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[熊本地震関連]
熊本地震及び豪雨により被災した
一級河川木山川等の災害復旧について

熊本県 天草広域本部
土木部 工務第二課長
乙 丸 正 彦

キーワード:熊本地震、災害復旧、応急対策

1.はじめに
平成28 年熊本地震により、熊本県内の多くの公共土木施設が被災した。中でも、地震による揺れが大きかった上益城郡益城町などを流れる、県管理河川の一級水系木山川及び秋津川(写真- 1)では、ほとんどの個所で護岸の沈下や亀裂が発生し、甚大な被害を受けた(写真- 2、3)。

復旧に当たっては、大型土のうによる堤防嵩上げやブルーシート等による亀裂個所の被覆など、応急仮工事を実施し、出水期の河川増水に備えていた。しかしながら、同年6 月の梅雨前線豪雨により木山川の堤防が一部損壊し、背後地が浸水したため、さらに応急復旧工事を行った。その他の個所についても、現在もなお本復旧工事を進めているところもあり、完成に向けて鋭意取り組んでいるところである。
本稿では、これらの河川の地震直後からの応急対策や、本復旧工事に向けての取り組みなどについて紹介する。

2.平成28年熊本地震による被災状況
平成28 年4 月14 日21 時26 分、益城町で最大震度7 を観測する地震(前震)が発生した。その28 時間後の平成28 年4 月16 日1 時25 分、益城町及び西原村で最大震度7 を観測する地震(本震)が発生した。震度7 を28 時間以内に2回観測したのは、我が国の観測史上初めてである。
また4 月16 日は震度1 以上の地震を1 日で1,223 回記録。5 日目には2,000 回を超えた。
地震発生個所は上益城や阿蘇地域に多く分布(図- 1、2)し、布田川・日奈久断層と呼ばれる断層帯周辺とほぼ同じ位置となっている。

県内の公共土木施設においては、国交省のテックフォースや、県の災害TOP チーム(県職員で構成し、災害の初期段階にいち早く現地にて被害状況調査を行う)、その他県各出先機関及び市町村職員(他県・市町村からの応援含む)、災害支援協定を締結している建設業者や測量・調査・設計業者等の各種団体などにより総力を挙げて被害調査を行った(写真- 4)。
なお、4 月25 日には熊本地震による災害が「激甚災害法」に基づく「激甚災害(本激)」に指定され、災害復旧事業の国庫補助の嵩上げ措置がなされることになった。

3.河川の応急対策
(1)出水期に備えた応急仮工事
4 月14,16 日に地震が発生し、河川堤防等に大きな沈下や亀裂が発生している中で、約1ヶ月半後には梅雨入りを控えていた。このままの状態で梅雨時期を迎え、大雨時に河川が増水すれば、背後地への影響は計り知れず、早急な対策が必要であった。
益城町などを流れる木山川や秋津川(図- 3)においては、堤防沈下による堤防高不足を補うため、大型土のうを設置(写真- 5、6)したり、また堤防天端に発生している多くの亀裂個所から雨水が浸透しないように、ブルーシートによる被覆や防水舗装を行った。

(2)水防警報基準水位の暫定的運用
地震を受けたことで従前よりも洪水被害の危険性が高まることから、早めの水防活動や地域住民への警戒の呼びかけを促すため、出水期間中の監視体制を強化するとともに、県管理の6 河川8個所において水防警報の基準水位を通常より引き下げての運用(図- 4)を行った。

4.6月豪雨による被害の拡大
(1)観測史上4位の大雨
熊本地震後の約2 か月後、梅雨前線により6 月18 日~ 23 日にかけて、県内に記録的な豪雨を観測した。特に、県のほぼ中央に位置する上益城郡甲佐町にある、気象庁甲佐観測所で最大1 時間雨量が150.0㎜と全国観測史上4 位を記録した。
地震により被害の大きかった地域を中心に雨が集中したため、被害がさらに拡大した(図- 5)。

(2)木山川の堤防損壊
木山川においては、6 月20 日夜の豪雨出水により、21 日未明にかけて左岸堤防が一部損壊した。地震で河川堤防が緩んでいる状況で河川が増水したため、背後地の農地が浸水した。
21 日夕方より、緊急復旧に着手し、国土交通省九州地方整備局より夜間照明器具提供などのご協力をいただきながら、24 時間体制で作業を実施し、6 月24 日午前7 時、応急対策工事を完了した(写真- 7 ~ 10)。

5.災害査定
災害査定は5 月26 日の第1 次査定から、12月27 日までの第22 次査定まで、約7 か月間、延べ218 班にわたって実施した。
査定対象自治体は、熊本県及び県内38 市町村。国交省からの災害査定官及び事務官が、延べ326 人(うち九州以外の整備局からの応援が59 人)に上り、また財務省からの立会官は、延べ218 人(うち九州以外からの財務局からの応援106 人)となった。
今回の査定では、被害があまりにも甚大であったため、災害査定の簡素化を行った。
・机上査定限度額の引き上げ:300 万未満⇒ 5,000 万円未満
・査定設計書作成の簡素化:航空写真や標準断面図による図面作成、写真撮影の簡素化など
・保留限度額の引き上げ:4 億円以上⇒ 8 億円以上
査定会場についても、地震による被害で通行止め箇所が多く移動が困難なことや、宿泊施設が閉鎖や満杯で確保できないことなどから、県庁地下大会議室において机上査定を集中的に実施(写真- 11)した。
また、河川の被災区間延長が十数キロと長いことから、自転車による実地査定(写真- 12)も行った。

災害査定結果は、県及び県内市町村併せて約5,000箇所、査定決定額約1,000 億円となった(表- 1)

6.本復旧工事
(1)復旧の考え方
木山川及び秋津川の復旧に当たっては、堤防の沈下と広域地盤沈下の影響で河川の縦断勾配が緩傾斜化したことにより治水機能が低下しているため、「従前の効用」に回復できる高さ(図- 6)を基本として、周辺地盤高等も考慮しながら復旧堤防高を決定した。
また、早期に治水機能を回復するため、用地買収は極力行わないこととした。

(2)復旧工事の現状
平成29 年1 月より、益城町周辺における木山川及び秋津川の災害復旧工事を随時発注し、うち24 本、約59 億円を震災復興JV として契約した。
平成30 年3 月末現在において、うち3 本が工事完了しており、残る工事についても、平成30年度内の完了を目指して鋭意進めている(写真-13 ~ 15)。

熊本地震及び豪雨による公共土木施設の災害復旧工事は、平成30 年3 月末現在で、災害査定決定箇所数ベースで工事契約率89%、工事完了率が63% となっている(表- 2、図- 7)。

7.おわりに
熊本地震が発生して2 年以上が経過した。被害の大きかった地域では、人手不足や資材の高騰などで災害復旧工事の入札不調・不落も多く発生しているものの、復旧・復興は着実に進んでいる。
しかしながら、被災地では未だに仮設住宅などでの生活を余儀なくされている人々も多く、地震前の生活を取り戻すには、まだまだ時間が必要である。
今後、災害復旧工事が進むことで被災地での住民の方々の生活を取り戻し、また心の復興に少しでもつながればと切に願うばかりである。
最後に、これまで地震等災害復旧に携わってこられた方々、特に災害査定関係では国交省の災害査定官、財務省の立会官、地震直後の応急復旧対策等にかかわった国交省のテック・フォースやリエゾンの方々、他県・市町村からの応援職員の方々、各工事関係や測量・調査・設計関係各種団体や事業者の方々、そして各専門分野での技術支援等をいただいた学識経験者の方々、その他多くの関係者に感謝の意を表す。

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