田ノ浦海岸多目的沖合制御施設整備事業(バリア事業)について
大分県土木建築部
河川課長
河川課長
小 野 弘 人
1 はじめに
本県の海岸線は,福岡県境の中津市から国東半島を経て,佐賀関半島の関崎に至る豊前豊後沿岸,佐賀関半島から,臼杵市,佐伯市を経て鶴見半島の鶴見崎に至る豊後水道西沿岸,鶴見半島から宮崎県境の蒲江町に至る日向灘沿岸の3つの沿岸域によって構成されている。
豊前豊後沿岸のうち,中津市から国東半島の北西部にかけては,豊前平野が広がり,山国川,駅館川等多くの河川が周防灘に注ぎ,遠浅の海浜地を形成している。また国東半島の北東部から南東部にかけては,白砂青松の海浜が続き,海水浴場として賑わっているが別府湾東部の海岸は急勾配となっている。これに続く大分平野の海岸は,大分川と大野川による沖積層となっていたが,現在大分臨海工業地帯の埋立地となっている。
豊後水道西沿岸および日向灘沿岸は,典型的なリアス式海岸で,入りくんだ地形と急勾配の海浜が形成され,日豊海岸国定公園に指定されている。
本県の海岸線の総延長は749kmで全国海岸総延長の2.1%にあたる。このうち海岸の保全を必要とする区域は386kmあり,既に322kmの海岸線が海岸保全区域として指定されている(写真ー1)。
本県の建設省所管海岸事業は昭和25,26年のルース,キジア台風による被災を契機に宇佐海岸の高潮対策事業に着手したのがその始まりである。
現在のように海岸事業が本格的に実施されるようになったのは,昭和31年に「海岸法」が公布されてからである。平成5年度までに,39海岸約52km余りの海岸保全区域の指定を行っており約189億円の事業費を投入している。また平成5年度は,高潮対策事業(宇佐海岸),侵食対策事業(羽田海岸外1海岸),局部改良事業(国東海岸外8海岸),環境整備事業(田ノ浦海岸外2海岸)と県下15海岸で事業を実施している。
2 田ノ浦海岸多目的沖合制御施設整備事業
(1)田ノ浦海岸の概況
田ノ浦海岸は,国際温泉都市別府市を臨む別府湾南岸,県都大分市の西端に位置し,海岸保全区域の指定延長は1370mである。保全対象としては住宅地2.5ha,耕地0.4haおよび東九州の主要幹線道路である国道10号やJR日豊本線がある。また本海岸線一帯は,別府湾の湯けむりや国東半島,さらには遠く四国が眺望できる風光明媚な所である。周辺には猿の生息地で有名な高崎山自然動物園,生態系水族館のマリンパレスなどがあり,県内有数の観光地となっている。
海岸前面の海底地形の特徴としては,海岸線から100~200m沖合までは水深5m程度であるが,これより沖側は海底勾配が急激に落ち込み300~400m沖合では水深50mとなっている(図ー1,2)。
また地質状況は、砂質層が全体的に卓越しており,層厚は10~20m以上,N値は20~50程度以上であり,N値40以上の良質な支持層は深度8m以上で見られる。砂質層の下部には数m程度の礫混り砂層が広く分布している(図ー3)。
当海岸は,大分・別府両市街地から近く,昭和30年代後半までは,多くの人々が海水浴や磯遊びの場として利用してきた。しかし近年特に海浜が侵食傾向にあり,また背後地も狭いため,その利用度は年々低下してきている。
また台風や波浪等の異常気象時には,しばしば越波等が生じ,国道や背後の住宅が被害を受けている。一方,大分市域内においては,人々が海を身近に感じ,海洋レジャー等を可能とするウォーターフロントの整備がより強く求められている。
このため,海岸保全と合せて良好な海岸環境の創出を図るため,平成2年度より田ノ浦海岸環境整備事業を実施中であるが,その中央に位置するミニ人工島を多目的沖合制御施設整備事業(バリア事業)として整備するものである。
(2)事業の概要
1)事業の大要
田ノ浦海岸バリア事業は,建設省所管海岸事業として全国で最初に実施するものである。大分市田ノ浦地区沖合の水深5~10mの海域に,海岸保全施設として延長約250m,平均幅約50mの島状の不透過堤を1基設置しようとするものである。
