福岡都心部の機能強化と魅力づくり
髙橋栄司
キーワード:都心部機能更新誘導方策、航空法高さ制限、天神ビッグバン
1.はじめに
福岡市は、第三次産業が9割を占めており、多くの人に来ていただき、集いにぎわうことが都市の活力創出の源と考えており、なかでも都心部については、陸・海・空の広域交通拠点(JR博多駅、博多港、福岡空港など)が近接し、従業員や小売額の割合が都市圏全体の約3割を占めるなど、住む人、働く人、訪れる人にとって大事な場所となっています。
都心部のまちづくりについては、「第9次福岡市基本計画(平成24 年12 月策定)」や「福岡市都市計画マスタープラン地域別構想“ 都心部編”(平成26 年5月策定)などの上位計画に基づき、都心部の核となる「天神・渡辺通地区」「博多駅周辺地区」「ウォーターフロント地区(博多ふ頭・中央ふ頭)」の3つのエリアにおいて、それぞれの強みを活かした都市機能を高めるとともに、これらを中心に各地区が相互に連携し、都心部全体の活力が向上するよう、機能強化と魅力づくりに取り組んでおり、更なる福岡市の発展のためにも、福岡都心部が持続的に成長していく必要があると考えております。
2.福岡都心部のまちづくりの課題と取組み
(1)まちづくりの課題
一方、持続的成長を目指す福岡都心部においては、まちづくりを進める上でいくつかの課題もあり、その一つが都心部に存在する更新期を迎えた多くの建物の機能更新であります。これら建物の多くは現在の容積率の指定が行われる以前に建てられたものであり、建て替えを行うことによって現状の床面積が減少してしまうことから、機能更新が進まない要因となっておりました。
もう一つの課題としては、航空法による高さ制限があります。福岡都心部は空港に近接していることから、その利便性を享受できる一方で、飛行機の離着陸などの航空上の安全を確保するため、航空法の高さ制限により、建てられる建物の高さが制限されております。このことによって、建物の需要があったとしても、東京や大阪のように、超高層のシンボリックな建物は建てることができず、敷地内にゆとりあるオープンスペースが確保しづらいことから、まちとしての魅力ある空間づくりが困難な状況にありました。
(2)まちづくりの取組み
福岡市では、都心部における更なる魅力づくりのため、予てより、これら課題の解消に向けた取り組みを進めて来ており、平成20年8月には福岡市の容積率特例制度である「都心部機能更新誘導方策」を策定し、建物が建て替えを実施する際、「九州アジア」「環境」「魅力」「賑わい」「共働」の5つの視点に基づくまちづくりに取り組む場合は、その内容に応じて容積率の緩和を受けられる制度の運用を開始しており、この制度の活用により、都心部の更新期を迎えた建物の建て替えとあわせた街の魅力づくりが進んでおります。
また、平成26年11月には、同年3月に指定を受けた国家戦略特区「グローバル創業・雇用創出特区」の取組みの一つとして、国に提案していた「航空法高さ制限のエリア単位での特例承認」が認められ、その第1 弾として、天神地区に位置し、官民共働でまちづくりを進める天神明治通り地区(約17ha)において、エリア全体で建てることの出来る建物の高さの目安が福岡市役所の避雷針高さと同等と示され、従来から9m程度、建物で言えば約2層分高い建物が建てられるようになりました。これにより、今後のまちづくりにおいては、一体のエリアの広範囲で使える空間の目途が立ち、設計の自由度が増すことから、建物周りのゆとりや魅力ある街並みの形成、新たな企業立地などを促す環境づくりが可能となります。
このほかにも、平成24年1月には、3つのエリアを一体として国より「特定都市再生緊急整備地域」の指定を受けており、民間建築物の更新期などを捉え国の支援や制度の活用を可能とすることで、更なる官民連携によるまちづくりの推進を目指しております。
3.核の形成
(1)天神地区
①「天神ビッグバン」の始動
福岡市の天神地区においては、前述の「グローバル創業・雇用創出特区」として「航空法高さ制限のエリア単位での緩和承認」を獲得したこの機を逃すことなく、これに合わせてまちづくりを促す「容積率の緩和」を福岡市の独自施策として実施し、都市機能の大幅な向上と増床を図り、さらに、雇用創出に対する立地交付金制度の活用や創業支援、本社機能誘致など、ハード・ソフト両面からの施策を組み合わせることで、アジアの拠点都市としての役割、機能を高め、新たな空間と雇用を創出するプロジェクト「天神ビッグバン」を平成27年4月より始動しております。
