一般社団法人

九州地方計画協会

  • 文字サイズ
  • 背景色

一般社団法人

九州地方計画協会

  •                                        
熊本阿蘇幹線道路(俵山バイパス)の開通について
~熊本都市圏と南阿蘇地域の交流拡大を目指して~

熊本県阿蘇地域振興局
 土木部 工務課 参事
沼 地 英 二

1 はじめに
阿蘇地域は,熊本県を代表する観光地でありながら,阿蘇へのアクセスは国道57号に依存している状況である。一方,熊本市街地と南阿蘇を結ぶ県道としては,主要地方道熊本高森線があるが,阿蘇外輪山の一部である俵山の麓を通る本路線は,幅員が狭く急勾配,急カーブが連続しているうえ俵山峠を越えなければならず,両地域間交通の難所となっていた。また毎年,観光シーズンには県内外から多くの車両が阿蘇地域へ集まり,国道57号は渋滞が発生している。
このため,本県では「県内幹線道路ネットワークづくり」の主要事業の一つとして位置づけ,熊本都市圏熊本空港及び高速道路ICと南阿蘇地域を結ぶ「熊本阿蘇幹線道路」として事業を開始し,区間ごとに随時供用してきたところである。平成15年10月,最後に残っていた俵山バイパス区間(写真ー1)が供用開始に至ったので,ここにその概要を紹介する。(図ー1)

2 事業の概要
路線名    主要地方道 熊本高森線
事業名    道路改築事業(補助事業)
      単県幹線道路整備特別事業(県単独事業)
事業区間   起点;阿蘇郡西原村大字小森
      終点;阿蘇郡久木野村大字河陰
事業期間  平成5年度~平成15年度
事業延長  6.0km
全体事業費 約147億円

3 道路の構造
道路の区分 第3種第2級
設計速度   50km/h
車線数    2車線
幅 員    6.5m(全幅9.0m)(歩道付き区間 12.0m)
計画交通量 5,100台/日

4 事業の経緯
H5      環境現況調査(秋,冬,春)実施
H6      環境現況調査(夏)実施
        環境影響評価,概略設計
H7      測量及び地質調査
H8,12    関係機関への事業説明及び関係者への用地説明
H9,3より  工事着工
H9~H12   南阿蘇トンネル施工
H9~H10   すすきの原橋施工
H10~H11  放が内橋施工
H10~H12  扇の坂橋施工
H10~H12  俵山大橋施工
H10~H14  俵山トンネル施工

5 主な構造物
(1)トンネル
① 俵山トンネル(図ー2)
トンネル等級  B等級
トンネル長   2,057m
幅 員     9.0m(6.5)(一般部)
        11.5m(9.0)(非常駐車帯部)
内空断面     52.3m2(標準一般部)
掘削工法    NATM工法(機械)

② 南阿蘇トンネル(写真ー2)
トンネル等級  B等級
トンネル長   757m
幅 員 9.0m(6.5)(一般部)
内空断面     48.3m2(標準一般部)
掘削工法    NATM工法(機械+発破)

(2)橋りょう
① おおぎ坂橋さかはし(メタル橋)(写真ー3)
上部工構造   3径間連続非合成鈑桁橋
橋 長     128m
幅 員     8.0+3.5m(歩道有り)
桁 高    2.2m

② すすきの原橋はらはし(PC橋)
上部工構造  ポストテンションT桁橋
橋 長    52m
幅 員    8.5m(歩道なし)
桁 高    2.2m

③ 俵山大橋たわらやまおおはし(メタル橋) (写真ー4)
上部工構造  3径間連続非合成鈑桁橋
橋 長    140m
幅 員    8.5m(歩道なし)
桁 高    2.5m

(3)トンネル非常用施設
トンネル非常用施設については,火災その他の非常時の連絡,危険防止及び事故の拡大防止のため,両トンネル共にトンネル等級がB等級に該当するので,道路トンネル非常用施設設置基準に基づき下記の設備を設置している。

6 事業の特徴
(1)環境への配慮
① 本地域周辺には数多くの湧水地点が存在していたため,水文調査や地下水シミュレーション解析を行い,トンネルの施行基面が地下水面を切る区間をなくすことで,周辺の水文環境に与える影響を極力少なくした。
② 希少種【ノスリ(猛禽類タカの一種)】が生息していたため,環境影響評価を実施するとともにトンネル発破掘削時に防音対策を図り施工を行った。
ノスリについては,平成6年度から10年間に渡り,繁殖状況や回帰状況等について調査を行っている。
開通後も自動車による影響を考慮し,平成16年3月に調査を実施し,現在その結果についてとりまとめをしている。

(2)景観への配慮
国立公園特別地域及び普通地域に隣接しているため,景観及び眺望に配慮した道路構造で整備した。
① トンネル坑口に竹割り形式を採用し,コンクリート壁面を最小限に抑え周囲の景観との調和を図った。(写真ー5)

② 南阿蘇トンネル出口(阿蘇側)は,開放感を持たせるために,切土法面勾配を緩やかにしてラウンディングを施した。また,防護柵については地元と協議して疑木を用いることで,阿蘇らしい牧野的な雰囲気を演出した。(図ー3,写真ー6)

