総合評価落札方式の試行結果について
国土交通省 九州地方整備局
企画部 技術管理課
技術審査係長
企画部 技術管理課
技術審査係長
山 村 覚
1 はじめに
従来,公共工事の入札契約においては,会計法(第29条の6)に基づき『予定価格の制限の範囲内で最低の価格をもって申し込みをした者を契約の相手方とする』価格競争を基本としておりましたが,価格と品質の両面で優れた工事であると同時に環境や省資源などへの配慮,さらには供用後の将来にわたる維持管理費の縮減などの技術を活かした,より質の高い公共工事の実施への期待と要求が高まっております。
このような多様なニーズに応えるため,国土交通省九州地方整備局においても,民間の技術を活用することなどにより,公共工事の目的物の機能と品質の確保の両立を図りつつ,コスト縮減などを可能とする多様な入札契約方式の活用(試行)を進めております。
特に,「価格」と「価格以外の要素(技術力)」を総合的に評価することにより,最も優れた者を契約の相手方とする一総合評価落札方式一について積極的な活用を行っているところです。この総合評価落札方式は,会計法(第29条の6②)の『その性質又は目的から前項の規定によりがたい契約については,政令の定めるところにより,価格及びその他の条件が国にとって最も有利なものをもって申し込みした者を契約の相手方とすることができる』について,「価格」とは別に民間企業が保有する優れた施工方法や工事実施上の創意工夫などを「価格以外の要素(技術力)」として技術提案を求め,提案内容に関する技術力や品質等を総合的に評価することにより契約の相手方を選定するものです。
これにより,より高い技術力を持つ企業と契約することが可能となり,より質の高い工事が実施されるとともに,民間技術の開発や技術力の競争が期待されます。九州地方整備局では,この総合評価落札方式による入札契約を平成12年度より試行しており,平成12年度,13年度は各1件ずつ,平成14年度からは年度ごとの工事発注金額の2割以上に相当する金額で適用することを目標に,公募型指名競争入札方式以上の工事を対象とし,取り組んできたところです。
2 試行結果の概要
ここに平成14年度と15年度の試行結果につきまして,以下の1)~9)の項目毎に現状を整理しましたので,その概要をご報告します。
1)工事件数
平成14年度は,公募型以上167件のうち58件で総合評価落札方式を適用し,発注金額ベースで21.9%,平成15年度は,同143件のうち53件で同21.4%の工事で試行しております。
2)工事種別・工事内容
工事種別の内訳でみますと一般土木の実施事例が多く,その他機械設備,橋梁上部工,PC工事の順で実績が多くなっております。
工事内容の内訳では,橋梁,排水ポンプ,シールド,トンネル,水門・樋管などの工事で多数適用されております。
3)評価項目の設定
「価格以外の要素」を評価するために設定する評価項目は,以下の①~③に区分されます。
①工事価格に維持更新費用を含めたライフサイクルコストを加え総合的なコストを評価するもの
②工事目的物の初期性能の持続性,強度,安定性などの性能・機能を評価するもの
③環境の維持,交通の確保,特別な安全対策,省資源対策またはリサイクル対策などの社会的要請に関する事項を評価するもの
平成15年度は,評価項目の合計数が157と14年度の89のおよそ2倍となっており,工事特性および施工箇所の現場条件等に応じた評価項目の選定が促進されたことがうかがえます。
ただし,その評価項目は,上記③の社会的要請に関する事項を評価する工事がほとんどであることから,今後は,実施事例の少ない性能・機能の評価を推進していくため,その検討を進めているところです。
4)加算点の設定方法
「価格以外の要素」の評価に対する加算点を設定するにあたり,性能等の向上に重要であってもその評価方法が定量的に確立できていないもののみを評価する場合や数値化が困難な評価項目に対する定性的な評価に基づき加算点を付与する方式が平成14年6月の通達(新通達)により,示されました。
この新通達による標準的な加算点の設定は,標準点を100点,加算点を10点として配点する方式であり,九州地方整備局でも平成15年度においては,約9割でこの方式を使用しております。
5)評価方式
加算点を付与するために技術提案の内容を評価する方式として,以下の①~③があります。
① 数値方式(定量的評価):評価項目の性能等の数値により,点数を付与する。
② 判定方式(定性的評価):数値化が困難な評価項目の性能等については「優・良・可」で判定する。〔例:優=10点,良=5点,可=0点〕
③ 順位方式(定性的評価):数値化が困難な評価項目の性能等については入札参加者を順位づけし,最上位者は10点,最下位者を0点として,中間の者には均等に按分して点数を付与する。
