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熊本県舗装維持管理計画について
福島和也

キーワード:舗装補修、維持管理計画、劣化予測

1.はじめに
(1)熊本県維持管理計画の策定について

熊本県が管理する道路延長は約3,600㎞におよび、県内の経済活動やインフラ施設として重要な役割を担っている。これら道路施設は時間とともに劣化が進行することから、施設の維持管理業務の重要性が認識されてきている。
道路舗装は、安心・安全な道路交通や物流等の経済活動を支えるとともに、緊急時の確実な搬送を担うなど、重要かつ多様な役割を有しており、そのサービス水準を維持することが道路管理者の責務である。
しかしながら、膨大な延長に及ぶ道路舗装のサービス水準を維持するためには、多くの費用と労力を必要とする。また、将来にわたり長期的にサービスを維持することを考えた場合、構造の老朽化によって、今後、さらに補修費用が増加することが懸念される。
このようななか、この熊本県舗装維持管理計画は、道路舗装の維持管理業務を長期的視点からとらえ、適正なサービス水準の維持と維持管理コストの最小化のために、舗装維持管理業務に携わる関係者の共通認識のもと、目標達成のための行動指針を示すものである。さらには、道路利用者及び県民に対して、維持管理業務に関するアカウンタビリティを果たすものである。
(2)基本方針
以下に示す6つの基本方針に従って策定しており、この基本方針を熊本県における舗装維持管理業務の基本的な考えとする。
・長期的視点における維持管理業務体制の確立
・老朽化した舗装の最適補修工法及び補修サイクルの適用によるトータルコストの削減
・着実に目標を達成するためのPDCAサイクル構築
・県民、道路利用者の満足度の向上を目指した維持管理業務の実現
・地域振興局と道路保全課の役割を明確化し、わかりやすい行動指針の策定
・道路舗装の維持管理業務に関する各種情報及び補修履歴情報の蓄積と確実な更新(MCI台帳)

2.舗装維持管理業務の現状
(1)舗装(路面)の状態
本県では路面の評価手法としてMCI 調査(路面性状調査)を導入しており、平成14 年度より定期的に調査を行い、現在、2 回目の調査が完了している。(1 回目:H14 ~ 17 2 回目:H19~ 21)
調査結果の内訳は表-1、図-1(注1)のとおりであり、補修が必要とされているMCI 値3.0以下の割合は県全体で11.9%となっている。
(注1)MCI 調査を実施した延長であり、総延長とは異なる。

  

(2)補修事業費の実績
平成15 年度からの補修事業の実績は図-2 のとおりである。平成21 年度は大型補正等により約90 億円を投入しているが、概ね27 億円前後(75㎞ / 年)で推移している。
この金額で投資した場合、単純計算すると管内すべての道路の補修に必要な年数は48 年となり、耐用年数が50 年と現実的ではない。

(3)計画策定前の現状
舗装の補修箇所は、MCI 調査の結果に加え、苦情要望、市町村要望、日常点検等の結果を考慮し、最終的には現地踏査の結果によって判断している。
MCI 調査による判断基準は表-2 のとおりとなっているが、実際に補修を実施した箇所で補修の判断基準に従っている割合は全体の60%程度である。

主な要因としては以下に示すことが考えられる。
・MCI値3.1以上の箇所を含む一体的補修→継目を極力少なくするため、部分的にMCI値が高い箇所であっても前後のMCI値が低い箇所の場合は一体的に補修を行っている。
・MCI調査と現地との乖離→MCI調査は100mピッチ及び下り車線での調査であるため、調査箇所に反映されていない劣化箇所が存在し、調査結果と現地が乖離していることもある。
(4)計画策定前の設計の考え方
これまで、県としての統一基準は示しておらず各出先振興局に一任している状況であった。
その結果、設計期間10 年、信頼度90%を採用している事例が多いものの、一部に設計期間20年、信頼度75%、50%を採用している事例もみられた。
(5)舗装(路面)の劣化傾向
①過去のMCI調査及び補修履歴情報を用いて、劣化傾向を把握した。ひび割れ、わだち掘れ、平坦性のパフォーマンスカーブの全県平均は図-3のとおりである。

②工種別、大型交通量区分ごとの平均耐用年数は図-4、工事~MCI値3.0以下になるまでの平均年数は表-3のとおりである。
 なお、この表-3 はMCI 値が3.0 以下になった瞬間の経過年数ではなく、調査時点でMCI 値3.0以下の箇所を抽出したものである。このことから、最長となっているオーバーレイは山間部で採用している事が多く、MCI 値3.0 以下になってもすぐに補修を実施していない事が最長となる原因であると推測される。

  

