特殊基礎処理工による被圧地下水対策
~藤波ダム~
~藤波ダム~
(前)福岡県 藤波ダム建設事務所
福岡県 福岡土木事務所
災害事業室 河道第2係長
福岡県 福岡土木事務所
災害事業室 河道第2係長
諸 冨 計 敏
福岡県 藤波ダム建設事務所
本 山 裕 倫
1.はじめに
藤波ダムは,一級河川筑後川水系巨瀬川に建設中の洪水調節,既得用水の安定化,河川環境の保全を目的とした治水ダムで,堤高:52m,堤頂長:295m,堤体積:1,056千m3,総貯水容量:2,950千m3の中央コア型ロックフィルダムである。(図ー1,図ー2,表ー1)
平成16年4月に仮排水路トンネルが完成し,現在,上流仮締切工,洪水吐工を施工中である。今回,調査中より懸念されていた被圧地下水を胚胎する高透水性の輝石安山岩1(Ap1)が,河床中央部付近で急上昇し,難透水性の泥質砂礫層(Mg類)の被り厚さが急激に薄くなることから,基礎掘削中における河床中央部の浸透流に対する安全性ならびに基礎掘削面からの湧水を抑える目的で,Ap1遮断カーテングラウチングを行った。
本施工は,ダムサイト河床部のAp1被圧地下水頭が高く,削孔中の孔壁崩壊や高透水性によるグラウトの分散などがあると懸念されていた。以下その検討結果と対策工法の妥当性について報告します。
2.ダムサイトの地質・透水特性
藤波ダムサイトは,新第三紀鮮新世の釈迦岳火山岩類に相当する火山岩類を最下層として,これを不整合に覆う泥質砂礫層類(Mg類),および被覆層としての段丘堆積物現河床堆積物により構成されている。ダムサイト付近の釈迦岳火山岩類の下部は自破砕質の薄い溶岩を狭在する凝灰角礫岩を主とし,上部は2枚の厚い輝石安山岩を主としている。(表ー2,図ー3)
また,各地質の透水特性を表ー3,図ー4に示す。
3.Ap1地下水を被圧させる水文地質構造
Ap1は,隈ノ上川サイド(合所ダム貯水池)から巨瀬川サイドに向かって傾斜した貯水タンク状の分布構造を有している。Ap1は,ボーリングコア観察やルジオンテストの結果から割れ目性の高透水性岩盤と推測されるが,Ap1とAp2の間に分布する間隙堆積物(Tb2,It3等)やAp2の下部自破砕部,Ap1上部自破砕部ならびにMg類等が全体として低~難透水性ゾーンを形成して加圧層となり,また,Ap1下部自破砕部や下位層であるTb1の旧地表部の風化ゾーンが遮水帯の役目を果たし,Ap1塊状部の地下水を封じ込め被圧させているものと考えられる。(図ー5)なお,藤波ダム軸河床部付近のEL.100mに対してAp1最大被圧地下水頭はEL.124mである。
4.特殊基礎処理工の方針
4.1 Ap1被圧地下水対策工
対策工①~③のうち,今回は①のAp1遮断カーテングラウチングについて報告する。
① Ap1遮断カーテングラウチング••••Ap1舌端状急上昇部で被圧地下水を遮断し,浸透流の抑制を図る。(図ー6,図ー7)
② Ap1処理ブランケットグラウチング••••Ap1舌端状急上昇部の先端付近をブランケットグラウチングで処理することにより,被圧地下水の負荷に対して抵抗性を高める。
③ 地下水排水工••••遮断カーテンにかかる大きな動水勾配を緩和するためにカーテンの右岸側では,既設ボーリング孔を解放して自然排水を行い,左岸側では基礎掘削面への湧水を押え得る水頭まで,自然排水あるいはポンプ排水により地下水位を低下させる。
4.2 Ap1遮断カーテングラウチング施工仕様
4.2.1 注入方式(逆ステージ工法および順ステージ工法)
Ap1塊状部は,割れ目状の高透水性岩盤であるため,順ステージ工法では注入セメントが当該ステージに止まらず下方に拡散して,グラウトが多量注入となり改良効果が期待出来なくなると考えられる。このため,透水性が相対的に低い下位のTb1あるいはAp1自破砕部を受け盤として,下位ステージより注入しながら上がっていく逆ステージ工法がより確実に当該ステージにセメントを注入でき,改良性を高めることが出来ると考えられるため,本施工では逆ステージ工法とした。(図ー8)
また,湧水による削孔中の孔壁崩壊を避けるために高濃度(1:0.8)のセメントミルクを最低限に暫定注入を行いながらボーリングする方法を採用し,3次孔以降は順ステージで施工を行った。
4.2.2 施工パターン
Ap1塊状部の改良基本方針は,(P孔)~2次孔(逆ステージ)で大きな開口割れ目を粗止めし,3~4次孔(順ステージ)でその後に残された中小割れ目を丁寧な注入により仕上げる施工とした。(図ー9)
4.2.3 改良目標値及び効果の判定
