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生活道路における交通安全の確保に向けた取組
~佐賀市における社会実験を通して~

国土交通省 九州地方整備局
佐賀国道事務所 副所長
野 尻 浩 人

キーワード:生活道路、ビッグデータ、ハンプ

1.はじめに
佐賀県は人口10 万人あたりの人身事故発生件数が平成24 年から5 年連続で全国ワーストとなっており、その脱却に向けて佐賀国道事務所、佐賀県や各市町のほか、佐賀県警等が連携し、様々な取組を実施している。
直轄国道では交差点における右折レーンの設置やカラー舗装等の対策を実施することで、事故件数の低減に一定の効果があげられているが、更なる事故件数の低減に向けては、市町道等の生活道路における安全対策も重要である。佐賀県警がとりまとめている佐賀県内の交通事故発生状況[1]によると、平成28 年の道路別の人身事故件数では、約2 割が直轄国道上で発生している一方、約3 割は市町道で発生しており、市町道等の生活道路における安全対策の必要性が高いことが分かる。
そこで佐賀国道事務所では、佐賀県内の生活道路においても交通事故を低減するべく、自治体の道路管理者による安全対策について技術的な支援を実施した。本稿では、平成28 年度に佐賀市で社会実験を行った生活道路における安全対策について、佐賀国道事務所の取組等を紹介する。

2.事前準備
2.1 取組方針
国土交通省では、ビッグデータ分析を活用して生活道路における速度超過箇所や急ブレーキ多発箇所等の急所を特定、ハンプや狭さく設置等の効果的な対策を促進することで、人が主役となる生活道路空間の構築を図っている。しかしながら、生活道路は地域住民の日々の生活に与える影響が大きく、ビッグデータ分析等によって事故の危険箇所が特定されたとしても、利便性を大きく損なう安全対策では地域住民の納得が得られない可能性がある。
事前準備にあたり、打合せ時に佐賀市の担当者から聞いた「過去にある地区でハンプを導入したが、生活利便性を損なう等の理由で地域住民からの反対を受け、対策を取りやめたことがある。」が示唆しているとおり、安全対策の検討にあたっては住民との合意形成に十分に配慮する必要があった。
また、検討を行っていた当時、ビッグデータ分析を活用した生活道路における安全対策は全国的にも事例が少なかったことを踏まえ、本取組が先行事例となることで、佐賀県内はもちろんのこと、佐賀県以外へも成果を展開できるように留意する必要があった。
そこで、以下の方針で安全対策の実施を支援することとした。
①状況把握や対策検討等にあたっては、住民が議論に参加して行政と一緒に進めることで、地域の円滑な合意形成を図る
②本取組が先行事例となり、対策エリア以外への展開も意識した上で検討を進める
 これらの方針を踏まえ、佐賀県道路交通環境安全推進連絡会議で議論を行いつつ、表- 1 に示すスケジュールで実施することとした。

2.2 対策エリアの選定と実態把握
対策エリアの選定にあたっては、生活道路における事故件数、事故密度、死亡重傷事故の有無、歩行者・自転車事故の有無等のビッグデータの分析を活用し、まず佐賀県内全域から11 箇所の事故の危険エリアを抽出した。その中から、地元要望の有無や住民の安全意識の高さ等について自治体からヒアリングを行い、佐賀市北川副地区での安全対策の実施を決定した。
当該地区の位置を図- 1 に示す。当該地区は佐賀駅などが立地する市中心部の南東に位置し、佐賀東高校を中心として周囲に住宅が広がっている。国道208 号に面した地区北側には商業施設、近隣には小中高校があり、朝夕には通勤・通学者、正午前後や夕方には商業施設の利用者が地区内を通行している。また、朝夕ピーク時間帯には、国道208 号へ通り抜けたい地区外の車両が地区内を通行する情報も佐賀市の担当者から得ていた。