対象エリアは渡辺通りと明治通りが交差する天神交差点から半径約500mの約80haとしており、この取り組みにより、2024年までの今後10年間で30棟の民間ビルの建替えを誘導し、その延床面積は1.7倍、雇用は2.4倍に増加、また、約2,900億円の建設投資効果、建替え完了後からは新たに毎年8,500億円の経済波及効果を見込んでいます。
「天神ビッグバン」は福岡市が次のステージへと飛躍するためのチャレンジ「FUKUOKA NEXT」の重要なプロジェクトの一つであり、更なる民間ビルの建て替え誘導や国内外の企業誘致に取り組むことにより、アジアの拠点都市としての役割、機能を高めることを図っていきたいと考えております。
②「天神明治通り地区」におけるまちづくり
天神ビッグバン対象地域の中核に位置する天神明治通り地区においては、平成20年6月に地区内地権者による「天神明治通り地区街づくり協議会」が設立され、地権者主体でまちづくりが進められております。協議会では平成21年5月にまちの将来像となるグランドデザインを策定し、その実現に向け、地区計画制度を活用したルールづくりに取り組むこととして地権者間で話し合いが進められ、平成24年12月にはまちづくりの具体化に向けた第一歩として地区計画(方針)についての都市計画法に基づく都市計画提案書が福岡市へ提出されました。その後、計画内容等を確認した上、上位計画等との整合を踏まえ、都市計画審議会の承認を経て、平成25年9月に都市計画決定を行っております。
また、この都市計画決定と時期をほぼ同じくして、天神明治通り地区内に位置する天神一丁目南地区(約3.1ha)においては、地権者全員を対象としたまちづくり検討会が開催され、翌年11月には全9回の検討会を経て福岡市の容積率特例制度の活用に向けた地区整備計画(素案)のとりまとめを行い、平成27年4月には福岡市が地区計画の変更(原案)の縦覧を行っております。
今後は本年7月の地区計画(案)縦覧、8月の都市計画審議会の審議を経て、都市計画決定を行う予定としております。
天神一丁目南地区におけるこの地区計画の内容に沿った民間ビルの建て替え事業については、前述の天神ビッグバンとして実施される事業として、その推進が期待されるところであります。
(2)博多駅周辺地区
以前の博多駅は、昭和38年に開業しており、1日の乗降客数を約15万人と想定し、博多口駅前広場(15,400㎡)が整備されておりました。大きな幹線道路に囲まれていることもあり、特に、自動車交通の処理を中心に整備され、駅前広場の大部分を車両空間が占めており、歩行者空間が不足しておりました。また、幹線道路に囲まれたことで、駅と周辺街区とのつながりも希薄でありました。
その後、昭和50年に山陽新幹線が開業、昭和60年には地下鉄が乗り入れる等の交通基盤の整備により、平成17年には博多駅の利用者は約34万人まで膨れ上がりました。更に平成23年の九州新幹線の全線開業が控えていたことから、更なる利用者の増加に対応するため駅前広場の再整備が必要不可欠となりました。
これらの状況を踏まえ、現在の博多口駅前広場については、JR博多シティと一体となった、快適で利便性の高い交通結節空間、自然と調和した街を印象付ける緑陰広場空間、賑わい・交流を創出し街の文化を育む賑わい・交流空間の創出に取り組み、九州新幹線全線開業にあわせ平成23年3月に完成しております。
以前、交通処理のために設けられていた駅前広場の一部を地下に新設することで、地上の空いたスペースに、不足していた歩行者空間や賑わい・交流空間、緑陰空間を確保することで、九州アジアの陸の玄関口に相応しい魅力ある拠点づくりを行っております。
また、これに合わせて地下の歩行者用通路や2階の歩行者連絡橋(デッキ)の整備などにより、立体的な歩行者ネットワークを充実・強化し、交通結節機能の強化、歩行者の回遊性の向上を実現しております。
博多駅周辺地区では、これら博多駅再整備のまちづくり効果を周辺へ波及させていきたいと考えており、博多駅に隣接する南西街区において、日本郵便、JR九州をはじめとした地域の方々と共働で駅前の再開発を進めているところであります
博多駅南西街区は、前述の福岡市の容積率特例制度である、都心部機能更新誘導方策の地区計画制度を初めて活用した地区であり、地区整備計画を定めるための都市計画の変更を平成25年3月に行っており、当地区においては、地下街や2階デッキの延伸、歩道沿いのセットバック空間の確保や建物内での貫通通路の設置のほかに、デッキ沿いの緑化や災害時の一次避難場所や食料等の物資の確保などに取り組むこととしており、これらの取組みに応じて、建築物の容積率の最高限度を従前の指定容積率800%から約1.5 倍の1200%まで緩和しております。
