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着々と整備が進む東九州自動車道の工事報告と整備効果
山中元弘
藤原史武
今田一典

キーワード:東九州自動車道・高規格幹線道路・番匠川橋・きたがわ大橋、陣ヶ峰トンネル

はじめに

昭和62 年6 月26 日の道路審議会答申を受け、第4 次全国総合開発計画(四全総)によって高規格幹線道路網約14,000㎞が決定され、約25 年経過したところである。現在の進捗は、全国で約10,224㎞(約73%)を供用し、九州では、計画1,513㎞に対し、約1,051㎞(約70%)が供用している状況(表-1、図-1)。

  

東九州自動車道約436㎞(うち195㎞供用済み)のうち、国で行う新直轄方式では佐伯~北川、清武~日南、志布志~末吉財部間約122㎞の事業を進めており、これまでに、鹿児島県内の曽於弥五郎IC ~末吉財部IC(約11㎞)間を平成22 年3 月に供用している。平成24 年度には、蒲江~北浦(写真-1)、須美江~北川、清武JCT~清武南間の3区間約21 ㎞及び東九州道と連続した延岡道路(約13㎞)も併せて供用を予定。
一方、NEXCO西日本で行う有料方式では、苅田北九州空港~行橋、行橋~豊津、椎田南~宇佐、日向~都農、都農~高鍋間約77㎞の事業を進めている。平成24 年度には、都農~高鍋(13.0㎞)などの供用を予定しており、引き続き、平成25、26 年度も随時供用を延伸していく予定。
供用に向け最盛期の段階であり、大規模な長大橋梁やトンネル等多くの工事を進めており、本稿では、橋梁、トンネル工事の具体の採用工法や施工上の課題、工夫点などについて紹介する。
また、東九州自動車道の整備に対する地元の期待は大きく、地域住民の生活や産業・経済への影響は計り知れない程多大であると予想されるものであり、いくつかの整備効果について紹介する。

◆東九州道における工事の施工状況
(橋梁)
東九州道(佐伯~北川間)延長約47㎞のうち橋梁は、約8%の3.6㎞で25 橋を計画している。
平成24 年12 月時点で、17 橋が完成している。
今回、施工中の「番匠川橋」及び施工済みの「きたがわ大橋」の2 つの橋梁工事を紹介する。
□番匠川(ばんじょうがわ)橋の工事概要
 A1 ~ P 5
橋長 L=146.0m
橋種 PC5 径間連続中空床版橋
架設工法 固定支保工
費用 約3.6 億円
 P 5 ~ A2
橋長 L=393.0m
橋種 PC5 径間連続箱桁橋
架設工法 片持架設工法
費用 約15 億円
 本橋は、起点側の上岡トンネルと終点側の佐伯トンネルとを結ぶ橋梁で、清流番匠川や国道・JR を跨ぐ全長539m のコンクリート橋。
 陸上部に位置するA1-P5 径間の架設は、固定支保工を採用し、渡河部に位置するP5-A2径間の架設は、片持架設工法を採用。
 A1-P5 径間は、平成24 年7 月より支保工設置に着手し、現在3径間分の橋体が完了しており、12 月中旬に橋体及び支保工撤去が完了。
 一方P5-A2径間は、非出水期に入る平成24 年11 月より河川内の仮設工に着手し、本年度中にP8,P9柱頭部を施工する。その後、平成26 年1 月頃をピークに移動作業車を8基使用した片持架設を行い、平成26 年10 月の橋梁完成を目指している(写真-2)。
 A1-P5 径間の特徴としては、主桁断面形状が特殊(図-2)であり、P5-A2 径間との外観・見映えを考慮しP4-P5区間にて桁高変化を要する。
 また施工延長146m を3 分割施工とし、片引き緊張によりプレストレスを導入する設計である。
 実際の施工では5 分割のコンクリート打設を行い、作業時間の短縮及び品質向上を図っている。
 現場での課題は、近接する住居上空に張出す形状での支保工設置、近隣住民への防音・振動対策が重要であり、周辺住民の理解と協力を得るため、支保工に防音シートを設置し作業音低減に努めている。また、就業時間に制限を設ける等対策を講じている(写真-3)。
 P5-A2 径間の特徴としては、片持架設工法の採用により、橋梁下の制約条件(道路、河川等)の影響を受けずに橋桁を架けることができる。
 片持架設は、移動作業車(通称:ワーゲン)を使用し、最大5 m ずつ左右対称(天秤状)に橋体を張出していく予定。
 現場での課題は、非出水期の制約を受けて施工する渡河部の架設の工程管理、国道217 号や市道、堤防道路及びJR 日豊本線の上空に張出して架設する際の安全性をどのように確保するかである。特に、一般交通への安全対策として、移動作業車の張出し時には、2 重の移動制限装置を設置し、道路や鉄道上空での落下事故を防止する。