地区内を縦断する2 本の南北軸で事故が多く発生しており、特に西側の南北軸では自転車関連の事故が多く発生していた。そこで、事故が多発していた南北軸と地区の幹線道路の一つである東西軸の交通状況の把握を目的として、ビデオカメラ11 台を用いた交通実態調査(交通量、危険挙動、速度、走行経路等)を実施した。
当該地区の事故発生状況及び交通実態調査によって把握できた地区の交通状況及び主な危険箇所を図- 2 に示す。西側の南北軸においては抜け道交通が多く走行車両の速度が高いこと、東西軸においては交差点部で見通しが悪いことなどが確認できた。

2.3 課題の抽出と対策検討
交通実態調査だけでは把握できない事故危険箇所を抽出するため、住民参加の検討会を以下のとおり企画し、自治会長を通じて参加を呼び掛けた。第1 回検討会では、交通実態調査から得られた地区内の事故危険箇所について、事務局から参加された住民へ報告した。その後、住民が班別に事故危険箇所の抜け漏れ等を議論、ヒヤリマップとして模造紙にまとめて発表を行うことで検討内容の共有を図った。各班の意見をとりまとめたヒヤリマップを図- 3 に示す。地区内の幹線道路を中心に事故危険箇所が抽出されたが、中でも西側の南北軸と東西軸では、「走行車両の速度が高い」や「交差点部の見通しが悪い」といった問題が多く挙げられた。また西側の南北軸では、「自転車の往来が多く、自転車が左側通行を徹底しないため危ない」といった問題も挙げられた。

第2 回検討会では、前回の検討会で挙がった意見を踏まえ事前に事務局で検討を行った対策案を提示し、その内容について参加住民から意見を聴取した。事務局としては「生活道路のゾーン対策マニュアル」を踏まえ、走行車両の速度が高い箇所には速度抑制を狙ったハンプ・狭さくの設置、交差点部の見通しが悪い箇所には注意喚起を狙った交差点のカラー化、自転車が左側通行を徹底していない箇所には自転車の走行位置の安定化を狙ったカラー化(矢羽根)を対策として提案した。

3.社会実験
3.1 実験概要
前段で検討した対策案について、期待する効果が発現するか、また対策による副作用がないかを確認する目的で、平成29 年1 月15 日~ 2月17 日の期間で社会実験を実施した。図- 4 に示すとおり、ハンプ・狭さくについては3 箇所、自転車走行位置のカラー化(矢羽根)については自転車・自動車の通行が多く道路幅員も狭い南北軸の一部区間、交差点カラー化については南北軸において横方向の出入りが多いと考えらえる交差点2 箇所を対象とした。なお、ハンプについては仮設タイプを用いることとし、設置にあたっては隣接する住民に取組の主旨を説明、設置に対して事前に了承を得た。
また、地域住民に、自らが関わった対策案が現場に施工されることを実感、検討したことに対する達成感を得てもらうため、社会実験初日に住民参加の仮設ハンプ施工イベントを開催した。イベントでは、施工状況を見学するだけでなく、危険を伴わない作業に限って自らの手で仮設ハンプ等を施工する企画も盛り込み、イベントが盛り上がるよう工夫した。またこの取組を県内に広く周知するため、各マスコミによる取材について働きかけを行い、TV 局3 社と新聞社2 社に取り上げられた。当日の様子を図- 5 に示す。

3.2 効果検証
本社会実験の対策効果を検証するため、交通実態調査と利用者満足度調査を実施した。交通実態調査は、ビデオカメラ14 台を用いて、交通量、危険挙動、速度、走行経路等を調査した。利用者満足度調査は、地域住民の意見を幅広く抽出できるように、沿道地域を対象としたアンケート(341票)、中学校・高校全生徒へのアンケート(701 票)、地域の通過交通として沿道商業施設利用者へのヒアリング(124 票)を実施した。以下に交通実態調査と利用者満足度調査の結果を述べる。