改良目標値として10Luを目標とするが,本グラウチングは河床掘削の安全性および施工性を確実にするための仮設工であることから,永久構造物のカーテングラウチングの改良基準に縛られることなく,基礎掘削時にカーテンの右岸側と左岸側で排水し,施工時の地下水位を低下させることを考慮して,改良基準を柔軟に設定することが必要である。したがって,「グラウチング技術指針」に示される“最終次数孔の改良目標値の非超過率85~90%以上”の改良基準も厳密には適用しない方針とした。また,最終次数孔で改良目標値を上回る箇所についても注入状況および基礎掘削高さを考慮して判断することとした。
4.3 パイロット孔による施工範囲
Ap1遮断カーテングラウチングの配置設計においては,被圧地下水を胚胎するAp1をカバーできる範囲およびMg類の層厚を30m程度確保できる範囲とした。
① 上流端のボーリング(U3,1-2孔)ではMg類の下位にTb1のみを確認し,湧水も認められなかったことから,カーテン 範囲の上流端は(U3,1-2孔)までとした。
② 下流端のボーリングP0孔ではMg類の下位にAp1が分布しないことを確認し湧水量も5ℓ/分と小さいことから,カーテンの下端はP0孔までとした。
③ 深度方向の施工範囲に関しては,P孔の透水試験結果に基づき,10Luの境界から1ステージ分を目安として深度方向に延伸した。(図ー10,図ー11,図ー12)
5.Ap1遮断カーテンの施工結果
5.1 施工範囲の見直し
5.1.1 中央ブロック(U1,C,D1)
Ap1塊状部は,3次孔の施工結果から10Luを超える箇所が比較的残っていることから(10Lu非超過率54%)4次孔まで計画通り施工した。また,Ap1下部自破砕部は3次孔の大部分が10Lu以下(10Lu非超過率88%)に改良されていることから,4次孔の計画深度を短縮するものとした。(図ー13,図ー14)
5.1.2 上下流ブロック
上流2ブロック(U2,U3)は,3次孔の10Lu非超過率が55%程度で改良状況は芳しくなかったが,ロック敷きであり,基礎掘削深度も浅いことなどから4次孔は施工しない方針とし,3次孔までを規定孔とした。
下流2ブロック(D2,D3)は,3次孔の10Lu非超過率が90%以上で改良状況は良好であったため4次孔の施工は必要ないと判断し,3次孔までを規定孔とした。
5.2 孔間隔と注入状況
P孔から1次孔の孔間隔3.75mでは注入セメン卜量及び湧水量ともにP孔と同程度であるが,孔間隔2.25mではいずれも低減しており,注入孔から周辺2m程度の範囲については改良により注入効果が歴然としている。
5.3 湧水量の変化
Ap1部の湧水量は,施工着手時で最大600リットル/分程度を示していたが,次数の進捗により透水性が低減するに従って,4次孔のAp1塊状部における注入前の湧水量は平均20ℓ/分程度まで低減することができた。
5.4 逆ステージ施工の評価
Ap1塊状部の逆ステージ施工において,P孔では単位セメント注入量が1t/mを越える多量注入ステージもあったが,逆ステージで施工した孔の大部分は完了基準(0.2ℓ/分/m以下の注入が30分以上続いた場合を完了とする)を満たして終了しており,効果的であったと判断される。
また,暫定注入した箇所での本注入時の湧水量は暫定注入削孔時より低減傾向にあり,かつ本注入後の湧水量が上位ステージに行くにしたがって減少していることから,逆ステージ施工方法は良好な結果を得ていると判断される。さらに,Ap1塊状部の暫定注入は削孔時の孔壁崩壊に対しても効果があったと判断される。(1孔当りの孔壁崩壊頻度は,P孔4.2回/孔,1次孔1.8回/孔,2次孔1.8回/孔であった。)
5.5 観測孔による被圧地下水排水試験結果
Ap1遮断カーテンの施工により右岸側と左岸側では約7.8mの水頭差が見られた。加えて左岸側のA-4,A-5からポンプ排水した場合,右岸側のB-117,B-124の水頭はほとんど変化しないが,左岸側のA-1ではさらに8.4mの地下水位の低下が認められ,右岸側と左岸側の水頭差は16.2mとなった。(図ー15)
このことから,排水を併用することにより本体掘削時に影響のない地下水頭まで低下させることが可能と予測され,遮断カーテンの効果が計画通り発揮されていると判断される。
6.おわりに
今回施工のAp1遮断カーテングラウチングは当初困難であると思われていたが,逆ステージ工法と暫定注入により,大部分の範囲で改良目標値とした10Lu以下に改良することが出来た。一部に10Luを越える箇所があるが,Lu値の高い箇所でチェック孔を施工したところ改良効果が確認できた。
また,当初4次孔までの完全複列として計画していたが現場の状況に柔軟に対応しながら改良効果を確認し4次孔の施工範囲を省略することができ,グラウト延長約3,000m,520ステージの数量減(25%)が実現できた。
最後に藤波ダムAp1遮断カーテングラウチング施工にあたり,多大なるご指導,ご協力をいただきました㈶ダム技術センターをはじめ関係各位に対しまして,厚くお礼申しあげます。