3.劣化進行の予測
(1)劣化予測式の選定
将来発生する補修需要予測のインプット情報を算出するための劣化予測式は、その精度がライフサイクルコスト分析に大きく影響を及ぼすことから極めて重要である。
しかしながら、舗装の劣化要因は交通量や気象条件などの外的要因または施工条件など、多くの不確実性を含んでおり、より多くのデータ取得・管理をしなければならず、劣化過程をあらかじめ確定的に予測することは難しい。
以上を踏まえ、本県では複数の劣化予測方法があるなかで、表-4 のとおり、交通量や補修工法等、劣化速度の違いに与える要因の影響分析を統計モデルによって定量的に分析することが可能である非集計的手法「マルコフ推移確率の推定方法」を採用した。

(2)推計に用いるデータ

(3)損傷別による分析結果
ひびわれ、わだち掘れ(最大・平均)、平坦性をそれぞれに全平均、大型車交通量、補修工法別、事務所別に分析した。参考としてひびわれの補修工法別劣化予測を図-5 に示す。
分析結果として、ひび割れ、わだち掘れともに大型車交通量が舗装の劣化に大きく影響し、補修パターン別では、打換え後の損傷の進行と比べて、切削オーバーレイ後の損傷進行が早い傾向にあることがわかった。なお、わだち掘れについては補修パターンによる影響はなかった。

(4)設計条件による分析結果
設計期間20 年10 年、信頼度90 %、75 %、50%に対して分析を行ったが、本県では設計期間20 年の実績が少なく対象から除外した。参考としてひびわれの信頼度別劣化予測を図-6 に示す。
信頼度75%、50%は全体の平均的な劣化に対して1.12 倍早い劣化速度であった。

4.業務プロセス
舗装の維持管理業務はPDCA のマネジメントサイクルに従い、継続的に実行、見直しを図りながら維持管理業務の改善に努める。
PDCA サイクルは、業務内容・役割によって異なっており3 つの階層(図-7)に区分される。
A)中長期ネットワークレベル(戦略レベル)
  中長期的な目標設定、基準の見直し、予算計画等を検討する。また、MCI 調査、補修履歴データを下に劣化予測モデルを更新し舗装維持管理計画の見直しを行う。(5年毎)
B)単年度ネットワークレベル(戦術レベル)
  MCI 台帳をもとに補修基準を下回っている舗装区間を抽出し、現地補足調査・FWD 調査にもとづき、補修工法、範囲等を設定し予算要求を行う。補修完了後はMCI 台帳の更新を行う。
C)プロジェクトレベル(維持修繕レベル)
  B)で選定した補修箇所別に設計を行い、補修を実施する。

5.舗装管理方針
(1)現状と方針
少ない事業費の効率的な運用、優先順位の設定については、これまで感覚的に区分けしていた状況であったため、管理不足に影響しないよう目安の設定が課題であった。このことから、本計画では次項により管理基準を定めることとした。
なお、設計基準については、補修系だけでなく改築系も同様とした。
(2)道路のグルーピング
本県では、表-6 のとおり道路パトロール区分を設定しており、これをさらに総交通量を基準に細分化し、表-7 のとおり管理グループを設定した。
これをもとに道路利用者へのサービス提供、舗装の劣化によるリスク低減の観点から複数のグループに区分し、グループ別の管理方針を設定した。
このグルーピングによりリスクを軽減し、限られた予算の重点配分を可能とした。

(3)設計基準
①補修パターンの最適化
 ライフサイクルコスト分析を行い、最小となる補修パターンを検討した結果、表-8、図8 ~ 9のとおり新設・打換え→切削OL(表面補修)(2 回)がもっとも最小となった。

②信頼度・設計期間
 設計便覧等では目標値の設定について、「舗装の構造としての健全度の観点、路面の状態の観点、ライフサイクルコストの最小化の観点などが示してあり、各道路の管理者が適切な舗装の管理を実施する観点から適宜設定する」とあり、本県でもこれを踏まえて、設計期間、信頼度の分析を行った。
 まず、現在のデータより分析可能であった信頼度について90%、75%を対象とした。50%については県管理道路であり予期せぬ舗装の疲労破壊が与える影響が大きいと判断し除外した。
 分析結果は図-10 のとおりであり、劣化進行については当然90%のほうが遅くなり、最適補修サイクルで年間補修費用を算出した場合でも下回る結果となったことから、信頼度90%を採用した。

