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県立総合運動公園の改修における樹木の再利用
かわ はら やす ひこ

キーワード:公園改修・樹木の再利用・駐車場計画

1.はじめに

長崎県では、「人が輝く、産業が輝く、地域が輝く長崎県づくり」を基本理念とし、第69回国民体育大会及び第1 回全国障害者スポーツ大会の開催を契機とした地域づくりを目指しており、平成26年に開催される国体のメイン会場として、長崎県立総合運動公園(以下「総合運動公園」という。)の改修工事を平成21 年度より実施している。
本稿では、今回の改修工事における新駐車場整備予定地等の樹木の再利用への課題とその対応策等を紹介する。


2.総合運動公園

諫早市にある総合運動公園は、土地を諌早市より無償で譲り受け、昭和44年開催の長崎国体の会場として整備した県営の都市公園で、主競技場、補助競技場、野球広場、サッカー場、テニスコート、プール、芝生広場、教材園等がある開設面積約32haの総合公園である(図-1、写真-1)。

園内には、全国各地から集められた約300種類の樹木が生育する教材園(写真-2)、中央にワシントンヤシが植栽されている芝生広場、57号沿いのメタセコイヤの並木(写真-3)、主競技場前メインアプローチのカイヅカイキ(写真-4)等の緑地があり、全体で約43,000本の樹木が確認されていて、背後の上山公園と一体となった緑豊かな公園となっている。


3.改修計画

今回の改修工事を行う主な施設は、主競技場、
補助競技場および駐車場である。
県施工箇所の基本設計は、平成20年度、詳細設計は、平成21 年度に実施した。主競技場及び補助競技場は既存施設と同位置での改修、駐車場はイベント時の駐車場不足を解消するため教材園に設置することとなり、また、公園施設を供用させながら、まず補助競技場及び駐車場から改修工事を進めることとなった。
また、公園北側の第2駐車場、ローラースケート場等のあった場所では、諌早市も国体に向け新体育館を建設中である(表-1)。

改修地には、クスノキなどの高木、ツツジなどの低木が多く生育しており、伐採・移植・存置の判断が遅れると改修工事に与える影響大きいことが想定された。


4.樹木の再利用計画の課題

駐車場工事は、基本構想や基本計画、県公共事業等デザイン支援会議等において、既存樹木の移植保存や伐採樹木の再利用、緑地の確保等の必要性が指摘されていた。
教材園等の既存樹木は、植栽後40 年以上経過し、大木化、老木、枯損傷や病害虫発生などによる樹勢衰弱のため、移植に適さない樹木が多く、再利用が可能な樹木を選定する必要があった。
また、駐車台数の確保を最優先とした基本計画では再利用の樹木が限られ、詳細設計での検討が必要であった。
さらに、今回の改修工事は、公園施設を供用させながらの整備が前提となっているため、先行工事との調整や再利用樹木の保管場所の確保が必要であった。


5.課題における対応策
5-1 再利用樹木の選定と移植先の確保
既存樹木の活用を図るため、まず、検討手順を整理した(図-2)。

再利用樹木の選定は、再利用樹木の選定フロー図(図-3)により、樹木調査の結果、樹種による移植の難易度や樹木自体の状態確認のうえ決定した。

これらの判断項目のうち、各樹木の状態については、県の美しいまちづくりアドバイザー派遣制度を活用して、樹木医の診断調査および評価を行い、その結果は設計時の樹木選定に反映した。
なお、移植不可判定項目を下記に示す。
①主幹欠損等により樹形が崩壊
②周辺木による被圧等により樹形が偏形
③樹種本来の樹形に程遠い
④空洞や大枝の枯れがあり移植に耐えられない
⑤生育不良で移植する価値が低い
⑥キノコの発生が見られ根株腐朽
⑦度重なる虫害により鑑賞に堪えない
また、樹木の移植先については、整備地内(改修する補助競技場、駐車場)、公園内、公園外での可能性を検討した。その結果、整備地内に必要な植栽は原則移植で対応し、樹木の再利用を図った。公園内にも必要な場所に移植を行った(写真-5、6)。

さらに、樹木の受け入れ先については、諌早市や大村市の公園担当及び県各関係機関等へ打診した。整備スケジュールや移植費用、受け入れ先のイメージに合う樹木がないなどの理由で受け入れ先が見つからなかったが、水辺の森公園と松が枝埠頭ターミナルビル緑地の2箇所で再利用することができた(写真-7)。