□きたがわ大橋の工事概要
 A1 ~ A8(陸上部)
橋長 L=360.0m
橋種 鋼8 径間連続非合成鈑桁橋
架設工法 ベント併用トラッククレーン架設
費用 約6.2 億円
 A8 ~ P2(渡河部)
橋長 L=301.5m
橋種 PC3 径間連続ラーメン箱桁橋
架設工法 片持張出架設
費用 約10.5 億円
本橋は、宮崎県延岡市北川町長井の北川インターチェンジの北側に位置し、一級河川五ヶ瀬川水系北川を渡河する橋梁である(写真-4)。
本橋は、陸上部については、管理費が縮減される耐候性鋼材を使用した鈑桁橋であるが主桁外面については「ペールイエローグリーン」により着色することで景観性にも配慮。契約後VE により主桁と横桁を一体化することで部材数を低減し、コスト縮減している。
渡河部については、中央支間長130m を有した、PC連続ラーメン箱桁橋で同形式の橋梁としては規模がかなり大きいことが特徴である。移動作業車(ワーゲン)により張出施工するブロック数が、左右で異なる構造となっているため、施工の進捗にあわせた上越し精度の確認が重要であった。
また、北川は5 月1 日~ 10 月31 日の出水期間中は河川内工事を中断しなければならず、河川内工事ができる期間は非出水期に限られた。
陸上部架設工事の特徴として、水田跡地の軟弱地盤に大型重機やベント設備を設置して架設作業を行う必要があった。
特にクレーン作業では、重機の自重及び揚重作業荷重がアウトリガーを介して支持地盤へ局部的に載荷され不等沈下等が懸念されたため、架設計画時にアウトリガー部に発生する最大反力を予め算出し、次の対策を講じることで、アウトリガー部の沈下に対する安全率を約4 倍に改善し施工した。
①キャスポルを使用してアウトリガー設置箇所の地耐力を測定
②軟弱地盤の改良については周辺農地への影響を考慮して転置替えにて実施
③作業ヤード全面に敷鉄板を設置
④鉄板養生に加え、専用覆工板を設置することにより地盤への接地圧を低減
 ベント設備の転倒に対する改善策としてベント基礎をコンクリート基礎とし、転倒に対する安全率が約20%改善した。
 渡河部においては、工事を円滑に進める上で、地元環境保全や北川水質保全が最重要課題であったため、以下の対策を実施した(写真-5)。
①河川敷内、資機材の集約
②河川及び周辺地域の一斉清掃
③移動作業車の前面・側面の作業台より水平養生材(アサガオ)設置
④ブロック施工における鉛直打継型枠面にKKシートを使用(工事用水を使わずに打継部処理を行い、水の飛散防止を図る)
 この結果、北川の水を濁らせることなく、地元環境や北川の水質に与える影響はなく、地元の方からは、「北川橋の現場、河川敷は整然としている」と、地元住民との良好な関係を築いて工事の推進が図れた。

  

(トンネル)
 東九州道(佐伯~北川間)延長約47㎞は、山地部で地形の起伏が厳しいことから、約52%に当たる延長約35㎞、20 のトンネルにて道路を構築する計画である。
 現在、施工完了11 トンネル、施工中7 トンネル、未着手2 トンネルであり、今回、施工済みの陣ヶ峰トンネルの工事について紹介する。
□陣ヶ峰(じんがみね)トンネルの工事概要
延長 L=2,751m
車線幅員 W=12.0m(2 車線)
断面積 A=90.6㎡
契約金額 約60億円
 本トンネルは、大分県、宮崎県の県境を跨ぐトンネルで、大分県側延長467 m、宮崎県側延長2,284 m である。
 千枚岩に特有の卓越した層理面に沿った肌落ち等が一部見られたものの、全般的には比較的順調にトンネル掘削を進めることができた。
 一方で、坑口から1,200m 付近(砂岩千枚岩から千枚岩への層境付近)にて、極めて脆弱化した千枚岩が分布する区間(以下、脆弱部という)に遭遇した。本区間は、当初、C Ⅱパターンで掘削を進めていたが、内空変位が収束せず、脚部沈下や支保変状が見られたため、各種の対策工を実施。
 脆弱部における変位、変状対策が本工事の主な課題であった。脆弱部の地質の状況、変位のメカニズムを以下に示す(写真-6, 図-3)。
①右肩下方に堅固な千枚岩が、右肩~左脚部にかけて極めて脆弱な千枚岩が分布。
②脚部沈下・内空変位について、左側壁部が管理レベルⅢを超過する(93㎜)一方で、右側壁部はⅠ以下と小さかった。
③左側壁部では、内空変位、脚部沈下の増大に伴い、吹付けコンクリートのクラック、ロックボルト頭部の変状が発生した。
④さらに、右肩部、左肩部の吹付けコンクリートにもクラックが発生した。

 

