えば、冬期の路面管理上有効な技術として検討されている凍結抑制舗装の場合、大きく分けて以下の2種類が開発されているが、それぞれを評価するのではなく、道路利用者の観点から一律に評価できる方法がないと、現場においていずれの技術を採用すべきかの判断ができない。
物理系凍結抑制舗装:ゴムチップなどの弾性に富む材料をアスファルト舗装表層内に混入することにより交通荷重により路面がたわみ、路面上に形成された氷膜を破砕
化学系凍結抑制舗装:塩化物系の材料をアスファルト舗装表層内に混入することにより、路面上の水の氷点を下げ、凍りにくくする
新技術の迅速な実用化に向けて取り組むべき課題をまとめると、以下のとおりである。
① 促進載過プロセスなどの迅速化等による耐久性評価に要する時間短縮
② 要求性能に対するより普遍的な試験方法の開発
③ 現場における新技術採用プロセスの合理化・簡素化
舗装に関する技術は経験工学に基づくものがほとんどであり、その評価も従来の技術をペースに工学的に構築されている。今後、② に示すように普遍的な試験方法を開発していくためには、舗装材料の挙動特性などに基づく物理的・論理的な検討が必要となると考えられる。
参考文献
1)アスファルト舗装要綱:(社)日本道路協会、平成4年12月
2)久保和幸、安崎裕:多様化・高度化する舗装技術の現状と課題、第19回日本道路会議特定課題論文集、pp.147-149、平成3年10月
3)道路路面雨水処理マニュアル(案)、独立行政法人土木研究所、平成17年6月
4)小山内徳雄:関東地方建設局における性能規定発注方式の試行、「舗装」Vol.35,No.4、pp.9-11、平成12年4月
5)Routes/RoadsNo.315、PIARCを参照して要約
6)阿部忠行:低騒音舗装の効率的評価方法、「舗装」Vol.33,No.11、pp.4-8、平成10年11月
7)寺田剛:共同研究「タイヤ/路面騒音測定装置の開発」に関する中間報告、「舗装」VoL38,No.4、pp.3-12、平成15年4月