熊本北部浄化センター水処理施設の高度処理化について
荒木宣博
キーワード:高度処理、改築更新、有明海、窒素・リン
1.はじめに
熊本北部浄化センターでは、放流水に含まれる窒素およびリンの除去を目的として、平成23 年度より既設水処理施設の1池目から順次高度処理化への改築を行っており、平成30 年度を目標に高度処理化を完了させる予定としている。また、この高度処理化と併せて経年劣化により老朽化した設備の改築更新(長寿命化を含む)も同時に行っている。本稿ではこれらの取り組みについて紹介する。
2.熊本北部浄化センターの概要
熊本北部浄化センターは、熊本市のベッドタウンとして市街化が進んでいる熊本都市圏の北東部(熊本市北区、合志市の一部、菊陽町)を処理区域とする熊本北部流域下水道の終末処理場である。表1 に熊本北部の処理施設概要(全体計画)を示す。図1 には熊本北部流域下水道の位置、図2 には同処理区域を示す。また本浄化センターの放流先は坪井川で、最終的に有明海に流達している。
水処理方式については、現在1 ~ 7 池が標準活性汚泥法、平成22 年度末に供用開始した8 池目が高度処理方式である凝集剤添加ステップ流入式2 段硝化脱窒法となっている。なお全体計画では、「有明海流域別下水道整備総合計画」に基づき、10 池全てが高度処理に位置付けられており、9,10 池目については、現在高度処理方式にて増設を行っている。
汚泥処理方式については、濃縮(重力、機械)→消化→脱水を採用している。平成23 年度の汚泥処分量は平均24t/ 日で、搬出した汚泥はセメント原料若しくはコンポストとして全て再利用している。写真1 は熊本北部浄化センターの全景。
3.水処理施設の高度処理化
(1)有明海流域別下水道整備総合計画
有明海では、周辺の経済社会や自然環境の変化に伴い、富栄養化等の水質悪化が進み、赤潮の発生頻度が増加して海面漁業生産は減少を続けている。熊本県においても、近年、大規模な赤潮の頻発により大きな漁業被害が生じている。
閉鎖性水域である有明海での赤潮の原因として、下水道を経由して流入する窒素・リンの汚濁負荷に起因する富栄養化があることから、下水の処理水質を向上(特に窒素・リンの除去)させる高度処理を推進する必要性が高まっている。
こうした状況を踏まえて、有明海域における汚濁負荷削減のため、本県では「有明海流域別下水道整備総合計画」(以下「流総計画」という。)を平成21 年に策定し、これまでは規定していなかった終末処理場からの放流水に含まれる窒素およびリンについても、処理場ごとの削減目標量を定めた。これにより、熊本北部浄化センターにおいても、放流先の坪井川が有明海に流達するため、整備計画目標年次である平成34 年度までに、窒素・リンの除去率を向上できる高度処理の施設整備を進めることとなった。
(2)目標水質の設定および処理方式の検討
「流総計画」では各下水処理場ごとに、生物化学的酸素要求量(BOD)、 全窒素(T-N)、全リン(T-P)の汚濁負荷量について、目標値が設定されており、熊本北部浄化センターに割り当てられた目標水質(年間平均値)は、BOD:6.6mg/L、T-N:12.1mg/L、T-P:1.2mg/L である。この年間平均値をもとに、計画放流水質(一日たりとも超えてはならない数値)を表2 のとおり決定した。
既存の処理方式である標準活性汚泥法では、有機物は十分除去できるものの、窒素・リン除去は不十分であり、決定した計画放流水質を満足させるためには、高度処理を適用する必要がある。そこで数種類ある高度処理方式の中から、経済性、維持管理性、既存施設への適用(改造)し易さ等を考慮して、凝集剤添加ステップ流入式2段硝化脱窒法+急速濾過法を採用することとした。
(3)採用した高度処理方式の概要
標準活性汚泥法の反応槽は全槽好気である。今回採用した高度処理方式では、反応層を無酸素槽(酸素を供給せず撹拌する)と好気槽(酸素を供給する)にして交互に配置し、無酸素槽にBOD源として流入水をステップ流入させ窒素除去率の向上を図る。併せて凝集剤の添加により、リンの除去を行う。図3 に高度処理化のイメージを示す。
