環境影響評価法と道路事業の指針省令について
㈱千代田コンサルタント
事業本部交通環境部次長
事業本部交通環境部次長
高 崎 誠
1 はじめに
本年6月に環境影響評価法(以下,アセス法と称す)が施行されようとしている。
現時点では,まだ,アセス法への移行の準備期間いわゆる経過措置期間中であり,環境影響評価方法書の先行実施はみられるが,アセス法に基づく環境影響評価がどう行われるかは未知である。中央の機関等の事前説明によると,手続きが増えること以外については,従来の閣議決定要綱アセスとそう変わらないといった話もある。また一方,これまで以上の相当の工夫が必要とも云われている。
これまで約15年間,コンサルタント技術者として道路事業のアセスに関わってきた。アセスメントに従事する立場として知り得た最近の知見や,制定されたアセス法に関係する政省令を基に,これから行われようとしている道路事業アセスについて簡単に紹介する。
2 環境影響評価法とは
過去,昭和50年代に一度アセス法が国会に出されたが,廃案となった経緯をみた。そして約2年ほど前,中央環境審議会において審議がはじまり,国民各層へのヒアリング,個別審議会での議論を経てできたのが環境影響評価法である。法ができることは,環境行政の悲願であったといわれている。
アセス法が制定され,平成9年6月13日に公布された。法に基づくアセスは,2年を超えない範囲内で政令で定める日(平成11年6月12日)から実施されることとなっている。
現在までの国のアセスメントは,昭和59年8月28日に閣議決定された環境影響評価実施要綱(閣議決定要綱)に基づき,道路,河川事業をはじめ11事業について実施されている。
建設省所管事業におけるアセスメントの実施は,平成8年度末までの政府全体実績(370件)のうち約9割に当たると云われ,そのうち約7割が道路事業とされる。
アセス法の閣議アセスからの主な変更点を示すと以下のとおりである。
◦ 事業者が環境影響評価を行い,その結果を国が許認可等により反映させる。
◦ 現行閣議決定要綱より対象事業を拡大
対象事業は,規模が大きく環境影響の程度が著しいものとなるおそれのあるものおよびこれに準ずるもの。(発電所を迫加)
対象事業は,規模が大きく環境影響の程度が著しいものとなるおそれのあるものおよびこれに準ずるもの。(発電所を迫加)
◦ アセス対象規模に満たない事業であっても,一定規模以上のものは,アセス実施の必要性を個別に判定する仕組み。(スクリーニング手続き)
◦ 早い段階から手続きが開始されるよう調査の項目・手法等について住民専門家その他の意見を求める仕組み。(スコーピング手続き)
◦ 環境影響評価後のフォローアップの措置
不確実性を伴う環境影響の事後調査およびその対策を必要に応じ準備書・評価書に記載する。
不確実性を伴う環境影響の事後調査およびその対策を必要に応じ準備書・評価書に記載する。
◦ 対象事業が地方の条例等においても対象となるものについては,国の手続きに一本化。
(ただし,地方公共団体の意見を反映する仕組みとする。)
(ただし,地方公共団体の意見を反映する仕組みとする。)
◦ 対象事業が都市計画に定められる場合は,都市計画決定権者が事業者に代わって,都市計画手続きに併せて行う特例を措置する。
3 アセス法の理念
我が国は,昭和40年代に公害問題として知られる水俣病や四日市ぜん息など,様々な公害を体験してきた。それから四半世紀の間,例えば,四日市大気汚染裁判にみられるように,立地企業に環境影響の事前評価が不可欠なものとの理解が根付き,事業者に必要な責務として,未然に公害を防止するということを強く意識せざるを得なくなってきている。また,国道43号訴訟のように都市部の既存道路の沿道といえども,積極的に環境改善を図って行くことが緊急課題となっている。
このような背景のもと,制定されたアセス法の理念とするものは,以下のようなことではなかろうかと考えている。
◦ 事業の環境影響をできる限り回避・低減しているかどうかという視点を事業者に課すことにより,よりよい環境づくりに貢献する。
◦ 事業者と住民などとの合意形成を促進する。
このように,事業者に環境保全への前向きな姿勢を求めることや国民への公開・参加が,アセス法が「よりよい環境配慮のための情報交流ツール」といわれる由縁であろう。
4 アセス法の二種事業判定基準,指針等の主務省令が公布
昨年6月12日,アセス法の対象事業を所管する関係8省庁は,以下を公布,告示した。
① 第二種事業の判定基準,項目・手法の選定指針,環境保全措置指針等を定める主務省令
本内容は,対象事業に共通するアセス調査等の「基本的事項」(平成9年12月に環境庁が策定,告示)を踏まえ,事業種ごとにいわゆるスクリーニングの判定基準を始めとして,アセス本体の項目・手法の選定等を,主務省令及び都市計画省令として官報告示したもの。
② アセス図書の公告・縦覧方法等を定める総理府令
これは各事業種に共通する住民手続き(公告・縦覧の方法,意見書提出,説明会の開催など)を一括して総理府令で定めたもので,施行そのものはアセス法全面施行の平成11年6月12日(ただし,方法書の手続きに関する規定の施行は咋年6月12日)。
③ アセス法附則二条二項の規定に基づく経過措置の報告書の指定
アセス法の施行前に閣議・省議アセス等や地方条例・要綱の定めによって進められたアセス手続きを,アセス法のどの段階に当たるかをみなすための規定。
以上の関係府省令の整備によって,ほぼ必要な施行令が整い,アセス前倒し実施も可能となった。また,本技報の発行時には,残された2年目制定政省令,例えば,「方法書・準備書等の知事意見形成期間政令」,「準備書の書式の主務省令」等は制定されており,アセス法全面施行に向けて準備が整うこととなろう。