①仮設ハンプ・狭さく
仮設ハンプ・狭さくを設置した区間における自動車の平均速度の変化を図- 6 に示す。仮設ハンプを2 箇所連続設置した南北軸では致死率が急上昇する30㎞ /h 以上の車両割合が約9% 低下し、仮設ハンプ設置による速度抑制効果が確認できた。生活道路のゾーン対策マニュアルにある通り、速度抑制には連続した複数の対策設置が必要であることがこの区間においても確認できた。また利用者満足度調査では、地域住民の87% が速度を落として走行するようになったと回答した。このことから、仮設ハンプ・狭さくが通行者の心理的な速度抑制にも効果があることを確認できた。苦情が心配された仮設ハンプ設置箇所の隣接住民からは、仮設ハンプ撤去時に「良い取組なのに、もう撤去してしまうのはもったいない」との意見もあがり、今回の取組が好意的に受け入れられていることが確認できた。

②自転車通行位置のカラー化(矢羽根)
自転車通行位置のカラー化(矢羽根)における左側走行割合の変化を図- 7 に示す。事前調査時に比べて左側走行の順守率が20% 増加し、走行位置が順走方向で安定したことが確認できた。

③交差点カラー化
利用者満足度調査では、地域住民の76% が注意するようになったと回答した。このことから、交差点におけるカラー舗装が通行者に対して注意喚起の効果があることが確認できた。

4.安全対策の実施
本社会実験による効果検証結果を踏まえて、図- 8 に示すように最終的な安全対策(本施工の対策案)を検討し、以下のとおりとりまとめた。

①ハンプ
速度抑制の効果が見られた南北軸に2 箇所に設置する。

②自転車走行位置のカラー化(矢羽根)
南北軸と国道208 号との交差点から連続することが効果的という住民意見を踏まえ当初計画よりも対象区間を延伸する。ハンプ・狭さく区間での自転車の通行位置が分からないというアンケートの意見も踏まえ、本施工における課題として活かす。

③交差点カラー化
地区内の3 交差点に施工し、その他補助的な対策としてカーブミラーの調整や注意喚起看板の設置を行う。

上段で検討された地区内2 箇所のハンプについて、佐賀市によって平成29 年8 月に常設のハンプが整備された。現地の様子を図- 9 に示す。このハンプは一般的なアスファルトを材料として用いており、佐賀市内の地元企業が開発した技術を用いて施工されている。この施工技術により、1 箇所 60 万円程度で設置できるようになった。
さらに、佐賀県警により、平成29 年12 月に地区においてゾーン30 が設定され、通過車両は時速30 キロに規制されている。
このように、ハンプ等のハード対策とゾーン30 等のソフト対策が組み合わさることで相乗効果が生まれ、走行車両の速度や通り抜けを効果的に抑制することができると考えられる。

5.おわりに
佐賀国道事務所では、生活道路における交通事故の低減を目的として、本社会実験に取り組み、安全対策についての技術的な支援を実施した。検討にあたっては、定量的なデータに基づいて課題の抽出と安全対策の立案を行うとともに、生活道路という性質上を踏まえて円滑な住民の合意形成に留意することにより、約1 年といった短い期間ながらも社会実験を成功裏に終えることができた。また、本取組を他のエリアへも展開できるよう、本社会実験の成果を詳細にまとめた「実務書」と実務書の内容を簡潔に整理した「概要版(リーフレット)」を作成した。
北川副地区の取組については、結果的として約8 割の地域住民から対策継続に関して合意を得ることができた。これは、行政で一方的な対策を立案するのでは無く、住民と一体となって検討を行ったことが大きく寄与していると考えられる。
佐賀国道事務所では、実務書やリーフレットを県内各市町へ配付するとともに、生活道路における安全対策の必要性について説明を行うなど、鋭意働きかけを行っているところである。本社会実験で得られた経験を踏まえ、佐賀県内の交通事故低減に向けて今後も取り組んで参りたい。
さいごに、本社会実験の実施にあたり、地域の合意形成にご尽力いただいた佐賀市及び事故分析等を支援いただいた株式会社オリエンタルコンサルタンツをはじめ、関係者の皆様に心より感謝申し上げます。

[1]佐賀県警察本部、交通事故発生状況(平成28年度中)、https://www.police.pref.saga.jp/annai/toukei/_3021.html

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