また、博多口駅前の開発が軌道に乗った今後は、駅の東側に位置する筑紫口の駅前広場の再整備を行うこととしており、これを契機とした民間建物の建て替えとあわせ、公共施設整備等を適切に誘導することにより、博多駅の新たな魅力の創出に取り組んでまいります。
(3)ウォーターフロント地区
ウォーターフロント地区内には、博多ふ頭、中央ふ頭、2つのふ頭が位置しており、博多ふ頭については福岡観光のスポットであるベイサイドプレイス博多や、展望施設を備えた博多ポートタワーなどがあり壱岐・対馬との離島航路や市営渡船なども就航しています。中央ふ頭については、韓国への国際フェリーやビートル(高速船)などの定期国際航路、近年ではアジアの観光客を中心とするクルーズ船対応の役割もあり、博多港は全国の港の中でも乗降客数が最も多く、22 年連続してその地位を維持しています。このように博多ふ頭、中央ふ頭は物流・人流の両面において大きな役割を担っているところです。
また、中央ふ頭には、国際コンベンション等を支えるMICE(企業等の会議、報奨・研修旅行、国際会議、イベント等の総称)機能があり、国際会議の開催件数については東京に次いで5年連続で国内第2位となっております。
今後、ウォーターフロント地区におきましては、これらの機能を充実強化していくとともに、海辺を活かした賑わいの創出を図ることで、都心部の新たな拠点とすることが福岡市の成長にもつながるものと考えております。
現在、マリンメッセ福岡などのMICE施設については、施設利用者は年間約250万人となっており展示施設の稼働率は上限に達しています。このため新展示場を2020年の開館を目指し整備することで、受け入れ枠をアップし、MICE参加者で約65万人、経済波及効果で約500億円の増を見込んでおります。
このウォーターフロント地区のまちづくりについては、民間のノウハウや活力を積極的に活用して取組むことが必要と考えております。このためウォーターフロント地区での事業実施に関心がある民間事業者から将来像や土地利用計画等について、アイディアを募集する計画提案公募を進めるとともに、その提案内容等を参考に、今年度中に「再整備計画」を策定し、来年度以降の事業化に向けて取り組んでおります。
4.回遊性の強化
前述のように、「天神地区」「博多駅前地区」「ウォーターフロント地区」を3つの核として重点的にまちづくりを進めるとともに、その周辺地区において、回遊性の向上と賑わい・憩いの場の創出を図り、3つの核を補完し連携させることによって相乗効果が生まれることで、これら核が一体となって活力を創造することが出来るものと考えており、都心部の魅力向上に向けた重要な取り組みの一つと考えております。
取り組みにあたっては、水辺や花・みどり、歴史・観光など、様々な資源を活かす必要があることから、快適で高質な都心回遊空間の創出に向け、関係局が連携しながら検討を進めております。
具体的な事例としては、博多駅とウォーターフロントエリアの間に数多くある、古くからの寺社仏閣を活かした通りづくりに取り組んでおり、博多駅前からウォーターフロント地区までを歩いて回遊できるような仕組みづくりにつながるものと考えております。
特に平成25年度末には承天寺前の道路の美装化や承天寺の塀の改修を実施するとともに、平成26年3月には、訪れた人々を歴史的文化財が多く残る博多の寺社町エリアへと導くウエルカムゲートとして、地域と行政が一体となって博多千年門の整備を実施しており、今後も博多駅から承天寺及び博多千年門迄に至る通りについては、道路整備や隣接する出来町公園の再整備なども行っていく予定としております。
また、天神から博多駅を結ぶ博多駅前通りでは、通りを歩いて回遊する来街者のための統一的なサインの設置や、視覚的な賑わいを創出する花しるべの演出などを行うほか、現在工事が進む地下鉄七隈線の延伸にあわせ、道路の車線の絞り込みや自転車専用レーンの整備とあわせた歩行者環境整備を行うこととしております。
福博道しるべ [ 統一的サインの設置 ]
5.おわりに
これからの福岡都心部のまちづくりにつきましては、官と民がそれぞれの役割を果たし、連携を図りながら取り組んでいくことが重要であると考えております。
福岡市としましては、民間ビルの建て替えを契機として、民間事業者の皆様のニーズにあわせた各種制度(容積率緩和、特区を活用した規制緩和、国の支援制度等)の適用を行うことで、国内外を問わず、周囲から注目を集めるような魅力ある都心部の実現に向けて、取り組んでまいりたいと考えております。