 脆弱部の変位・変状対策として、以下の対策を段階的に実施した。
  (ア)増し打ちロックボルト
  (イ)支保パターンの変更(C Ⅱ→ D Ⅰ)
 支保パターンをD Ⅰに変更したことで、下記のように支保効果が増した。その結果、後方の変位は徐々に収束傾向を示し、吹付けコンクリートのクラックやロックボルトの変状等も見られなくなった。
1)下半に鋼製支保工が設置され、上下半支保工が一体になり、側壁からの変位に対し曲げ抵抗や軸圧縮抵抗が強化した。
2)支保工脚部が、軟弱なSL 付近より強固な千枚岩が分布する下半部となり、地耐力が向上した。
3) 支保工・ロックボルトの間隔が密(1.2m → 1.0m)になり、ロックボルト長が4m → 6m になることで、支保内圧効果が約1.3 倍になった。
 最も大きい内空変位を観測したSTA.441+48.9(TD=1,215.1m)では、切羽通過から120 日経過後(切羽離れ20D)も内空変位が継続していた。そこで、内空変位の経時変化をもとにクリープ曲線で将来予測を行ったところ、覆工打設予定時期である150 日経過後の内空変位速度は0.02㎜ / 日となり、変位速度としては小さいが、完全には収束していないことが予想された。
 よって、将来的に覆工に不具合を生じさせないため、覆工コンクリートの側壁部付近に補強鉄筋を配置した(写真-7)。

◆高規格幹線道路の整備に伴う効果
 □時間地図から見た九州
 九州における現在の道路整備状況を熊本市を支点に時間地図を描くと、異様に長い東九州海岸線や大きい半島部が特徴で、胴回りが太いメタボリックな姿となる(図-4 緑色)。
 一方、高規格幹線道路が整備された場合の時間地図は、本来の九州地図の姿となる(図-4黄色)。
 熊本市を支点とした時間圏域から見ても、東九州自動車道が未整備の場合は、東九州海岸線の大分から宮崎にかけ概ね3時間を要するが、整備後は、概ね2時間圏域に短縮されることとなる。

□道路整備による基幹産業の強化
 九州の基幹産業である「自動車」、「半導体集積回路」、「食料」の生産状況は、全国と比較しても比率は高い(図-5)。
 アジアに近いなどの地理的な条件から国際競争の強化は重要であり、道路や港湾などの整備による九州地域内の効率的な物流輸送など強化が必要不可欠である。
 特に、博多港はアジアとの結びつきが強く、貨物は九州各地から集積している(図-6,7)。
 九州における空港・港湾等などの物流拠点と高速道路とのアクセス状況は、最短アクセス時間30 分以内となる拠点数の割合が、全国82 拠点(94%)に対して、九州は33 拠点(77%)とかなり劣っているのが現状である。
 高規格幹線道路が整備されることにより、九州のアクセス時間30 分以内となる拠点数が、39 拠点(91%)まで改善が図られる。

   

□主要な都市間のサービスレベルの確保
 九州における都市間のサービスレベルは、連絡速度60㎞ /h 未満が15 リンク、65%(全国111 リンク、54%)、平均連絡速度は、54㎞ /h(全国59㎞ /h)であり、全国に比べサービスレベルは低く、高規格幹線道路で連結されていない都市間は、ほぼ全てにおいて50㎞ /h 未満である(図-8)。
 高規格幹線道路の整備により、 都市間・地域間のサービスレベルは、連絡速度60㎞ /h未満が15 リンクから4 リンクへ、平均連絡速度は、54㎞ /h から67㎞ /h となり改善が図れる(図-9)。

 

□災害時にも機能するネットワークを確保
 九州地方は、年間降雨量1,968㎜(全国平均1,614㎜)で九州全県において全国平均を大きく上回り、時間50㎜以上の降雨発生や台風上陸数23 回(全国の4 割)など全国でも突出している。
 また、地すべり地帯や軟弱地盤など特殊土壌が広く分布しており、台風時の集中豪雨等相まって土砂災害や崖崩れの発生が非常に多い地域である。さらには、火山活動も活発で、噴火警戒レベル導入火山が九重山、雲仙岳、阿蘇山、新燃岳、桜島の5 箇所(全国24 箇所)で、新燃岳や桜島は火口周辺警報中である。
 唯一の国道が災害に弱く孤立しやすいなど、脆弱な地域が存在し、気象や土砂災害等による通行止めが頻発するなど機能発揮に制約がある。
 東日本大震災において高速道路が果たした役割は大きく、南海トラフへの備えや降雨・降雪時の代替ルートの確保など、高規格幹線道路の整備により、災害時に強いネットワークの形成が図れる。東九州海岸線の災害時における災害支援ルート(図-10)に示すが、東九州自動車道が整備されれば一体となって機能することが想定される。

おわりに
 “ 着々と進む東九州自動車道” 完成すれば九州にとって新たな時代の幕開けと言っていいほど影響をもたらす出来事であり、地域の期待も非常に大きい。厳しい財政状況の中、効率的、重点的に一日も早い開通に向け、地域と一体となって推進して参りたい。

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