既存施設を高度処理施設に改造するには、4 槽のうち1 槽目と3 槽目を無酸素槽とするため、既設の散気装置を撤去して攪拌機を設置することになる。また、標準活性汚泥法である現在の反応槽にも隔壁が設置されており1:1:1:1 の槽割りで4 槽の均等分割構造となっているが、設計基準(日本下水道事業団設計指針)による槽割りは、1:1:1.5:1.5 であるため、隔壁位置の変更も行う。
なお、急速濾過法については、既設水処理施設の後段に砂濾過槽を新規に追加するものである。
(4)高効率散気装置への更新
今回の高度処理化に併せて、散気装置を従来のセラミック式散気板から、既に高度処理にて運転している8 池目で採用した酸素移動効率の高い高効率散気装置(メンブレン式散気装置)に更新する(図4)。
(5)工事の実施方法
既設水処理施設の高度処理化は、供用している池を停止し、池を空にして施工する必要があるが、流入水量の伸びと1 池あたりの工事に2 年間を要することを考慮すると、池を1池ずつ空にして施工しなければならない。そのため、平成23 年度より1池目から順次工事を行っており、現在のところ、既存施設7 池目までの高度処理化が完了するのは、平成30 年度末の予定である。急速濾過法については、窒素・リンの除去にあまり影響がないため、池の改築後に実施する。表3 に更新スケジュール、図5 に水処理施設の平面図を示す。
4.老朽化設備の改築更新
(1)長寿命化計画に基づく改築
下水道施設は、供用開始すれば下水収集・処理機能を停止できないだけでなく、長期間に渡って汚水・汚泥や腐食性ガスに直接さらされるなど、厳しい環境下で使用されることから、確実かつ安定的な機能発揮のために、適正な維持管理は勿論、予防保全を含めた計画的な改築・更新が必要不可欠である。熊本北部流域下水道では、平成15 年度から改築診断に着手し、診断の結果優先度が高いと判定された汚泥系の設備を中心に順次改築更新工事を実施しているところである。水処理設備については、1,2 池目の設備が本処理場が供用した平成元年に設置されたものであり、また3,4池目の設備についても既に耐用年数の15 年を経過しているため、経年劣化が著しい。このままでは処理機能に支障を来たす恐れがあり、適正な汚水処理を行うには設備の更新が必要となっている。写真2 に水処理設備の老朽化状況を示す。
そのため、平成22 年度末には水処理設備を中心に長寿命化計画を策定し、ライフサイクルコストの最小化を図るため、計画的な改築(長寿命化を含む)を行うこととした。改築の時期については、高度処理化によって1 池目から順次池を空にするタイミングに合わせて実施する。
(2)躯体の耐震補強
水処理1 ~ 4 池目のコンクリート躯体については、昭和59 年に設計されており、阪神淡路大震災後に見直された現行の耐震基準(レベル2地震動に対する耐震性能)を満足していない恐れがあるため、平成21 年度に耐震診断を実施し、基準を満足していない箇所については設備の改築更新と併せて耐震化を実施することとした。耐震化の内容は、コンクリート増打による壁、ハンチの増厚および後施工せん断補強筋による耐震補強である。
5.効果の検証
(1)高度処理による水質改善効果
1 ~ 7 池目については現在高度処理化の施工中であるため、処理水質の改善効果は検証できていないが、既に高度処理にて供用している8 池目と従来の1 ~ 7 池の処理水質を比較すると、BOD、T-N、T-P とも汚濁負荷量が低減されているとともに、計画放流水質を満足しており、同タイプにて高度処理化を行う1 ~ 7 池についても処理水質が改善されるものと期待できる。図6に高度処理による水質改善効果を示す。
(2)維持管理コストの削減効果
高効率散気装置(メンブレン式散気装置)への更新により、酸素移動効率が高くなり、また必要酸素量に応じた送風量の適正化運転を実施していることもあり、送風倍率を低く抑えることができているため、図7 に示すとおり、単位水量あたりの送風機動力が40%も削減され、結果的に維持管理コスト(電力使用量)の削減が図れている。
6.おわりに
以上、熊本北部浄化センターにおける高度処理化および老朽化設備の改築更新について紹介させていただいた。今後も、有明海における水質改善が図られるとともに下水処理機能を安定的に保つため、厳しい財政状況が続く中ではあるが、これらの取り組みを進めていくことが重要であると考えている。