5 道路事業の技術指針省令
道路事業に係る環境影響評価の技術指針とされる省令,建設省令第十号の概要を以下に示す。
[建設省令第十号(道路事業)]
第一条(第二種事業の判定基準)→アセス法第四条第三項関係
第一種道路事業に準ずる規模として建設大臣等が判定する基準(10km未満~7.5km以上)
第一種道路事業に準ずる規模として建設大臣等が判定する基準(10km未満~7.5km以上)
第二条(方法書の作成)→アセス法第五条第一項関係
方法書への記載事項を規定するもの
方法書への記載事項を規定するもの
第三条(環境影響を受ける範囲と認められる地域)→アセス法第六条第一項関係
方法書・準備書等を関係自治体へ送付する範囲について規定するもの
方法書・準備書等を関係自治体へ送付する範囲について規定するもの
第四条~第十二条(環境影響評価項目等選定指針)→アセス法第十一条第一項関係
アセスを行う項目の選定,選定項目の調査,予測,評価の手法を選定する指針
アセスを行う項目の選定,選定項目の調査,予測,評価の手法を選定する指針
第十三条~第十七条(環境保全措置指針)→アセス法第十二条第一項関係
環境保全措置を検討するための指針,必要に応じ事後調査を行うことを規定
環境保全措置を検討するための指針,必要に応じ事後調査を行うことを規定
別表第一,第二→標準項目,標準手法
道路事業の対象とする標準項目と標準調査手法および標準予測手法
道路事業の対象とする標準項目と標準調査手法および標準予測手法
上記各条のうち,アセス自体に係る技術指針は,第四条~第十七条に該当し,そのうち第四条~第十二条が「環境影響評価項目等選定指針」と称され,第十三条~第十七条が「環境保全措置指針」と称される。
道路事業でアセスの対象とする項目は,別表第一に標準項目として示されている。閣議決定要綱アセスで対象とする環境要素と異なる新たな要素は,「日照阻害」,「生態系」,「人と自然との触れ合い活動の場」,「廃棄物等」があげられる。さらに特徴的な点として,影響要因の区分に「工事の実施」が明確化された点である。従来,工事中の影響予測については,その実施を概括的に示していたものの,具体に個々のアセスの中で実施された例は少なく,これからのアセスが,環境影響に関しどの程度の工事内容まで踏み込むかは,注目されるところである。
本省令をお続みになられた方は,お気づきと思われる。例えば「項目を選定する」,「手法を選定する」,「明らかにする」ことは記述されているが,どう選定するか,どう明らかにするかは具体に述べられていない。別表は影響要因についても「一般的な事業内容によって」決めることであり,環境要素も「影響の重大性を考慮して適切に区分」とある。つまり,省令では「事業者自らが,事業内容により適切な対象項目,手法を考え,それを説明できるように整理する」といった観点から構成されているに過ぎない。確かに「指針に関する基本的事項」(平九環告八七)を基に練り上げたものといえばそうであるが,このことは,事業者のアセスに対する考え方や姿勢を規定するものであり,アセスを行っていく過程が重要であることを示唆しているといえよう。
従来の閣議要綱技術指針では,選定するための基準や定最的な予測手法については式が示されていた。さて,今後はどうするか。特にこれまで取り扱われなかった「工事の項目」や「生態系」は難しい。新道路環境整備マニュアルが待たれるところである。
6 これからの道路事業アセスメント
従来の道路事業アセスは,画一的なもの,金太郎アメ方式と称され,アワセメントという言葉さえ聞かれたことがあった。
先にも述べたように,事業者は柔軟に項目や手法を選定し,その結果を公表した上で広く意見を求めることとなる。また,評価に当たっては環境保全日標をクリアするか否かという視点ではなく,事業の影響をできる限り回避・低減するものとなっているかという視点で評価しなければならない。言い換えれば,今後,事業者は情報交流のツールとしてアセス方法書を,その本来の機能として発揮させるために,どれだけ活用できるか,環境保全への努力が評価書の中でどれだけ出せるかにかかっていよう。
これからの道路事業アセスに求められるものは,事業者自らの環境影響に対する回避・低減のための姿勢であり,説明性と透明性であるといえる。
7 おわりに
近年,土木技術の発達に伴い,新たな工法や新技術がみられる中で,建設リサイクルの推進,地球温暖化問題への取り組みが,多様なメニューで押し進められつつある。
一方で公共事業については,国,地方公共団休の財政難とそれに伴う社会的要請から,コスト縮減に向けての様々な知恵が絞られている。これは,簡単にいえば,安価で容易にでき安全なものが優先されることであり,得てして環境への配慮がなおざりになることもあろう。確かに建設省の環境政策大綱にあるように,環境保全の内部目的化というキーワードがあり,同省の今後の地球温暖化防止施策の一つの柱として「環境への負荷の少ない経済社会の実現」はある。ただし,大綱や施策そのもののチェック&レビューが働かない限り,公共事業により充実した環境配慮は望めないことも考えられ,これまで以上に,直接事業に携わる事業者自らの環境配慮への姿勢が問われるであろうことは云うまでもない。
我々,アセスメント調査に従事するコンサルタントは,今後,法により環境影響評価書に委託者として法人名(代表者名を含む)が明記される。これからは,事業者の要求に応じてアセスメントを進めるだけでなく,調査等の内容に責任を持って,アセスメントを通じ,事業者と国民に信頼されるパートナーとなるよう努力しなければならないことを肝に銘じなければならない。