5-2 駐車場の設計検討
新駐車場の詳細設計の検討においては、アスファルト舗装のみの基本計画を見直して、駐車台数は確保しながらも、残地本数を確保し、樹形が整い移植が容易な諫早市施工箇所の樹木を移植することとした。さらに、一般車の駐車帯を芝生化し、主競技場側はイベント時の臨時駐車場として利用可能な芝生広場とすることで緑地の確保を図った(図-4)。

5-3 先行工事との調整と保管場所の確保
今回の改修工事は、補助競技場の解体撤去、補助競技場建設、補助競技場植栽、教材園の解体撤去、駐車場整備、駐車場植栽の順で工事をするが、既存施設の解体撤去前に移植樹木を掘取し直接整備地へ植込むことができないため、移植樹木は整備地外で仮植し一時保管する必要が生じた。
補助競技場で利用する低木は、公園内に保管場所を確保できなかったため、県水環境対策課所管の大村湾南部浄化センターの敷地に仮植した。
また、新駐車場整備等で利用する移植樹木は、補助競技場に移植した低木の仮植時の改良土を再利用し、整備地内に伐採樹木で土留めをしたほ場を造成した(写真-8)。

さらに、教材園内の樹木は、補助競技場内や公園内へ仮植なしで移植ができるよう、教材園解体撤去工事や駐車場整備、補助競技場建設工事との間で、移植樹木の掘取植込時期について工事スケジュールを調整した。
特にメインアプローチのカイヅカイブキの移植においては、現地で秋口に剪定、根回しを行い、植付に備えた。また、補助競技場内の移植場所は、地下水位が高く根腐れする恐れがあったため、仮植の改良土を活用し、周辺をマウンドアップして高植えするなどの対策を講じた。補助競技場でもシンボルツリーとなり歴史が継承されることを期待している(写真-9)。


6.植栽計画時の検討事項

公園の樹木は、景観形成や緑陰確保だけでなく、遮音、視線の遮蔽等の効果もあり、樹木の生長により、これらの効果向上が期待できるが、その半面、剪定や病害虫防除等の管理行為を難しくするだけでなく、樹木の根の生長による園路舗装や排水暗渠等の破損、枝葉が繁茂して周囲から見通せない場所ができることによる防犯上の問題など公園管理上のさまざまな問題も生じる。
今回の改修工事では、地域住民からの苦情対応のため、北口園路から市道側のメタセコイヤ間伐により、住宅地の日照不足等の解消を図り、住宅地側の法面の高木植栽により公園利用者の視線の遮断等を図った(写真-10)。

また、補助競技場フェンスの乗越え防止のための低木植栽、ジョギングコース舗装の樹木の根による破損防止のための防根フェンス設置、外部からの見通し確保のための繁茂しすぎた中低木の伐採などを行った。


7.まとめ

今回の国体に伴う改修工事では、樹木の再利用における問題点が明らかになったため、以下にまとめる。
① 再利用樹木の選定は、専門的な技術を要するため、県の美しいまちづくりアドバイザー派遣制度の活用が有効であった。
② 樹木の再利用は、移植先だけでなく、一時保管場所の確保も必要な場合があるため、設計段階から十分検討する必要があった。
③ 公園植栽による地域住民からの苦情などや公園施設の破損などの問題に対応したが、今後の維持管理によっては再度問題が発生する可能性があるため、適切な管理が必要と考えている。
④ 教材園の樹木は、根株腐朽などの理由で移植できない樹木が多く見受けられた。植栽計画を実施する際には、生長しても自然樹形を保てるように十分検討し配置するとともに、植栽目的を明確にして、その目的にあった剪定等の管理方針も決定しておく必要がある。
最後に、都市における公園緑地は、身近なレクレーション活動の場としてだけでなく、地球温暖化の防止、生物多様性の保全、都市の安全性の向上にも寄与している。国体に向けて課題も多いが県民に利用される公園づくりを目指して、今後も整備を進めていく。なお、長崎県立総合運動公園の整備に今まで携わってきた多くの諸先輩方の努力と公園管理にご尽力いただいている(社)長崎県公園緑地協会職員の皆様、公園を見守って下さっている地域住民や公園利用者の皆様に厚く謝意を表します。


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