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空き家を活用した地域活性化の提案
松尾久子
1. はじめに

近年、全国の住宅総数が増加する一方で、各地では空き家の発生が顕著となっている。さらに、人口減少社会を背景にその数は年々増加傾向にある。空き家によって引き起こされる問題としては、まちの空洞化や治安の低下、景観の阻害などが挙げられ、空き家対策は早急に解決すべき地域の課題の一つとなっている。一方で、空き家は地域における未活用の資源として捉えることもできる。つまり、これからは、空き家を単なる問題点として取り扱うだけではなく、資源として捉える視点の導入と新たな活用方法の模索が必要だと言えるのではないだろうか。
よって、本論文では全国における空き家の実態とその活用に取り組む事例を基に、空き家を活用した地域活性化の提案を行いたい。

2. 全国における空き家の現状1
【図-1】に、総務省統計局が行っている住宅・土地調査による住宅総数・空き家数・空き家率の過去50年間の推移を示す。2008年度の調査によると、全国の空き家総数は756万戸であり、前回調査の2003年と比較すると9万7千戸増加している(14.6%増)。空き家率(住宅総数に占める空き家の割合) は13.1%と過去最高を更新し、現状として8軒に1軒の割合で空き家が存在していることが分かる。3大都市圏の空き家は363万戸で、空き家率は12.1%、3大都市圏以外では392万戸で14.3%となっている。また、【図-2】に示す通り、2003年から2008年にかけて主要都市の多くで空き家率が上昇している。このことから、かつては過疎の象徴であった空き家も、現在では市街地や都市部で多くみられ、全国的な問題となっていることが伺える。
空き家の内訳を【図-3】に示す。空き家のうち、「二次的住宅」とは、別荘もしくは自宅とは別に寝泊まりすることがあるような住宅であり、「その他の住宅」とは、転勤・入院などのために居住世帯が長期にわたって不在の住宅や建て替えなどのために取り壊すことになっている住宅である。よって、実際に活用の可能性を見出す必要性の高い空き家は「賃貸用の住宅」「売却用の住宅」であることが分かり、それぞれ空き家全体の54.1%、4.5%を占めている。

3. 空き家活用の取り組み事例
3-1. かなざわ町家情報バンク2
石川県金沢市は戦災を受けておらず、伝統的な町並みを残す町家が数多く残っている。昭和20年以前に建てられたそれらの町家を主な対象として、利活用を促すために空き家バンクが設置されている。空き家バンクは、空き家の有効活用により定住を促進し、地域の活性化を図ることを目的としている。個人では情報収集が困難な空き家について、家屋所有者と入居希望者を結びつける機能を持っており、各自治体やNPOが取り組んでいる。一般的な空き家バンクの仕組みとしては、空き家バンク主催者が家屋所有者と入居希望者を互いに紹介し、その後の交渉・契約については、家屋所有者・入居希望者間で行うものが多い。しかし、金沢市では【図-4】に示すように、宅建業者と協力することにより家屋の情報を共有し、また、契約仲介を宅建業者に委ねることにより双方にメリットが生まれる仕組みをつくっている。さらに建築士協会との協力により、町家改修相談制度を設けるなど、利活用を促進する仕組みが形成されている。

3-2. 尾道空き家再生プロジェクト3
広島県尾道市は、海が近くに広がる「坂のまち」として、千光寺山南斜面の斜面地に形成されている住宅地がひとつの観光資源となっていた。しかし、近年ではその特殊な地形が要因となり、まちの空洞化や高齢化が進み、空き家が数多く存在している。このような現状を踏まえ、空き家を再生し、新たな活用を模索することを目的として、2008年7月にNPO法人尾道空き家再生プロジェクトが設立された。
プロジェクトでは、住民や一般の参加者を対象に【表-1】に示すような複数のイベントを行っており、空き家再生の取り組みを通じて、関わる人同士のコミュニティを確立させることを重視して活動している。再生物件の一つとして、昭和30年代に建てられた元洋品館である空き家を子供連れの母親達が集えるサロンに改修している。これは、母親達が気軽に集える店が地域に少ないという現状から生まれたもので、改修作業には、再生後に最も利用頻度の高いと考えられる母親達に初期段階から関わりを持たせている。さらに、事業の一環として開催している「尾道建築塾」に現場での再生作業を取り入れている。一般の参加者や親子で参加できる内容を盛り込むことで、老若男女問わず再生作業に関わる機会を設けている。改修後は、「子連れママの井戸端サロン・北村洋品店」として、1 階を母親達の交流スペースとして開放し、2階にはバザーコーナーや手作り品販売スペースを設け、母親達が気軽に集える場所として毎日運営を行っている。

4. 空き家を活用した地域活性化の提案
4-1. 活用に向けた空き家の実態把握の必要性
まず、住民への空き家状況の公開及び、具体的な活用方法の提示を目的として「空き家台帳」の作成を提案したい。統計結果からも明らかになったように、住宅数は需要を大きく上回り、全国的に空き家は日々増えつつある。これらの問題に対し、従来の取り壊し・建て替えの方向のみではなく、住宅以外の用途を視野に入れた新たな活用方法による解決策が必要であると考える。しかし、空き家とはいっても、その利用形態や築年数、立地条件など、置かれている状況や環境は一つ一つ異なる。金沢市の町家のように、空き家自体が歴史性という価値を有している場合もあり、尾道市のサロンのように、新たな活用方法により地域コミュニティを構築する場として価値が生み出される場合もある。家屋の状態によっては、活用の可能性が見出せないこともあるだろう。よって、今後空き家の活用を促すための第一歩として、各自治体が定期的に空き家の実態をより詳細に把握することが必須なのである。
さらに、空き家の活用を促進させるためにも、今後、自治体・空き家バンク・まちづくり団体それぞれの特徴を活かした協力体制の確立が重要となるであろう。

4-2. 空き家の活用方法の提案
地域のまちづくりにおいて、空き家の活用は継続性が伴うことが肝要である。そのためには、事例にもあるように、地域の現状から活用方法を考案し、改修が必要な空き家については、初期段階から住民や利用者を意識的に関わらせるべきである。
具体的な案としては、地域の人々が日常的に交流できる場としての開放を提案する。例えば、地域に暮らすお年寄りが日中に集える場所とすることで、気軽に情報交換ができるようになる。特に、一人で暮らすお年寄りにとっては、安心して話ができる憩いの場は貴重な空間となるだろう。また、オフィスや店舗を借りるのに比べて、より手軽な賃貸物件としてSOHO空間及び、商業空間としての活用も考えられる。住宅としての機能を有していることを活かして、長期的もしくは短期的な宿泊施設としての利用も効果的であろう。地域により近い環境で住民と同じように過ごしてもらうことで、地域の雰囲気を肌で感じ、その後の定住に繋がるきっかけとなるのではないだろうか。
このように、空き家活用の幅を広げることは、空き家問題を解決へと導く。さらに、点在する空き家がネットワーク的に結びつくことによって、地域に賑わいがもたらされ、地域の活性化へとつながることが期待できるだろう。

5. おわりに
本論文で提案したように、空き家は地域のまちづくりの基盤となる多様な可能性を秘めている。空き家をきっかけに、既存ストックを活用するという考え方が全国に広がれば、環境問題解決の一助となることも期待できるだろう。今後、全国に点在する空き家が、地域の活性化を促す一つの資源として活用されることを願う次第である。
参考文献

1 総務省HP
2 かなざわ定住推進ネットワークHP
3 第16回住まいとコミュニティづくり活動助成報告書、pp.74-83

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