あわせてバリア(多目的沖合制御施設)上面は,公園緑地として,共同事業者である大分市が整備し,地区公園の一部として有効利用をするものである。
これら諸施設の整備により沿岸への波浪を低減させ,高潮・侵食等の海岸災害から沿岸地域を防御するとともに,バリア上面の土地あるいは,バリア背後に新しく形成される静穏海域の有効利用を図るものである。なおバリア事業実施にあたっての基本的な考え方は,建設省海岸課より通知された「多目的沖合制御施設整備事業実施方針」(表ー1)に示されている。
2)田ノ浦地区整備事業
バリア事業は大分市と共同事業により実施しているが,田ノ浦地区で現在計画されている各事業の概要は次のとおりである。
◦海岸環境整備事業
・海岸環境整備事業
事業主体:大分県
計画内容:緩傾斜護岸約1100m,離岸堤約210m,養浜約230千m3,利便施設1式
施工年度:平成2年度~平成11年度予定
・多目的沖合制御施設整備事業(バリア事業)
事業主体:大分県,大分市
計画内容:面積約1.4ha,護岸工590m,埋土7万m3,管理橋1式
施工年度:平成5年度~平成11年度予定
◦緑地整備事業
事業主体:大分市
計画内容:緑地面積約6ha
施工年度:平成6年度~平成13年度予定
◦国道整備事業
事業主体:建設省
計画内容:田ノ浦地区の道路整備約1000m,(埋土270千m3)
施工年度:平成5年度~平成8年度予定
3)多目的沖合制御施設整備事業の費用割振
バリア建設費の負担は,多目的沖合制御施設整備事業実施方針4の事業の対象に「沖合制御施設の周囲の護岸の新設および改良とし,これに要する費用は従来の離岸堤等の整備に要する費用を上回らないものとする。」と記載されている。
本海岸の場合,バリア護岸の身替り建設費は,バリアと同等の保全効果を有する複離岸堤を考えており,この費用を上回らない範囲内で,バリアの周囲の護岸費を海岸管理者である大分県が負担するものである。またバリアの盛土や緑化等の費用については,公園管理者である大分市が原則として,負担するものである。
4)多目的沖合制御施設の諸元
当海岸は,大分市域では唯一残る海水浴場であることから従来どおりの利用が出来る海岸空間の確保を前堤とし、平面配置は,限られた海域の中で波浪制御の効果,養浜の安定を十分発揮できる形状としている(図ー6)。
イ)設計条件
田ノ浦海岸の設計条件は以下のとおりである。
ロ)多目的沖合制御施設の断面
バリア施設断面の決定にあたっては,滑動,転倒,円形すべり,支持力に対して安全性が確保されるのはもちろん,親水性,景観に配慮している。また天端高を決定するにあたっては,越波量が許容越波量(qa=0.05m3/m/s)以下になるよう設定している。なお護岸前面の波高は,入射波条件より沖波波高Ho=4.2m,換算沖波波高Ho´=3.2m,周期To=7sec,波の主方向ENEとし,グリーン関数を用いた港内波動場(不規則波の方向分散法)を電算解折している。
3 おわりに
国民の生活水準の向上,余暇時間の増大とともに,国民生活に占めるレジャー,レクリエーションの役割はますます増大している。なかでも海水浴,マリーンスポーツ等に代表される海洋性レクリエーションの需要は今後増大するものと予想されている。本県においても,当田ノ浦海岸をはじめ各地の海岸でウォーターフロントの開発が進められている。
海岸事業によって県土を保全し,県民の生命,財産を高潮や波浪・侵食などの災害から守ることはもちろんであるが,県民共有の貴重な財産である海岸域の景観・環境や利便性を良好に保ち,県民のより身近なところとして行かなければならない。
今後とも県土の保全と潤いのある海岸環境の形成を図るため海岸事業を積極的に推進したいと考えており,関係各位の御指導と御支援をお願いする次第である。