 設計期間については、県管理道路のこれまでの採用設計期間、現地状況及び設計便覧の例より、20 年又は10 年について検討を行った。
 経済性の比較では、本県において20 年の採用事例が少なく、分析できる状態でなかったが、使用頻度が高い交通量区分箇所にて各期間別に試算した結果、10 年との単価差は6%程度であった。
 このことから、10 年に対して1.06 倍長い11年以上の結果となれば20 年のほうが経済的に優れた設計となる。
 また、耐久性の比較では、構造計算上は20 年が10 年の2 倍の耐力を有していることから、初期投資が増加するものの、長期的な視点では維持管理費の縮減、サービス水準の向上が図れると判断した。
 以上のことから経済性、耐久性の両面とも20 年が優位であると考えられるため、設計期間20 年を採用した。
(4)重点管理区間
劣化速度が速い区間、交通量区分N5 以上の区間、劣化が進行している区間についてはMCI 評価及びグループ化以外に重点管理区間として設定し、パトロール強化、FWD の優先的調査箇所などの目安となるようにした。
(5)事業費予測
事業費のシミュレーションを下記条件により行った。
①補修基準等の設定
  ・補修基準:MCI値3.0以下
  ・補修単価:過去の実績より使用頻度が高い交通量区分箇所での試算単価及び実績の諸経費
  ・補修の優先順位:MCI値が悪い順、リスク値が高い順(注2)
  ・シミュレーション期間:50年
 (注2)リスク値とは「区間延長*総交通量」によって算出。
②シミュレーションの予算制約
  ・年間事業費
   20、25、30、35、40、45、48、50億/年
  ・グループ別
   全路線、グループ1~5、1~4、1~3

6.舗装データベース・MCI 台帳の運用
舗装維持管理計画を策定するのに伴って、計画の基礎となる舗装点検データの整理が重要となる。
データベース化は計画を継続して運用していくために一定のフォームデータを蓄積し、舗装の点検後の状態を把握する必要がある。
このため、本県ではMCI 台帳を作成することで、MCI 値、10 年間の劣化予測、補修履歴等を一元管理し、補修工事の箇所選定、補修計画の立案、舗装維持管理計画の見直し等の資料として活用できるものとした。なお、MCI 台帳については担当者が利用しやすいものとすること、更新が容易であること、他事業のデータベースとの統合も踏まえ汎用性の高いものとすること、安価であること等を踏まえて、舗装単独のシステム構築を行わず市販の表計算ソフトを用いて作成した。
その中で特に注視したものが、更新の手法についてである。これまで、台帳が整備されるものの、データの更新や蓄積されないままの台帳となる事例がみられた。今回は蓄積手法が確立している道路台帳の更新と合わせて第三者が自動的に作業することで、担当者が直接作業する必要が無い台帳
とした。

7.舗装維持管理計画策定のまとめと今後
計画の策定により、適正な事業費の把握、最適工法、補修サイクル、台帳整備等これまで懸案事項であったことを統一するに至ったことは一定の成果があげられたと考えている。
しかし、まだ、様々な問題が蓄積している。最大の問題点はシミュレーションにて算出された理想とする事業費の確保である。
今回の計画策定により、事業費が増加したものの、すべてのグループに対応可能とする事業費としては、まだ不足している。このため、優先順位で設定した下位グループで適正なサイクルで補修できない箇所が生じている。一方、上位グループを補修しないことになれば、リスク値は上昇し管理瑕疵を伴う事故が増加する恐れもある。このバランスをどのようにしていくかが今後の課題と考えている。
コスト縮減については、最適工法、補修サイクルの統一により、従来の手法と比較して総合的には有効であったが、先に述べた事業費が不足している中では、更にコスト縮減する必要があった。そこで、「(3)計画策定前の現状」に記載した、要因1 点目のMCI 値3.1 以上の箇所を含む一体
的補修については、表面補修系の工事との組み合わせ施工により、一連区間でMCI 値3.0 以下の補修割合が向上し、コスト縮減に寄与することから、現在検討しているところである。
また、最近話題のコンクリート舗装については、実績が少ないことから今回の維持管理計画から除外しているが、今後はコンクリート舗装やその他の新工法も積極的に採用し、その有効性について検証すべきと考えている。
この計画はこれで完了ではない。次回予定している5 年後には今回台帳を整備したことによりデータが蓄積され、そのデータが将来の検証に活用されるはずであり、PDCA サイクルに従い、データ蓄積、解析、検証、実施、見直しを繰り返すことで、この計画がより充実していくことを確信している。
また、この計画については積極的に公開し、皆さんのご意見を頂戴したい考えである。熊本県の道路保全課ホームページに抜粋版を掲載している他、成果品のデータを送付することも可能であるので問い合わせ頂ければと思う。

参考文献
舗装の補修後の劣化速度を考慮した工法選定モデル
第44 回土木学会研究発表会

(連絡先)
 熊本県土木部道路都市局道路保全課
  TEL:096-333-2504

道路保全課HP:
http://www.pref.kumamoto.jp/soshiki/95/

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