熊本県に赴任して半年
熊本県土木部長
渡 戸 健 介
本年4月より熊本県土木部にお世話になっております。20数年の役人生活で,10回を超こえる転勤を経験してきましたが,関門海峡を越えて九州の地で生活をはじめるのは今回が初めてです。赴任にあたりいろいろ不安を感じましたが,実際赴任して熊本弁を早口でしゃべる人の話を理解するのに苦労いたしましたし,地名と位置を理解するのに時間がかかりました。松橋を「まつばせ」と読めなかったり,町を「ちょう」と読んでいると,「まち」と読む所が圧倒的に多かったりで,首長さん達との会合では失敗と失礼を重ねる毎日でした。
熊本での生活もやっと半年が経過し,2回の県議会を経験し何とか初心者なる若葉マークも取れる時期かなと思える今日この頃です。しかし交通管理の人によると若葉マークがはずれる頃の事故も結構多いようで,注意して職務に努めたいと考えています。
職務は熊本県土の社会基盤整備の実行部隊です。これまで国直轄事業のみを担当してきた目から見ますと,予算の割に県事業の施工箇所が何んと多いことかと驚かされます。市町村程ではないかもしれませんが,住民の個々の要望に沿ったそれだけ住民に近い事業展開になっていることを感じます。熊本県の社会基盤整備については,県土保全・交通・町造り・住宅についてそれぞれ議会や首長さんから強い要望が出され,また期待も大きく,議会での質問も土木部が占める時間は相当なものです。県政で今最も関心を集めているのが,県の長期計画作成と新幹線の博多一八代間事業化要望です。これらは直接他部の所管になっておりますので省略しますが,当部への関心はどうしても個々のプロジェクトの着工時期や完成時期になってしまいます。交通網整備への関心が最も高いようです。
最も議論を呼んでいるのは「くまもとアートポリス」です。これについては4年前の当誌(1988.12)に細川前知事がその思想と事業の概要を紹介しています。熊本県の建築物・都市施設などの構造物を後世に残しうる文化的資産とするため,県が自ら実施するものだけでなく,市町村及び民間にも広く参加を呼びかけ実施するものです。建築家の磯崎新氏がコミッショナーとなり,コミッショナーが推薦する国際的および新進気鋭の建築家・デザイナーがプロジェクトの設計を担当する仕組みとなっています。この4年間で42件の参加があり,25件が完成しました(民間2,市町村14,県9)。
設計者の選定をコミッショナーに一任することがこの事業の骨格で,従来の指名競争入札による方法を踏み出しているところに特色があります。これにより設計者の個性が出たデザインの建築物が各所に誕生することになりました。建物の機能を楽しむ者以外に建築物のデザインを見学に訪れる方も多く,それぞれの地域の活性化に貢献しております。
一方,公営団地等の建築物は,公共施設についての従来の基準による規制から建築物の外観の発想転換に比し,施設管理者の利用面からの発想転換が追いつかず,機能面の不満が出され議論を呼んでおります。今後4年間の結果を踏まえ,次の展開について各界の意見を聴き,より良いものにしたいと思っているところです。