③ 防護柵(ガードケーブル,ガードバイプ),道路標識及び道路付属物(視線誘導標)の支柱等について,ブラウン色で統一し周囲との景観調和を図った。(写真ー7)

(3)コストの削減(トンネル掘削ズリの活用)
① トンネル掘削により発生した掘削ズリ約10万m3を,3km離れた岸野谷川火山砂防工事の貯留堤の材料として有効利用した。このことにより,トンネル工事については運搬費や処分費を軽減することができた。
一方,砂防工事については貯留堤の盛土材として最適なトンネルズリを使用して施工したことにより,15%の工事費が削減できた。また,この砂防工事は,平成13年度の建設副産物リサイクル推進モデル工事に認定された。
② トンネル掘削ズリを活用して,久木野村側に休憩所を兼ねた駐車場の整備を行った。

(4)その他
① バイバスの起終点側(西原村,久木野村)に熊本市内及び南阿蘇が眺望できる休憩所を兼ねた駐車場を整備した。(写真ー8)

②ユニバーサルデザインの考えに基づき,車イス対応車用のスペースを確保した駐車場を整備した。また,休憩所については,転落防止柵を目線の位眉より下げて設置することにより,眺望に配慮した。(図ー4,写真ー9,写真ー10)

7 事業の効果
(1)直接的な効果
① 所要時間と通行距離の短縮
本全体事業が完成したことにより,熊本市(県庁)から南阿蘇地域の所要時間が60分から40分で結ばれることになり,20分短縮されることとなった。
俵山バイパス区間においては,道路の最高地点の高さを俵山峠(標高704m)より約200m下げるとともに,隘路区間を15箇所改修する結果となったことにより,通行距離が9kmから6kmに,通行にかかる所要時間も約10分短縮することができた。
② 路線バスの定期運行の開始
 熊本市~高森町間及び熊本市~延岡間に,路線バス定期運行が開始された。
③ 積雪,凍結による交通規制日数が減少
 平成15年度のチェーン規制の実績
 バイパス部・・・5日間
 旧 道 部・・・23日間
④熊本市内への通勤ルートとして,年間を通じての利用が可能となった。

(2)間接的な効果
① 産業振興への支援
高速交通施設との連絡強化かつ大型車両の通行が容易になり,さらに所要時間が短縮され,生産物の販路が拡充される。このことにより,南阿蘇地域の産業基盤の充実を図ることが可能となる。
② 観光振興への支援
阿蘇地域の広域観光ルートが形成されることにより,観光需要が拡大増加され,地域観光への活性化に寄与することが期待できる。

[観光物産館の利用状況]
上記の効果が期待されるため,熊本市内側の西原村と阿蘇側の久木野村の両村にある2つの観光物産館の利用状況について調査を行った。
開通後1ヶ月の利用者数は,開通効果の影響もあって,2つの物産館ともにそれぞれ対前年比の2倍近くに達している。
そして,以前は利用者が少なかった冬期の12月~2月においては,今回のバイパス開通により通年交通が確保された結果,久木野村側の観光物産館の利用者数は,過去3年間より2倍多い約5,000人(1ヶ月平均)が訪れている。
また,半年経過した平成16年3月末の利用者も前年度より多く,特に土曜,日曜,祭日の利用が多い結果となっている。
以上のように観光物産館の利用状況は6ヶ月以上経過した現時点においても好調であり,今回のバイパス開通が,産業の振興,観光の振興など地域の活性化に良い影響を与えていると考えられる。

[交通量]
交通量については,バイパス開通効果による影響が落ち着くと思われる6ヶ月以上経過した平成16年のGW期間に,バイパス区間を含めた阿蘇地域全体調査を行い,現在とりまとめを行っている。

8 今後の取り組み
阿蘇地域へのアクセスは,国道57号に集中していたため,春・秋の観光シーズンや土曜・日曜日の国道57号の交通渋滞は非常に激しい状況である。
このため,熊本県阿蘇地域振興局では,開通した今回の俵山バイパスを活用した熊本市街地と南阿蘇地域間の別ルートの案内の検討に取り組んでいる。具体的には,
 ① 道路標識のUD化による整備
 ② 道路マップの作成
 ③ 情報の効果的な発信
等の検言寸を進めているところである。

9 おわりに
今回開通した俵山バイパス区間を含む阿蘇郡西原村小森から白水村中松間の南阿蘇アクセスルートの愛称については,一般公募により「南阿蘇やすらぎロード」と決定した。
この南阿蘇やすらぎロードヘは,九州自動車道熊本益城空港ICから熊本空港方面へ県道36号(通称;第2空港線)を通り,さらに熊本空港の横を通る県道206号を走れば約30分で到着する。この道路は,春は野焼き・わらび狩り,夏は新緑 秋はすすき・紅葉,冬は雪景色など四季がおりなす風景は美しく,眺望も素晴しい,やすらぎを与える適路である。ぜひ一度,この道路を通行いただきたい。
最後に,事業の計画から現地での施工完成に至るまでにご尽力を頂いた多くの関係各位に対し,深く感謝の意を表する。

上の記事には似た記事があります

すべて表示

カテゴリ一覧