平成14年度は,目標状態を数値で求め定量的な評価を試みようと数値方式を多用しておりましたが,目標状態の定量的な設定に苦慮したこと等により,平成15年度からは定性的な評価項目が増加したため判定方式が主体となりました。これにより全体としては,評価項目の選択の自由度が拡大し,項目数も増加しております。
なお,併用タイプとは双方を使用するものです。
6)ペナルティー
総合評価落札方式により落札した者が技術提案した内容を履行できない場合,または達成できない場合に備え,ペナルティー事項を取り決め契約書に明記します。
設定方法としては,損失額や便益額の算出が困難な場合には工事成績を減点し,損失額や便益額の算出が可能な場合には相当額を減額変更します。また,補修による措置が可能な場合は再施工とする場合もあります。
九州地方整備局では平成15年度以降,損失額や便益額の算出が困難であるため工事成績の減点によるものがほとんどとなっております。この場合の減点数の設定は,評価項目毎の加算点の満点相当としております。
ペナルティーの設定につきましてはなお一層の積極的な技術提案が促進される(過大な負荷にならない)よう,設定に努めて参ります。
7)総合評価管理費
目的物の性能等の向上に寄与する評価項目について,その性能等の向上に応じたコストとして予定価格に計上する費用を総合評価管理費と言います。総合評価管理費を算定する方法としては,①最低限の要求要件を満足する状態から目標状態とするまでに必要な工事費の加算額を総合評価管理費とする方法,②基礎点の状態を基準に目標状態を達成することによって得られる社会便益等の貨幣換算値を総合評価管理費とする方法2のつがあります。
平成14年度には舗装工事における走行騒音値低減や砂防工事における無人化施工を評価項目とした工事で計上しておりますが,平成15年度には総合評価管理費を計上した事例はありません。
計上が進まない理由としては,通常の工事で求められる性能・機能等の水準に上乗せすることになる目標状態の設定やその必要性,目標状態の達成に必要な対策に関する実施手法,費用ならびに効果について,算出方法や適切性の検証方法等が確立されていないことなどが考えられます。
工事の実施内容や要求される目的物の性能・機能から判断して,新たな技術や高度な技術等が必要とされるような工事については,総合評価管理費を計上し,より積極的な提案を求めることが重要となりますので,今後の試行においてはこのような工事で総合評価管理費の計上を行えないか,具体的な検討を行っていることころです。
8)落札状況
平成14年度,15年度の試行による落札状況の内訳をみますと,技術提案の評価(最高提案,最高提案以外,標準案)の優劣に関わらず最低価格者が落札するケースが目立ちます。具体的には,平成14年度は58件中51件(約88%),平成15年度は53件中49件(約92%)で最低価格者が落札して,おり,逆に最低価格者以外の企業が「価格以外の要素(技術力)」によって落札できた割合は,およそ1割という結果となっております。
そのうち,平成15年度において最低価格者以外の企業が落札した4件の工事について,具体的な内容を以下に示しますが,最低価格者との価格差(2百万円~1千万円)を技術提案内容の評価による加算点(2.36~5点)の差により逆転し落札しております。
9)評価項目の具体事例
平成14年度と15年度を比較すると,社会的要請に関する事項を評価する事例が大幅に増加し,逆に,工期短縮と騒音値についての評価項目が大幅に減少していることが解ります。
工期短縮については,その理由として地質等の現場条件が変わってしまうと工法等の変更が避けられず,せっかくの提案が履行できないだけでなく,提案自体の意義がなくなってしまうこと等から現場条件が確実でない場合に設定が控えられたのではないかと考えられます。
また,騒音値については,周辺の状況から暗騒音の影響により真の騒音低減がなされたかどうかの確認および判断に苦慮したことなどが考えられます。このような背景もあって,比較的どのような工事でも要求がある社会的要請に関する評価項目ヘシフトしたと考えられます。
3 おわりに
総合評価落札方式の試行は,一定の実績を上げてきているところですが,試行結果によるいくつかの課題等も明らかとなってきたところです。
将来にわたり良質な社会資本を皆様へご提供するためにも,工事地域における多様なニーズを的確に見極められるよう,また,なお一層の積極的な技術提案を促せるよう,改善方策の検討が重要であると考えております。
九州地方整備局では,平成16年度工事を対象に優れた技術のご提案いただいた企業を表彰する制度を平成17年度より創設することとしました。また,「価格以外の要素(技術力)」を適切に評価できるよう性能・機能等の評価項目の設定や技術提案の評価方法,総合評価管理費の計上等につきまして,具体的な取り組みの検討を進めて参ります。